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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
プロローグ~長いオープニングムービーの始まり
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その時が来る前に……(後編)

「……なので、これからも私は大切に思う人達を大事にして、これからも皆でこの村で過ごしたいと思います。アイもいつまでもお元気で。リン村 イヴ・スクイレル」


 リン村の子ども発表会でのイヴの発表が終わると、子ども達は大きな拍手を送る後ろの保護者席を見た。


「「「「やっぱり、イヴちゃんのお家の人達、泣いてるね」」」」


 リン村生まれの4人の子ども達は、毎度のこととはいえ、涙もろいイヴの保護者達に苦笑する。自分達の保護者も、こういう発表会や運動会では本人以上に盛り上がって泣いてしまうのだが、イヴの大勢いる保護者達は、イヴが行進で歩いている段階で、すでに感極まって号泣しているのだ。


「ううっ、イヴ様が、元気に歩いておられる」とか、「ああ!!目を回されずに3回もターンが出来ておられる!」とか、「ああ、徒競走一番遅いのに、ニコニコ顔で最後まで走っておられる!」と、何をしても喜び、泣くので、子ども達は、


((((今からこんなのでは、イヴちゃんが結婚でもしたら、皆、泣きすぎて目が溶けてしまうのではないか))))


 と密かに心配している。……そして、


「うむ!うむ!素晴らしい!素晴らしすぎる!これはもう、この発表会の作文を小冊子にして、国中にばらまくか!いや、いっそのこと石碑を作るべきか!?いや、それとも……」


「ライト様!いい加減にしてください!もう時間ですよ!城に行く時間です!」


「城には行かん!儂はもう、引退したんだ!国の事はエースに任せている!」


「何言っているんですか!お約束があるんでしょう!さっさと行きますよ、ライト様!」


「グェ!!おま、襟首を持って引きずるな!首が絞まる!はぁ~、わかった!行くから離せ!……じゃ、仕方ないから行ってくるね、イヴちゃん!お土産は何がいいかな~?エースの王冠でも引っぺがしてこようかな~?」


((((ライト様、イヴちゃん好きすぎるよね。()()()()()が深すぎるから、お城の人も大変だ……))))


 一番後ろの席にしがみついて離れない白髪の男性を、侍従が無理矢理剥がして、引きずっていくのを、子ども達は苦笑いして見守っていた。







「……で、へディック国の報告は?」


「はい、父上。トゥセェック国の()()()副官の報告書によれば、カロン王は最近では、後宮に引きこもって、そこで執政とは名ばかりの悪政を指示しているとか……。民も心ある貴族達も、続々と国外に脱出し出しているようです」


「そうか。国一つまたいでいるから、彼の国の情報を知るのに苦労すると思ったが、彼のおかげで、まるで、手に取るように経過がわかるから、助かるな。くれぐれも、イミル副官には礼を言って置いてくれ」


 ライトは息子のエースから受け取った手紙を懐に入れる。アンジュがミグシスが去った後、元気を無くしたイヴを励ますために、スクイレル家の女性だけで、女子旅に出かけたことがあった。その時、ライトがグランやスクイレル家の男性達を連れて、城に遊びに来た時、顔色が悪いエース王や、疲労困憊な多忙な城の者を見かねて、グランが雑務の仕事を手伝ったことがあったのだ。


 位の低い事務職の執務官が出す、他国への季節の挨拶状や輸出入の依頼書などの大量の手紙を書く仕事を疲れ切っていた執務官の代わりに引き受けたグランは、前職の事務次官の仕事だけでなく、王が執政を取るのに必要な、全ての仕事に精通していた。手紙を書きながらも、グランは城の様子を観察し、ここまで皆が多忙になる原因を見つけ、夕方にはその改善策を提示し、疲弊する執務官達や、エース王の窮地を救ったことがあった。


