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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章の裏側の挿話~6月7月8月
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※リアージュのファイナルリトライ⑦

 財布と鍵を持って立ち尽くしているリアージュを見て、男達は被っている帽子を少し持ち上げて挨拶した後、一人の男が隣りにいる男に向かって時間の確認をし始めた。


「おや、今からお出かけでしたか?もしかして我々は、お約束の時間を間違えてしまいましたか?おはようございます。赤獅子印でおなじみの家事代行サービス会社の()()()参った者でございます。先日は掃除とゴミ出しのご依頼をありがとうございました。……おい、出口君。約束は7時で合っていたはずだよな?もしかして8時の聞き間違えだったとかじゃないよな?」


(男の言っている言葉がわかる……。良かった!文字が読めなかったから、言葉もわからないんじゃないかと思ったけど、言葉は通じるのね!……家事代行……ああ、掃除屋のことね!前の世界でも掃除屋や洗濯屋がいるって、ルナーベルに聞いたことがあったけど、前世にもいたのね!ああっ、良かった!これでゴミ捨て場みたいな部屋で暮らさなくても良くなるわ!)


 男に出口と呼ばれた男は、ホッとしている様子のリアージュに一瞬視線をやった後、胸元のポケットからメモ帳を取り出し、日時を確認して言った。


「ええ、合っているはずですよ、瀬戸里さん。()()()()()()()()()に家に来るようにとの電話を先日受けたとメモに書いてありますし、我々がこちらに到着したときには、ここのアパートの管理人から合鍵を渡されたのですから間違いありません。この辺りは今日が燃えるゴミと分別資源ゴミの収集日で、ゴミ出しは朝の8時までだから、それまでにゴミ出しを済ませるようにとの、ご依頼内容でしたから時間は合っているはずです」


 出口の言葉を聞いた瀬戸里は安心した様子で一度頷いた後、部屋に入ってきて、手にしていたカバンからエプロンと三角巾やゴム手袋を出し始めながら、リアージュに言った。


「早速ご依頼通りに作業を始めたいと思います。合い鍵は作業が終わりましたら、管理人に返却しておきますので、お帰りの際にお受け取りをお忘れにならないようにお願いします。では、気をつけて()()()()()行ってらっしゃいまし!」


「まぁ、コンビニ!あの夢に見たコンビニに行けるのね!嬉しいわ!」


 急かすように言われたリアージュは、憧れのコンビニに行けるのが嬉しくて、そのままの姿で玄関を出ようとし……立ち止まった。何故なら先程財布と鍵を見つけて取り出した後、立ち上がろうとして視線を上にやった時に見えた、クローゼットの中の一番左側に掛けられている一着のワンピースが凄く気になっていたからだった。


(あれ?どうしたんだろう?何故か私、今日はあれを着て、どこかに行かなきゃならなかったような気がする……?それってコンビニだったのかしら……?)


 そのワンピースは他のクシャクシャになって積まれている服とは違い、綺麗に洗濯されてアイロンまで掛けられていて、埃をかぶらないようにとの配慮からか、透明の布……前世の自分はビニールと呼んでいた……に包まれていた。透明のビニールに包まれていたワンピースは、リアージュの大好きなピンク色で、沢山のリボンやレースがついていて、とても可愛らしいものであったし、その側に一緒に置かれている真っ白の肩掛けカバン……ポシェットや真っ赤なエナメルのローファーは新品だった。


 家中ゴミだらけなのに、その一角に置かれているものだけが、妙に綺麗だったので、これはきっと前世の自分のとっておきの外出着なのだろうとリアージュは考え、今から初めて憧れのコンビニに行くのに、これ以上相応しい服はないだろうと思い、これらに着替えることにした。リアージュがこれに着替えてから行くと男達に伝えると、何故か一瞬だけ男達の顔が強張ったが、その次の瞬間には男達は元の表情に戻り、これは気が付きませんで、申し訳ありませんでした。では自分達は一旦玄関の外に出るので、終わったらお声がけをお願いします……と言って家から出ていった。


 リアージュが着替え終わり、玄関の外に出ると男達は、では作業を始めさせていただきますと言って、リアージュと入れ替わりで家の中に入っていった。リアージュは何十年振りに着る可愛いワンピースに心が浮き立って、ご機嫌で出かけようとしたが、ふと立ち止まって振り向いて、出口と呼ばれていた男にこう言った。


