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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章の裏側の挿話~6月7月8月
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※リアージュのファイナルリトライ③

 リアージュはゴミだらけの部屋でバンザイをしながら、あの真っ暗闇の空間で会った『でも……』と言って黙った神との会話を思い出し、ニンマリと笑った。()()()()()()()()()()()()()()ことが出来たのは、あの金髪男の娘野郎……金の神に無理矢理、異世界転生させられた”お姫様”に同情して、リアージュが地獄に入る前に、弟子の不始末を一言詫びに来たというお人好しなルナーベルに顔も性格も似ている神の同情心につけこんで、言葉巧みに騙して、”お姫様”の世界に行けるように()()()()()()()()()()からだった。






『……確かにあなたは金の神のせいで異世界転生することになったことは認めますが、後のことは全部自分の招いたことなので訴えることは出来ないですよ。()()……』


 あの時、『でも……』と言った後、少し黙ったルナーベルに似た神は、ルナーベルのように優しげにリアージュに語りかけてきた。


「でも……あなたは確かに愚かで人でなしで悪しき者で、救いようがない人間ではありますが、ある意味不憫で憐れであったのも確かです。千尋さんがクリアをしたゲームの手柄を横取りし、自分がクリアをしたと嘘をついてしまったがために、恐ろしい力を持つ神に目をつけられて、人生途中で強制終了させられて、その世界での罪を償う前に、あの世界に転生させられてしまったのですから。


 本来なら前世で悪人だった者の魂は死後に地獄で、それぞれの罪に見合った罰を与えられて、魂の浄化が終わってから神様のお庭に……黄泉の世界に送られるので、その過程を終えていた魂であったのなら、来世で罪を犯そうとしても、魂に刻まれた地獄にいた時の辛い罰の記憶が抑止力となって、罪を犯すことに対する躊躇いや罪悪感を感じ、踏みとどまることも出来たかもしれないのに……。魂の浄化を済ませず、穢れた醜い邪悪な魂のまま転生させられた、()()()()()()()()


「私は不憫……?あんたは私のことを不憫だと思ってくれるの?」


「……ええ、ある意味ですが。それに本意ではなかったとしても神と契約を結び、自分が神に答えた言葉通りにゲームが再現された世界に異世界転生し、自ら”英雄”にはならないと言ったにも関わらず、愚かにも”ヒロイン(英雄)”であると思い込んでゲームに挑戦したあなたは、金の神が物語が面白くなるだろうと予想した通りに、本当にピエロのように滑稽で面白かったというのに、リアルタイムであなたを見る神はいなかったのですから、観客が一人もいない舞台で喜劇を延々と演じるピエロのように()()()()()()()()()


「私は憐れ……?あんたは私を憐れだと思ってくれるの?」


「……ええ、ある意味ですが。今からあなたは前世の罪と現世の罪だけではなく、神との契約を不履行にした罪も背負って地獄に向かうことになるのです。きっと他の悪しき魂達よりも、何倍も重い罰を何百年、何千年、何億年も課せられるでしょう。ああ、あなたは()()()()()()()()()()()()()()。もう未来永劫お会いすることはないでしょうが、地獄での贖罪を頑張って下さいね。では、さようなら……」


 長年の強制労働と老化による思考能力の低下がなければ、ルナーベル似の神の言葉の端々にリアージュに対する皮肉や悪意が多分に含まれていることに、リアージュは気づいて激怒していただろう。でも16才から34年間一度も休み無しで収容所の強制労働で酷使され続けたリアージュは、とても疲れていたし、思考する力も乏しくなっていた。


 だからリアージュはルナーベル似の神の言葉に含まれているものに気づけないまま、初めてリアージュを不憫で憐れだと言って同情してくれる者が現れたと嬉しく思いながら、ルナーベル似の神の言葉を聞いていたのだが、神の最後の言葉を聞いて驚愕した。


「ち、ちょっと待ってよ!なんで前世の罪と、神との契約を不履行した罪まで背負わないといけないのよ!それって両方とも金髪野郎のせいじゃないの!前世の人生を途中で強制終了させて、転生させたのは、あいつなのよ!それに神との契約不履行というのは何?それって、もしかしてあいつが見たい逆ハーレムエンドを見せてほしいと頼んできた契約の話のこと?それなら転生させた私を見なかったのは金髪野郎の方じゃないの!こっちは被害者よ!未払いの報酬と慰謝料をもらったって、バチは当たんないわよ!」


 自分は被害者だと訴えるリアージュにルナーベル似の神は、それは違うと言った。


「いいえ、それは違います。金の神の罪は、まだ前世で生きていたあなたの人生を強制終了させたことだけです。あなたが僕イベのゲームを再現させた現実の世界で、金の神にゲームを見せることになった経緯については、大いにあなたに非があります。最初に嘘をついたのはあなたでしょう?金の神があなたの言った言葉を信じ、あなたに自分の世界(ところ)でゲームをして、逆ハーレムエンドを見せてほしいと頼んできたときに、あれは嘘だったと正直に告白し、心から謝罪していれば、こんな事態には陥っていなかったのですから」