 その時、城の様子を観察しながらグランが書いていた、普通の挨拶状は、そのまま各国へと送付されたのだが、それに真っ先に反応したのが、トゥセェック国だった。


 グランの手紙を受け取ったのは、へディック国から亡命し、軍に入った仮面の男だった。その男は今、牢から出て、軍部に在籍しながらも、トゥセェック国の城の執務官として働き出していた。仮面の男には彼を指導する上官が常についていて、手紙を開いて、文面を読みはじめた仮面の男が泣き出したので、何事かと、その上官は驚いた。


 何が書いてあるのかと訝しむ上官に、仮面の男は大好きだった親友の字にそっくりだったので、思わず泣いてしまったと言った。内容は普通の挨拶だけだと言う仮面の男から、その手紙を見せられた上官は、さらに驚いた。


 文面は確かに涙を誘うようなことも驚くようなことも何も書かれてはいない、至って普通の挨拶文だった。丁寧な文字で挨拶の言葉が綴られている、普通の挨拶状。でも上官が驚いたのは、その美しすぎる筆跡だった。


 その筆跡は上官がまだ新人だった頃、挨拶状の手本としなさいと教官に見せてもらった、ある国の王様の手紙と筆跡が全く同じだったのだ。仮面の男の筆跡もその王様と何故か似ていたが、この手紙は、まさに同一人物の物にしか見えない。上官は慌ててその手紙を、自分の上司に渡した。


 そしてトゥセェック国は……、カロン王の真実を知ったのだ。この1年の間に、こっそりやってきたトゥセェック国の王や重鎮等は名を伏せリン村を訪れ、彼らが会いたかった、へディック国の()()についに対面した。


 手紙から窺える人柄そのままのグランに好意を持ったトゥセェック国の王や重鎮等は迷わず、”銀色の妖精の守り手”になると名乗りを上げてくれて、その窓口として、彼らはライトとエース王に、仮面の男を紹介した。そしてスクイレル商会をトゥセェック国でも王室ご用達にすると言い、スクイレル商会の長から紹介された、上忍と中忍達限定で、国境を自由に越える許可を出してくれた。


 仮面の男は、自分は銀色の妖精王の親友として、協力は惜しまないと言い、自分の事はイミルと呼んでくれと言った。イミルは変装が得意で、トゥセェック国で副官をしながらも、へディック国に何度となく潜入し、そこで別の名前で、弁護士をして、カロン王の動向を探っているのだと話して、情報提供を快く引き受けてくれた。


 さらにトゥセェック国は北方の国にも働きかけ、グラン達をそこの出身だという、本物の証明書を発行してもらえないかと打診してくれた。北方の国も、グランの筆跡にへディック国の真相に気づいたらしく、さらには、スクイレル商会の薬に、多くの国民が救われていた実績も高く評価していたので、これを快く引き受けてくれた。


 各国で評判高いスクイレルがその北方の人間だと知らしめることは、北方の国に対する他国からの印象が良く、評価も高まるので、これはお互いが得をする話だと、トゥセェック国の王のように、お忍びでリン村に訪れ、アンジュと拳を交わし、意気投合した、北方の国の女王は高笑いした。


 数日後届いた封書には、正真正銘スクイレルは、この国の出身だと証明するために、誰もが知っていて、誰からも信頼される者を証人に立てたから安心してくれと、綺麗だが豪快な筆使いで書かれた手紙が入っていた。同封されたスクイレル家の出身証明書の証人欄には、その綺麗だが豪快な筆使いで、女王の名前が自著されており、女王の王印まで押されていた。


 なお、手紙の追記には北方の国の出身だと証明するために一般民では、へディック国に偽造を疑われるかもしれない。よって、北方の国の確かな血筋の者であると信じさせるために、少々()()()をつけておいたから、アンジュに「これで確変でも倍返しでも、好きに役立てれば良い」と伝えて置いてくれと書かれていた。





 ……こうしてイヴ本人は全く知らないところで、過剰すぎるくらいの守りを得た状態で、イヴは、それを迎えることとなった。



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