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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
最後の物語”隠された物語をもう一度”
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4人は、その乙女ゲームを作る②

※この物語はフィクションです。

「私にはどうしても病から救いたい人がいるんです。その人が病で亡くなることが運命だと決まっていたとしても、だからといって何もしないで黙って諦めるなんて私には……私達には出来ません!」


 セデスは熱っぽく語り、そこで一旦、言葉を切った。そして興奮のあまりに彼は、後に続く言葉を英雄達が一度も耳にしたことがない言葉で話しだした。


『神はイヴ様……アイ様が最初に祈った願いである”アイ様の母親であるユイ様の最期の時には、誰の邪魔も入ることなく、アイ様の父親であるチヒロ様とアイ様が傍について、ユイ様の最期を看取る”を約束してくれましたが、その約束を叶えるために過去を()()変えるので、ユイ様の死期も()()変わるかもしれないとおっしゃったのです。それに私達は希望を見出し、それを全力で変えるために、昔からアイ様とアイ様のご家族を遠くから見守り、警護すると共に、来たるべき年にユイ様が発症するだろう病気の治療法を求め、長年研究し、薬の開発や医療技術の向上に努めてまいりました。……だが、これではまだまだ不十分なのです。


 5年後にユイ様の病が発症する場所は、頭の中です。脳の奥に発症するソレを手術で取り除くには、もっと医学は進歩しなくてはならないし、有効となるかもしれない薬も一つでも多く作っておきたいのです。出来たら……あの薬草が、この世界にもあればいいのにとも思っていたのですが、あれはあなた達の作ったゲーム内でのお話に過ぎず、実在するはずはないと思っていましたから、端から期待などはしていなかったのです。


 でも、あのゲームに出てくるポーションの瓶に描かれている薬草の絵……。最初は見間違いかとも思いましたが、あの何とも言えないグロテスクな薬草なんて、見間違えようもありません。あれがこの世界で実在するわけがないのに、何故、あんなにも似た薬草の絵があなた達の作った別のゲームに描かれているのでしょうか……?何でもいい、どんな小さなことでもいいですから、あの薬草の絵を描いた経緯を……”神様のご褒美”と、私どもの前世の世界で呼ばれていた薬草に瓜二つの絵が存在する理由を私は知りたいのです!』


 英雄達にはセデスの言っている言葉が全くわからなかったが、彼が必死になって熱弁を奮っている様子から、セデスはその人を救いたいのだと強く思っていることだけはよくわかった。成美は首をすくめ、前世の世界の言葉で言ってもわかりませんよと、前世の言葉でセデスを宥めると、英雄達に向かってセデスの言葉を簡潔に伝えた。


「このゲームに出てくるポーションの瓶に描かれている絵ですが、男女の生殖器の内部の構造を模したかのような姿の薬草の絵が実にリアルに描かれていますよね。まるで本当に実在しているかのように細部まで細かくリアルに描かれている……。スクイレルさんは、このポーションの絵を描いた人、もしくはポーションのデザインをこれにしようと言い出した人を是非とも知りたいとおっしゃっているのです」


 成美はそう言った後、スクイレルさんは新種の薬草を見つけることを自身のライフワークとして定めているのだと言い、英雄達のゲームに出てきたポーションの絵柄になっている薬草が本当に実在するのなら、それを、この目で見てみたいと思って今回の会社訪問を望まれたのだとセデスの話の補足をした。





 セデスが来社したのは人を助ける薬草を求めてのことだったと知った英雄達は、人命に関わることならと、ポーションの誕生秘話を話すことにした。


「実は、このゲームを作った頃は不況で会社に金も人手もなかったので、私達は自分の大学時代にパソコン通信で知り合った友人達の何人かに協力を頼んだのです。確か、あのポーションの絵はハンドルネームで”マクサルト”と名乗る人物が描いてくれたのですが……」


 ”マクサルト”は金も人手もない英雄達を気の毒に思って、善意でポーションのデザインを考案し、無料で描いてくれたのだが、ゲームがリリースされ、ユーザー達にポーションのデザインが最悪だと大不評を浴びたことで、英雄達に申し訳ないことをしたと謝罪の言葉を最後に残した後、パソコン通信の世界から姿を消してしまい、それ以降、英雄達は連絡が取れていないのだと説明をした。


「謝らないといけないのは私達の方でしたのに、”マクサルト”は私達の前から完全に姿を消してしまい、今はどこでどうしているのか、私達にもわかりません。なのでポーションの絵の薬草が実在しているものなのかどうかについて、”マクサルト”に尋ねる手段はないのです。お役に立てなくて申し訳ありません」


 英雄達がそう言って謝ると、セデスはいいえ……と言って、英雄達に軽く頭を下げた。


「いいえ、そんなことはありません。”マクサルト”さんのことを教えてくれてありがとうございます。それだけ聞けたのなら十分です。今日はお忙しい中、時間を取っていただいて、本当にありがとうございました。それではそろそろ失礼させていただきます」


