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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章の裏側の挿話~6月7月8月
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エイルノン達の林間学校と懐かしい再会⑧

 10年前、へディック国を襲った流行病により、へディック国の人工は三分の一にまで減少していたが、カロン王の取り巻き貴族となっていた悪しき者達は、流行病で亡くなった民の統計を取ることを怠っていたので、大勢が亡くなったという認識はあるものの実際の亡くなった人数を正しくは把握していなかった。そのため、仮面の弁護士のカロン……ナィールが教会の大司教だったシュリマンや闇に通じる義賊達や”銀色の妖精の守り手”達と組んで、計画的に少しずつ少しずつ民を国外に出していたことも気付いていなかった。


 トゥセェック国やバーケック国は10年前からへディック国からの難民を受け入れていたが、いくらへディック国の人口が流行病により、極度に減少したとは言え、引っ切りなしに訪れる難民の数があまりにも多かったことで段々と頭を悩ませるようになっていった。何故なら家も財もない多くの人々を受け入れるのには途方もないほどの資金や土地が必要だったからだ。それに難民とは言え、その者達が善良な者かどうかの判断材料もなかったので、受け入れた者達が犯罪を起こしたり、またへディック国の貴族達と自国の民との衝突や軋轢が起こる事態が次々と発生したりしたからだった。


 難民を受け入れることで生じる問題に頭を抱え、困り果てた両国に相談されたバッファー国は、トゥセェック国とバーケック国に、へディック国の貴族達を受け入れた後に起きた問題点を解消するために、へディック国の貴族達を難民として受け入れる際には、どんな身分の者だろうと平民として生きることを了承させるように進言した。そしてバッファー国は、元貴族以外の民は全て自国で受け入れると表明し、彼等のバッファー国までの旅費等も賄うと申し出た。


 トゥセェック国の騎士団に難民と称して入隊した仮面の弁護士のカロン……トゥセェック国ではイミルと名乗っているナィールは、多くの難民を受け入れてくれている3つの国が悪しき者は自国には入れたくないと思っていることを知り、それを叶えるために、教会の大司教をしていたシュリマンに命じて、各地域の教会に属する平民達の略歴をまとめさせ、平民達の名簿を作成させ、そしてナィール自身も、へディック国の貴族に人気のある弁護士であったことを生かして、貴族達の略歴を簡単にまとめた名簿を作成し、難民受け入れの際に役立つようにと3つの国に名簿を定期的に配布していた。


 そういう経緯があり、10年経った今ではトゥセェック国やバーケック国の国境では、すでにへディック国の全国民の事が書かれた帳簿が似顔絵付きで配布されていたし、それには身分や収入や家族構成や病歴の有無から、本人が巧妙に隠していた犯罪まで克明に記載されていたし、犯罪を犯していた者は身分を問わず、入国審査を受ける前に各国の騎士団に捕縛され、収容施設に送られて、その収容施設で、その罪を厳しく審査され、正しく裁かれた後に適切な罰を科かれる手筈がきちんと整えられていた。


 だが、中には国境の検問所を通らず、山や海を通って密かに国境を越えようとする悪しき者達が少なからずいて、そういう悪しき者達はトゥセェック国やバーケック国が全国民の名簿を持っていることや、へディック国の者は全て平民として暮らすようになった事情を知らなかったから、名前や身分を偽るときに、少しでも自分の立場を有利にしようという気持ちから高い身分だと名乗る者が殆どだったので、不法に入国しても直ぐに見つかり、全ての悪しき者達は収容所送りとなっていた。




「……だから、あの男爵令嬢も自分の事をピュアという名前の公爵令嬢だと名乗っていたんだろうね。まさか本当にネルフ国という国でピュアという名前の公爵令嬢がいて、その彼女を狙っている悪人達が、この国に来ていたなんて思わなかったんだろう。きっと今頃はお酒の酔いも冷めて、慌てふためいていることだろうけど、元々は不法に国を渡り、名前や身分を偽っていた自分が悪いのだもの。彼女に同情する気持ちはサラサラないよ」


