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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
プロローグ~長いオープニングムービーの始まり
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へディック国とバッファー国の間にある、トゥセェック国の話(前編)

 トゥセェック国は、へディック国とバッファー国に挟まれた国だ。国の歴史もへディック国とほぼ変わらないくらい歴史ある国で、国の面積も発展具合も両者は似たり寄ったりで、昔は国交も盛んであったが、少し前までは国交は途絶えていた。


 と言うのも、へディック国の前王ナロンが自分の異母兄弟である黒髪黒目の弟を国外追放したあげく、こちらの国に正規の手順を踏んで、礼儀正しく入国してきた弟を暗殺するために領土侵犯を犯し、不法侵入、殺害行為による近隣への暴行行為、国民を脅迫・監禁・暴行などを行い、多大な被害を与えたのだ。それらのことで異議申し立てした結果……前王ナロンは逆ギレして、さらなる危害を加えてきたので国交は行わなくなってしまったのだ。


 トゥセェック国としては、へディック国以外の他の周辺国との関係は良かったし、へディック国との国交が途絶えたところで外交による収益に変わりはなかったから、何も不自由することはなかったので、国交を再開させようとは思っていなかった。しかし、その関係に変化が出たのは、へディック国のナロンが退位し、当時の第一王太子だったカロン王子が王に就任してからだった。カロン王は両国の関係を修復しようとの考えがあったようで、その動きがへディック国側からもたらせられたのだ。


 前王の犯したトゥセェック国に対しての大小様々な罪に対し、全面的に非を求め、謝罪と賠償を支払いたいとの内容の謝罪状が正式な使者を立てて送られてきたので、トゥセェック国の王や重鎮等は大層驚いた。通常、国交というものをする上で重要なことは、いかに自国が有利な立場で相手国との交流を図っていくかということだった。その観点から言えば、全面的に非を認めるなどということは……それが罪を犯した側としての誠実で正しい行為であったとしても……絶対にしてはならない愚策としか言えないものだったからだ。


 だから当然の如くトゥセェック国は、へディック国のカロン王の行動を何かの奸計かと撥ね付け、無視を決め込んだのだが……それに対し、カロン王は前王のように逆ギレして怒ることもなく、貴国の対応は当然だろうと受け入れ、それでも償わせてほしい……と美しい文字で前王の失礼を詫びる、誠実さがにじみ出るような手紙を何度も何度も綴ってくるので、やがてトゥセェック国の王や重鎮等は、根負けしてきて、話だけでも聞いてやろうかということになった。


 そうして、しばらく文書でやり取りしていく内に、へディック国のカロン王は自分の父が弟を殺すために領土侵犯を犯し、不法侵入、殺害行為による近隣への暴行行為、国民を脅迫・監禁・暴行などを行い、多大な被害を与えたという、情報を正しくは伝えられていないことに気が付いた。カロン王は前王ナロンが自国で罪を犯した貴族を追って、トゥセェック国に無体なことをしたと認識していたのだ。


 これは自分の親の醜い後継者争いを誤魔化しているのかと失笑したが、その後の文通のやりとりで、彼は本当に何も知らされていないのだと悟った。カロン王は、前王ナロンの只一人の子であった。一人しかいない子だったので、大切に育てられたのだろうことが、文面のいたるところから感じられるくらい、彼の綴る文章には後ろ暗さはなかったからだ。どこまでも誠実な謝罪の言葉を綴り、せめて民同士の交流は許して欲しいとの嘆願は嘘偽り無く、ただ民のためを思っての言葉だった。


 これは自国の前王による箝口令で、息子のカロンには真実が伝えられていなかったのだろうと予想がつき、トゥセェック国は彼に真実を教えてやるべきか悩んだが、結局はその国のお家騒動に口出しすべきでは無いという結論が出た。また異議申し立てして、危害を加えられては困ると懸念したからだ。


