4人は、その乙女ゲームを作る①
成美とシルクハットの男性は応接室から出ていった菜有の親子を……特に菜有の娘を怒りがこもった目で睨んでいる4人の男達を見てから、彼等に気付かれないようにお互いに目配せをし合う。今日のアポイントメントの目的は、菜有の娘……金の神の師であるという紅の神が、この日のために、どこかからスカウトしてきたという転生者が、あの一言を言うかどうかを見届けること……彼女が言えないときはサポートすることを二人は頼まれていた……だったのだが、彼女は絶妙なタイミングで、あの一言を言ってくれたので、二人は彼女に内心、感心しながら深く感謝をした。
(あんなにも自然にダメ出しが出来る演技力を備えているなんて……。前世の彼女が誰なのかは知りませんが、彼女は上級貴族並みに……いや、一国の王妃が出来る位にレベルの高い腹芸が出来る人だったのでしょうね。褒めるように見せて相手を貶めたり、庇うように見せて相手にさらなる打撃を与える言葉が言えるのは上級貴族ならではのお家芸みたいなものですからね。ほら、カロン、ナィール……いえ、成美、あれを見てみなさい。ほら、彼等の拳が怒りで震えている……)
(本当ですね、セデス先生。これで復讐ゲームが、この世界に無事にリリースされても僕イベは……)
(いえ、まだです、成美。あれだけでは、まだ足りない……)
成美とシルクハットの男性……セデスがヒソヒソと話していると、それに気づいた4人は慌てて、成美達に謝罪をして、応接室の椅子を勧めだした。
「あっ!お約束をしていたというのに、待たせてしまってすみませんでした。今直ぐに片付けてお茶を入れてきますので、こちらにおかけになってください」
「いえ、時間がもったいないので、お茶はいりません。実はですね、今日、こちらに成美につれてきてもらったのは個人的にお尋ねしたいことがありまして……」
「えっ?尋ねたいこと?仕事のお話ではなく?」
シルクハットを脱いだセデスは銀髪の髪を撫で付けながら、ニッコリと微笑み、セデス・スクイレルの横にいた成美が大きな茶封筒から、一つのゲームソフトを取り出し、彼等の座るテーブルの前にそれを置いたのを見て、英雄達は顔をひきつらせた。
英雄達はセデス・スクイレルと名乗る外国人のことを以前から知っていた。セデス・スクイレルは外国で医薬品の会社を経営している。彼の会社が作る薬は医療関係者に評判がとても良く、その業界では広く名前が知られていたが、一般向けには販売されることが今までなかったため、一般人には馴染みがなく、知名度もなかった。セデス・スクイレルが会社を立ち上げた理由は、まだ治療法が見つかっていない病気を治すためだったが、医薬品開発には莫大な資金が必要だった。そこで彼は医薬品開発の資金を得るために、新たに一般向けに化粧品を開発して売ることにした。
とは言え、彼の会社は多くの一般人には知られていないため、知名度が低い。そこで彼は多くの経営者が当然そうするであろうこと……知名度を上げるために自社の化粧品の宣伝をすることにしたのだが、その方法が変わっていた。セデス・スクイレルは、とある経済新聞のインタビューでこう語っている。
『……ええ、話題性です。兎にも角にも、まずは知名度を挙げないことには、私のような新参者は化粧品業界に名乗りを上げて参入しても、直ぐに淘汰されてしまいます。化粧は直接、肌に塗るものですから、ユーザーは何よりも安全性に注目します。だって多くの者は自らを美しく見せるために化粧をするのですから、その化粧品で肌を痛めたら元も子もないですからね。だから化粧品は老舗として、長く残っている化粧品会社の物が人気があるのです。母親が使っていて肌を痛めたことがないから、自分の娘や親戚に勧めるというのは昔からよくある話でしょう?
