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※僕のイベリスをもう一度〜12個めのエンド(純愛エンドもしくはビターエンド)(前編)

いつも私の拙いお話を読んでくれてありがとうございます。このお話は作中に出てくる【僕のイベリスをもう一度】という乙女ゲームの9つあるエンドと逆ハーレムエンドとイベリスエンドの11のエンドを考える時に、私が入れようか入れまいかを悩んでいた12個めのエンドです。入れなかった理由は後編のあとがきに書きますが、読んでいただければ理由はわかるかと思います。


この物語が完結して、もうすぐ一年になりますが、この回のお話は執筆中小説の中にずっと寝かせたままにしていました。消すのも勿体ないかなと思い、日頃の感謝の気持ちを込めて載せることにしました。少しでも誰かの退屈な時間を潰せたなら幸いです。

 大勢の貴族達が集まる学院の卒業パーティーで、公爵令嬢は王子と騎士団長子息と大司教子息と宮廷医師子息に、彼らが慕っている男爵令嬢を昨日の放課後に階段から突き落としただろうと糾弾された。


「いいえ、違います!あれは事故だったのです!イヴリン様はそのようなことはしておりません!」


 男爵令嬢はあれは単なる事故で公爵令嬢に悪気はなかったのだと公爵令嬢を庇う発言に徹していたが、普段から婚約者である王子に避けられている公爵令嬢が、いつも王子達と親しくしている男爵令嬢を快く思っていないことは一目瞭然だったことから、誰も男爵令嬢の言葉を信じなかった。


 王子達は公爵令嬢の罪の証拠となる、男爵令嬢を虐めるようにと示唆する手紙類や公爵令嬢に命令されて、実際に男爵令嬢を虐めた実行犯である公爵令嬢の取り巻きであった貴族令嬢達を証人として用意していたため、ついに公爵令嬢の罪は確定され、皆の周知の事実となった。


「イヴリン・シーノン公爵令嬢。何故、男爵令嬢を階段から突き落としたのか、申してみよ」


 卒業パーティーの来賓として出席していた王が尋ねると、公爵令嬢は淑女の礼をしてから話しだした。


「誰からも愛される男爵令嬢が羨ましくて妬ましくて、どうしようもなく憎らしかったからです。私は王子様と婚約したのは政治的戦略のためだと亡き父にも言われておりましたし、王子様からも国のために尽くす同士という意味合いの情しかもらえませんでした。それでも私は、それで良いと今まで思っておりました。国を守るため、民を守るために結婚するのが貴族としての務めだと幼少の頃から言い含められ、男女間の恋やら愛やらは貴族の結婚には必要ないものと教えられてきましたから。ここにいる皆様だって、そうでしょう?」


 公爵令嬢は集まっている貴族達に視線をやった。公爵令嬢に改めて言われなくても、それは貴族の間では周知の事実であったため、誰も彼女の言葉を否定しようとはしなかった。皆の否定の声がないのを確認した後、公爵令嬢は両手の平を自分の豊かな胸に当て、こう話を続けだした。


「でも私は愛情が欲しかったのです。誰かを愛したいとも思いましたし、誰かから愛されたかったです。私の両親は離婚し、母は出ていき、父は亡くなり、私は家族の愛情というものを知らずに育ちました。それに私は、この国では王の次に位が高い身分であると同時に王子様の婚約者でもあるので、貴族間の政治的勢力図に影響を及ぼす恐れがあるからと、特別な友人を……親友を作ることを王家から禁じられておりました。家族の情を知らず、特別に親しい友人も作ることを許されない私は孤独に苛まれながらも、未来の王妃として、ありとあらゆる教養を修めるべく、長年努力し続けてまいりました。そのことはそれを命じられたカロン国王陛下が一番ご存知でいらっしゃると思いますが、いかがでしょうか?」


 公爵令嬢に同意を求められた王は、うむと言って頷いた後に同意の意を表した。


「ああ、知っているとも。王家は君に随分と酷なことを色々と強いてしまった。だと言うのにイヴリン嬢は孤独の中、不平不満も言わずに長い間、実によく頑張って学んでくれていた。君の頑張りを神様のお庭から見守っている君の父であるシーノン公爵も誇りに思ってくれていることだろう」


