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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
最後の物語”隠された物語をもう一度”
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ピュアの不眠と物語の白いリボン(後編)

イヴとミグシスのいちゃラブっぷりを見せつけられた後、ピュアがイヴに見せられたものは白いリボンだった。ピュアは首をかしげながら言った。


「これ……イヴさんが入学式につけていたハチマキですか?」


イヴは駄犬化した……溺愛がすぎる自分の夫に一頻りお説教をした後、椅子に下ろしてもらってから、ピュアに違うと言った。


「ピュアさん。7月にバーケック国に行ったときに皆で遊んで演じた、7月の”劇遊び”を覚えていますか?劇の冒頭で主人公は、母親の形見の白いリボンを風に飛ばされてしまって追いかけていたら、王子様達にリボンを拾われていましたよね。これはあの時のリボンなんです」


イヴはあの時、役者のカロンにリボンを返そうとしたのだが、カロンはいつの間にかいなくなっていて、返しそこなっていた。後日、自分の父やスクイレルから役者のカロンの正体を教えてもらった時に、イヴは父にリボンを預けてリボンを返してもらおうとしたのだが、新しい国造りにリボン(物語)は必要ないから、イヴが記念にもらっておきなさいと皆に言われて、手元にずっと置いていた。イヴはピュアの左手首にリボンを巻き、蝶結びにしながら言った。


「ピュアさんは何か大事な物を無くしてしまう夢を見て、不安な気持ちになってしまい、不眠になってしまったんですよね?ならば、このリボンをお守り代わりに持っていたら、どうでしょうか?これは物語の主人公のリボンですから、これをつけたピュアさんも物語の主人公のように、夢の中のピュアさんの大事な物も見つかるに違いないと私は思うんです。きっと今度は助けてくれる人が夢に現れるはずですよ!」


ピュアはイヴの気遣いの気持ちを嬉しく思いつつ、躊躇いを見せた。


「でも、このリボンはイヴさんが記念にもらったリボンですのに……」


イヴは躊躇うピュアに、にっこり笑いかけるとスカートのポケットから、もう一つの白いリボン……白いハチマキを取り出してみせた。


「私には、これがありますから、それはピュアさんに差し上げます。これは私が入学式の日につけていた白いハチマキなんですよ。これはね、ミグシスが昔、王都に行っていた頃に私のために買い求めてくれた布で、スクイレルの皆がひと針ずつ縫ってくれた家族からの贈り物で、私のお守り兼宝物なんです!で、これをこうして、こうすれば……ジャジャーン!ほら、ピュアさんとお揃いになりました!もし、夢の中で物語の王子様達がピュアさんを助けに来てくれないときは、私がピュアさんを助けに行きますからね!」


片手だけで結ばれたイヴの左手首のハチマキは不格好な結び方になっていたので、ピュアはクスッと笑って、イヴの左手首に巻かれたハチマキを蝶結びに結び直しながら言った。


「ありがとう、イヴさん!とても嬉しいわ!私はイヴさんみたいな親友を持てて、とても幸せよ!……そうね、私にはジェレミーだけじゃなくて、イヴさんがいるわ!平民クラスのお友達も大勢いて、皆が一緒にいてくれる!何も心配しなくてもいいのよね!不安なことや困ったことがあったら、皆に相談をすればいいんだわ!本当にありがとう!今度こそ私は夢の中でも無くしものを見つけてみせるし、見つからなくても大声を上げて、助けを呼ぶわ!」


「その意気ですよ、ピュアさん!私はピュアさんのおかげで鉄棒の逆上がりが出来るようになったのですもの!今度は私がピュアさんを助ける番です!夢の中で、これを巻いた私を探してください!きっとピュアさんを助けますからね!」


手を取り合って笑い合う二人を見て、それぞれの夫達は互いに目配せしあって微笑み合った。その日の夜、ピュアはベッドに入るとジェレミーにギュッと抱きしめられて、こう言われた。


