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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
プロローグ~オープニングムービー(ゲームが始まる一週間前)
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ベルベッサーと姿絵の女の子(後編)

「痛い、痛い、痛いよぉ~、お母様、助けて~!!」


 その日、バッファー国のリン村の集会所では、ヘディック国に帰るベルベッサー母子のために、村の女性や子ども達が集まって、送別会が行われていた。ベルベッサーとベルベッサーの母親は村人達の好意に感謝し、大喜びしたが、送別会で出された食べ物が口に合わなかったのか、送別会が終わり、帰路に向かう途中で、ベルベッサーは腹痛で苦しみ出した。


 ベルベッサーが腹痛で苦しみ出したので、母親は助けを呼びに行こうとしたが、あいにく周囲には人影も見えず、苦しみ泣いている7才の息子を誰も通りかからない道に一人置いていくことが出来なくて、7才にしてはふくよかすぎるベルベッサーをその背に背負って、ヨタヨタ歩き始めたのだが暫くして、息子の重みに耐えきれず、躓き、転んで、足を捻ってしまった。しかも母までもが腹痛が差し込んでしまって動けなくなり、二人は誰も通らない小道でお腹の痛みに苦しみ、困り果てていたところ、救いの手が現れた。


 声変わりした少年の声と小さな女の子の声が、心配そうにどうしたのかと声を掛けてきた。ベルベッサーの母は腹部の痛みを訴え、大人達を何人か、ここに呼んできてもらえないかと頼んだ。すると少年が今、助けを呼びに行くから、女の子にここで待っていてくれと言い、駆け出していった。


 ベルベッサーと母は二人して、もうすぐ助けが来ると安堵したが、依然痛みは治まらず、ベルベッサーはあまりの痛みに気が一瞬遠のいた。……しばらくしてベルベッサーは、お腹に感じていた痛みが治まっていくような感覚を感じて、意識を取り戻した。痛みは徐々に和らぎ、何か温かいものがベルベッサーのお腹に優しく触れているのに気がついた。


 ベルベッサーが痛みで朦朧とした目をうっすらと開けたら、腹痛で苦しむ自分と横で苦しむ母の間に小さな女の子が後ろ向きにチョコンと座って、「痛いの痛いの、飛んでけー!」と可愛い声で言いながら、ずっと二人のお腹を撫でさすっている姿が目に入った。


(なんて暖かいのだろう……。どうしてお腹の痛みが和らいでいくのだろう?)


 その後、少年が呼びかけて集まってきた大人達によって、二人は村の診療所まで運ばれることになったのだが、女の子が手を離すと、途端に痛みはぶり返してくるので、ベルベッサーも母も悲鳴に近い声を上げてしまった。どういうわけなのかは不明だが、さっきの女の子がお腹を撫でている間だけ、何故か痛みがマシになり、少しだけ楽になると気付いた二人は女の子に撫でるのを止めないでほしいと訴えた。それを聞いた女の子は可愛い声で二人に、診療所に着いたらまた撫でてあげるからそれまで我慢してねと言い、二人に付き合い、診療所にまで同行してくれた。


 診察が終わった二人に約束した通りに女の子は誰かに頼んで、二人のベッドをくっつけてもらい、その間にちょこんと座って、二人のお腹を撫で始めてくれた。何度か父の師であるセロトーニの指示で、撫でる相手を代えられたが、何がどう違うかわからないものの、誰かに代わる度に痛みがぶり返したので、ベルベッサーと母は、あの女の子に撫でてもらいたいと訴えた。


「はい、いいですよ!お兄ちゃんの痛いの、あっちに飛んでけ-!!お兄ちゃんの母様の痛いのも、あっちに飛んでいけー!」


 ベルベッサーは後に、その時の話を父に聞いて驚いたのだが、その時に女の子はベルベッサーと母のために、約2時間近くも二人のお腹を撫でさすり続けてくれていたらしい。そして2時間経ち、二人のお腹の具合がようやく落ち着き、改めて命の恩人である女の子の姿を見たベルベッサーの母は、女の子がバッファー国の教会の壁画で描かれている”銀色の妖精”に、そっくりの容姿だったことに気付き、驚愕して、

 そのまま気を失ってしまった。セロトーニは命に関わらない気絶だからと、後を看護師に任せ、銀色の妖精にそっくりな女の子と、その付き添いの者達を診療所の隣にある自分の家へと案内していった。


 セロトーニ医師の指示で父が処方してくれた薬で、ようやくお腹が楽になったベルベッサーは、ベッドの傍の椅子に座っている父が両手で顔を隠し、泣いているのに気づいた。


「無事に……、無事に5才になられていた……!本当に良かった!あんなにお元気そうに、幸せそうに笑っておられるところなんて……始めて見た!なんて嬉しそうにお笑いになるのか!!本当に……本当に良かった!ああっ、神様!あの子を神様のお庭に招かないでいてくれて、本当にありがとうございました!どうしてここにいるのか……なんてどうでもいい!きっと、……きっと、多くの者に愛されていたお子様だから、神が奇跡を起こされたのですね!感謝します、神様!ありがとうございました!」


 泣き声にまぎれて、そんな言葉が聞こえてきた。父の涙は喜びによるものだったのだ。ベルベッサーは父を見ながら、無言でズボンのポケットをまさぐり、中の懐中時計を掴み、中を開いて紙片を取り出した。何度も取り出して眺めていたため、少しくたびれた紙片。そこに描かれた姿絵よりも大きく成長しているが、あれはまぎれもなく姿絵の女の子だった。姿絵の姿よりも大きく成長し、美しく育っていた女の子……、でもそれ以上に美しい女の子の心にベルベッサーの胸は高鳴った。


(見ず知らずの通りすがりに出会っただけの僕達が苦しんでいるからと、何の見返りも求めず、献身的に自分と母を2時間も労ってくれた、優しい子。……なんて優しいんだろう!こんな女の子がいたなんて!)


