表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
最後の物語”隠された物語をもう一度”
328/385

最後の物語のオープニングイベント②

 来た道を戻っていた私は駅に向かう人達の合間をすり抜けながら、必死になって地面をあちこち見て探した。歩道には携帯電話どころかタバコの吸殻一つ、落ちていない。


(どうしよう、どうしよう、どうしよう!私、どこで無くしてしまったの?……あっ、イタタタッ。お腹痛い……落ち着け、私。どこで無くしたか、もう一度朝からのことを思い出してみよう)


 私は自分のお腹に差し込んできた痛みに顔をしかめる。お腹に手を当て、携帯電話を探す私は、今朝からの行動を振り返った。


(えっと……、今日は模試があるから6時に起きたでしょ?それで朝ご飯を食べて……納豆ご飯、美味しかったなぁ。やっぱり納豆にはネギが一番合うよね……って、そんなことを考えている場合じゃない!えっと、ご飯食べてから歯を磨いて……うん、ここで持ち物の確認をしたわ!そのときにはちゃんと携帯電話を持っていた!)


 朝には携帯電話を持っていたと確信した私は、更に記憶を辿っていく。


(今日の模試の会場は、少し遠くにある高校だったから地下鉄に乗って行って……駅についたら沢山、コスプレをした人がいたから驚いたんだったわ!)


 地下鉄の駅を出て地上に出た時、目の前を歩く人の多くが仮装をしていたので私は一瞬、自分は異世界に来たのかと驚いた。落ち着いて見てみれば、仮装をした人達は皆、『ゲームショウ会場は、こちら』と書かれたポスターが示す方角に歩いていたので、私はその仮装がゲームのキャラクターのコスプレであるのだとわかり、異世界に来たのではないとわかり、少しホッとした。


(そう言えばお兄ちゃんが私の模試が行われる高校がある町でゲームショウもあると言って、羨ましがっていたっけ)


 私のお兄ちゃんは小さな頃からサッカーとアニメとゲームが好きだった。バイトさえなければ、ゲームショウに行くのにと昨夜の夕飯時にブツブツ言っていたことを思い出し、私も受験生でさえなかったら、ゲームショウに行きたいとお父さんに強請ったのになと、内心ため息をついた。とは言っても私のお目当てはゲームではなく、ゲームのキャラクターの声を担当している、ある女性声優だった。


 ゲームショウの中で行われるイベントで、その女性声優が来るとお兄ちゃんから聞かされていた私は、模試のある高校とは違う方向に歩いていくコスプレをした人達を暫し、羨ましげに見ていたが、そう言えば私は今から模試を受けるんだったと我に返り、慌ててスポーツバッグから携帯電話を取り出して時間を確認した。


(模試を受ける前には携帯電話はスポーツバッグに入っていた)


 高校の正門に辿り着き、模試の間に携帯電話が鳴ってはいけないからと電源を切り、その数時間後、模試が終わり、高校を出る時に携帯電話の電源を入れながら、試験の結果はわからないが、やれることは全てやったと達成感に浸りながら駅までの道を歩いた私は、ふと寄り道をしてみようと思い立ったことを思い出した。


(そうそう、あの時ゲームショウの会場だけでも見たいと思ったんだ……)


 私が応援している女性声優が来ていた場所を外からでも見てみたいと思うのは、小説や漫画やアニメやドラマに出てくる地に出向く()()()()みたいなものかなと思いつつ、私の足は見えない磁石で引きつけられて行くようにゲームショウの会場へと向けられていって、その途中で、まるで夢のようなことが起きたのだ。


(そうだった。ゲームショウの会場に向かう途中で、私会っちゃったんだわ!)


 ゲームショウは午後5時に終了とあって、ゲームショウの会場のある方向から駅に向かって歩いてくる多くの人達とぶつからないように気をつけて歩いていたにも係らず、私はコスプレをしている大人達の集団の一人とぶつかってしまったのだ。


「ご、ごめんなさい!」


 私が頭をペコリと大きく下げると、私とぶつかった男性は美しい低音の声で謝ってきた。


『いや、僕こそ、ごめんね。こっちが広がって歩いていたのが行けなかったんだ。大人なのにマナーが悪かった。怪我はないかい?』


 その声を聞いて私は大層驚いた。お兄ちゃんが録画していたゲーム紹介番組で、その特徴のある低い声を聞いたことがあったからだ。


「え?ベルベッサー?……って、あれ?デパケンの恰好なのに声がベルベッサーだ……」


 目の前にいるのはお兄ちゃんの好きな格闘ゲームのキャラクターのコスプレをしている人なのだが、声は私の好きな女性声優がゲームキャラクターに起用されているゲームの他の登場人物の声にそっくりだったので、私は不思議に思った気持ちをそのまま喋ってしまった。すると私とぶつかった男性は私にこう頼み事をしてきた。


