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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章の裏側の挿話~6月7月8月
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エイルノン達の林間学校と懐かしい再会⑤

 エイルノン達が特製シーフードカレーの食券をもらって舞台から下りて、衣装を脱ぎ、自分の衣服に着替え、借りていた物を返して、外に出たら、そこにはセドリーがいて、皆が戻ってくるのを待ち構えていた。


「皆様、お待たせしてすみませんでした。運良く海老が手に入りましたし、これで保養所に帰ることが出来ます。さぁ、荷馬車に乗って、早く皆の所に帰りましょう」


 帰りの荷馬車は買い出しの荷物を乗せていたので、エルゴールはセドリーの横の馭者席に座ることにして、保養所に戻ることにした。今日は一日馬に乗って移動していて、疲れていたからか、後ろの荷台に乗っている者達は規則正しい馬車の揺れに揺られて、コックリコックリと頭を揺らし始め、ロキとソニーはエイルノンやトリプソンに膝枕をされて、眠ったようだった。エルゴールは双子達が完全に寝入ったのを確かめてから、小声でセドリーに話しかけた。


「セドリーさん……。もしかしてですが、セドリーさん達がロキ君とソニー君を連れて、林間学校に同行したのは、ロキ君の心の傷を癒やすためだったのですか?」


 エルゴールの言葉を聞き、セドリーはチラリとエルゴールの顔を見てから、前を向いて言った。


「……ええ、その通りです。エルゴールさんは全てお見通しだったのですね……」


「いえ、恥ずかしながら気付いたのは、つい先ほどなんです。私達が今年の特設舞台に出ると決めた後です。あの時、舞台に出ようと私達が全員一致で言い合った後、いきなり多くの人々が私達に話しかけてきたからわかったのです」


 ……それは本当にあっという間の出来事だった。あの時イヴの特製シーフードカレーの食券に釣られて、舞台に出ようと言い合った直後、それまで人の気配など感じていなかった場所に急に多くの人々が現れて、エイルノン達6人に、自分達は”祭を全力で楽しみ隊”の者なのだと名乗り、6人が舞台に出るなら、自分達の小道具を貸すから、全力で祭を盛り上げてくれと言って、6人分の衣装やら小道具の模造剣やらを貸してくれ、着付けまでしてくれたのだ。


「こんな遠方の地で大人の衣装や模造剣はともかく、ロキ君やソニー君の体にピッタリ合った忍者の衣装や、神楽舞の時に身に付ける鈴を持っている人がいるなんて、どうにも不思議な話です。それに極めつけはお嬢様の……イヴさんの考案したという特製シーフードカレーです。例えバッファー国の”英雄”が可愛がっているという者でも、他の者達にとってはイヴさんは”英雄”でもなければ”王位を持たぬ王”でもない一般人に過ぎません。それなのに何故、イヴさんの考案した料理が、異国の町で行われる祭の特設舞台の出場者への参加賞品となっていたのか?……どう考えてもイヴさんのことが大好きなロキ君達を舞台に引っ張り出すために、セドリーさん達が予め、準備していたようにしか思えませんでしたから……」


 エルゴールがそう言うと、セドリーはフッと小さく笑った後に、こう言った。


「イヴ様がね……。イヴ様がロキ様の心の傷に真っ先に気付かれたのです。それで私どもにロキ様の身に何が起きたのかと7月の21日の夕方、”観劇”を見る前に尋ねられ……私どもは、そこで初めてロキ様の心が傷ついていたことを知らされたのです……」


 イヴがそれに気付いたのは7月の21日に再会したときだった。イヴは数ヶ月ぶりに会う弟のロキに会えたのが嬉しくて、抱きしめても良いかと尋ねたのだが、この時、ロキは素直にイヴの胸に飛び込んできたのだ。


「イヴ様より5つ下のロキ様とソニー様は今、思春期の真っ只中で、家族の者達からの抱擁やキスを嫌がるようになっていたのですが、あの時、イヴ様の身体にしがみつくようにしてロキ様はイヴ様からの抱擁を求めていたので、イヴ様は我々の誰もが気付けなかった、ロキ様の心の痛みに気付かれたのです」


 セドリーは数ヶ月前のことを思い出し、苦々しい表情となった。あの時、セドリー達はルナーベルを学院にいるカロン王の息子や取り巻き貴族の息子達から守るために学院に潜入し、充分に警戒もしていたし、グランの息子であるロキもしっかり守っているつもりだった。あのヒィー男爵令嬢のこともイヴを断罪するヒロインとして生まれついているため、警戒はしていたが、それは僕イベに関することだったので、まさか女装したロキの美貌に嫉妬したヒィー男爵令嬢が、セドリー達の一瞬の隙をついて、1人っきりとなったロキの元に出向いて頬を抓るだなんて予想もしていなかったのだ。


