※神々と最後の”物語”のリトライ(後編)
イヴへの”英雄のご褒美”を叶えることが出来ると知り、驚く金の神に紅の神はこう言った。
「あなた方の好きな乙女ゲームやギャルゲームと分類される恋愛シミュレーションゲームには、いくつものエンディングが用意されていて、ゲームプレイヤーが扮する主人公の行動一つで言葉一つで、ハッピーエンドに進むかバッドエンドに進むかが決まってしまいますよね。それでね、ついに私は見つけたのですよ。あの世界を滅亡させることなく、イヴちゃんがハッピーエンドを迎えることが出来る唯一のルートを……。
金の神。あなたは本当に運が良かった。そのルートに進むことが出来る唯一の鍵が、彼女……”お姫様”だったのですから。”お姫様”のある日の行動を一つ変えるだけで、それが全て上手く行くのです。それに”お姫様”は寿命を全うしていないから、あの世界に戻すことも私なら簡単に出来ます」
「まさか紅の先生……、いくつあるかもわからない無数のルートを視続けて探したのですか?」
「あなたは私を誰だと思っているのですか?私は高位の神なのですよ。そのルートを探すのは、そんなに大変なことではありませんでした。でもまぁ……多少の歴史の改変は避けられませんので、あの世界を創造した神にある程度の歴史の改変についての許しをもらわねばなりませんでしたが、かの神はあなた達の変わった自習学習の噂を聞きつけて、他の神達と一緒に、ずっとあなた達3人の物語を(面白がって楽しんで)視ていたそうなんです。
それでですね、あの世界を創造した神が、自分も金の神の手助けをしたいと言ってくれましてね。自分の創造した世界を滅亡させないのであれば、多少の歴史の改変も(面白そうだし、退屈しのぎになるだろうだから)許可するし、自分の世界で”隠された物語”をリプレイするのも、自分の世界の人間達……イヴちゃん達に気づかれないのであれば(その方が、もっと面白くなりそうで楽しめそうだろうから)構わない……と快く了承してくださいました」
「でも紅の先生。あの女が、それを了承するでしょうか?あの女はイヴちゃんのお父さんを……愛ちゃんのお母さんを激しく憎んでいるんです。こちらが事情を説明し、頼んだ所で彼女がおとなしく紅の先生が見つけ出したルート選択の通りに動いてくれるとは思わないのですが……」
「そうですね。私もそう思います。でも……」
そう言った後、紅の神は何も書いていない石版を自身の両腕の中に出現させて言った。
「彼女は”隠された物語”を知りませんから、そのヒロインが自分の憎む女性の娘であると気づかないでしょうし、あの世界の人間でもあった彼女に詳しい話をする必要はありません。それに……彼女は金の神の見たい物語の”英雄”になることを拒み、ゲームスタート時に入学式を欠席したことにより、彼女の基本設定は、”名前なき者達の復讐”の”名前なきあなた”というモブ……悪役モブに固定されたままです。だから、その状態の彼女が最後のゲームリトライをすれば、”お姫様”が望む望まないに関わらず、彼女は自分の役割を演じることになるのですから問題はないでしょう。
さぁ、彼女が寿命を全うするまでの短い時間ですが、我々にはこれから考えて決めないといけないことが山程ありますから、張り切っていきましょう!まずは前世のイヴちゃん達に気づかれることなく、イヴちゃんへの”英雄のご褒美”を叶えるための”物語”の脚本作りと、必ず”物語”をハッピーエンドで終わらせるために必要な脇役達のキャスティングを考えましょう!あっ、彼女を説得するのは私に一任してください。人間との交渉のお手本を師として、あなた達に見せたいので……」
34年後……。真っ暗闇の空間での紅の神とリアージュのやり取りの様子を《神の領域》で見ていた銀の神はポツリと言った。
