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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
最後の物語”隠された物語をもう一度”
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最後の物語のオープニングイベント③

 私は、20分ほど前に立ち寄ったファストフードのお店の中に入った。


「「「いらっしゃいませー!」」」


 一歩、お店に入った瞬間に店員達から挨拶され、私はバツが悪い気持ちとなって顔を背けてしまったが、既に沢山並んでいる客達の対応をしなければならなかった店員達は、直ぐに私から視線を外して、それぞれの仕事に戻ったので、私はフウッと短く息を吐いてから、そのまま店の奥の座席の方へと歩いていった。


(あの後、興奮が覚めなかった私は気持ちを落ち着かせるのと喉の乾きを潤したくて、このお店に寄ったんだ……)


 店内に入った私は、香ばしいポテトの香りやハンバーガーの匂いの誘惑に負けそうになりながらも、お母さんの作る夕食があるからとグッと堪え、Sサイズの烏龍茶だけを購入し、店の窓際のカウンターの席に座った。そこで紙コップにストローを挿し、一口飲んだ後、フゥ〜と大きく息をついた後、私は携帯電話を取り出して、先程撮った写真の画像を開いて見つめた。


(アマジ、大きくなってたなぁ……。元気になった姿が見られて本当に良かった)


 10年前、私は当時幼稚園に通っている5才の子どもだった。ある日のこと、幼稚園で皆とお遊戯をしていたら、突然私の顔に赤い発疹が出だしたのだ。10年経った今なら、それは蕁麻疹だってわかるけれど、幼稚園児にそんなことがわかるわけもなく、一緒にお遊戯をしていた皆は、急に顔に水玉模様が出てきた私を見て、一斉に驚き、ギャー!と叫び声を上げて私から離れ、逃げたり、泣き出したのだ。


 今まで機嫌よく踊っていたのに、急に皆が私の顔を指差して、泣いたり逃げたりするものだから、私は何が何だかわからずに、皆が急に私から離れていったことが悲しくて、幼稚園の先生から連絡を受けたお父さんがお迎えに来るまでわんわん泣き、病院の待合室に備え付けられていた姿見の鏡を見て、初めて自分の顔や手足に赤い発疹が広がっていることを知り、今度はそれが怖くて、さらに大声で泣いてしまった。


 かかりつけのお医者さんの話では、多分一ヶ月前にかかった風邪の菌が原因で、それが体に影響を及ぼして一ヶ月後に蕁麻疹が出たの()()()()()()とのことだった。何故、お医者さんが、かもしれないと言ったかと言うと、蕁麻疹の多くはハッキリとした原因がわからないことが多いらしく、また一ヶ月前の風邪が原因で首が痛くなるという子の症例もあったので、他に原因らしきものが見当たらないこともあり、そうではないだろうかと見立てたらしい。


 結局私は、その後、大きな病院に転院し、蕁麻疹が引くまで5日間入院し、その三日後に幼稚園に復帰したが、幼稚園の皆の前で水玉模様になった私は、意地の悪い子達に「水玉」と誂われて虐められ、不登園児になってしまった。アマジは私が不登園児だった時に見ていたドラマに出てくる脇役だった。主人公の子ども時代の親友という役で、小さい頃、学校のクラスメイトに虐められていた主人公を唯一庇ってくれる優しい子どもだったので、幼稚園のお友達に虐められていた私は、こんな友達が欲しいと思って、アマジを好きになったのだ。




 その当時を思い出していた私は、ふと体に……下半身に……下着に、ある不快感を感じた。


(そうだ、あの時、私は……)


 私は今も痛む下腹部に手をやった。私は中学3年生にもなって、まだアレに……生理になっていなかった。中学3年生にもなって、生理になっていないのはクラスで私だけだったので、ひょっとしたら私は男の子なのではないだろうかと真剣に悩んで、何度もお母さんに相談をしていた。お母さんは個々の成長には個人差があるから中学3年生で生理になっていなくても心配はいらないと言ってくれ、いつ生理が来ても良いようにと、生理用品と鎮痛剤を入れたポーチを持たせてくれたが、私の不安は尽きず、中学を卒業しても生理が来ないときはお医者さんに診てもらって、本当に男の子だったときは、私は男としての人生をしっかり歩もうと密かに決意をしていたのだけど……。


 幼稚園の頃や胃腸炎にかかったのなら、ともかく、大きくなってからは、お漏らしなんてしたことがない私は、未だ感じたことのない不快感を感じて眉間に皺を寄せ……不快感を感じている場所が場所なだけに大きく動揺し、粗相をしたわけでもないのに、そこが濡れる他の原因に思考を巡らせ……一気に焦ってしまった。


(もしかして生……理?今、生理になったの、私!?うわっ!大変だ!下着が血で汚れたんだ!早く手当をしないと制服のスカートまで汚れちゃう!)