 王の口から亡き父の名が出たのを聞いて、公爵令嬢は寂しげに微笑んだ。


「そう言ってもらえると光栄ですが、それが出来ましたのも王子様の存在があったからこそなのです。寂しいのは……私だけじゃない、王子様も私と同じだと思っていたからこそ耐えられたのです。三年前、15才まで城の後宮で育てられ、友人を作ることを禁じられていた王子様は初めての顔合わせのときに、『お互い国のために仲良く協力しあっていこう』とおっしゃってくれました。親に決められた婚約を静かに受け止めておられる様子を見て、王子様は私と同じように孤独だったのだと私は悟り、仲間意識のような親近感を持ちました。孤独を知っている王子様となら恋愛感情がなくても、”国を共に守る”という絆で結ばれた夫婦に……家族になれるのではないかとずっと思っていたのです」


 言葉を一旦切った公爵令嬢は王子の方に視線を向け、言葉を続ける。


「だけど私達の前に男爵令嬢が現れ、王子様は彼女に恋をしてしまいました。私と会っているときでも、王子様の視線の先には常に男爵令嬢の姿があった。私が王子様と話しているといつの間にか会話の内容が、男爵令嬢を褒め称える話に変わっていた。婚約者として社交の場に出なくてはいけないというのに、私を伴って茶会や夜会に出ることを避けるようになっていた。……これらの行動を私がどんな思いで黙認していたか、どれだけ辛く寂しかったか……男爵令嬢に夢中だった王子様にはおわかりにならなかったのでしょうね」


 王子は公爵令嬢だけではなく、婚約者に対する誠実さに欠ける王子の態度や行動を暗に咎めるような周囲の者共の視線を諸に受け、気まずそうに目を反らせた。自分を見ようとしない王子の姿に、フゥ〜と一度深くため息を付いた後、公爵令嬢は、また王の方に向き直って話しだした。


「それでも私は耐えておりました。私は未来の王妃にと王家から望まれて婚約者になった身ですから、これ位我慢しなくてはならないと思っていたからです。ですが昨日……王子様に告げられたのです。政治的政略結婚を避けることは得策ではないから、仕方なく予定通りに自分が学院を卒業後に私と結婚するし、予定通りに私に世継ぎを産ませるが、私が世継ぎを生んだ暁には、もう二度と私と褥を共にはせず、自分が心から愛する男爵令嬢を側妃に迎えるから、その時には私は離宮に行くように……と。こんな酷い話があるでしょうか?」


 公爵令嬢の発言に卒業パーティーに来ていた貴族達は、どよめきの声を上げた。いくら愛のない政略結婚だとはいえ、結婚前の婚約者に向けて告げて良い言葉ではないと誰もが思ったからだ。どよめく会場に視線をやることなく、公爵令嬢は王だけを見つめ、話を続けた。


「勿論わかっているんです。これが我が国の貴族間ではごくごく当たり前のことなんだと。私達は貴族とはいえ、人間です。人を愛し、愛されたいと願う、普通の生き物なんです。だからいくら心を抑えつけようとしても、抑えられないくらいに人を慕う気持ちは止められない。だけど貴族の家を存続させるためには利益が伴わない結婚は認めてもらえない。だから貴族は結婚し、子どもが出来た後は愛人や恋人を作る者が多い。……私の母のように。ましてや王は世継ぎ確保のために、後宮に多くの側妃を持つことを推奨されています。だから私も王子様が側妃を持つことは止められないし、止めようとも思っていませんでした。けれど男爵令嬢が側妃になることだけは我慢ならなかったのです……」


 公爵は国王の次に身分が高い。だから公爵令嬢は今まで高位貴族の令嬢として落ち着いた口調で話すのを心がけていたが、ついに感情を抑えることが難しくなったようで、声が大きくなりだした。


「だって……そんなのあまりにも……狡いではないですか!仲間だと思っていた王子様が愛を得ているのに、何故私だけが孤独のまま、これからの一生を国のため民のために一人っきりで生きていかなければならないのですか?私だって人間なんです!何故私だけが愛を得ることを許されずに友を求めることも許されずに一人っきりで離宮で暮らし、王の執務を支えるだけの王妃の仕事を一生こなさなければならないんですか!私はただ……たった一人でいい、誰かに心から愛してもらいたかったんです!」


 普段、感情のままに話すなどしたことがなかった公爵令嬢は慣れないことをしたせいで、ハァハァと暫く肩で息をしていたが、心に思っていたことを全て打ち明け心が軽くなったのか、諦めきった表情ではいたが口元には笑みが浮かんでいた。