『わぁ!バレちゃった!ごめん、騒ぎになると思うから他の人達には内緒にしてて!』


 私が目をパチクリさせていると、男性の周りにいた人達が次々と男性に話しかけてきたのだが、皆が皆、聞いたことがある声だったので、私はびっくりしっぱなしだった。


『もうベルベッサーさんったら、気をつけないと駄目じゃないですか。また、あの女が現れたらどうするんです?』


『すみません、エイルノンさん』


『そうですよ、ベルベッサーさん。昨日も所属事務所まで押しかけて来てたんでしょ、あの女。どこかの金持ちか何かなんでしょうけど、毎日毎日付きまとわれて困っているというから、英雄(ひでお)さんやアーサーさん達が気を聞かせて、我々のふりをして裏口から出て、あの女を引き止める作戦を立ててくれたというのに、自分からバラしてどうするんですか!折角皆でコスプレイヤーのふりをして、あの女を巻く作戦を実行したのに、これじゃ意味ないじゃないですか!』


『ううっ、ごめんなさい、トリプソンさん。反省します……』


 どうやらここに集まっている人達は声優で、ベルベッサーの声優をやっている男性にまとわりついているというストーカーを巻くためにコスプレをしていたらしいと彼等の会話を聞いて私は察したが、王子様の格好をした人が彼等を取りなすように話しだした声を聞いて、腰を抜かしそうになった。


『皆さん、ここで立ち止まっていたら、交通の妨げになりますし、道の端に行きませんか?ほら、この子が目を丸くさせて驚いていますし……』


「ええっ!?アマジさん?」


『え、アマジ?……うわぁ、子役時代の役名で呼ばれたのなんて初めてです。そうです、私はアマジです。始めまして。今日はエルゴールとしてイベントに来ていたんですが、あなたは学校からの帰りですか?』


 憧れていた女性声優が目の前にいて、微笑みかけてくれていることに驚きすぎて、口をパクパクさせていた私を連れて、道の端に移動した彼等は、私が察した通り、男性声優にまとわりつく悪質なストーカーを巻くためにコスプレをしていたのだと話してくれた。


 私は夢でも見ているのかと思いながらも、私はエルゴールの声を担当している女性声優が子役としてドラマに出ていたときに彼女のファンになったことを話した。そのドラマに出た後、彼女が病気となり、芸能活動をお休みするとお母さんに教えてもらったときは大いに泣いたことや、つい最近、お兄ちゃんの録画しているゲーム番組を一緒に見ていて、彼女が10年もの闘病生活を過ごしてから声優として復帰していたことを知ったことを話した。


「体が治って本当に良かったですね!おめでとうございます!それと復帰してくれて、ありがとうございます!」


 私がそう話すと、彼女はそう言ってもらえて、すごく嬉しいと穏やかに微笑んでくれた。彼女の笑顔を見て、すっかり嬉しくなってしまった私は、今日は模擬試験だったと話し、ゲームショウの建物だけでも見たいと思い、帰りに寄ってみたと話し、ゲームが買える年齢になったら僕イベを買ってゲームをします!……と興奮気味にまくし立ててしまった。


 すると女性声優も私とぶつかった男性声優も他の声優達も優しげな声で私に、応援ありがとう!僕達も皆、君が無事に高校受験を合格できるように祈っているから頑張ってね!僕イベで君と再会するのをずっと待っているからね!……と暖かく励ましてくれた。


 彼等との別れ際、私は図々しいお願いだとは自覚しつつも、握手と写真を一緒に取ってほしいと伝えた所、彼等は笑いながら握手をしてくれて、私が持っていた携帯電話での写真撮影にも快く応じてくれて、皆で一緒に写真を撮ってくれたのだ。


 (皆、本当に優しくて素敵な人達だった。そういや、あの人達はあの後ストーカーに出会わずに無事に帰れたのだろうか?……っとと、私は無くした携帯電話を見つけないといけないんだから、そんなこと心配している場合じゃなかった!)


 一日の行動を振り返った私は、午後5時までは携帯電話は手元にあったんだと再確認出来たので、一番落とした可能性のある場所に向かうことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