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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
最後の物語”隠された物語をもう一度”
334/385

※イースターエッグの始動

 古今東西、ありとあらゆる世界の知性ある生き物は死んだ後、三途の川を渡り、一旦皆、地獄と呼ばれる世界に入り、地獄を管理している神の審判を受ける。前世で悪人だった者は、それぞれの罪に見合った罰を与えられて、地獄の最深部に落とされるが、大抵の者は前世で生きている間に罪を贖っているので、地獄の一番上層部にある、神様のお庭への……黄泉の世界への直行便の船に乗るための待合会場へと誘導され、船に乗るのを待つことになる。待合会場には様々な世界の死者達が順番を待っていて、前世への未練や心残りが消えた者から順番に船に乗れるようになっていた。


 そこで彼女達は出会い、親友となった。


「わたし、死んでから親友が出来るなんて思いませんでしたわ。私と友だちになってくれてありがとうございます」


 10代後半位の年頃の少女が、そう言って頭を下げると、30代位の年頃の女性が、とんでもないと慌てた様子で少女の頭をあげさせた。


「何をおっしゃっているの!お礼を言いたいのはワタシの方ですわ!こちらに初めて来た頃、右も左もわからないでいたワタシに、同じ世界の出身の者だからと色々と心を砕いてくれたのは、あなたですのに!」


 二人は生まれた国こそ違えども、同じ世界の出身の者で、死んだ年は違えども、二人とも生まれた年まで一緒だった。しかも……。


「やぁ、こんにちは。お二人さん。一体いつまで、この待合にいるつもりだい?二人共まだ、父親の悪事を止められなかった自分を許せないのかい?……あれは2人の神の物語による特別案件故、生前の君達が、どう足掻こうが防ぎようのないことだったのだと説明しただろう?君達の父親は悪人だったが、それは物語に巻き込まれたせいだったのだから、君達に罪はないんだ。こんなところにいつまでもいたら、魂は休まらない。早く神様のお庭に向かいなさい」


 ……そう、二人には共通する前世の心残りがあった。二人はそれぞれに違う国に生まれたのだが、自分達の父親が悪事を働いて、それぞれの国を危機に落としたのだ。二人は自分の父親の悪事に気がついていたが、それを止めることも他の者に助けを求めることも出来ず、結果的に見てみぬふりをしてしまったことを二人はとても悔いていた。


「そう言っていただけるのは嬉しいのですが、へディック国を危機的状況に陥らせてしまったのは、わたしが父を止められなかったことが原因ですし……。例えあの国の正妃としての期間が一年弱だったとは言え、わたしには国民を守る責務がございましたのに……。それに……わたしは二人の息子達に何もしてあげられなかったのが申し訳なくて……」


「ワタシも同じです。実の父がワタシのことを助けようと思って、義理の父である国王を殺し、3つの国を手中に入れようとする悪人を演じ続けていたのを、ワタシは我が身可愛さに気づかないふりを貫いてしまったのです。それなのに病になり自身の死を確信した際に、急に罪の意識に囚われ、後悔の念に苛まれたワタシはあろうことか何も知らなかった”英雄”の夫に、事のあらましを洗いざらい告白し、今際の際に実の父への言伝を押し付けてしまったのです。それにワタシは夫の待ち望んだ二人のために何もしてあげられなかったのが申し訳なくて……」


 地獄を管理する神は時折現れては、いつまでも待合にいる二人に神様のお庭に行くようにと優しく促してみたが、二人はいつもそう言って、自分達を責め続けて神様のお庭に行く船に乗れずにいたので、地獄の神は何とかならないかと思案した。そこで地獄の神は二人の魂を一つに融合させ、彼女達の心の憂いを取り除く試練……父親の暴挙を止める……を課せ、異世界に転生させたのだが彼女達……彼女は、その試練を乗り越えることが出来なかった。


 何故ならば、前世では共に貴族の令嬢として、抑圧された生活を送ることを強いられていた二人の魂を宿した彼女は、前世の記憶はなくても、その反動が出てしまったのか、自分の欲望に忠実すぎる人間に育ってしまったからだった。その結果、父親の暴挙を止めるどころか自ら父親に暴挙をさせてしまうという失態を彼女は犯してしまったので、地獄の神は慌てて彼女の人生を強制終了させて、二人の魂をまた地獄に戻した。二度目の人生で自ら父親に暴挙を起こさせてしまった彼女達は、自分達は悪しき存在なのだと嘆き、どうか自分達の魂を二度と転生などさせないようにしてくれと地獄の神に願い出た。


「いや、本来なら転生は、神様のお庭で十分に眠って疲れを取り除いた状態の魂であらねばならないのに、一度も眠っていない二人を一つに融合して、ただ転生させただけの自分が浅慮だったのだ。しかし、どうしたものか……」


