表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章の裏側の挿話~6月7月8月
321/385

※リアージュのファイナルリトライ⑨

※この物語はフィクションです。

 前世の世界から真っ暗闇の空間に戻ったリアージュは、ぼんやりとした意識の中、前世の世界に行く前にルナーベル似の神と話していた会話を()()()()繰り返していた。


『ねぇ。前世の私の命が復元されて、不具合で過去に戻っていたとして、もしも金髪野郎と私が契約を交わさなかったら……今の私はどうなるの?未来は変わるの?』


 リアージュの言葉を聞いたルナーベル似の神は、前世の世界に行く前と同じように契約が成立したことを示す石版をリアージュに掲げてみせたので、リアージュは、ああ……この動作を見るのも二度目だなと思いつつ、体は一度目のときのように首をかしげさせていた。


『?何?』


『今、契約は成立しました。……でも、あなたは今、ここにいる。記憶もそのまま。これが答えです』


『それがどうしたの?』


『時間逆行や異世界転生には人間にはわからない細々とした神々の決まりや制約があるのですが、あなた一人に関して言うならば、過去の過程は変えられても結果は変えられません。つまり……』


 一度目の会話の時、リアージュは『つまり、何?』とルナーベル似の神の言葉の先を促そうと思っていた。が、前世の世界から連れ戻されたのだとの思いが、急に胸に沸き起こったリアージュの口をついて出たのは、別の言葉だった。


「ちょっと!どうしてまた、ここに連れ戻したのよ!?今からお酒を飲もうとしていたところだったのに!あっ、もしかして私が地獄に行くフラグをへし折ったのを見て、慌てて連れ戻したとかだったら、もう手遅れだからね!あんたは私に好きに生きていいと言ったのだから契約違反にはならないはずよ!さぁ、私をもう一度、あの世界に戻しなさい!」


 リアージュが鼻息荒く、ルナーベル似の神に食って掛かった瞬間だった。地獄を管理している神が突然リアージュの頭をガシッと掴み、こう告げたのだ。


「紅の先生。()()()()()()()()()()ですし、そろそろ地獄に連れていきます」


 頭を掴まれたリアージュはジタバタと体を動かして逃れようとしたが、手を振り払うことは出来ず、リアージュは狼狽えた。


「え?どういうこと?私はあの世界に行って、まだ数時間しか経っていないはずよ!それに地獄行きのフラグはへし折ってやったはずなのに……。ねぇ、あんたからも、そう言ってやってよ!」


 リアージュは優しいルナーベル似の神の助けを請うたが、ルナーベル似の神はリアージュを見ようともしないで、地獄を管理する神を見て、一言侘びた。


「ええ、お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」


「え?どういうことよ?」


 ルナーベル似の神は、仮面の弁護士のような胡散臭い笑みを浮かべ、肩を一度すくませて言った。


「あなたはとても愚かな人間だから、気が付かないのでしょうが、あなたが名前を刻み、私が名前を刻んだ時点で、全てのことはもう終わったのです。思い出せませんか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「え?新しい記憶って、な……に……ウッ!……ウギャー!」


 老いたリアージュの脳裏に今までとは違う、”お姫様”の一生の様子が走馬灯のように……いや、ゲームのエンディングのスチルムービーのように駆け巡る。人生半ばで強制終了させられた一度目とは違い、二度目の人生では、リアージュが左の道を進んだことが功を奏し、”お姫様”は金の神に人生を強制終了されることはなかったが……、しかし、その後の人生を思い出してリアージュは……”お姫様”は大絶叫した。


「ギャー!何よ、あれ!?何で、あの女が生きてるのよ!それに何よ、あの私の人生は!あれじゃ、まるで悪役の末路じゃないの!それに死んで直ぐに異世界転生されて……私の人生は変わっていない!これはどういうことよ!まさか……、あの時に左を選んだのが間違いだったの?あんた、もしかして物語だなんだと私を騙したんじゃないの!この大嘘つき野郎!こんなの契約違反よ!もう一度やり直すから、私を元の世界に戻しなさい!」


 ”お姫様”は……リアージュは歯のない歯茎をゴリゴリ鳴らせ、目を向いて怒りだした。が、ルナーベル似の神は平然としたまま言い返した。


「残念ながら私は契約違反をしていませんよ。これらのことは契約書に全て記載していますし、それに了承の意を示す名前を刻んだのはあなたです。ああ、あなたは本当に愚かな人間ですね。何故自分自身に関わる重要なことを真剣に考えられず、他人任せにするのですか?茶会の時も、今の契約のことも、あなたの今後を左右する人生においての岐路だったと言うのに……。


 再三、金の神も私も言ったはずですよ?これはゲームではなく、現実だと。全ての責任は私の言葉をよく聞かず、契約書の作成を人任せにし、契約書をよく読まないまま、契約を取り交わしたあなたにあります。折角私は、ある意味不憫で憐れなあなたにも、最後のチャンスを与えようとしていたというのに……」