 ベルベッサーは父から伝え聞いていた女の子の優しさに直に触れ、その美しい心を身を持って知ったことで、恋する気持ちが生まれてしまった。女の子達が帰る前に二人の様子を見に来てくれ、泣き顔で感謝を述べる両親が、明日この村を出て、故郷に帰るという話をし出したので、ベルベッサーは慌てて言った。


「僕さ!大きくなったら、世界一のお医者様になるんだ!その時には、君を迎えにきてもいいかな?」


 求婚に近い告白の言葉にキョトンとして首を傾げている女の子に、ベルベッサーはさらに告白の言葉を重ねた。


「僕は恋の病にかかっちゃったみたいなんだ!だから大人になったら、僕のそばにずっといてよ」


 その言葉に、少女は首をかしげたまま言った。


「コイノヤマイ?病……って、病気のことですよね?病気になっちゃたんですか、お兄ちゃん?病気なら、お医者様にすぐに治してもらわなきゃ!ですよね、ミグシス?マーサさん、そうですよね?」


「ええ、イヴ様のおっしゃる通りですよ!」


「うん、そうだよ!イヴの言う通りだよ!こっちにおいで、イヴ!病なら移らないように離れなきゃ!家に帰ったら、彼を撫でていた手をしっかり洗ってあげようね!その後、マーサさんにお風呂に入れてもらったほうがいいだろうね!


 その子の父様はセロトーニ先生のお弟子さんだから、息子の病くらい治してくれるはずだから、イヴは心配しないで、その子のことはきれいさっぱり忘れようね!それにイヴには父様や母様やマーサさん達や……俺がいるから、どこにも行かないよね?」


「はい!父様や母様、マーサさん達、それにミグシスがいてくれるから、私とっても幸せです!私、皆が大好きで、皆と一緒なのが、とても嬉しいの!誰とも離れたくありません!ずっと一緒なのです!だからこのお兄ちゃんのそばには行きません!


 ごめんね、お兄ちゃん。でもね、お兄ちゃんも家族と離れて暮らすよりも家族一緒の方が嬉しいでしょ?

 だから、家族で国に戻って病気を治してから、お医者さんのお勉強を頑張って下さいね!」


 ベルベッサーは小さな女の子にハッキリとした言葉で告白を断られたが、それにはめげず、もう一度、文通からのお付き合いを願おうとしたところ、少女のすぐ傍に立っていた黒髪の少年が、それを察知したのか、ベルベッサーに冷たい視線を向けてきた。


「君はイヴにキッパリと断られたのだから、潔く引いて国に帰れ!……さぁ、イヴ、感染予防は早めの手洗い、うがいと消毒が良いと、アンジュ様やライト様が教えてくれたろう?だから一緒に早く帰ろうね?」


 少年は前半の冷たい声音はベルベッサーに、後半の優しげな声音はイヴと言う名前らしい女の子に向けて言うと、女の子を抱き上げて、彼はさっさと走って逃げていってしまった。


 両親は黒髪の少年の顔を見て驚きの表情となり、その一瞬後には、何かを悟ったような顔つきで何度か頷き、彼ら二人の結びつきは、きっと神が与えた運命の結びつきだから諦めなさいとベルベッサーに言うと、帰る用意を始めた。


 そう両親に言われても、こんなにも優しくて可愛い女の子なんて、そうそういないとベルベッサーは思い、もう一度チャンスが欲しいと両親の言葉に逆らい、二人を追いかけたが、ベルベッサーはふくよかな体格で体は重かったし、しかも病み上がりの体だったので、追いつくことは出来なかった。


 ……結局、ベルベッサーは自分の名前を女の子にきちんと名乗ることも出来ず、助けてくれたお礼の言葉も言えず、ひどく悲しい気持ちで国に帰っていった。




 国に帰って侯爵を引き継いだベルベッサーの父は、その後も医師を続け、自分の師であるセロトーニとの文通を続けていた。その手紙で父が、あの時の女の子の、その後の容態を尋ねた返事の中に、彼女の日常のことが少しだけ触れられていて、黒髪の少年は今は、あの女の子のそばにはいないと書いてあったと聞き出したベルベッサーは、この4月から女の子がベルベッサーのいる学院に入学すると知った。


「ウフフフフ~、後、一週間!気合いを入れて、お出迎えするぞ~!!」


 拳を振り上げ、学院の寮から出て行ったベルベッサーは入学式前夜、信じられない姿で、寮の者達の前に現れるのであった。

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