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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
プロローグ~長いオープニングムービーの始まり
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その物語の英雄は片頭痛でした(後編)

 銀色の妖精と約束を交わし、あの真白の世界から戻って来た後から、銀色の妖精が約束した通りに、続々とライトの下に医学方面に秀でた優秀な者が集まりだし、王家直轄領とは名ばかりのただの空き地だった所に急に多種の薬草が生えだしたので、銀色の妖精の祝福は本物だったのだと知ったライトは、それを素直に喜んだ。祝福が本当にあったのだから、銀色の妖精はライトの願いを必ず叶えてくれるはずだと信じた。


 ライトは転生した妹と姪に再会したときに、この国で不自由な思いはさせたくないからと、前世の知識をフル稼働させて、この国を大きく豊かな国にするため、王として頑張った。ガィンガィンと頭に響く()()()の頻度も、その痛みの強さも変わらない。しかもここには()()()もない。でもライトは生きることに張り合いが出てきて、生まれ変わったように意欲的に働くことが出来た。


 それもこれも全ては、可愛い妹と姪のためだった。


 前世では両親を早くに亡くして、兄妹で支え合って生きてきた。ライトは父親に似て、体格は大きく頑健で、顔も強面だったが、妹のユイは母親に似て、体の線が細く、顔は和服が似合う美人だった。姪のアイは美人な妹と、あの顔だけは良いチャラ男の子どもに産まれただけあって、とても美しい容姿をしていた。ライトとチャラ男は、「うちの子、ホントに天使!」という意見が一致してしまったくらい、顔も性格も可愛い女の子に成長した。明るく優しい姪は、自分の持病に前向きに努力して闘い続ける、ライトの自慢の姪だった。





『唯ちゃん、おはよ!今朝も美人さんだね!愛もおはよ!今日もとっても可愛いよ!おはようございます、ゴリマッチョ師匠、今日もすっごく、イケメンゴリラですね!まさに美女達と野獣!……イデデデデ!!ギブギブ師匠!許して!唯ちゃんも、愛も笑ってないで、雷斗義兄さんを止めて!』


『こら、チャラ男!お前何時だと思ってる!?今日は朝練をすると念押ししたはずだが!?いいか、よく聞け!お前は、今日の愛の運動会の保護者競争で絶対一位を取れ!一位以外だったら、儂はお前を山ごもりに連れて行って、お前の根性を一から鍛え直してやるからな!』


『うわぁ、雷斗伯父さん、すごーい!父さんを指一本で持ち上げてる!さすが世界チャンピオンだね!カッコいいー!』


『そ、そっか?儂、すごいか!愛、もっとカッコいいの、見せてやろうか?儂が開発した必殺技で……』


『ギャー!!愛、雷斗伯父さん煽っちゃダメだから!目がマジになってますよ、師匠!?冗談が過ぎます!本当にもう止めて下さ……ギャ~!!』


『ハイハイ、じゃれてないで、兄さんもちーちゃんも早く席について、ご飯にしましょう?今日は愛ちゃんの初めての小学校の運動会なんだから!』


『おう、そうだったな!愛、やっと今年は運動会に出られるんだもんな。良かったな、愛!小児用の鎮痛薬が上手く効いてくれて、ホントに良かった!愛は運動会に出るのは初めてだから、緊張しているだろうが、何も心配はいらないからな。


 運動会というのは、子ども達の普段の姿を保護者が見に来るためのものなんだから、順位なんて気にしなくていいんだよ。愛が楽しんでいる姿を儂達は見たいのだから、愛は運動会を沢山楽しんだらいいんだよ。というわけだから、愛は怪我のないようにゆっくり走りなさい』


『うぇえ!?雷斗さん、俺に言ってたことと、なんか全然違うんですけどぉ!ひどくないですか!ハァ~、ったく、もう、仕方ないなぁ、雷斗さんは!……そうだよ、愛、雷斗さんの言う通りだ。愛の父さんも母さんも伯父さんも、愛が笑って、楽しんでいるのが何よりも嬉しいんだよ。だから初めての運動会を一緒に楽しもうな!』


『母さんも今日は頭痛がないから、愛ちゃんとの親子競技のダンス出来るのよ!一緒に踊りましょうね!』


『うん!!エヘヘ、ああ、私、嬉しいな!幸せ!頭も痛くないし、皆一緒!!嬉しいな!!』


『ハハハハ!!ほら、愛、踊るのは後でな。先にご飯だ!儂が食べさせてやろうな!』


『え~!!私、もう3年生だもん、一人で食べるよ!』


『そっか、そっか、大きくなったなぁ!』






 前世のライトの思い出は、とても暖かくて、幸せな……家族との思い出で、その記憶が、ライトの活力となった。


(どんな姿や形になっていようと儂には絶対わかる!早く二人に会いたい。いつになったら、会えるんだろう?)