 焦った私は携帯電話を慌ててスポーツバッグに入れ、席を立ち、急いでトイレに向かおうとして振り向きざまに、お母さんと同じ年位のおばさんにぶつかってしまっ……。


「あれ?おばさん?お婆さんだったかしら?……いや、違う。()()()()()()()()()()()()()()()()


 考えていたことがつい言葉になって、口をついてしまったので、私は慌てて口を閉じた。


(あれ?どうして私は、おばさんとぶつかったと思いこんでいたのだろう?ぶつかったのは()()()()()()()()だったのに……。ああ、相当焦っているんだわ、私。落ち着け。ぶつかった後のことを思い出すのよ……)


 気を取り直して思い出す。私はトイレに向かおうとして、お父さんよりも少し年が上だろうと思われる銀髪っぽい白髪の外国人のおじさんとぶつかり、持っていたスポーツバッグの中身を盛大に床にぶちまけて、転んでしまった。おじさんは倒れはしなかったけれど、明らかに私が周囲に気を配らずに急に席を立ったことがぶつかった原因だったので、私は転んだ状態のまま謝った。


「すっ、すみませんでした!」


 床に座った状態で謝った私はおじさんが怪我をしていないかを見ようとして、上を見上げ、またおばさんの幻を見てしまった。そこにいるのは外国人のおじさんのはずなのに、一瞬ピンク色のワンピースを着たおばさんの姿が見え、ドスの利いた声で思いっきり罵られているような幻聴まで聞こえてきた。


『どこ見て歩いてんのよ、このガキが!ちょっと自分が若くて可愛いからって調子に乗ってんじゃないわよ!慰謝料払いなさいよ!訴えるわよ!』


 私は今まで生きてきた中で知らない大人の人に怒鳴られたことや罵られたことが一度もなかったから、幻とは言え、おばさんに鬼のような表情で睨まれて罵られたことが、すごく怖くなってしまって、ギュッと目を瞑ってしまった。


「大丈夫ですか?」


 目を瞑っていると優しげな男性の声が聞こえてきたので、おそるおそる目を開けると、さっきの幻のおばさんは、どこにもいなくて、代わりにいたのは、まるで青空みたいな瞳で覗き込んで私を心配している外国人のおじさんだった。


(何だったんだろう、今のおばさんは?幻だよね?私、疲れているのかな?)


 おじさんは流暢な日本語を話していたにも関わらず、初めて生理になったことや、幻のおばさんを見たことや、人に迷惑をかけてしまったことにすっかり気が動転してしまった私は、怪しい英語の混じった言葉で答えた。


「オッケー、オッケー!えっとぶつかってごめんなさい!アタックソーリーで合ってるかな?どこか怪我してませんか?えっと、アーユーオッケー?」


「私は怪我をしていませんから、お気になさらず。でもあなたの物が散らばってしまいました……」


 そう言っておじさんは床に目をやって、おじさんの傍に転がった生理用品の入ったポーチを拾おうとしたので、私は慌ててポーチを奪い取った。


「わわっ!すみません!大丈夫ですから!自分で拾いますから!」


 私はスポーツバッグの中身が散らばったことが無性に恥ずかしくなり、きちんとスポーツバッグのファスナーを閉めていなかった自分を悔いながら、慌てて散らばった物を拾い集め、スポーツバッグに突っ込むと中身を確認しないまま立ち上がって、おじさんに深く頭を下げた後、トイレに駆け込んだ。トイレに入り、確認すると私の予想通りに私は生理になっていたので、ポーチの生理用品を下着につけて、何とか血がスカートに付くことだけは回避出来たと安堵した。


 私は外出先で生理になるなんて、ついてなかったなと思いながらトイレから出たのだけど、おじさんがさっきの場所で物問いたげに私に話しかけようとする感じがしたので、私はさっきの失敗のことや、謝罪もそこそこにトイレに駆け込んだことが恥ずかしくなり、いたたまれなくなって、おじさんに気が付かないふりを装いながら、小走りでお店を出て、その勢いのまま、駅まで一直線に小走りで来てしまったのだ。


(きっと、あの時、荷物が散らばった時に携帯電話を回収しそこなったんだ。探さなきゃ)


 私は店内で食べている人達に断りの言葉を入れながら、店内の床を見て回ったのだけど、結局携帯電話は見つからず、念の為、トイレの中も探したけど見つからず……当然、外国人のおじさんもいなくなっていて途方にくれてしまった。

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