リアージュの入学式②
【注】ーーーに囲まれている文章は、チヒロがプレイしていた乙女ゲーム、”僕のイベリスをもう一度”の内容です。
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○オープニングムービー”入学式”……ゲーム開始の冒頭に流れるプロローグ映像です。このムービーでは、”あなた”の自己紹介と攻略対象者達との学院での出会いが描かれた後、ゲームのあらすじを簡単に紹介しています。※6つのエンドをクリアした後、隠しキャラクターのルートが開放される度に、オープニングムービーの背景画面に彼らが追加されていきます。
〈その乙女ゲームのイベント説明〉
○行事イベント……”あなた”の勉強・淑女教育のレベル上げイベントとなります。”あなた”とクラスメイトの親密度や、攻略対象者の評価や好感度を上げるためのイベントでもあります。
○ハプニングイベント……各行事イベントの途中で発生するイベントです。クラスメイトや攻略対象者の評価や好感度をより上げるためのボーナスイベントでもあります。このイベントをクリアすると、攻略対象者達との親密度が増し、彼らとの”思い出”スチルが手に入ります。※各行事イベントに出てくる攻略対象者によって、内容が異なるハプニングイベントが発生します。
〈その乙女ゲームのセーブについて〉
※保健室がゲームデータのセーブポイントです。スチル保存もここで行います。セーブ保存を行わなくても隠しルート開放には支障はありませんが、スチルは手に入りませんのでご注意下さい。
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リアージュは僕イベの入学式では、王子達はいつどこに現れただろうかと考えながら走っていた。
(確かオープニングイベントで入学式に遅刻し、慌てて会場に向かおうとしたヒロインの髪を飾る白いリボンが突風で飛ばされたところを偶然居合わせ見ていた王子が、自分の傍まで飛んできたリボンを捕まえて、彼女に手渡してくれるのよ。
で、王子の婚約者のイヴリンがその現場を遠くから見て、王子が彼女に好意があるとイヴリンが勘違いして誤解してしまい、ヒロインに嫉妬したことでイヴリンが取り巻きの下級貴族令嬢達に命じて、ヒロインを虐めるイベントが起きるのよ!)
僕イベというゲームではイヴリンがヒロインを虐めないと、攻略対象者達との身分違いの恋は育たないため、何としてもリアージュはオープニングイベントである入学式でイヴリンに誤解されないといけないのだが、問題は王子達攻略対象者が、いつどこに現れるかということだった。リアージュは彼等が出てくるところにいないといけないのだが、肝心の時間と場所が思い出せなかった。
「でも大丈夫よ!私には学校に通っていた前世の記憶がある!」
(ここまで現実感がある世界なのだ。入学式だって、現実を忠実に再現しているはず!)
前世の学生だった記憶を参考にすれば良いと、リアージュは前世の記憶を探る。小中高の入学式、校長の話はとても長かった。あの入学式を思い出せばいいのだ!
(入学式が始まる前、在校生と保護者がすでに会場に入っていての新入生の入場、着席、入学式の始まりの挨拶、校長先生の挨拶があったわよね。その次は……国歌と校歌を歌ってたよね?順番はいつだったかな?えっと、来賓の挨拶、PTAの挨拶もあったよね!……で、それが終わってから来賓達が退場して、そしてその後に来るのが生徒会長の挨拶……これよ!そうよ、王子は生徒会長だったから、これに出るために会場に向かっていたんだわ、きっと!冴えてる、私!間に合うわ!)
リアージュは入寮のしおりに書いてあった講堂に向かって、フランスパンを咥えたまま走った。講堂に近づくと、向かっている方向から騒がしい声が聞こえてきた。
(来賓が退場するから騒がしいのかな?……いや、もしかするとまだ始まっていないのかもしれない。だって貴族って、傲慢で怠惰なのが正しい姿だもの。昔、私にしつこく勉強させようとした家庭教師をクビにして追い出した時、自分が悪かったと反省したのか、
『お嬢様は傲慢で高飛車で我が儘で怠惰でいらっしゃる。貴族らしい貴族とはお嬢様のことを言うんでしょうね』
って、最後だけ褒めてくれたことがあったわ!貴族らしい貴族が大勢集まってるんだから、前世の世界の入学式のようには、直ぐには始められないに決まってる!よし!さすがはヒロインのための世界!変に現実感がある世界でもヒロインの見せ場には、ちゃんと間に合うようにゲーム補正されてるんだわ!)