「ねぇねぇ、あれって、あの世界でオレオレ詐欺が流行る前まで、よく行われていた老齢の人間を騙す詐欺の常套手段のようじゃないか?人間は年を取ると色々と体力が衰えると共に判断能力も鈍くなるし、身近な人間がいなくて孤独を感じている者は、自分に優しく声をかけてくれる者を無条件に味方だと思いこむ節があるから、老齢の人間は詐欺を働く悪人達に狙われやすいので注意しましょうって、僕の推しだった警察のゆるキャラが防犯キャンペーンで呼びかけていたよ」
銀の神の言葉に頷きながら、金の神も言葉を続けた。
「私もその防犯キャンペーンを知っているわ!確か、その防犯キャンペーンでは、老眼で細かい文字が見にくくなって、細かい文字で書かれた文章を読むのが煩わしくなっているのを見越して、詐欺を働く悪人は口約束で言っていたこととは、まるで違う内容を契約書に小さな文字で書き込む場合が多いので、高額の取引をする場合は直ぐに契約書に署名をする前に、一旦保留にして冷静な思考が出来る場所で、家族や信用の出来る人間に契約内容を一緒に確認してもらうか、専用相談窓口へ電話で相談して下さいと大きな声で説明していたわ。もしかして紅の先生。乙女ゲームだけではなく、あの世界の詐欺の手口まで勉強したんじゃ……」
「いや、紅の先生は詐欺なんてしていないよ。だって、よく見てみなよ。紅の先生は両者が納得して契約出来るようにと言って、契約書の言葉を一文字づつ交代で刻もうと提案しているじゃないか。それを面倒臭いからと投げ出したのは、あの女の元々の怠惰な性格のせいであって、紅の先生が何かを仕組んだわけではないよ。それに契約書の内容を質問した女に、きちんと答えようとしている紅の先生の言葉を遮ったのも、契約書をよく読まずに署名をしたのも彼女だもの……って、どうしたの、黒の神?顔色が悪いよ」
銀の神と金の神がボソボソと言い合っている横で、黒の神が顔色を悪くさせていたので銀の神が気遣うと、黒の神は落ち込んだ声でこう言った。
「あれ……私がルナティーヌと契約した時の再現かもしれない」
「「ええっ!?黒の神、人間に騙されたの?」」
「まぁ、私の場合はルナティーヌが私の選んだ物語の主人公以上に、私好みの女性になっていたから、私は彼女に見とれてしまってポ〜と惚けてしまってね。私は女王様な彼女に問われるがままに、父神との話や物語のこともペラペラと暴露してしまったし、彼女に言われるがままの契約内容を石版に刻んでしまってて……、我に返ったら、本当は私の見たい物語を私が選んだ”英雄”のルナティーヌにハッピーエンドにしてもらうはずだったのに、いつのまにか私の見たい”物語”を私がルナティーヌの下僕となって、私が自分で働いてハッピーエンドにするという内容に変わっていたんだよね。
契約を取り消そうとしたんだけど、それに気づいたのは両者の名前を刻んだ後でさ。石版で交わされた契約は神とは言え違反は出来ないから、仕方なく3年間、黒猫の姿で女王様な彼女の下僕となって、散々酷使されて辛くて大変な思いを味わったんだよ。……そうか!きっと紅の先生は私達に人間と契約を交わす時は冷静になって、人間以上に狡猾になって自分に有利な契約を結びなさいと言いたくて、私達に良いお手本を実際に見せて教えてくれているんだね!」
「「……」」
顔色を悪くさせていた黒の神が途中から目をキラキラと輝かせながら、紅の神が自分達の都合に良い契約の文章を綴っていくのをうっとりして見始めたので、弟達は((それってやっぱり詐欺の手口を紅の先生がお手本にしたんじゃ……))と思ったが口にはしないで、兄神と同じように紅の先生兄神と同じように紅の先生のお手本を見学した後、《神の領域》に戻ってきた紅の神と父神と一緒に、皆で最後の”物語”を初めから視ることにした。