 あの時、ロキは頬を抓られただけだから大丈夫だと言って、何も感じていないように平気な顔をしていたので、セドリー達はそれを信じて、学院長を通じてヒィー男爵家に警告しただけで済ませてしまい、ロキの心の傷に気付かず、ロキの心に寄り添うことを怠ってしまった。あの後、ロキはルナーベルに学院の避難経路を遊びという形で教えこむという役目があったので、ルナーベルに付きまとい、一人っきりになることがなかったから、その後はヒィー男爵令嬢に危害を加えられることはなかったが、ロキの心は傷ついたままだったのだ。


「いくら大人並の筋力や胆力があるからとはいえ、ロキ様はまだ10才の子どもです。知らない大人の人にいきなり頬を抓られたのは怖かったはずです。なのに私どもはロキ様の身になったつもりで、考えようとしなかったから、ロキ様の傷に気づけなかった……私どもこそ忍者失格なのです」


 イヴにロキの異変を指摘され、その事に思い至ったスクイレル達は直ぐにロキにあの時のことを謝ったが、ロキの心の奥深くについた傷は直ぐには癒やされなかった。そこでロキの両親とスクイレル達は”観劇”を見終わった後に集まり、ロキの心を癒やすためには、どうすればよいのかと話し合った。


「ロキ様の心の傷を癒やすために、私どもは”夏の特別体験学習”だと言って、ロキ様とソニー様を林間学校に同行させることを思いつきました。夏の楽しい休暇をソニー様や学院生達と思う存分楽しむことで、ロキ様の心の気晴らしが少しでも出来ればよいと思ったからです。それに旅行をすれば、広い世間をロキ様やソニー様に見せることが出来ます。今までロキ様とソニー様はバッファー国のリン村で大切に育てられていましたので、お二人は自分を嫌う者や危害を加えようという者に会ったことがなかったのです。世の中は広く、善い人ばかりではなく、悪い人も沢山いて、時には不条理だと思う事柄をぶつけてくる輩もいるということをお二人に見知ってもらい、心に免疫を……耐性をつけてほしいと考えたのです。


 そして……出来たら、この林間学校でロキ様がスクイレルの者ではない第三者の者……学院生の誰かと親しくなれれば良いとも私どもは考えました。ロキ様はイヴ様に似て、真面目で責任感が強く、いくら私どもが悪いのは我々の隙を狙って、ロキ様が一人っきりの時に暴行を働いた姑息なヒィー男爵令嬢であって、ロキ様には少しも落ち度はないのだと言っても、頬を抓られたのは自分が自衛を怠っていたのが悪かったからだとロキ様は思いこまれて、それを1人で何度も思い出しては、何度も思い出す度に傷ついておられました。だからこそ家族ではない者にロキ様自身が心の痛みを打ち明け、その者からロキ様は悪くない、悪いのは加害者であるヒィー男爵令嬢だと、はっきりと言ってもらえたら、ロキ様の心は癒やされるのではないだろうかと思ったのです。


 ……勿論、ロキ様はスクイレルの者ですから、人の心の機微に聡く、私どもが学院生達に先に事情を言ってしまえば、それがロキ様に伝わって、我々が学院生達にそう言わせているのだと思われてしまいますので、これは一種の賭でした。そうなればよいけれど、そうならない可能性の方が高かったので、我々はこれにはあまり期待を置かず、最終手段として、旅の終盤に訪れる町でロキ様の大好物である、イヴ様の特製シーフードカレーを何気なさを装って自然な形でロキ様に食べてもらって、元気を取り戻してもらおうと考えたのです。


 そこで私どもは早馬をこの町にいる”銀色の妖精の守り手”達に出し、ロキ様に違和感なく、イヴ様の考案した特製シーフードカレーを食べさせる手筈を整えるようにと命じていたのですが、その方法がこんな祭の出し物の参加賞品という形にしたとは……あまりにも斬新な方法だったので、私は驚いてしまいましたが、結果として、ロキ様はエルゴールさんに悩みを聞いてもらい、心が軽くなった後に得意の神楽舞を舞い、良い気分転換が出来、ヒィー男爵令嬢につけられた心の傷が癒えたようなので、今回林間学校に同行出来て、本当に良かったと思いました。エルゴールさん、ロキ様を元気づけてくれて本当にありがとうございました。後ろの皆さんもロキ様とソニー様の事をいつも可愛がって下さって、本当にありがとうございました」


 セドリーは隣に座るエルゴールに深く頭を下げ、後ろを振り返り、軽く頭を下げた後、馬車の運転をするために、また前を向いた。エルゴールはセドリーに釣られる形で後ろを向くと、そこには真剣な表情のエイルノンやトリプソンやベルベッサーがいて、労しげに双子達を見つめていた。

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