エイルノン達の林間学校と懐かしい再会⑥
浜辺で夕食のバーベキューを食べ始めたロキとソニーは、学院生達とご機嫌でバーベキューを食べていたのだが、しばらくして食事を食べながらコックリ、コックリと頭が揺れ出したのをアイビーが真っ先に気付いた。
「あら、ロキ様もソニー様も寝ながら、お食事されているわ。きっと馬での移動や舞台で舞を舞ったから、とてもお疲れになってしまったのね。イレール、セドリーと一緒にお二人をお部屋に運んでちょうだい。私はアダムとここを片付けてから、直ぐに後を追いかけますわ」
アイビーの言葉を聞いてロキ達の元に駆け寄ったセドリーとイレールは、それぞれ二人を抱きかかえると、学院の者達に挨拶をしてから保養所に戻り、後に残ったアイビーとアダムは二人が食べた後の片付けをしてから、挨拶をして保養所に戻っていった。残った学院の者達は食事を続け、食後は焼き網やら食器は片付けたが、かがり火だけは消さずに、思い思いに何人かで集まって座り、談笑しだした。
「なぁ、お前、パン屋のあの子と、つきあってるんだろ?」
「バッ……ちーげよ!あいつとは、そんなじゃねーよ。あいつは幼なじみなだけで、つきあってるとかじゃねーよ!」
「……へぇ、つきあってねーの。あの子、けっこう可愛いのに」
「可愛っ!?あんなの全然可愛くねーよ!」
「ふ~ん、そーなんだ。俺は可愛いと思うけど。お前があの子と付き合っていないなら、俺があの子を”大衆劇”に誘ってもいいか?」
「な、何で俺に聞くんだよ!お、俺とあいつは、ただの幼なじみなだけなんだから、いちいち俺に断りなんて入れなくていーよ!」
「お前が構わないなら、いいけどさ……。後で文句を言われても、俺は聞かないからな」
「……文句なんて言うわけないだろ。俺とあいつは、ただの……ただの幼なじみなんだから、さ」
パチッ……パチッと火の爆ぜる音と共に学院生達の声があちらこちらから聞こえてくる。そこから聞こえてくる話題は、イヴ達の前世の世界の”修学旅行”や”林間学校”や”臨海学校”で学生達が夜に部屋で話すような恋バナや怪談や自分の将来の進路の希望や不安……等々の話と大差がなかったが、エイルノン達4人だけは他の皆と同じように集まった後、4人共が暫く無言のまま、唯々かがり火を見つめているだけだった。
エイルノン達4人は学院でそれぞれ知り合い、お互いへディック国の避難民という立場であることから親近感を持ち、1年生の林間学校の時に、お互いの身の上話を打ち明け合った。その時にエルゴールやトリプソンやベルベッサーがへディック国を出るきっかけとなったのが、カロン王の怒りに触れたことであり、3人はカロン王に衣服を切られるという暴力を受けていたことを知ったエイルノンは、気まずい気持ちになりながらも、自分はカロン王の息子であったのだと正直に話をした。
エイルノンは一度も実の父親であるカロン王と言葉を交わしたことがないとは言え、血を分けた実の父がしでかした暴力について、父に代わって謝罪すると言って、3人に深く頭を下げた。3人はエイルノンの気持ちを嬉しく思いつつも、親がしでかした罪を子が被る必要はないと言って、エイルノンに頭を上げさせ、エイルノンの語る身の上話……王子であることを知らされず、7才まで異国で育てられたことや12才でカロン王に初めて会ったときに怒りを買い、母親は離縁され、母子ともに国外追放の身となったことに深く同情し、それ以来4人はより仲良くなった。
2年生の林間学校では他の学院生達のようにエイルノン達も恋バナをしたが、皆、恋人もいなければ、片想いの相手もいないというのが分かり、それぞれが苦笑し合った後に初恋の話へと話題が変わり、その時に4人はそれぞれの初恋の話をしたが、4人の初恋の相手が同一人物だとは、その時は4人共気付いていなかった。小さな頃の初恋の話というのは、大概美化されているものだという認識を持っていた4人は、それぞれの初恋の話を話半分で聞きながらも、お互いの初恋の相手が何となく似ていることに気付き、お互いに明るくて優しくて思いやりがあって可愛らしい女の子が近くにいたら、絶対好きになるよな……と言い合って盛り上がり、揃って大笑いした。
