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エピローグ〜15年目の"卒業パーティー"(中編)

 エイルノン達が会場に戻ると、ちょうど”観劇”が始まるところだった。屋外広場に設置された舞台で、司会者が登場し、舞台挨拶が始まった。


『おはようございます、皆様!本日はご卒業、誠におめでとうございます!皆様のご卒業とヒール国建国15周年を記念しての今日の”観劇”は”英雄辞退”という劇を披露させていただきます。


 突然ですが皆様、全ての物語や劇の前挨拶や後挨拶に、「この作品は作り物です。この作品の著作権はこの世界に生きる作者にあります。この作品をこの世界の作者に許可なく、勝手に複製、販売、上演等をし、利益を得る人間の行為は犯罪行為です。発見次第、騎士団によって逮捕され、その国の法律に基づいた厳しい法的措置がとられます」と明記、名言した後に続く常套句があることをご存知ですか?


 その常套句は、「……また、それは()だとて同等の犯罪行為となります。このことについて、神と人は石版を用いて契約を交わしております。もしも作者に許可なく、異世界でその作品を現実の世界で再現させようとした、もしくは再現させた神は、石版で契約を交わした神により、厳しく処罰される法的措置がとられます」……と言い、15年前から、どの国でも必ず、この言葉を添えるようになりました。さて、ここからが本題です。では何故この神に向けた常套句が必ず付けられるようになってしまったのでしょうか?


 ここにいる皆様は歴史の生き証人であらせられるので、その理由をよくご存知でしょう!……ええ、そうです!この世界には昔、英雄が活躍する物語が大好きな神々が実在していたのです。神々は英雄が活躍するのを現実の世界で見たいがためだけに、この世界に次々と災厄の種を撒き散らして世界中の人々を苦しめていたのです!


 今から始まる劇は、そんな神々の物語から如何にして人間達が自分達の世界を守ったかというお話です!どうぞ最後まで楽しんでご覧下さい!』


 舞台挨拶が終わると、観客達が拍手をした。司会者は頭を下げて一礼すると舞台袖に下がり、代わりに”観劇”の語り部が出てきた。エイルノン達はその語り部を見て、あれはロキかソニーのどちらかじゃないかと小声で囁きあった。イヴの双子の弟は二人共成人すると、二人で劇団を立ち上げて、世界中を巡業するようになっていた。


 《……昔々の大昔、この世界にまだ国というものが存在していないころ、一人の少女がいました。少女はある集落の首長の娘で、彼女には他に異母兄弟が四人いましたが、皆優しい心の持ち主で、少女は兄弟達と仲良く楽しく暮らしておりました。ところがです。彼女が15才になった日に、彼女の前に神を名乗る者が現れて、神を楽しませるための物語の”英雄”になるようにと告げたのです。


 当然のお告げに驚く少女に神は言います。神は物語が好きで、特に英雄が活躍し、最後は幸せになる物語が大好きだから、物語を現実の世界で再現させて、物語を自分の目で見て、実際に楽しみたい。なので少女に物語の主人公のように生きてみせろと言いました。少女はそんなことは出来ないと言いましたが、それが出来ないなら、お前のいる集落の人間は皆、死してしまうだろうと脅されました。


 神は恐ろしい物語を再現していました。首長の5人の子の中で、秀でるものが何一つない平凡な人間が、この世界で一番最初の国造りをして、始祖王になる……そんな成功の物語を見るためだけに、少女が一番愛している長兄を悪役に据えることにしていたのです。頭脳明晰で思いやりのある長兄に、いくつもの不治の病の呪いをかけ、彼がいつか病疲れから心を蝕まれ、悪人になるようにと仕向けたと言うのです。


 心優しい長兄が神を楽しませるためだけに病に侵されていたなんて……と昔から病に苦しむ兄を見てきた少女の怒りは相当のものでした。少女は神に怒り、神の物語通りに生きるものかと決意し、こっそりと異母兄弟達に事情を話し、皆である計画を立てました……》


 語り部が立ち去ると幕が上がり、劇が始まった。観客達はこの劇を感慨深く見始める。何故なら、この劇は、本当にあった話が元になって作られたものだと、皆がよく知っていたからだった。





 劇中で語られるのはへディック国の始祖王の誕生秘話だったり、バッファー国を造ったライトの話だったり、バーケック国の危機を救ったルナティーヌの話だったり、へディック国を滅亡させたヒールの話だったが、そのいずれの話にも、ある共通点があった。