 痛いところを突かれ、口ごもったリアージュは、直ぐに口を尖らせながら言い訳をした。


「うっ!……そ、それはそうだけど!あれは前世の私がしたことであって、今の私がしたことじゃないのよ!ああ、あんたの言う通りだわ!本当に私は不憫で憐れだわ」


 なるだけ自分は被害者に見えるようにと、大げさに嘆いてみたがルナーベル似の神は、それには答えずに、さらにリアージュにとって、最も痛いところを真正面から突いてきた。


「それに金の神はリアルタイムではありませんでしたが、きちんとあなたのバッドエンドの様子を視ていますから彼は契約違反をしたことにはなりません。何故ならば金の神はあなたとの契約時にリアルタイムで見るとは一言も口にしていませんでしたからね。どちらかというと契約違反をしたのはあなたの方でしょう?だって金の神はあなたに逆ハーレムを見せてほしいと頼んでいたのですから。


 でもあなたは逆ハーレムどころか誰からも一度も好かれなかった。学院の皆に……貴族達の皆に嫌われて憎まれて、貴族を辞めさせられた。そして生涯を独身で……殆どの時間を収容所……刑務所で孤独に過ごした。それのどこが神の見たい僕イベのハッピーエンドなのですか?例え金の神が視ていなかったとしても、あなたは神に対して成功報酬を請求出来ないはずですよ」


 ルナーベル似の神に指摘されたリアージュはチッと舌打ちし、相手を睨みつけた。


「チッ!……バレてたのか。そりゃ、そうか、あんた等は神だもんね。でも、勝手に私の前世の人生を強制終了させた罪に対する慰謝料は?私はもらった覚えがないわよ!相手が人間だからって支払ったと(たばか)る気?」


 睨むリアージュを見ても、ルナーベル似の神は表情を変えることなく、淡々と答えた。


「まさか。あなたではあるまいし。金の神があなたに支払った慰謝料の件ですが、あなたは昔、井戸に飛び込んだことを覚えていますか?貴族ではなくなったあなたは、町を彷徨い歩いた末に井戸に飛び込んだ。そのときにあなたの命を助けたのは金の神だったのですよ。ゲームを再現した世界とはいえ、あの世界は現実の世界ですから死んでしまえば、そこで人生は終了です。


 ……そう、あなたは16才の夏、井戸に自ら飛び込んで死ぬはずだった。でも、あなたの前世の人生を強制終了させた金の神が、井戸に自ら落ちて自分の命を終了させようとしていたあなたを救ったことで、金の神はあなたに慰謝料を支払ったことになり、金の神の罪は贖われたのです」


 そう言われたリアージュは、死後に知った事実に驚いた。


「確かに昔、井戸に飛び込んだけれど、あれが慰謝料……だったの?私は井戸に飛び込んだ後、地下水の川を流れて海に出たのだとばかり思ってたけど……。そっか、井戸に飛び込んだら普通は即死よね……」


 何ももらえないと知って、ガックリと肩を落としたリアージュに、さらに追い打ちをかけるように、ルナーベル似の神は、前世の自分ではなく、リアージュ自身が神に対して行った罪の話を始めた。


「金の神は自分の罪を告白し、謝罪した後、ここは現実の世界でゲームではないとあなたに説明をした。そして人生は一度きりだから、これからは真面目に平民として働いて生きていくようにと、誰もあなたのことを知らない土地にあなたを置き、人生の再出発を促した。それなのに、あなたは『あんたに言われなくても、私は好きに生きてやるから、あんたは黙って私をピュアと言う名の公爵令嬢にしろって言ってるのよ!』と言った。このことが契約不履行に当たるのです」


「?どういうこと?」


「あなたが生きていた世界では、”神に何かを願って叶えられたら、その者は神の使徒として、神の願いを叶えるために働かないといけない”……という言い伝えがあるのは、ご存知ですか?……ああ、あなたは世情に関心が全く無い方でしたから、知らなかったのかもしれませんね。でもあなたは、あなたに慰謝料を支払い、契約を終了させた金の神に新たな願いごとをした。……つまり、あなたは神に新たな契約を持ちかけたということになります。あなたは神に願いごとをし、叶えてもらったのに対価を払っていない。だから、その罪が加算されているんです」


 リアージュは遠い昔のことを思い出すのに苦労しながら、そう言えば自分は海岸で倒れていたときに、カロン王にそっくりな神を名乗る者の夢を見たことを思い出し、その後に起こった悪夢のような出来事も思い出したので、あんなので契約不履行になるのは割に合わないと思い、抗議し出した。


「そんな……。でも、あの時、結局私は偽物だと直ぐにバレちゃって、ピュアという名前の公爵令嬢にはなれないどころか、何故か国を脅迫した一味に思われて収容所送りになっちゃったじゃないの!契約不履行なんて無効だわ!」


 無効だと訴えるリアージュにルナーベル似の神は、リアージュの言葉を否定するように首を左右にゆっくりと振った。

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