3年生となり、最後の林間学校となったエイルノンは今日、自分の仲間であるトリプソンやベルベッサーやエルゴールと、自分の永遠のケンカ友達であるイヴの弟であるロキが皆、ヒィー男爵令嬢という女性に虐められて心に傷を負っていたことを知り、昔の自分を振り返ってみた。10年以上前、平民だがお金持ちの商人の子どもだと思い込んでいたエイルノンは、自分で言うのも何だが、当時は所謂”金持ちのお坊ちゃま”であることを鼻にかけた、我が儘な子どもだった。
エイルノンが蜂に襲われたときに助けてくれたミグシスを自分の用心棒にしようと思って、お金なら沢山あると言って勧誘した時、ミグシスは礼を言ってから、自分は自分の愛するイヴから離れたくないから、ごめんねと言ってエイルノンの申し出を丁重に断った。エイルノンは、それまで自分の我が儘が通らなかったことがなかったから、それに腹を立てて、ミグシスの傍にいる自分よりも年下の女の子であるイヴに決闘を申し込んだ。
しかしイヴは体調が良くないからといつも決闘が出来ず、その代理としてミグシスがエイルノンと勝負をすることになり、自分よりも年も体格も上のミグシスに勝てない悔しさから、ミグシスを巡って、いつも自分と決闘出来ない……自分と遊べないイヴに苛立ち、イヴの事情を……イヴの体調不良の原因を知らないまま、イヴに酷い言葉をぶつけたことを思い出し、自分も一歩間違えれば、その意地悪な男爵令嬢と同じになっていたかもしれないと思って、ブルリと身震いした。
(あの時、僕は母にイヴの病のことを聞かされて謝ろうと思ったけど、謝ったことがなかったから、どう言えばいいのだろうと悩み、上手く言うことが出来なかった。イヴが僕と”決闘”をしてくれると言ってくれて、病を抱えながらでも正々堂々と”決闘”で僕に勝ってくれたから……あの時、イヴが僕への手紙に永遠のケンカ友達と書いてくれたから、僕は僕の負けを素直に認められたし、僕は意地悪な子どものまま、イヴと別れなくてすんだんだ。ああ、本当にイヴには感謝しなきゃなぁ。
……フフ、そういや、あの時のイヴは正々堂々と戦ってくれたけれど、中々に策士だったよなぁ。僕の言葉に乗っかる態を装いつつ、年下で病の身を持つイヴでも僕に勝てそうな勝負方法を僕に気付かれないように提示して認めさせると共に、決闘の目的をミグシスを取り合うのではなく、ミグシスに告白する順番に変更させた。あの時点で既に僕の負けは確定し、僕が勝っても負けても、僕はイヴをとても大事に思うミグシスを奪うことが出来なかった……ってことに昔の僕は気付いていなかったものね。
無理難題を言ってくる困った相手に合わせるフリをしながら、自分の望み通りに事を運ぶ機転を5才で持っていたなんて、イヴは本当にすごいや……。あれこそが天性の”王”の器って言うんだろうなぁ……。さすが僕の永遠のケンカ友達!僕も見習わなきゃ!)
エイルノンは懐かしい昔を思い出し、今更ながら自分の永遠のケンカ友達であるイヴに深く感謝し、自分の大事な友人の弟であるロキとソニーを虐める者が現れたときは、自分が守ってやろうと密かに心に誓った。エイルノンが心に誓いを立てている頃、エルゴールとトリプソンとベルベッサーは、今もへディック国にいるはずの意地悪な男爵令嬢……ヒィー男爵令嬢について考えていた。
彼等は12才までへディック国にいたため、ヒィー男爵令嬢が自らの怠惰な性格により、社交に出てこないことも知っていたし、彼女に虐められて首となった使用人達が山ほどいたことも知っていた。ヒィー男爵令嬢は小さな頃から傲慢で我が儘で冷酷で卑屈で怠惰だということが社交界で知れ渡っていたので、貴族達は彼女は貴族に向かない性格故、ヒィー男爵は近いうちに、どこかの貴族の子息を養子縁組し、彼女を修道院に送るだろうと密かに噂し合っていたのを彼等は耳にしたことを覚えていたので、15才になった彼女がまだ修道院に行かずに、学院に入学していたことに大いに驚くと共に、相変わらずの底意地の悪さを知って、眉間に深い皺を寄せた。
(((大人になっても意地悪な性格なのは変わらなかったんだな……)))
トリプソンとエルゴールは、初対面のヒィー男爵令嬢に酷い目に遭わされた後にイヴと知り合い、ベルベッサーはイヴに出会った後に帰国し、そこでヒィー男爵令嬢に出会い酷い目に遭わされた。それにより3人は心が綺麗な善き者もいれば、心が腐っているような悪い者も広い世界にはいるのだということを知り、出来れば、ヒィー男爵令嬢のような者とは今後、一生顔を合わせたくないと考えていたので、へディック国を出国出来て本当に良かったと、しみじみ思っていた。




