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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”お姫さま”のイースターエッグ
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二人だけの物語〜悪人の悪役志願⑰

「あの女を幸せにするために悪役になった……か。そんな風に言うと、まるで私が本当は悪い人間じゃないみたいに聞こえるわね」


 リアージュを見ながら、”お姫様”は疲れた表情で言った。


「私は勉強も働きもせず、親のスネをかじって生きながら、自分の傍にイケメンを置こうと考え、男達にストーカー行為を繰り返し、彼らが自分のものにならないのは、彼らの周りにいる女のせいだと思い込み、排除しようと嫌がらせを繰り返していた。私と関係した人間にとって、私は十分嫌な悪い人間だった。そして私と直接関係したことがない人間にとっても、出来れば一生関わり合いになりたくない部類の人間だった。


 あの日……。あの修了式の日。不法侵入していた私を見知っている者達や私の噂を聞き知っている者達は私を責め、私のことを知らない者達は私を怖がり、関わり合いになりたくないとばかりに遠巻きに私を見ていた。そんな中、あの女だけが……唯だけが私を信じ、私を庇って、最後まで私の味方であろうとした。そんなこと普通の人はしないわよ。


 大勢がそうだと言っているのに、たった一人だけ違うと声を上げることが、どれだけ異端で見られることか、わからないほど唯は愚かではないわ。だってあの子はどれほど頭痛で苦しんでいようとも学校では誰もしていないからと言う理由だけで、自分の頭痛が楽になるハチマキをつけることはなかったのだもの。それなのに唯は、たった10回会っただけの私に味方した。どれほどの勇気を必要としたことか想像もつかないわ。


 今まで生きてきた人生の中で、私を信じて私の味方をしてくれたのは唯だけだった。でも私は唯に嘘をついていた。あの子は千尋に言ったわ。『先程、色々と言いましたが、まだ一番大事な事を言い忘れていたことを思い出しましたので、それを付け加えさせてもらいます。私は……人を自分の都合の良い道具だとしか思えない人は信用できません。自分への好意を利用するだけ利用しておいて、その責任を負おうとしない人間を軽蔑します。私は……婚約者がいることを伏せ、別の人間を口説こうと8ヶ月も追いかけ回す人は……嘘つきは嫌いです』……と。


 私は私の周りにいる人間を自分の都合の良い道具にしようとしていた。子である私を思う両親の好意を利用するだけ利用しておいて、その責任を負おうと考えたことはなかった。私は……いつでも唯の誤解を解くことが出来たのに、ずっと本当のことを言わずに、婚約者がいるとさらに嘘を重ねて、唯を騙し続けていた嘘つきだった。あの体育館の中で、私こそが唯にとって一番信用出来ない人間だった。千尋ではなく私こそが、唯が一番軽蔑し、一番嫌うべき人間だった。


 唯の言葉を体育館倉庫の中で聞いていた時、それまで誰に何を言われても何を思われても平気だったけれど、唯にだけはそう思われたくないと自覚した後に、あんなことになって、唯に全てを知られてしまれて嫌われたと思ったのに、唯はあんな状況になっても、最後まで私を信じることを選んでくれた。だからこそ私は、あの時に決めたのよ。唯は(悪役)の宿敵。けして唯は私の友達(悪役)ではない……と」






 リアージュと”お姫様”の前に流れる映像は、いつの間にかリアージュの人生へと変わっていた。そこではリアージュが熱を出した後に、僕イベの世界に転生していると喜んでいる姿が映っていた。


「今、映っているように、確かに前世の記憶を思い出した当初、私は喜んだわ。大好きな僕イベの世界に転生出来た……ってね。でも、こうも思ってた。何故私は、僕イベの世界に転生したと決めつけているんだろう?……と。だって僕イベのヒロインの名前は”ピュア”なのに、転生した私はリアージュという名前になっているし、髪色と瞳の色や容姿は僕イベのヒロインと似ていたけれど、あまりにもヒロインの性格が違いすぎる。