 それは神に物語の”英雄”に選ばれた人間が、それぞれ神の見たい物語の”英雄”になることを拒否していたことだった。それぞれの”英雄”に指名された人間は止むに止まれない状況により、仕方なく神の見たい物語の”英雄”になったが、それでも、それぞれに出来る最大の努力で、神の物語に抵抗していたのだ。


 第一幕のへディック国始祖王になった少女の話では、集落の人間の命を人質にされ、仕方なく”英雄”になることにしたが、それでも物語通りに長兄を討ち取るなんて御免こうむると内々に兄弟達と相談し、自分達の性別を偽り、悪人の長兄を討ち取ったのではなく、病弱な長姉に悪役のフリをさせて国外に逃亡させたという物語にしてみせることで、少女は神に抵抗したのだと語られる。


 第二幕のライトの話では、神に直接必殺技を繰り出し抵抗したが、実際に自分の命を狙われるだけではなく周囲の人間が命を狙われたりしたため、仕方なく物語を叶えたが、その代わりにありとあらゆる薬草や医学の発展等を神に強請り、この国で物語を再現させないと神に約束させた。


 第三幕のルナティーヌの話では、物語のために国全体を貧困にした神に激怒し、自分の蒔いた種は自分で刈り取れと神を丸め込み、物語が終わるまで神をこき使うことで、ライトと同じく、この国でも二度と神の物語を再現させないことを神に誓わせることに成功したと語られた。


 最終幕のヒールの話では、神々の最後の物語が戦争の話が再現されたものだと知ったヒールが、物語通りに戦争を起こさせまいと”英雄辞退”をし悪人のフリをして、物語の舞台となる国から人間を全て国外へと脱出させて、自分の命と引き換えに神々の最後の物語を終わらせたと語られ、最終幕は閉じられた。


 劇の最後、4人の英霊となった彼らが舞台中央に立ち、人々に訴える。


『残念ながら、この世界は残酷な神によって創造された世界なのです。神がこの世界に自然災害や人々の間に疫病を流行らせたり、人間の心に嫉妬や羨望、不信の種を蒔きちらし、人々が争うように仕向けるのは、神が我々に試練を与えているのではなく、ただただ、この不幸な状況を打破する”英雄”の活躍を、劇を見るように現実の世界で見て、楽しみたいという人間にとっては許しがたい、不条理な理由によるものだったのです。


 我々4人は神と交渉し、二度と物語を現実の世界で再現させないように石版を用いて契約を交わすことに成功しましたが、いつ何時、約束を反故にされるかはわかりません。だからいつまでも、この約束を語り継いで言って下さい。いつまでも忘れないで下さい。


 天災や飢餓や流行病といった、人の力ではどうしようもない未知なる脅威が来る前に、普段から備えるという習慣を国中の皆が身につけていれば、いざという時に取り乱すことなく、心に余裕を持って冷静に、その危機に皆で立ち向かうことが出来るはずです。悪政や内乱、戦争といった国がらみの脅威に対しても、普段から人と人との繋がりを強固にしていれば、神の物語から我々は身を守れるはずです。


 物理的、または精神的に、人は自分が不安定な状況でいるとき、それが満たされている他者の存在を知ると、無意識的に妬んだり、僻んだり、羨んだりしてしまう傾向が多く見られます。しかしそれはきっと……、”英雄”が活躍する物語を好む神が、自分の見たい物語の”悪役”に相応しい人間にするために、心が弱っている人を狙って、悪意を吹き込んでいるからに違いありません。


 ですから普段から人との話し合いを小まめにし、お互いが誤解を持たぬように心を開いて話し合い、相手を尊重し、労り合えば……神の悪意の付け込む隙を与えないはずだと、我々人間は神が再現させた4つの物語から学んだはずです。神を楽しませるためだけに誰かを”悪人”にしないように……、神を喜ばせるためだけに誰かが”英雄”にならずにすむように……、どうか皆さん、誰かの不幸を他人事と思わず、皆で協力して、一緒にその不幸に立ち向かって、一緒に生きていきましょう……』


 4人の英霊が語り終えると幕が下り、観客達は割れんばかりの拍手をした。すると幕は上がり、劇に出ていた役者達が全員出てきて礼をしてから、もう一度幕が下りて、そこで”観劇”は本当に終わりとなり、”合同卒業パーティー”も、そのままお開きとなった。

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