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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
プロローグ~長いオープニングムービーの始まり
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アンジュの手紙(後編)

 ○ミグシリアス(名前変更可)(瞳色・髪色変更不可)……攻略対象者。隠しキャラ。男爵令嬢より10才年上で、黒髪黒目の仮面をつけた剣術指南の教師。シーノン公爵。イヴリンの義兄。実は王の隠し子で、エイルノン王子とは年の離れた異母兄弟。眉目秀麗。文武両道。ナイフ投げの達人。これがうちのミグシスです。彼があなたの若い頃に似ているのは、彼がカロン王の息子だからです。仮面を付けているのは、あの国では黒髪黒目は”魔性の者”と呼ばれ忌避されているからという設定でした。彼の場合は、王の隠し子なのを隠す役割も兼ねていたではないだろうかと俺は思っています。


 隠しルートが解放されるまでは、彼の立ち位置にいるのは、モブの茶髪碧眼の中年男性でした。これがナィールです。ほら、以前毒薬を盗んだ彼ですよ。ナィールはカロン王の双子の兄でした。これは乙女ゲームでは無かった設定ではないだろうかと俺は思っています。彼はカロン王に復讐をしたくて、ミグシスをシーノン公爵家に入れたかったみたいですが、俺のグランとの友情の気持ちのほうが強くて、復讐方法を変えたみたいだと、セデスがいい笑顔で教えてくれました。ああ、そう言えば、ミグシリアスのハッピーエンドルートだけ、2つあったように思います。


 ミグシリアスの二つあるハッピーエンドのうち、一つは、自分が実は王の隠し子だと気づかないままの彼とヒロインの男爵令嬢が身分差を超えた大恋愛の末に、男爵令嬢はシーノン公爵夫人となる、王道の玉の輿のハッピーエンドでした。


 そしてもう一つのハッピーエンドなのですが、これをハッピーエンドと言っていいのかどうか俺には理解出来ないハッピーエンドだったと記憶しています。確か、自分が実は王の隠し子だと気づいたミグシリアスが、自分が産まれる前に王が母を捨てた事実を同時に知り、そのせいで母の心が壊れたことを悟った彼は、王を恨んで復讐を考えるようになり、前王の時代に王家に陥れられ、多くの仲間を殺されて、復讐を考えている影の一族と呼ばれる者達や、前王に父親を殺された大司教や、ミグシリアスの母を慕っていた闇に通じるミグシリアスの後見人の弁護士を味方に引き入れ、復讐のために公爵家に入り込み、公爵家を乗っ取って、その隠し資産を使って、隣国と戦争を起こし、混乱に乗じて、王家を転覆させて、復讐を果たす。ラストでは、荒れ果てた国土を二人で新たに立て直すっていう話だったんです。


 ね、俺がハッピーエンドと言い切れない気持ちがわかりますか?その乙女ゲームではミグシリアスがセデス達やナィールを使って、シーノン公爵家を乗っ取った後、公爵家の力を使って、戦争を起こし、その戦争をカモフラージュにして、復讐を果たそうとするんですよ!これの何がハッピーなのか俺にはさっぱりですよ!本気で怖くですよね!でも、この二つのルート、もう消失しましたので雷斗さん、安心して下さいね!


 セデス達は復讐よりも俺の唯ちゃんの……グランの傍にいることを選び、グランを王として、忠実な銀色の妖精の守り手にジョブチェンジしましたし、ナィールはセデスになにやらお説教されて、別の復讐方法に方向転換したらしいです。それとナィールはミグシリアスに彼の生い立ちの秘密を言いませんでした。シーノン公爵家の隠し資産は、俺達の逃亡費用と、バッファー国での生活資金と、グランの医師資格取得費用と、商会の商売で使うことに俺達大人達で話し合って決めました。


 それにミグシリアス……ミグシスや、イヴやルナーベルのこともそうだけど、彼のこともゲームのキャラクターだなんて、俺は思えないんですよ。この間、ミグシスは泣いていたんです。自分は誰からも愛されていないと思っていたけれど、言葉はなくとも、母には愛されていたのだと、存在を否定されてはいなかったんだって、今気づいたんです……って言って、グランの胸で泣いていたんです!みんな、俺達と同じここで生きている人間なんです。こんなにつわりで苦しい思いを実際に体験しているのに、これがゲームの世界なんて、おかしいです!


