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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”お姫さま”のイースターエッグ
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二人だけの物語〜悪人の悪役志願㉕

 自分をズルい人間だと言う”お姫様”に、リアージュは何と言っていいのか、わからなかった。ただ、ふと思う。リアージュの世界ではミントショコラは、頭痛の特効薬だった。リアージュのいた収容所でも”頭痛持ち”の囚人達が、収容所に常駐していた医師に処方してもらった所、頭痛が治って、しかも美味しい薬だと大層喜んで有難がっていたのを晩年のリアージュは何度か見かけたことがあった。


 もしかしたら”お姫様”は、それを覚えていたのではないだろうか?リアージュの世界と”お姫様”の世界は似ているようで全く違う異世界だけれど、藁をもすがる気持ちで、それを唯に試してみたかっただけだったのではないだろうか?唯がチョコレートを食べても頭痛にならなかったら、頭痛が起きないチョコレートがあって良かったねと昔のように……一緒に喜びたかっただけなのではないだろうか?


 そして、こうも思う。あの修了式の日に、唯に謝罪が出来ないまま別れてしまった”お姫様”は、唯を騙していたことをずっと悔いていた。だから他の誰でもない、唯本人に断罪されたかったのではないだろうか?その証拠に”お姫様”は、あの場で唯がチョコレートを食べないわけにはいかない状況を完璧に作り上げていた。それに唯に食べさせるアイスに、ミントショコラを選んだ本当の理由は……チョコレートを食べることに罪悪感を捨てきれていないだろう友達のために、鎮静作用のあるミントと一緒に食べることで少しでも罪悪感を軽くしてやれればと思いやっただけなのではないだろうか?


 人間の心というものは複雑に出来ていて、リアージュと”お姫様”は同じ魂の者ではあるが、その心の全てをお互いが共有しているわけではないから、本当の所は”お姫様”にしかわからない。リアージュだって、あの5月の茶会でルナーベルに出した苺ソーダで、もしもルナーベルがゲップをしなかったら、「一番美味しいソーダを一番大好きな人に最初に飲んでもらいたかった」と言うつもりでいたなんて、”お姫様”は未だに気がついていないのだから……。


 リアージュは”お姫様”が、自分はズルいということをリアージュにも認めてもらいたそうにしていることはわかっていたが、それには触れず、違うことを尋ねた。


 {ねぇ、あんたは最期のときに自分が悪かったと認めていたのよね。ならば、何故この地獄の底では、自分は悪くないと非を認めずに、100回もあんたと私の人生を繰り返し視て、多くの人を傷つけた報いを受け続けているの?ここに来た罪人達は自分の人生を視て心から反省し、来世では二度と同じ過ちを起こさないと魂に刻み込めば、地獄から出て魂の安息地である神様のお庭に行けるのに、何故そうしないの?}


 リアージュがそう言うと、”お姫様”はフウ〜と深くため息をついた後、上を見上げた。


「だって……自分の罪を認めて魂の穢を払って、神様のお庭に行ったら、またいつか転生するんでしょう?そうしたら……唯のことを忘れてしまうじゃない。今回はたまたま神様と関わったことで、前世の記憶を思い出せたけれど、次も思い出せるとは限らないし。それに……転生した世界では唯とは出会えなかった。それくらいなら、どれだけ痛くても、ここにいる。ここにいれば……唯を忘れなくてすむ。私は唯を……たった一人の友達を忘れたくない」







「それが理由で地獄に居座られるのは、迷惑だそうですよ、”お姫様”」


 突然、はるか頭上のほうから一筋の光が差し落ちてきて、”お姫様”とリアージュの前を照らし出し、その光がゆっくりと人の形と降り立った。リアージュはそれを見て、ギョッとして声を上げる。


 {ルナーベル、どうしてここに!?……違う。ルナーベルそっくりで、服装も修道女の格好だけど、あんたはルナーベルじゃない!えっと確か……ルナーベル似の紅の神!何でここに!?}


 紅の神は二人を見て、ニッコリと微笑んで言った。


「お久しぶりですね、リアージュ。そして初めまして、”お姫様”。あなたのように()()()()に出会えて光栄に思っています。あなたは金の神だけではなく、彼の父神も、彼の師で高位の神でもある私にも、今の今まであなたの真実を隠し通した。地獄を管理する神の知らせを受けなければ、永久にそれを知らないままでした。間違いは正さねばなりません」


 紅の神の言葉を聞き、”お姫様”は青ざめた。


「駄目よ!もう二度とあの歴史は改変させないんだから!」


 紅の神は必死になっている”お姫様”の表情を見て、目元を細めた。


「安心なさい。カロン王が言っていたでしょう?彼女は助かったと。歴史が変わることは、もう二度とはありません。実はですね、今回の僕イベ騒動を、私は金の神と彼の兄神達の教材として繰り返し視させることで、彼らに世界の創造について、あれこれ指導をしていたのですが、他の神々はどうやら娯楽として視るようになってしまったのです。


 すみません、あなた方人間にとっては自分の人生をまるで小説やゲームのように楽しまれている事実は不快以外の何物でもないのでしょうが、神は不老不死の存在であるため、娯楽に飢えているのです。……ともかく何回も繰り返し視て楽しんでいた神々は、やがて別の視点……異世界を転生した者視点から今回の僕イベ騒動を視ることを思いついて、それを楽しむようになりました。


 愛ことイヴリン視点、真ことミグシス視点、千尋ことアンジュ視点、唯ことイミルグラン視点、雷斗ことライト視点、英雄ことエイルノン視点、アーサーことエルゴール視点、弘ことトリプソン視点、勇ことベルベッサー視点……9人の転生者視点での僕イベ騒動を楽しんだ神々は、当然一番面白い動きをした、あなた視点の僕イベ騒動を視たいと考えた。