どれだけ良い物を作っても、手にとって実際に使ってもらわなければ、その良さはわからないというのに、私みたいな新参者は、過去の実績がないというだけで敬遠されて、手にとってもらうことすら出来ません。そこで私は、化粧品を売る宣伝に日本のゲームや漫画のキャラクターを起用することにしたのです。日本のゲームや漫画やアニメは、今や世界中で人気です。それらのグッズも実によく売れるということも、リサーチ済です。
それらの作品とのコラボ商品を企画し、世界中に売り出したら、きっと私の会社で作る化粧品は注目を浴び、少なくない数のユーザーの手にとってもらうことが出来ると考えたのです。手にとって実際に使ってもらえさえすれば、私の会社の化粧品の良さは絶対にわかるはずですからね。なにせ我が王が考案されたレシピ通りに……コホン失礼しました。なにせ私が最も信頼している優れた薬草医が考案した化粧品なのですから。
この作戦は実に上手くいきまして、世界中で大ヒットしましたので、今回の来日では、その第二弾としまして、若者向けの基礎化粧品を日本限定で販売しようと思いまして、そのイメージキャラクターのリサーチに来たのです。ええ、今回の化粧品も前回に引けを取らないくらいに実に優れた化粧品なのですよ。なにせ我が姫が考案されたレシピ通りに……コホン失礼しました。なにせ私が最も信頼している優れた薬草医と同等に腕の良い薬草医が考案した化粧品ですから……。彼女の作った化粧品に相応しいキャラクターを是非とも見つけたいと思っています』
英雄達4人は、この経済新聞のインタビュー記事を読んでいたので今朝、ゲーム制作会社の部下である加呂から、国際弁護士をしている自分の妻が担当している依頼人であるセデス・スクイレルが突然、英雄達に会いたいと言い出したので困っていると相談されたときは、もしかしたらスクイレル氏は自分達の会社のゲームキャラクターを求めているのではないかと期待したのだが……。
「は?このゲームに出てくるポーションの絵は誰が描いたか?……ですか?」
英雄達はテーブルに置かれたゲームソフトを見て、セデス・スクイレルの突然の訪問は、英雄達が作ったゲームキャラクターを自社の化粧品の宣伝に起用するというものではないと確信したのだが、まさかの訪問内容が過去に英雄達が作ったゲームに出てくるポーションの絵柄についての質問であったとは、全く思いもしなかったので4人は激しく戸惑い、困惑の表情を浮かべた。
何故なら、そのポーションは不況で会社に資金がない時に、4人が仕方なく敗北感を感じながら作ったエロゲーと呼ばれるゲームに出てくるポーションで、ユーザー達にポーションのデザインが最悪だと大不評を浴びた、英雄達にとっては黒歴史とも言えるものだったからである。
最後の物語の始まりは4年後の7月23日であり、目的は二人の女性とリアージュ……”お姫様”を出会わせないことであったが、紅の神は念には念を入れて、僕イベのファン情報サイトで起きた騒動の発端となった、僕イベのヒロインの声を担当していたアイドル声優の『僕イベには逆ハーレムエンドがある』という発言をないものにするため、彼女がアイドル声優になるルートのフラグを折ることを思いついた。
幸い、実に都合の良いことに、彼女はとある事情で、地獄の神によって異世界転生した二人の女性の魂を持つ者であったのだが、前世の記憶がなかったことで彼女は2つある心残りの一つである、”父親が悪人になるのを止められなかった”を果たせず、人生を強制終了させられて地獄に戻ることになり、彼女達の心残りを無くしたいと考えている地獄の神から、何とかして彼女達の心残りを無くして黄泉の世界に送ってやれる方法はないかという相談を持ちかけられた紅の神は彼女達の前世の正体を知り、これを利用することをにしたのだ。
他の転生者達とは違い、セデスとセデスの一族達11人は、紅の神との交渉で生まれた時から前世の記憶があり、そして前世のスキルがそのまま持ち越されてもいた。彼等は自分達の大切なイヴの願いを叶えるため……自分達の”王”を救う万全の大勢を整えるために、幼少時から各々が活動していた。そして5年前に彼等が愛してやまない姫が、運命の恋人と感動の出会いを済ませたのもバッチリ影から号泣しながら見守った彼等は、さらに気合が入って、前世同様に全力を出して活動してしまったため、来たるべき日まで後4年となった今、あらかたの準備は大半済ませてもいたのだが、セデスが、そのポーションの存在を知ったのは偶然だった。
セデスは地獄の神によって異世界転生させられていた女性が、自身の”アイドル声優”になる”フラグを折る手伝いをするようにと、紅の神に頼まれていた。そこでセデスは外国人の自分が前世のエイルノン達4人がいる、日本のゲーム制作会社に立ち入る理由が必要になった。なのでセデスは、自分で立ち上げた医薬品会社で新たに化粧品を作ることを思いつき、自社の化粧品のイメージキャラクターを日本のアニメやゲームのキャラクターにすることで、自然な形で日本との接点を持つことに成功し、おまけに莫大な利益も得ることが出来た。
そして満を持して、第二弾の宣伝として日本限定で若者向けの基礎化粧品を販売すると発表し、そのイメージキャラクターに若者が好むゲームキャラクターを探すという名目で来日し、本来の目的である彼等4人の会社を訪問するための理由となるゲームのキャラクターを選ぶつもりで4人が作ったゲームを一つ残らず検分していて……セデスはそれを見つけたのだ。