「例え夢の中とは言えども、イヴ様以外の物語の男達にピュアを助けられるなんて、何だか僕は嫌です。ピュアを助けるのは、いつだって僕でいたいんです。だから今日は僕はピュアをこうやって抱きしめて眠ります。きっと僕がピュアを助けてみせますからね!」


「ありがとう、ジェレミー!嬉しいわ!」


……同時刻、隣室のイヴもまた、ミグシスに苦しくない程度にギュ〜と抱きしめられて、こう言われていた。


「イヴがピュアさんの夢の中に助けに行くのはいいけれど、そこで会った物語の男達にイヴを取られたら嫌だし、イヴは妊婦なのだから、俺も絶対にイヴと一緒にピュアさんの夢に行くからね!絶対に離さないんだからね、イヴ!」


「もう、ミグシスの心配屋さん!私はミグシス一筋なんだから、そんなに心配しなくてもいいのに。でも、嬉しいです、ミグシス。結婚してからも、ずっといっぱい好きでいてくれてありがとう!私もミグシスが大好きです!」


ピュアとイヴは、それぞれの夫の腕の中で眠りについた。ピュアはその日の夜、ぐっすりと眠れたが、とても不思議な夢を見た。それはとても奇妙な夢だった。まるで物語を読んでいるような……いや、”大衆劇”を夢の中で見ているような感覚で、ピュアは見たことも聞いたこともない国の夢を見たのだ。ピュアは奇妙だなと思い、先に目覚めて、ピュアを心配げに見ていたジェレミーや母のように慕うリーサに話をすると、二人はこう言ってピュアを安心させてくれた。


「へぇ〜!物語の夢を見られたなんて良かったですね、ピュア。もしかするとイヴさんから、もらったリボンが効いたのかもしれませんね!ねぇ、それってどんな夢だったの?」


「そうですわね、ジェレミー様!ジェレミー様のおっしゃる通りですわ!きっとイヴ様にもらったリボンがピュア様を助けてくださったのですわ!もし宜しければピュア様が見た夢の話を聞かせてもらえますか?」


「二人にそう言ってもらえて、何だかホッとしたわ。ありがとう!じゃ、聞いてくれる?あのね、そこはね、ミグシスやマーサさん達みたいな黒髪で黒目の人達が大勢いる国なのよ。そこは不思議な世界でね、馬をつないでいない状態の馬車が馬よりも早く走っていたり、空を鉄で出来た大きな鳥が飛んでいるの。それでね、私も黒髪黒目の女の子なのよ。私はチュウガクセイっていう学生でね、ある日、モシという試験を受けに行ってね、そこでもいつものように無くしものをしてしまうのだけど……」


ピュアが話す夢の話は、とても不思議な話だったが、ピュアが機嫌よく話していたので、ジェレミーもリーサもピュアが眠れてよかったと、心から思って喜びながら聞いていた。ピュアは、朝食後にピュアを心配して訪ねてきたイヴとミグシスや、平民クラスの友人達にも同じ夢の話をし、皆で笑い合いながら、それぞれにピュアの見た夢の話の感想を言い合った。


「ピュアちゃんの不眠を治すことが出来て、面白い物語のような夢が見られたなんて、すごいリボンだね!」


「本当だよな!きっとイヴのピュアさんを思う優しい気持ちがリボンを通じて夢に届いたに違いないよ!」


「それにしても不思議な夢だね。まるで本当の物語のように面白かったわ」


「そうだよね、本当に不思議だったね。人が空を飛ぶ鉄の鳥に乗ったり、地面の中を走る乗り物に乗って移動するなんてね」


平民クラスの友人達は面白がって、ピュアの夢の話を、ピュアの夢に隠れていた()()()()だと言って大いに盛り上がった。そして久々に学院に戻ってきたエイルノン達生徒会は、それを伝え聞いて、その話を来年の”真夏の日の夕べ”の演目にすればどうかと学院に打診し……次の年のバーケック国の国立学院の”真夏の日の夕べ”では、ピュアの夢を元に作られた物語が上演されることとなった。


その物語の名前は”隠された物語をもう一度”と言う。

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