 エイルノンは特製シーフードカレーを頬張りながら、ヒィー男爵令嬢がピュアという名前の公爵令嬢だと名乗っていた理由をそう断じ、一緒に特製シーフードカレーを頬張っていたトリプソンやベルベッサーやエルゴールやロキやソニー、スクイレル達もそれに同意した。……あの後、浜辺の散歩から戻った学院生達は、当初の林間学校の予定通りに、町で行われている祭に出かけることにした。


 町まで来た彼等は、どこを見て回るかという話をし、エイルノン達とロキとソニーがイヴが考案したという特製シーフードカレーの食券を持っていることを知ると、自分達もそれが食べたいと言い出したので、結局皆でシーフードカレーの屋台へと向かうことになり、それにレルパックスもついてきていた。他の学院生達は食券を求めて並びに行ったので、食券を持っていた6人とスクイレル達とレルパクスは先に特製シーフードカレーを手に入れて食べ始めていた。


「モグモグ……これがお嬢様が考案された特製シーフードカレーですか。金目鯛の身がホクホクでとても美味しいですね。それに揚げた茄子やカボチャ、オクラが実に美味しいです。こんな美味しい物を作れるなんて、お嬢様は天才です。ああ、ミグシスさんが本当に羨ましい。……エイル。私もそれには同意しますが、どうしてあの時、私に捕獲ではなく、投げろと言ったのですか?」


 エルゴールがシーフードカレーに舌鼓を打ちながら、そう言うとエイルノンは学院で習った法律を思い出したからだと言った。


「どの国でも犯罪の大小に関わらず、犯罪者は国外には行けない法律があるだろう?もしもこの国で、あの男爵令嬢を不法入国と身分詐称で捕まえたら、あの令嬢は、このトゥセェック国にずっといることになる。あの程度の罪では大した罪科は課せられないから、数ヶ月か数年で彼女は自由の身となる。そうしたら彼女はまた、君達やロキ達の前に現れて、意地悪をするかもしれない。実際、彼女は君達の姿を見つけた時に獣みたいな目をして走り寄ってきたじゃないか。きっと彼女は誰かに意地悪をしなくては気が済まないような捻くれた性格の持ち主なんだよ。


 そんな人物が、もしもイヴに出会ったら、どうすると思う?きっと彼女はイヴの美貌に嫉妬して、酷い言葉を浴びせたり、生ゴミをぶつけたり、頬を抓ってくるだろう。そうなったときにイヴが逃げられると皆は思うかい?確かにイヴは女神のごとき美貌と天使のような優しさと賢者のような賢さはあるけど、運動神経は鈍……おっとりしすぎているんだぞ!想像してみなよ!あんな狂気じみた走り方をする令嬢がイヴを虐めようとする姿を……」


 エイルノンの言葉にエルゴール達や双子やスクイレル達は、普段の学院にいるイヴの姿を思い浮かべて頬を緩め、次に、あの下着丸出しで走ってきた令嬢を思い浮かべて眉間に皺を寄せた。そしてその令嬢がイヴを虐めようとする姿を想像してみた。






『キィ~!待ちなさい!何よ、その月光みたいに輝く銀色の髪は!大っきな青空色の目に睫がビッシリで、どこのお人形さんよ!私よりも美人なんて許せないわ!しかも声まで可愛らしいってどういうことよ!忌々しいったらありゃしない!その髪丸刈りにしてやるわ!』


皆の想像の中で大きなハサミを持って追いかける令嬢から逃げるイヴは、とても一所懸命に走っているのだが、やはり足が遅く、やがて転んでしまう。そこに令嬢が飛びかかるようにして、イヴの体に乗り上げ、イヴの髪めがけてハサミを振り下ろそうとする。イヴは恐怖に怯え、ブルブル震え泣きながら助けを呼ぶ。


『キャー!誰か助けてー!』


『フンッ!助けなんて来やしないわよ!あんたの好きなミグシスとやらも綺麗な顔をしていたから、私がやっつけてやったわ!次はあんたの番よ!覚悟なさい!』


『イヤー!!』





……そこまで想像した者達は一斉に椅子から立ち上がり、拳を握りしめた。


「「「「「「「「「そんなの絶対にさせない!」」」」」」」」」

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