「たった一人でいいから私の傍にずっといて、一緒に人生を歩んでくれる人がほしかった。そのたった一人が王子様だったら良いのにと、ずっと思っていました。……なのに王子様との子をなしても、子は直ぐに取り上げられ、一人離宮に追いやられる未来なんて私は耐えることが出来ませんでした。だから私は……王子様が心を寄せている男爵令嬢を階段から突き落としたのです。カロン国王陛下。どうか私めを厳しく罰して下さい」


 公爵家の権力を用いて男爵令嬢を遠ざけることは容易なことではあったが、それをしたところで王子が公爵令嬢を愛してくれるかはわからず、逆に公爵令嬢が権力で男爵令嬢を退けたことが知られたら、確実に愛は得られないことは明白であった。結婚前の一時的な交際ならと我慢していた公爵令嬢だったが、結婚後もそれを見せつけられるのだと知り、絶望したのが理由だと言った後、公爵令嬢は王に自分に厳罰を科すようにと求めた。


 王子と公爵令嬢の婚約は王家から望んだものであったため、王よりも身分が低い公爵令嬢からは婚約解消の打診が出来ない。例え公爵令嬢が婚約解消を望んで王家に打診が出来たとしても、彼女以上に次期王妃に相応しい身分の令嬢は他にいないため、相当の理由がないと王家は婚約解消を了承しないだろう。


 それがわかっているから王子は男爵令嬢を側妃にと望み、それを受け入れられないから公爵令嬢は婚約解消の理由を作るために直接男爵令嬢に危害を加えることを選び、公爵令嬢の悲しみを直接ぶつけられたことで彼女の孤独な人生を知ったからこそ男爵令嬢は公爵令嬢を庇ったのだ。


 こんな悲しい負の連鎖があるだろうか?そこまで思いつめていた彼女を誰が糾弾出来ると言うのだろうか?公爵令嬢が話し終わった後、卒業パーティーが開かれていた講堂内はシンと静まり、公爵令嬢を糾弾していた者達は皆、口をつぐんでしまった。苦いものを口に入れてしまったような渋い表情で王は公爵令嬢に対し、今回の処罰を告げた。


「相わかった。では沙汰を言おう。王子とイヴリン・シーノン公爵令嬢との婚約は解消し、イヴリン・シーノン公爵令嬢は爵位剥奪後、修道院送りとする」


 カロン王の言葉に卒業パーティーに出席していた者達は驚き、ざわつき始めた。


「「「!?」」」


「婚約解消だけではなく、爵位を剥奪した上に修道院送りとは、何と厳しすぎる処罰だろうか!」


「こういう場合は王による訓告後に自宅謹慎するのが一般的だというのに、こんなにも重い罰を科すなんて……」


 貴族達の動揺は収まる様子がない。何故ならへディック国では身分差が厳しく、身分が高い者が身分の下の者に危害を加えることは、こういう風に表立つことはあまりないが、実は日常的によくあることだったからだ。それにシーノン公爵家はへディック国の始祖王の末の妹が嫁いだ貴族家であることから、正に王の次に身分が高い公爵家なのだ。


 であるからしてシーノン公爵家の令嬢が下から数えたほうが早い下級貴族に過ぎない男爵令嬢に危害を加えた位で処罰などないのが当たり前だったのに何故この処罰なのか?と貴族達の戸惑いの目は王に注がれた。そしてその戸惑いから声を上げたのは公爵令嬢を糾弾したはずの王子だった。


「父上っ!それはあまりにも罪が重すぎます!僕はそこまでは「望んでいなかった……だろう?」っ!?」


 王子の言葉に被せるように言葉を放った王は厳しい視線を自分の息子に向けた。


「我が息子ながらに愚かだな、王子よ。今回のことでお前には正直とても失望した。何故、このような公の場で騒ぎを起こした。いや、そもそも何故卒業パーティーの前日にイヴリン嬢にあのようなことを言ったのだ?言わずともよいことをわざわざ告げる意図が私には理解が出来ない。今回の事件の発端はお前の発言が引き金になっているのに、何故それに思い当たらなかったのだ。……いや、違うな。どうせ恋に溺れ、考え無しになったお前のことだ。イヴリン嬢の罪を貴族達の前で糾弾することで彼女に恥をかかせ、私に訓告させることで彼女を貶め、皆の信用を失なわせ、彼女を孤立させて自分の都合のいい()()のようにこき使える正妃にしたかったのだろう。そして自分の恋する男爵令嬢の優秀さを皆の前で語ることで男爵令嬢を側妃に迎えやすくする算段だったのだろうが、そうはいかない」


 王は我が子を見ているのだとは、とても思えないような冷たい目つきで王子を睨みつけた。

ここまで読んでくれてありがとうございました。

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