 そう言った後、胡散臭い笑みを浮かべていた紅い髪の神は、顔から笑みを消した。


「前世のあなたの世界は魔法も超能力もない現実の世界であり、そこに生きる人間は全て、物語の登場人物ではなく現実に生きている生き物です。……だけど人間は知性があり、感情がある生き物ですから、人間は自分の人生においては誰しもが主人公であると言えます。つまり、前世のあなたの世界の人間の一人一人が主人公であり、また他者との関わりによって人生が変化していくことから、自分の人生において、良い影響を与える者は英雄となり、あまり自分の人生に影響を及ぼさない者はモブとなり、自分を苦しめ、自分の人生において悪い影響を与える者は敵役……悪役になることがあり、逆に自分が知らない間に他者にとっての英雄になったり、モブになったり、悪役になることもあると言えるのです。


 そんな世界に生まれた前世のあなたは、周囲の者にとっての敵役……悪役にしかなれない、ある意味特異な人間でした。前世のあなたは、今のあなたと同じくらいに陰湿で姑息でずる賢く、大きな犯罪にはけして手を出さないが、千尋さんや他のイケメンと呼ばれる男性達に長年執着し、彼等の恋人である女性達に陰湿な虐めを行い続け、学生時代は毎日、学校の生徒達と揉め、退学になって、引きこもりとなってからは毎日パソコン通信……インターネット、SNSを駆使し、悪意をばらまくことを欠かさなかったし、自分を生み育てた年老いた両親にさえ、暴言を吐いて金銭を無心し続ける悪人で……まるで害虫駆除出来ない厄介な寄生虫か、治せない病のように疎ましい存在だったのです。


 そんな前世のあなたは、一度目の人生の7月23日。朝の5時に起きるように目覚まし時計を用意したのです。覚えていますか?怠惰なあなたが、わざわざ早起きをしようと思った理由を……」


 頭を掴まれたままのリアージュは、そう言えば二度目の7月23日に目覚まし時計を叩き壊したことを思い出し……、一度目の7月23日のことを思い出した。あの日の前日、前世のリアージュは初めて目覚し時計のアラーム予約をしてから早めに眠った。何故、そんな早朝に起きる必要があったかというと、7月23日に都心の某所にて、僕イベのイベントが行われるからだった。前世のリアージュは僕イベの声優をしている、ある若手声優を気に入り、彼の熱狂的なファン……陰湿なストーカーとなっていたので、彼に会うためにおめかしして、早朝に入待ちしようと思ったからだ。


 5時に起きた前世のリアージュは右の道を通り、電車に乗って都心に出た。そして早くから某所の関係者以外立ち入り禁止の扉の影に隠れていた前世のリアージュは、イベントに出るためにやってきた若手声優に接触しようとしたが、それをエルゴール役をしていた女性声優に阻まれて、後からやってきた警備員に追い出されてしまった。


 若手声優との恋路を邪魔されたと思った前世のリアージュは、エルゴール役の女性声優を逆恨みし、激しく憎悪した。若手声優と両思いになることも出来ず、当然、僕イベのイベントにも入場禁止となった前世のリアージュは怒り心頭で入場しようとしたが、またもや警備員につまみ出され、これ以上やるなら警察を呼ぶと告げられてしまった。そこで前世のリアージュはイベント終わりの若手声優の出待ちをしようと思い、夕方まで、また違う物陰に隠れていた。


 イベント終了後、出口から出てきた声優達のところに向かおうとした前世のリアージュは、警戒していた警備員に追い払われたが、もう一人の出待ちをしていた女の子は追い払われなかった。その一人は中学三年生の女の子だった。中学生の女の子はエルゴールの声を担当している女性声優のファンで、今日は模擬試験が、このイベント会場の近くの高校で行われるとわかっていたから、一目だけでも姿が見られたら嬉しいと思い、帰りに寄ってみたと話し、ゲームが買える年齢になったら僕イベを買ってゲームをします!……と頬を染めて言っていた。


 すると女性声優も前世のリアージュの推しの若手声優も、他の声優達も優しげな声で、中学生の女の子に、応援ありがとう!僕達も皆、君が無事に高校受験を合格できるように祈っているから頑張ってね!僕イベで君と会うのを待っているからね!……と暖かく励まし、女の子が持っていた携帯電話での写真撮影にも快く応じ、皆で一緒に写真を撮っていたのだ。前世のリアージュは自分は追い払われたのにと、今度は中学生の女の子を逆恨みし、帰宅する彼女の後を尾行し、隙きを見て、頬をつねってやろうとした所、中学生の女の子はファストフード店に立ち寄った先で携帯電話を落とした。


 前世のリアージュはそれを拾った後、それを女の子に返さず、カラオケボックスと呼ばれる店に駆け込み、そこで、女の子の携帯電話で僕イベのファン情報サイトにアクセスし、エルゴール役の女性声優の悪口を沢山書き込み、その携帯電話を川に投げ捨てた。その後エルゴール役の女性声優に対する悪口で僕イベのファン情報サイト内は炎上し、その誹謗中傷で女性声優は心身が病んでしまい、芸能活動を休止し、その書き込みがされた携帯電話の持ち主は女性声優と女性声優の事務所から名誉毀損で訴えられる騒ぎとなり、前世のリアージュは、それを高みの見物で楽しんだのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