 そう思いながら10年20年を過ごし、黒髪が白髪に変わりだしたころ……。へディック国から武人姿の貴族と思われる女性が単身で、バッファーの国境に現れたと知らせが入り、もしかして、ようやく妹か姪がやってきたのかもしれないと、国境まで見に行ったライトは、初対面の女性なのに……何だか無性に腹立たしくなり、むかついてきた。そのむかつきに身に覚えがあったライトは思わず、


「”チヒロ”?」


 と前世で大嫌いだった男の名前を呟いたら、


「”ライト”義兄さん?」


 と女は、前世の世界の言葉の発音で名乗ってもいないライトの名前を口にした。


「何で”ユイ”や”アイ”じゃなくって、お前が来るんだ!」


「え?……ゴリマッチョ師匠、何で”ユイ”ちゃんや”アイ”が、ここにいるって知ってるんですか?……って、そんなことは今はどうでもいいです!実はですね、師匠……」


 怒鳴るライトに胡乱げな目つきで、”ライト”の世界一大事な存在の名前を前世の発音で口にした女は……正真正銘、ライトが前世で大嫌いだった”チヒロ”で、ライトの妹の旦那で、ライトの姪の父親の”チヒロ”……あの、どうしようもないチャラ男でヘタレな男だった。


 ライトは慌てたような"チヒロ”だった女から、ライトの大事な妹も姪もすでに、この世界に転生していると聞かされ……、額に青筋が浮かんでしまった。


「何でまた、儂の大事な妹とお前が結婚してるんだ~!!」


 と、その後20分ほど言い合いをしてしまった。怒りは収まらなかったが、妹と姪の命が危ないと女に告げられて、ライトは押し黙った。


「それを先に言え!!」


 妹と姪の死因となる症状を聞かされたライトは、王位を引き継いだ息子が、話していたことを思い出した。


 以前リン村の医学研究チームが、()()()を作る過程で大失敗し、とんでもない毒薬が出来てしまったことがあった。この毒薬は日々頭痛で悩ませられていたライトを死の誘惑に誘うような、魅力的な死に方が出来る効果があったのだ。


 でも銀色の妖精との約束を信じていたライトは、死の誘惑を撥ね除け、解毒剤を仕上げるまで、この危険な毒薬を息子に頼んで、城の金庫に保管してもらっていたのだが随分前に、賊に盗まれたと報告があったのだ。その毒薬の効果が、妹の死ぬ症状と一致する。ライトの話を聞いた女は、賊の特徴を尋ね……聞き終わると瞳が爛々と炎を吹き出すが如く激怒の表情になった。


「茶髪の仮面の男?……もしかして、もしかしなくとも、それってナィールじゃないか?単なるモブだと思ってたが、あいつがミグシリアスの復讐ルートの黒幕だったのか?俺の旦那様の親友だと思ってたのに、旦那様を裏切るのか!?そんなことをされたら旦那様は……ユイちゃんは悲しみ、傷ついてしまう。そんなこと、絶対させないぞ!!」


 そう言って、女は馬に乗って引き返そうとするので、ライトは説明を求め、大いに驚いた。


(儂は、この国の英雄になる物語の主人公に転生したが、儂の世界一可愛い姪は、あの国を舞台としたゲームの悪役に転生しているだって!?そして儂の世界一大事な妹は、ゲームが始まる前に死んでしまう父親だって!?……あの銀色野郎め!?随分と舐めた真似をしてくれたもんだな!)


 ライトの国で作られた毒薬が、”ライト”の大事な妹と姪を殺すなんてとんでもない話だった。女の話が正しければ、その毒薬を飲まされるのが2年後だというので、まだ妹を助けることは出来るはずだとライトは胸をなで下ろしたが、二人の未来を考えると、一刻の猶予もないことは変わりなかった。


「いいか、絶対飲ませるな!そして一刻も早く、二人をここに連れてこい!こっちもそれまでに解毒薬となるものを作っておく!いいな!チャラ男!」


 ……そして女が連れてきた二人を見て……ライトは、とても驚いた。二人の容姿が、あまりにも銀色の妖精にそっくりだったからだ。


(そういや銀色の妖精野郎が、転生して二人の姿形が変わっていても、一目でわかるようにしておくと言っていたが……こういうことだったのか!)