 ただ……誠実な手紙を綴るカロン王自身の人柄をもっと知りたくなったトゥセェック国は、今回の謝罪について、何も裏がないことを確かめるための策として、やや無理目な要求をカロン王に突きつけて、それに対しての彼の対応を見ることにした。この策は下手したら彼を怒らせて、戦になるかもしれない危険性も伴っていることは重々承知はしていたので、トゥセェック国は騎士団に警戒態勢を整えさせて、返事を待った。


 するとカロン王からは、今回のことは前王の失策による不祥事であるが故、王家に対してならば、いかようにも要求を呑むが、自国の民は無関係故、民に関する無理な要求は飲むことが出来ないと、謝罪はしつつも、それは毅然と断るという内容の返事が返ってきた。


 へディック国に潜ませている間者からは、カロン王は王に就任したてのころは、愚策としか思えない政策を興したが、それを是正するための改善策をすぐに打ち出した努力家の王だとの報告が入った。その改善策は秀逸で最初の政策の失敗を見事に取り戻すものだった。それ以降は失敗はなく、生真面目で誠実な国政を行い続け、失われていた王家への信頼を取り戻しつつあり、始祖王の再来ではないだろうかとの噂もある王だとの報告も届いてきた。


 トゥセェック国の王や重鎮等は、若い王が手探りで国を立て直そうと頑張っているようだし、前王の失礼を詫びる、誠実さがにじみ出るような手紙を何度も届けてくるので、カロン王の人柄を信じることにして、適正な賠償額を提示したところ、その3日後には、全てのモノが7人の老人の使者達に寄って全て欠けることなく贈られてきたので、トゥセェック国は、へディック国への態度を軟化させ、国交再開に向けて、まずは民の入出国を許すことにした。


 それでも一抹の不安はあったので、その入出には入念な審査は課したが、やがてそれも杞憂だったとの判断を後にするほど、穏やかな民達の交流が始まった。両国の民は自由に行き来が出来るようになり、民の生活に変化や活気が出てきて、トゥセェック国自体も以前よりも裕福な国へとなりつつあった。トゥセェック国の王や重鎮等は、カロン王を信じて良かったと思った。そして、彼からの喜びに溢れる礼状を読んで、このカロン王に直接会いたいと思うようにもなった。


 これほど誠実さがにじみ出るような手紙が書ける賢王と、もっと親交を深めたいと考え、どのような姿なのだろうかと、間者等に肖像画を取り寄せるように頼んだ。送られた肖像画のカロン王は金髪碧眼で、とても麗しい青年だった。


 この麗しい青年が、筆まめに季節の手紙や年賀の挨拶など、読んでいて、思わず心がほっこりするような思いやりある手紙をしたためているのだと思うと、トゥセェック国の王も重鎮等もますます彼の人柄を好ましく思うようになり、今は彼は王になりたてで国政に集中したいだろうけど、国が落ち着いた頃には、一度両国の王同士の対談などしてみたいとも考えるようになった。


 ……だが何度申し入れをしても、何故か対談は時期尚早と言われて、やんわりとその申し出は辞退された。若い王故、気恥ずかしいのかもしれないと、その奥ゆかしさが、さらに彼の人間性を引き立て、好感が損なわれることはなかった。


 国交が再開し、民の入出国を許すようになって10年ほど経っても、カロン王は良き王で良き隣人であったから、今では民の入出国には、何の疑念も持ってはいなかった。


 だからトゥセェック国は、犯罪歴などの有無を調べるだけで、多くの民の入国を許したのと同じように、()()()()()()の入国も当然許したし、多くの民の出国を許したように、その一家の出国も何の疑いもなく許した。


 ……その一家がバッファー国へと出国してから半年も経たないうちに、へディック国から悪政に耐えきれないと多くの民が、トゥセェック国や他国へと逃げ出すようになったのだが、トゥセェック国は、何故そうなったのか、理由がわからなかった。

※もちろん筆まめで誠実な手紙を書いていたのは、イミルグランでした。彼はカロン王に手紙のお手本として書いて渡していたので、それがそのまま、正式な王の直筆の手紙として、使われている事実は知りませんでした。

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