最後の物語のオープニングイベント①
※リアージュ……”お姫様”が僕イベのイベントに行かず、二人の女性と出会わなかったルートのお話になります。
【注】ーーーに囲まれている文章は、”隠された物語をもう一度”の注意書きです。注意書きを読んでから物語を視て下さい。
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※これから始まるのは金の神の”英雄”の”英雄のご褒美”を叶えるための物語です。
※金の神の”英雄”の前世の世界を創造した神との約束により、この物語は前世の世界に生きている金の神の”英雄”であるイヴやミグシス達……愛や真は勿論の事、千尋や唯や雷斗達、そしてリアージュこと”お姫様”も含めた前世の世界の人間達には”物語”のことを知られてはなりませんので、この世界の人間達には、けして気付かれないように皆様のご協力をお願いいたします。
※金の神とその家族達や、三兄弟の師である紅の神は、”英雄”の本当の願いを”英雄”の前世の世界で叶えるために、寿命を終えて黄泉の世界で眠っていた、父神の創造した世界に生まれた前世のない魂達に協力を請い、物語をハッピーエンドで終わらせるための脇役として前世の世界に異世界転生させていますが、彼等は”名前なき脇役”ですので、誰が誰に転生したかについての詳しい説明は省略させていただきます。
※”英雄”のために物語の脇役になることを自ら望んだ転生者達は、この物語を前世の世界の人間達に気付かれないように巧妙に隠しつつ、”英雄”の本当の願いを叶えるために各々が全力で準備をしてしまいましたので、一度目の世界と若干異なる歴史を辿った世界となっておりますことをご了承の上、物語を御覧ください。
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(ああっ、どうしよう!?携帯電話が無い!さっきまではあったはずなのに、どこにもない!私、どこに落としちゃったんだろう!?)
駅前まで来て家に帰るとお母さんに連絡を入れようと思って、通学カバンに使っているスポーツバッグに手を突っ込んだ私は、スポーツバッグに入れていたはずの携帯電話が無いことに気づいた。焦った私は歩道を往来する人達の邪魔にならないように道の端に寄り、お行儀が悪いとは知りつつも、そうも言っていられない事態に陥ったので、人目もはばからずにそこでしゃがみこんでスポーツバッグの中をガサゴソとかき回してみることにした。
筆記用具にお財布、今日の模試の問題用紙、空っぽのお弁当箱に同じく空っぽの水筒、半分減ったティッシュに少し濡れたハンカチ、生理用品と鎮痛剤を入れているポーチに、お父さんにもらった交通安全のお守りに、お母さんにもらった合格祈願のお守りに、お兄ちゃんがくれた縁結びのお守り……は、あるけれど、やっぱり携帯電話がないことを思い知って、私はガックリと肩を落とした。
(ううっ、お兄ちゃんのバカ……。そりゃ私は、まだ初恋をしたことはないけど、今は恋よりも受験が大事だもん!縁結びなんかよりも無くし物が見つかるお守りをくれたら良かったのに!)