 二人は二度目の生での罪を償って、また待合会場に戻ってきたが、まだ船に乗れずに……乗ろうとはしなかった。そうやって時が過ぎた頃、二人が一度目に生きていた世界で、最後の物語が終わったことを地獄の神は知った。最後の物語の舞台は10代後半の少女の生まれた国であり、最後の物語の”英雄”は30代の女性の夫の待ち望んだ者であったので、地獄の神はこれで二人の憂いが晴れるだろうと思い、大急ぎで二人のいる待合会場に行き、二人に”僕達のイベリスをもう一度”の3つの物語を全て見せてやった。すると二人は物語が終わるまで食い入るように見入った後、大きく安堵の息を吐いて、二人同時にこう言った。


「「()()()()がお幸せそうで本当に良かったですわ!……って、ええっ!?どうしてあなたはライト様を知っているのですか?」」


 二人はそこでお互いの人生を語り合って、お互いの正体を知った。10代後半の少女は初恋の人であるライトを助けるために自身の操を敵に捧げた侯爵令嬢だった。30代の女性は少女が命がけで逃したライトと結ばれた小国の姫だった。10代後半の少女は少女の初恋の人と結ばれた女性に対し、感謝の言葉を述べた。


「ライト様の傍にずっといてくれてありがとうございました!」


 自分の初恋の人と結ばれた女性に対し、少しの羨望の気持ちはあれど、生前の自分を取り巻く環境を鑑みれば、どう動いた所で自分はライトとは結ばれることはなかったとわかっている少女は、女性に嫉妬する感情よりも国を出て、孤独だったライトの傍にいてくれた女性に深い感謝の念を抱いた。


「そういう風に言ってもらえて嬉しいです。ライト様の命を助けてくれて、本当にありがとうございました!」


 少女の献身がなければ、ライトの命はなかったと知り、女性は少女に深く深く感謝を捧げた。お礼を言い合う二人を()()()()地獄の神は、ようやく二人の本当の心残りが何であるかを理解した。


(ああ、そうだったのか。二人共、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()となって、船に乗れなかったんだな)


 何十年も経ち、全ての物語が終わった今、二人のそれぞれの父の悪事を止められなかった悔恨の気持ちは解消されていた。地獄の神に()()()()()ことで、ようやく大いなる神の意志によるものだったのだと実感することが出来たからだ。少女の他の心残りと言えば、二人の息子に対するものだったが、それだって産後の肥立ちが悪かったのだから、少女自身の努力ではどうすることも出来ないものであったことも少女はとうの昔に悟っていたのだから、彼女が地獄の待合に居続ける理由は既に無くなっていた。


 女性の他の心残りもまた、自分の夫が待ち望んだ”英雄のご褒美”に対する歓待を死病にかかった自分では行うことが出来ないと、死に際に夫やわが子達に、それを託していたのだから、地獄の待合に居続ける必要のない心残りであった。だというのに、二人はいつまでも船に乗れない……乗らないのは、彼女達自身でさえ気がついていなかった本当の心残りがあったからに他ならなかった。二人を視た地獄の神は、理由が理由なだけに、どうしたものだろうかと思案した。


 それは恋に殉じた少女の密かな願いであった。へディック国に生まれた少女は侯爵令嬢として生まれ、ナロン王子の許嫁であったから、彼女は初恋の相手であるライトに初恋の気持ちを打ち明けることをしなかった。でも本当は……。打ち明けたかったのだ。振られても構わない。あなたが好きだと一度で良いから言いたかったのだ。二度と会えなくなる初恋の人に自分の気持だけでも知ってほしかった……あなたに恋した娘がいたということを覚えていてほしかったと少女は心の奥深くで叶わない……叶えるつもりのない願いを抱き続けていたのだ。


 それは恋を信じてもらえなかった女性の後悔であった。小国に生まれた女性は姫として生まれ、自分と小国を守る責務があったから、それらを守り切ることが出来るライトを物理的にも精神的にも逃さないように画策し、夫に……王に据えたのだが、その行動により、肝心のライトに自分は初恋をしていたのだという事実を最後まで信じてもらえなかった。でも本当は……。ライトに信じてもらいたかったのだ。国や国民なんて関係ない。あなたを好きになったから、ずっと傍にいたいと思った気持ちを愛する夫に信じてもらいたかったのだ。


 二人の本当の心残りに気づけずに、間違った転生をさせてしまったと悔やむ地獄の神に、朗報をもたらしたのは、紅の先生と呼ばれる高位の神だった。紅の先生は地獄の神の失敗を償う秘策を授けてくれた。それは”隠された物語をもう一度”をハッピーエンドで終わらせるための下地となる()()()()()()()()を地獄の神が強制終了させた彼女達に、”隠された物語をもう一度”が始まる前に生きさせる(演じさせる)というものであった。


 彼女達は強制終了させた二度目の生を生き直すことに難色を示したが、それが彼女達の初恋の人のためになると知るや、彼女達は進んで生き直すことを望み、地獄の神に自分達の役割を聞くと、今度こそやり遂げてみせると勇んで、再び二度目の人生を生き直すために二度目の人生を歩んでいた世界へと還っていった。そのイースターエッグの名が、”名前なき彼女達のイベリスをもう一度”と言うことを知らないままに……。

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