「あのさ……。ゴミ出しの時にさ、ついでに捨ててほしい物があるんだけど」


 出口は先程の瀬戸里と同じようにカバンを開けていたが、リアージュを見上げ、何を捨てたらいいのですか?と問うてきた。リアージュはゴクンと大きく喉を鳴らせた後、キョロキョロと周囲を伺うように視線を巡らせた後に声を潜めていった。


「あのさ……”僕のイベリスをもう一度”っていう名前の乙女ゲームと、それに関連する小物類を全部……全部捨ててほしいの!」


「はい、わかりました。乙女ゲームソフト一本と、その関連グッズですね。我々は一人で百人の働きをすると専ら評判が良い掃除人ですから大船に乗ったつもりでお任せください!では行ってらっしゃいま……ああ、そうそう。この3階の角部屋からコンビニに行くには、まず、この廊下をまっすぐ行った先にある階段を下りて一階まで行き、ここのアパートを出て()に曲がり……。いいですか、()ですよ!左に曲がって下さいね!その左に曲がった先を20メートル歩いた所がコンビニですからね。()()()()()()で戸惑うでしょうが、落ち着いて()に曲がれば、直ぐそこがコンビニですからね。では気をつけて行ってらっしゃいまし!」


 出口という男は玄関から外に出て、どちらに行けばいいのかわからない様子のリアージュを見て、ここに越してきたばかりの住人だと勘違いをしたようで、リアージュにアパートの階段の場所やコンビニへの行き方を懇切丁寧に教えた後、玄関や窓を開け広げ、掃除をする用意をし始めた。リアージュは出口の教えてくれた通りに階段に向かいながら、もう一度振り返って男達に声をかけた。


「あ……うん。絶対、そのゲームソフトは捨ててよね。じゃ頼んだわよ」


「「わかりました!では、掃除が終わるお時間まで、ごゆるりと()()()()()寛いでくださいまし!」」


(そっか。前世の私は掃除屋に掃除を頼むために目覚まし時計を使っていたんだわ!そして彼等が掃除をしている間は、コンビニに行っていたのね!うふふ……掃除をしなくてもいいなんて、やっぱり、この世界は夢の世界よ!それに憧れのコンビニ……。私はコンビニに行くのが夢だったのよね!前世の記憶では、沢山お酒やお菓子が並んでいたと記憶しているわ!ああ〜、楽しみ!……それにしても、ついに私は()()()()()()()()()


 リアージュはアパートの階段を下りながら、小さく笑った。


(確か……金髪野郎と前世の私が出会ったきっかけは、前世の私が、監禁していた千尋という幼馴染の男に逃げられてムシャクシャした気持ちの気晴らしをしようと思って、年末にパソコンで僕イベの情報サイトに逆ハーレムをクリアしたと嘘ついたのが原因だったはず。ルナーベル似の神は命の復元をすると時間が戻ると言っていた通り、掃除屋の彼等は今日は7月23日だと言っていたんだから多分……、約半年前位まで時間が戻っているんだわ。


 本当に私はついている。せっかく過去に戻ったんだから、今度はあの金髪野郎に……僕イベに関わらずにいよう!そうしたら前世の罪も来世での罪も神との契約不履行の罪も全部、初めから無かったことになって、私は地獄に行かなくてもすむはずよ!ルナーベル似の神は私の好きに生きて良いと言っていたわ。ならば私が金の神と出会わない未来を画策しても良いはずよ!)


 我ながら賢いと自画自賛しながらリアージュは、アパートの外に出た。アパートの外も暑く、リアージュは前世の世界の夏というものを肌で感じつつ、掃除屋に言われた通りに左に曲がろうとしたのだが、妙に右側の道が気になった。


(あれ?まただ?……どうしたんだろう?私、今日はこの服を着て、この右側の道を通って電車という名前の大きな四角い乗り物に乗って、どこかに行こうとしていたような気がする……)


 左に曲がれば、憧れのコンビニに行けるというのに、リアージュは妙に右の道が気になって仕方がなかった。そこで少し右に行ってから、左に引き返せばいいか、とリアージュは思い立ち、右の道を歩き出そうと体を右に向けようとした時、左から歩いてきた男女がリアージュの目の前を通り過ぎていった。リアージュは親密そうに笑い声を立てて歩く男女に、チッと舌打ちして、早朝から通行の邪魔だと怒鳴りつけようとして……驚きで体が固まってしまった。


「い、イヴリンとミグシリアス!?何でここにいるの?」

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