 すみません、ちょっと興奮してしまいました。……先、進めます。そういや、全ルートと隠しキャラの二つのルートを全て攻略時に解放されるハードモード、別名逆ハーレムルートってのがありまして、俺、これをクリアしたんです。


 どうしてクリア出来たのかはわかりませんが、確かこの逆ハーレムエンドでは、エイルノン王子と結婚後、各攻略者は、自分たちの恋愛感情を隠したまま、主人公の後見人になってくれて、ずっと傍で彼女達を守ってくれるそうなんです。まさに逆ハーレムでしょ?


 現実には男が何もさせてくれない女性にずっと侍る事なんてないって、師匠も思いません?この辺が乙女の夢なんでしょうかね?攻略対象者は皆、異性との恋愛も遊びもその手の店さえ、未経験なんですよ!少女漫画かって、ツッコミをいれてやりたくなりませんか……って、はっ!俺のグランがそうでした!俺のために……、ずっと俺のために貞操を守ってくれていました!すっごく嬉しかった!少女漫画、最高です!!他の女になんて、絶対渡しませんよ!あ!今世は俺、処女でしたし、グラン一筋ですからね!いくら前世で唯ちゃんに会う前の俺が、どうしようもないチャラ男だったからとはいえ、もう俺、妊婦なんですから、かかと落としは止めて下さいね?


 それに前世だって、唯ちゃんと会ってからは俺は唯ちゃん一筋でした。あの女がゴチャゴチャ言ってたけど、あんなのは嘘です!単に腐れ縁なだけで、あの女は性格が最悪で、大嫌いでした。あの女が言うような、肉体関係なんてもんは一切なかったです!


 俺があの時にあの女を頼ったのは、余命短い唯ちゃんに愛との最後の楽しい思い出を作ってやりたかったんです!愛にも母さんとの最後の楽しい思い出になればと乙女ゲームに詳しかったあの女の知識を借りたかっただけで!唯ちゃんが亡くなってからも、俺は唯ちゃんだけでした!あれ、俺も結構、少女漫画な感じでしたね。だって俺には唯ちゃんだけが俺の唯一だったんですよ。


 俺が覚えているのは、これだけです。俺があのゲームをしていたのは5日間だけで、それ以来ゲームなんてしていません。俺、唯の葬儀の後、娘にあの女のことで、激怒されて、家を追い出されたでしょう?俺、唯ちゃんがいない現実が耐えられなくて、気づいたらあの女の部屋で唯ちゃんと愛に遊ばせるはずだった、乙女ゲームをしていたんです。


 最初の一回だけは説明聞いたけど、その後は全部音声無しで、途中入るスチル付きのストーリーも全部スキップして、超高速でゲームして、気づいたら全ルート攻略してた。あの女がゴチャゴチャ何か喚いてたけど、ゲームをしている俺の脳内では、俺は唯ちゃんと愛の3人でゲームしている妄想の世界にいたんです。


 でも全ルート攻略した後、俺、唯ちゃんに頼まれたことを思い出したんです。『愛を守ってね、ちーちゃん』って言われてたって!それを思い出した俺は、正気に戻ったんです。で、その後、俺は愛に見つからないようにしながら、ずっと愛のこと見守ってました。……まぁ、ばれていましたけど。


 雷斗さんが、この世界に呼ばれたのは英雄になって、物語を”ハッピーエンド”にするためでしたよね?そのグラン達に似ている銀色の妖精とは違う神様が、乙女ゲームの、どのエンディングが見たいのかは、わからないけど、取りあえず、隠しキャラと悪役令嬢が不参加となった今、乙女ゲームがどうなるのか、10年経たないとわかりませんが、一応念のため、雷斗さん、あの国を見張っていてもらえませんか?そしてイヴをどうか守って下さい!俺も出産が終わったら、加わりますので、それまでどうかよろしくお願いします。あなたの義弟 千尋より


 追伸)これを読んだら、必ず暖炉にくべて、消し炭になるのをきちんと見届けて下さい。俺達以外にも転生者はいるかもしれないし、その転生者が味方とは限りませんので。

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