 ……ところがです。何故かあなた視点で視ようとしたら映像がブレて視えない。こんなことは前代未聞のことでした。まるであなたの一度目の人生のときの僕イベの逆ハーレムルートが攻略できないとファン達が大騒ぎしたような騒ぎに神々の世界もなったわけです。誰もがあなた視点の僕イベ騒動を視ようと四苦八苦しても誰も視ることが出来ず、あなた視点の僕イベ騒動は神々にとって、”僕のイベリスをもう一度”の逆ハーレムルートや隠されたイースターエッグに等しいものになってしまった。


 神々は地獄にいるあなたに直接尋ねようとまでしたそうですが、地獄を管理する神がそれは規則違反だからと許可しなかった。その代わり、繰り返し人生を視て、報いを受け続けているあなたの姿を生配信することを提案した。神々は驚いたそうですよ。あの責苦を何十回も繰り返し視る罪人はそう多くはいなかったそうですから。そして80回を過ぎた辺りから、やっとあなた自身が心にかけた鍵が綻び始めて、100回目でやっと全貌が明るみに出て、皆があなた視点での今回の僕イベ騒動を視た。


 神々は長く攻略出来なかったゲームをオールクリアしたような気分になって、今、神々の世界はちょっとしたお祭り騒ぎとなっているんですよ。なにせ修行で籠もっていた私達のところにまで連絡が来たくらいですからね……金の神は正真正銘の”英雄”である、あなたを見つけることが出来ていた。そしてあなたは”英雄”にはならず、あなた自身の本当の願いを悪役のままで自分で叶えた。皮肉なことにあなたは今や、神々の中で”悪役英雄(ダークーヒロイン)”として人気を博しているんですよ。


 ……で、神々も地獄の神も、そして私も、あなたが自分の罪を自覚し、自分が悪かったと認めて反省していたことを知ってしまった。こうなるといつまでもあなたを地獄に置いておくわけにはいきません。なので金の神の”英雄のご褒美”のための物語の立役者であったあなたに敬意を示し、こうして金の神の師である私自身が、あなたを神の庭にお連れしようと出向いたわけです。さぁ、私と一緒に行きましょう」


 紅の神がそう言って、手を差し出すと、”お姫さま”は激しく頭を左右に振って拒絶した。


「っ!?嫌だ!私はここにいる!」


「もしも私があなたの次の転生先をあなたに選ばせると言ってもですか?」


 紅の神の言葉に”お姫さま”は、体を一度ビクッと大きく身震いさせた。


「え?」


「あなたの世界の”僕のイベリスをもう一度”も金の神の”僕達のイベリスをもう一度”も、悪役が活躍してこそ、話が進展し、主役がハッピーエンドを迎えられる話だった。つまり両者は悪役こそが僕イベをハッビーに導く影の”英雄(主人公)”だった。そしてあなたは偶然にも多くの神の見たい物語の”英雄”になって、彼らが喜ぶ物語を視せた。ですからね、ボーナス特典としてあなたの次の転生先をあなたに決めさせてあげることを神々が了承したのですよ。何がいいですか?何でもあなたの望む通りに転生させてあげますよ?」


 紅の神の言葉にリアージュは喜び、触れることが出来ない”お姫様”の肩を叩くフリをした。


 {やったじゃん!それなら唯の傍にいられるように願いなさいよ!}


 大きく目を見開いたまま、”お姫さま”は震える声で尋ねた。


「本当に……本当に私の望むものに転生させてもらえるんですか?」


「ええ、もちろん。石版に誓ってもいいですよ」


「うげっ!」


 石版と聞いて、嫌そうに顔をしかめるリアージュとは違い、神が誓いを立てても良いと言っているのを聞いた”お姫さま”は、紅の神に頭を深く下げてから願いを口にした。








 ……その植物を見つけたのは、偶然だったという。ある日本人の冒険家が道に迷い、今まで訪れたことがない場所に立ち入ったことで、それをたまたま見つけたらしい。冒険家は新種の植物ならば自分の名前がつけられるかもしれないと期待し、植物に詳しい専門家に照合を依頼した。すると確かに新種ではあるが、大昔に、この植物を探す団体がいたことを突き止めた。


 その団体は難病で苦しむ人達を救おうと新種の薬草を探していたらしいが、見つけることが出来なかったとのことだった。彼らが手がかりにしたのは、大昔のゲームに出てくるポーションのラベルに描かれている薬草の絵で、彼らはそれを描いた”マクサルト”と名乗る人物を見つけることは出来たのだが、肝心の”マクサルト”が、その植物を見かけた場所を覚えていなかったことから、見つけることが叶わなかったらしい。


 何人かの植物の専門家と薬草研究者が協力して、この植物を調べた所、この植物は相当にアクが強く、一つでもアク抜きの手順を間違えれば使い物にならないが、正しい手順でアク抜きをすれば、あらゆる病に効く特効薬となる薬効があることが判明された。


 日本人の冒険家は新種の植物が、そんなにも凄い薬草であることに驚き、自分の名前をつけるのは恐れ多いような気持ちとなり、考えに考え……、最初に薬草を見つけたという”マクサルト”がいた時代に流行っていた造語をもじって薬草名にした。


 その薬草名は”リアージュ”。


 現実の生活が充実しているという意味の”リア充”という造語通りに、あらゆる病で苦しんでいる人々が、普通の生活を普通に幸せに生きるのを病で我慢しなくてもよくなる薬になりますようにとの願いが込められている。

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