 ”ライト”の大事な妹は男になっていたが、その不機嫌顔も眉間の皺も……穏やかで優しい性格も、前世の”ユイ”のままだった。”ライト”が可愛がっていた姪は前世と同じ女の子で、明るく優しい性格も前世と同じ”アイ”のままだった。


 ……そう、まさしく人々が想像する、清廉な心を持っているだろうはずの神の使いだと、真実、称えられるのに相応しい……前世の”ライト”が心底可愛がっていた妹と姪のままだったのだ。あんな自分勝手な銀色の妖精とは大違いだった。ライトは自然とこぼれ落ちそうな涙をグッと堪えた。


 今はもう、この世にいないライトの妻になった姫が二人が来た時に、ライトのことを誇りに思ってくれるようにと、ライトの英雄譚を国中の教会の壁画にしていたから、国中の者が二人の容姿を見て、神の使いの銀色の妖精の再来だと驚き、頭を垂れだし、さらには二人と一緒にいた少年が、ライトの若い頃にそっくりだったから、もっと大騒ぎになってしまったのは予想外だった。


 亡くなった妻には悪いが、妹と姪の今後の生活のために、ライトは国中の教会の壁画を撤去した。息子のエースが一枚だけは、母の残した形見として、手元に残して欲しいというので、バッファー国の城の王族しか入れない部屋に姫の作らせた壁画も残しておくことにした。


 都会暮らしは、片頭痛持ちの妹と姪には不向きだろうし、何よりもライトが二人と離れたくなかったので、ライトの隠居後の地に選んだ、鎮痛剤開発のために作ったリン村で、彼等に過ごしてもらうことにした。


 妹と姪は前世の記憶はないが、あいかわらず二人共が優しく生真面目だったため、外見以上に中身に惹かれた大勢の者達に寄って、守られ、慈しまれていた。ライトは今世でようやく片頭痛でも、前世のように 穏やかな気持ちで過ごせるようになった。


 妹が今世では、あのチャラ男だけではなく、セデスという男を、兄を慕うように慕っているようなので、妹が頼る相手が増えたことを嬉しく思いつつ、少しだけセデスが羨ましいとライトは思った。





 城でエースから報告を聞き、ライトは顔をしかめる。アンジュの手紙に書かれた、不吉な予言とも言える、消失したはずのルートの気配がしたからだ。しかも、それを仕掛けているのは、ミグシリアスではなく、その乙女ゲームではモブに近いキャラクターだったはずとアンジュが言っている、カロン王だった。


「真の()を失ったへディック国か……。いざという時は、我が国はトゥセェック国を支持してくれるか、エース王?」


「当然ですよ、父上。父上を追い出し、殺そうとしたへディック国を支持なんてありえません。ただ、あの国の難民は、どうしましょうか?」


「難民は充分な審査をしてから受け入れろ。ただし絶対にリン村にだけは行かせるな!」


「わかっています、父上。銀色の妖精は我が国の宝です!絶対に守って見せます!」


 自信満々のエースにライトは頷く。息子のエースには、頭痛は……ない。エースは母親から壁画の話を毎日のように聞かされて育ったせいで、英雄だったライトや銀色の妖精に瓜二つな容姿を持つグラン父娘、そしてライトの若い頃に容姿に似ているというミグシスを神聖視して見る傾向が強かった。


 だが幾度も親交を深めたことで、グラン達がエースと同じ人間だと、エースは理解はしたものの、今度はグランの人間性に惹かれ、『父上はずるい!私も引退して、リン村でグランさん達と暮らしたい!』とまで、ぼやくようになり、エースはグランより8つ年上のはずなのだが、彼の弟分のような気持ちで、懐いてしまっている。


 この国にグラン達に危害を加えるような者はいない。危害を加えようとするのは、銀色の妖精とは違う神が作っただろう、ゲームの世界の人間だろう。……しかし何故、銀色の妖精は、二人をゲームの人物に転生させたのだろう?物語を面白くするための魂の転生召還しかしたことがないと言っていたことと関係するのだろうか?とライトは首を傾げたが、今度会ったら約束違反で今度こそ必殺技を繰り出してやると、ライトは固く決意した。


 再会出来て嬉しいが、二人の命を危うくさせたのは許せない。神を面白がらせるために、二人を死なせることは、絶対に阻止してみせる!それに気に入らないが、あのチャラ男と”ライト”は、これに関してだけは、無敵のタッグを組めるのだ


グラン(”ユイ”)イヴ(”アイ”)を守る』


(忌々しいが今は、あのチャラ男のゲーム知識とやらが鍵となる。何としても、姪の命を守らねば!それに妹の子が、また増えるのだ!儂が守ってみせるからな、グラン!イヴちゃん!そして生まれてくる、姪っこか、甥っこ!このライトが、お前達家族……あのチャラ男も、ついでに絶対に守ってやるからな!)


 ライトは闘志を漲らせて、その後もグラン達を守るための話し合いを続けた。

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