 私の前世も大概だったけど、あんたは私よりも何倍も非道い嗜虐趣味があった。いくら僕イベの世界観が身分差が厳しい世界だとはいえ、ヒロインであるはずの男爵令嬢が、人の嫌がる顔や泣き顔を見るのが楽しいなんて、どう考えてもおかしいでしょ?亡くなった母親のことを慕い、亡き母親のような立派な貴族令嬢になりたいと思っている様子は微塵もないし、変だなと思いつつも、とりあえず思い出せるだけの僕イベの情報をあんたに提供したけど……本当にここは僕イベの世界なんだろうか?と疑問に思ってた。そこへ、あのショコラケーキでしょ?その時、私は思ったの。ああ、これは千尋の牽制じゃないか?……とね」


 {え?あの女だと思ったんじゃないの?だからこそ私の邪魔をしたんじゃないの?}


「残念、ハズレよ。私はね、あのショコラケーキを送りつけてきた相手を、最初は千尋じゃないかと思ってたのよ。生前の私がチョコレートケーキを贈ったのは一回だけ、相手は唯だった。でも唯は僕イベのことは知らずに逝ってしまった。そんな唯が僕イベのゲームがスタートする前に『いよいよ、学院に入学ですね!あなたのご活躍をずっと楽しみにしていました。頑張って下さいね!』などとカードを添えてショコラケーキを送りつけることが出来るわけないじゃない。


 唯じゃないなら、他に私がチョコレートケーキを買ったのを知っているのは千尋だけと考えるのが自然だった。でも、あれだけ私のことを嫌っていた千尋が、わざわざ転生して顔も名前も変わっている私を探し出して牽制してくるなんて、どう考えてもありえないのよね。もしもあいつが本当に転生していて、偶然私も転生していることを知ってしまったのなら、私と関わるのは絶対に御免だと考えて、他国にでも逃げると思うのよ。


 かと言って、あんたのファンが本当にいるとも考えられない。あんたは9年間も家に引きこもっていて、貴族達とは親交がなかったし、虐待していた使用人があんたを慕うわけがないしね。……だから私はイヴリン・シーノン公爵令嬢に転生したのは千尋なんじゃないかと思ったの。まぁ、それは直ぐに違うとわかったんだけどね。だってイヴリンになるはずのシーノン公爵の神様の子どもはとうの昔に神様のお庭に旅立ってしまっていると知ったからね」


 {えっ?イヴリンはゲームが始まる前に亡くなっていたの?そんなのいつ知ったのよ?}


「私はあんたがショコラケーキでお腹を壊して寝込んでいる間、あんたにショコラケーキを贈るような相手が過去にいなかったかを調べようと思って、あんたの記憶を探ってみたの。そしたらあんたが社交に出ていた5才の冬、シーノン公爵は公爵位を返還し、事務次官の職を辞して自分の神様の子どもの病気療養のために療養施設のある北の地に行く途中で崖崩れの事故に遭って、親子ともども亡くなったという話を、あんたの母親が茶会で噂している記憶があったの。


 その噂話でシーノン公爵の神様の子どもは、とても体が弱かったらしいとも言っていた。あんたの世界は熱の出ない病気は病気と認めていない国だったし、だからもしかしたら唯が”頭痛持ち”のまま、悪役令嬢のイヴリンに転生してしまっていたんじゃないかとも思ったわ。それなら頭痛が原因不明の病気と思われて、まだ5才にもなっていなかったイヴリンが療養施設に連れて行かれるのも不思議じゃないからね。でも、10年以上も前のことだったし、もう死んでしまっているから、本当のことはわからずじまいだけどね」


 {イヴリンは死んでいた……。えっ、ちょっと、待って。それじゃ……}


「そうよ、僕イベは悪役令嬢がヒロインを虐めないと攻略対象者と恋愛出来ないようになっているゲームなのに、既に悪役令嬢であるイヴリンが亡くなってしまっている時点で、ゲームとして成立しないのよ。それなのに、ショコラケーキの送り主は、私が学院で活躍するのを楽しみにしていると書いていた。あまりにも胡散臭いと思わない?