お兄ちゃんは私が中3にもなって、まだ初恋をしたことがないのを知っていて、毎年縁結びのお守りを渡してきては、今年こそ初恋出来るといいなと真面目な顔で心配してくる。心配してくれる気持ちは嬉しいけど、はっきり言って、そんなのは余計なお世話だし、正直鬱陶しい。とは言え、お守りに罪はないので、私は3つのお守りを丁寧に直した後、目の前の歩道に目をやった。夏の日の夕方は、まだ日が高く、暑さも多少は和らいでいるが暑いことには変わりはない。往来を歩く人達の多くはゲームショウからの帰りと思われる人達と模試帰りの中学生達だった。
(こんなに人がいたんじゃ、どこに落としたのかわからない。どうしよう、買ってもらったばかりの携帯電話を無くしちゃうなんて。きっとお父さん達に怒られちゃう……)
私がお母さんに携帯電話を買ってもらったのは、一昨日の7月21日のことだった。お父さんやお母さんやお兄ちゃんは以前から携帯電話を持っていたのだけど、私はまだ子どもだし、携帯電話は危ないからと言われて買ってもらえていなかった。中学校のクラスの子達の半分位は携帯電話を持っているし、家族の皆も持っているのに、どうして私だけ買ってくれないの?と沢山お強請りしてみたり、拗ねてみたりしたけど、まだ早いの一点張りだった。
でも今年受験生になった私は、希望する高校に合格するには、学校の勉強だけじゃ不安だからと塾に行くようになり、家に帰るのが遅くなる日が増え、それを心配したお母さんが、ついに携帯電話を私に買い与える気になったらしいのだ。お母さんは渋々と言った表情で、小言めいた注意をしながら私に携帯電話をくれた。
「言っておくけど、これは遊びで使わせるために買ったんじゃないんですからね。塾のお迎えの連絡のための物なんですから、これでお友達とチャットし過ぎたり、ゲームばかりしてはいけませんよ」
一昨日、終業式から帰った私にお母さんがそう言って渡してくれた携帯電話を見て、へぇ〜、友達とチャットっていうのが出来たり、ゲームまで出来る携帯電話なんてあるんだ。随分最新機器の携帯電話を買ってくれたんだな……と私は密かに驚きながら携帯電話を色々触ってみた。クラスの子達が持っている携帯電話は、お母さんのファンデーションが入っているコンパクトみたいに、パカッと開いて使う形の携帯電話だったのに、私のは小さな長方形の板みたいな形の携帯電話だった。
お父さんが私の携帯電話の設定をしてくれていたらしく、その日の夜に仕事から帰ってきたお父さんが夕食後に、私に携帯電話の使い方を教えてくれた。お父さんは、私の携帯電話は高価なだけあって、電話以外の使い方も沢山出来るのだと教えてくれた。一例としてはカメラにもなったり、ゲーム機にもなったりする優れ物で、しかもお父さんが仕事で使っているパソコンと同じようにインターネットにまでつながる、ものすごく高性能な代物らしく、お父さんは私に説明している間、ずっと怖い顔だった。
「いいかい、よくお聞き。これはね、お前がどこにいるか、お父さん達に直ぐに知らせてくれるお守り代わりになる、ありがたい物だから、家の外に出るときはいつも持って出かけなさい。それとね、これはとても便利な物だけど、同時にとても怖い物でもあるんだ。どう怖いものなのかは模試が終わってから説明してあげるけれど、とにかく絶対に他人に貸したり、どこかに忘れてはいけないよ。もし無くしてしまったときは、直ぐにお父さん達に知らせなさい」
お母さんもお父さんも怖い顔で揃ってそう言うものだから、私は何だか怖くなって、どうして普通のパカッと開く携帯電話を買ってくれなかったのかと尋ねると、二人は電子情報工学の大学に通うお兄ちゃんがこれを買えと強く勧めたからだと言ったので、バイト帰りのお兄ちゃんに文句を言うと、お兄ちゃんは電子レンジで、おかずを温めながら、こう言った。
「ああ、それはその最新の携帯電話にはGPS機能がついているからだよ。それにもう直ぐにそっちの携帯電話が主流になる時代が来るらしいしな。電話だけじゃなく、ゲームもカメラもテレビも金銭の支払いさえも、それに取って代わられる時代が来るから、それを持てと金の……っとと、お前は昔から抜けている所があるから、迷子になった時に探せる機能がついている方がいいかと思ったんだよ」
「う〜!そんなことないもん、お兄ちゃんの意地悪!」
(あの時は随分、お兄ちゃんを怒っちゃったけど……お兄ちゃんの言う通りだった。私、抜けてるどころか、大間抜けだった……)
買ってもらったばかりの携帯電話を無くしてしまうなんて、きっとお父さんもお母さんも、すごく怒るに違いない。私は目に涙が浮かんできたので手でゴシゴシと拭った。
(でも、あの時までは携帯電話はあったんだもん。無くしたのは、あの後、立ち寄ったどこかの場所に違いない。……そうだ、あの時までは携帯電話はあったんだ!……探そう。折角買ってもらった携帯電話だし、それにあれには、あの人達と一緒に撮った写真が入っているもの!探さなきゃ!見つかるまで家に帰れない!)
……そう、私はあの時、憧れの声優達と出会って、一緒に写真を撮ってもらったのだ。無くしたのは、その後。私は地面のあちこちに目をやり、携帯電話が落ちていないか探しながら、今来たばかりの道を引き返した。