リアージュが辿り着いた講堂前には、春の花が咲いている円形の花壇があった。具合の良いことに、程よい風も吹いている。
(そうそう、風に舞う白いリボンとピンクや赤い花びらが舞う描写の映像が美しくって……。あれ?あれって本当にイベントだったかなぁ?もしかしてオープニングムービー?あれ、オープニングムービーだったっけ!?……ええい、何でもいい!とにかくリボンを風に飛ばさなきゃ!)
リアージュは後ろ手にリボンを解いて、放り投げた。さすがヒロインのための世界らしく、上手い感じにリボンが飛んでいった。……と、そこへ、入学式が始まるはずの会場から、何故か大勢の学院生達が出てきた。何だか様子がおかしいと感じたが、もうオープニングは始まっているはずだから、これもきっとゲームの補正が働いているのだろうと、リアージュは思った。
(あ、そっか。生徒会に入っていないイヴリンに王子との出会いを見せるためのゲーム補正なのよ、これ!だってイヴリンはヒロインと同じ新入生なんだから、会場内にいたら、ヒロインと王子の出会いを見て勘違いして誤解して虐めようと考える……なんて出来ないものね!)
自分の考えに納得しつつリアージュは王子達と出会うため、誰が見ても、ものすごく困っていると分かるように表情を作って、辺りをうろうろと見回すフリを続け、何かを必死に探しています……という態を装った。
(ウフフ、ゲームのイケメン達と会えるなんて、ホント、ラッキー!!しかも皆が私を好きになるんだもん!笑いが止まらないったらないわ!王子様は王道中の王道、白馬が似合う俺様イケメン王子だったわ!キラキラ金髪碧眼の正統派イケメン、……うへへへ~!王子の声を当てていた声優さんも当時の若手にしてはイケボイスで、私の推しの声優さんだった。生であの声が聴けるんだ!楽しみ~!
騎士団団長子息は筋肉マッチョで、男気あふれる性格が似合うワイルド系イケメンだった!赤茶色の髪につり目の金色の瞳が野性的で、声優さんも中堅声優さんで声がピッタリだった。兄貴って感じの頼れる声が、今から聴けるのね~!
大司教子息は垂れ目気味の緑の瞳が愛らしい、小動物系イケメンだった。フワッフワの天然パーマの黄緑色の髪と可愛い女顔、小柄で華奢な体格で……色味は違うけどヒロインと可愛さがかぶっているような美少年だった。そういやエルゴールの声優さんは、新人の女で声はピッタリなんだけど、声の演技が下手だったな。
宮廷医師子息は青い髪でルビーの瞳に銀縁眼鏡の理系イケメンで、攻略対象者の中では一番の長身だった。ベルベッサーの声優さんは、新人ながら超低音ボイスで、演技も上手かった。うん、あの声を生で……うひょひょ。生の声で口説かれたら……、たまんないわ、こりゃ!
隠しキャラのミグシリアスは出てくるのかな?4人の攻略者とのハッピーエンド、ノーマルエンド、バッドエンド、悪役令嬢とのハッピーエンドの、全ルートクリア時に解放される隠しルートで現れるキャラクターだったから、出てこないのかな?
彼はオールマイティーで全てにおいて高スペックなキャラクターだった。一流絵師さんの渾身のキャラクターだと一目でわかる、あの美貌。大人な男性で神秘的で影があって、野性的なのに繊細で魅惑的!最高にかっこよくって、私の激推し!!声優さんも悪役令嬢イヴリンの声優さんと遜色のない、実力派声優さんだった!何で彼が隠しキャラだったのか、ファンの間で物議が醸し出されていたっけ。あの声を生!生で聴けるなんて、神様ありがとう!!
どれもこれも、よだれが出そうな、美味しそうなイケメン達!ホントに楽しみよ!早く来ないかな?私、イケメンが大好きだから、皆、平等に愛してあげるわよ!)
リアージュは彼らに取り囲まれる妄想に、にやけながら探しているフリを続けていると、後ろから軽い足音が近寄ってきた。
(キ、キターーーーー!!)
「もしかして、お探しモノはこれですか?」
(あ、ありがとうございます!これ、母の形見なんです!)
リアージュは最高に可愛く見える表情を作って、最初の台詞を思い浮かべて振り返って、そう言おうとした。……でも、実際に口から出た言葉はこうだった。
「ムゴ、モゴムゴゴモゴモゴ!?……ゴボッ!な!?何で、あんたが拾うのよ!?違うでしょ!ゲーム通りにしてよ!あんたが出てくるのは、卒業式の前日でしょ!?それまで引っ込んでなさいよ、イヴリン!!」