 ゲームとして成立しないゲームはゲームじゃない。そう思った私は、ここはもしかして僕イベに似ているだけで、僕イベの世界とは違う現実の世界ではないかと思ったのよ。で、千尋以外でショコラケーキを送ってきそうな可能性のある貴族は誰かとさらに記憶を辿ったら、4人だけ該当する人物がいたわ」


 {それは誰よ?}


「大司教子息で神子姫エレンだったエルゴール、騎士団長子息のトリプソン、宮廷医師子息のベルベッサー、そして隠しキャラだったミグシリアスよ。あんたは幼少期に領内にいたミグシリアスに鞭打とうとしたり、神子姫エレンの美しさに嫉妬し、生ゴミを投げつけて家から追い出したし、トリプソンやベルベッサーを、容姿のことでからかって虐めていた。もしもあそこが本当に僕イベの世界だったのなら、あんたは幼少期に彼らに親切にしたことで、彼らに初恋をされていたはずなのに、あんたは真逆のことをして、彼らに恨まれ、嫌われた。


 だから私は、きっと4人は15にもなって婚約者のいないあんたが学院に来た時に嘲笑ってやろうと考えているのではないかと思ったの。『いよいよ、学院に入学ですね!あなたのご活躍をずっと楽しみにしていました。頑張って下さいね!』……なんて、性格の悪いあんたの婚活が上手くいくわけがないとわかっていての当てこすりだと考えたら、全て合点が行ったわ。日記のことは彼らの息のかかった間者が盗んだんじゃないかしらと、当時はそう思っていたわ。


 そして後の一人であるエイルノンには何故か一度も出会っていなかったから、ますます私が転生した世界は、僕イベの世界ではないと確信できた。だって僕イベは、そのタイトル通り”僕のイベリス(初恋)をもう一度”だからね。攻略対象者の誰にも初恋をされていない時点で、あんたはゲームをする前からゲームオーバーだったのよ。ゲームオーバーだとわかっているのに、今更ヒロインぶって学院に行くのも馬鹿馬鹿しくて、あんたにヒロインとしての行動をしろなんて言う気にもならなくなった。これが私があんたを手助けしなかった理由よ」


 僕イベに熟知していた”お姫様”は、実際に学院に行ってみたら、ゲームではレンガに緑の蔦が絡んでいる校舎だったのに、現実では大理石みたいな白くて綺麗な校舎だったり、遠くに見える城が血が乾いたような、どす黒い気味の悪い城だったり、攻略対象者と思わしき4人はそれなりにイケメンだったが、ゲーム通りの顔立ちではなかったり、シーノン公爵が昔に事故で亡くなった時にミグシリアスも一緒に亡くなってしまったのか、学院にいたのは茶髪碧眼の中年の仮面の先生だったりしたことで、やはり僕イベの世界ではなかったのだと思ってしまった。


 リアージュは気づいていなかったが、入学式の次の日からリアージュの父であるヒィー男爵に連れられて社交に明け暮れていた時に、”お姫様”はさりげなく貴族達の話に耳をすませていたことにより、リアージュが僕イベの攻略対象者達と思い込んでいる4人の名前が違うことに気づいたし、さらには本物の攻略対象者達4人と思わしき同姓同名の4人はカロン王の逆鱗に触れて、12才の時に他国に追放されていたことにもたどり着いていたが、その頃には、もうリアージュは酒浸りになってしまっていたので本当のことを話しても、リアージュは直ぐに忘れてしまうため、面倒臭がりの”お姫様”は言うのを止めてしまった。


 {えっ?じゃ、結局ショコラケーキをくれたのは誰だったの?}


「決まっているじゃないの。諸悪の根源の金の神だったのよ。自分が楽しむためだけに、人の命を強制終了させたあいつが、現実の世界で僕イベを私にやらせようとして、私の前世の記憶を蘇らせたって7月に会った時に言ってたじゃない。それにあいつが見たがっていたのは逆ハーレムエンドだったからね。ショコラは昔、ハーレムを持つ王族にとっては滋養強壮薬だったから、それを送りつけて私に逆ハーレムを達成するようにと発破をかけただけだったのよ!


 それにあいつは私のことをゲームでセーブや保存をしないゲーマー(強者)だと思っていたから、取扱説明書(ネタバレ)みたいな日記の存在が気に入らなくて取り上げたのよ。ホントに紛らわしいったらないわよね。それならそうと先に言いに来ればいいものを……」


 ”お姫様”とリアージュは二人同時にため息をついた。

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