 セデスは礼の言葉を言った後に席を立ち、成美も席を立った。




 英雄達と別れの挨拶をし、応接室を出た成美に加呂が声を掛けた。


「成美さん、今日は帰りは遅くなる?晩御飯は用意しておいて大丈夫な感じかな?」


 加呂に声を掛けられた成美は嬉しそうに加呂の傍に行き、彼の手をキュッと握りながら言った。


「ありがとうね、月君。月君のご飯が食べたいところなんだけど、私は、この後、スクイレル氏の本業の依頼で、もう二、三社ゲーム会社と出版社をスクイレル氏と回る予定なの。交渉が上手く行けば、大体の話を粗方詰めておきたいから夕食はいらないわ。……ああ、そうだ、月君。今日は真が愛ちゃんの所でお稽古が終わったら、そのまま愛ちゃんのお家で晩御飯を食べてくる日だから、真のお迎えを頼んでもいいかしら?」


「うん、いいよ。成美さんも帰る時は連絡を入れてね。駅まで迎えに行くから」


「わぁ、ありがとう、月君!嬉しいわ!……あっ、すみません、スクイレルさん。業務中に私用な話をしてしまいまして……」


 加呂夫妻が仲良く話している様子を微笑ましげに見ていたセデスは、謝罪する成美に言った。


「いえ、構いませんよ、成美。お久しぶりでございますね、ルナーべ……コホン。初めましてミスター加呂。私はセデス・スクイレルと言います。どうぞよろしくお願いします。私はあなたの妻である成美に日本支社の顧問弁護士になってもらい、とても助かっています」


 セデスがそう言うと加呂は穏やかな笑みを浮かべて、セデスに挨拶を返した。


「初めまして、スクイレルさん。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。今日はここまで、何で来られたのですか?タクシーが入用でしたら、電話で呼びましょうか?」


「ご親切にありがとうございます。優しい夫がいて、成美は幸せ者ですね。ではお言葉に甘えてもよろしいですか?」


 セデスがそう言って加呂を褒めると、加呂は照れくさそうに頬を掻いた。


「スクイレルさんにそう言ってもらえて嬉しいのですが、僕の方が幸せ者なんですよ。成美さんは素敵で優しくて最高にカッコ良い人ですから。では僕、ちょっと電話をかけてきますので席を外れます。二人共少しお待ち下さい」


 加呂はそう言って、電話を掛けに行った。成美は目を細めて自分の夫の後ろ姿を眺めながら、セデスに言った。


「月君は、ああ言ってますが、月君の方が何倍も素敵で優しくて、最高に可愛い人なんですよ、セデス先生。あの人は前世()と少しも変わらない。……そう言えばセデス先……スクイレルさん。月君の会社には、今回の化粧品の話はしないのですか?」


 成美は言葉の後半部分をわざと大きな声で話しだした。セデスは急に大きな声で話しだした成美に目を大きくさせたが、彼女の意図に気づいたので、加呂が戻ってくる前にとやや急いだ口調で、こう答えた。


「残念ながら、ここの会社が作った、どの乙女ゲームにも、我社の化粧品に見合う、魅力的なゲームキャラクターは一人もいませんでした。ここの乙女ゲームは、どれも傲慢さやあざとさが鼻につく感じがしますし、真新しさもなくマンネリ気味なのが怠惰な印象を与えて、全体的に不快で、我社の化粧品とのコラボレーションなんて考えたくもないくらいに酷いものでした。


 ユーザーの欲求をある程度満たせればいいのだろうという造り手側の傲慢さが透けて見えるようなシナリオは、あってないような薄っぺらい内容でしたし、ユーザーを馬鹿にしているのではないかと思えるくらいにお約束すぎる属性のキャラクターをただ並べているのもあざといだけで可愛げが少しもありません。はっきり言って、この会社の乙女ゲームの良い所は絵師と声優が良い人材を起用しているという点だけで、先程のお嬢さんが持っていた乙女ゲームと比べたら、うさぎと亀……いえ、月とすっぽんです。


 ここの乙女ゲームは、どれも皆、心に訴えかけてくるような物語性がなく、全力で推したいと思わせるようなキャラクターも存在せず、ゲーム要素自体を楽しむための工夫もない。それに一番問題なのはゲームに対する作り手側の愛情が全く伝わってこないことです。ゲームをプレイする者を心底楽しませようという気持ちがないのが丸わかりでプレイしていて不愉快になりま……ああ、成美。彼が向こうで呼んでいますよ。きっとタクシーが来たのでしょう。では行きましょうか」


 成美とセデスがタクシーを待つ間に話していることを耳にしてしまった英雄達4人は、和やかに加呂夫妻と話しながら会社を退社していくセデスをギリギリと歯を鳴らし、憎々しげに睨めつけ……後ろを振り向かずとも気配でそれがわかるセデスは、ニッコリと笑みを深めて、英雄達の会社を退社していった。

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