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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章の裏側の挿話~6月7月8月
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エイルノン達の林間学校と懐かしい再会③

 エルゴールは学院長達の話を聞き終わった後に、しばし考えてから、こう言った。


「多分なのですが……それほど心配しなくても大丈夫なのではないでしょうか、学院長先生。」


 エルゴールの言葉を聞いて、学院長が尋ねた。


「どうして、そう言えるのかね、エルゴール君?」


「だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「「「「「あっ!そういえばそうだ!」」」」」


 エルゴールの言葉に学院長や教授達……トゥセェック国の前王や元重鎮達はハッとした表情になった。ロキやソニーの傍にいるセドリーやアダム、イレールやアイビーといったスクイレル達は、グランやグランの家族を守る一族である。彼等スクイレルは、”片頭痛”という”気のせい”に日々苦しめられているイヴを溺愛し、彼女が幼い頃には忍者体操や馬車の安全帯を開発したり、彼女が12才で大人の女性になったときには、女神のごとき美しさとなった彼女が攫われたらどうしようと心配に思ったことがきっかけで、彼女が住むリン村周辺だけではなく、国中の犯罪者を捕獲し、ついでに隣国の犯罪者まで捕まえてしまった程、彼女を守ることに闘志を燃やし過ぎて暴走してしまう者達であった。


 そんな彼等がイヴに死の呪いをかけただろう女悪魔を気にかけないわけがない。彼等がグランやイヴの病を治すために興したスクイレル商会には、普通の商人もいるが、彼等の手足となる”銀色の妖精の守り手”と呼ばれる忍者集団もかなり含まれていて、スクイレル達はグランやイヴを守るため、彼等にあらゆる情報収集をさせていることを学院長達は知っていた。スクイレル商会の商人達は全国に散らばっているから、それこそ学院長達よりも早く、女悪魔の特徴を持つ遭難者の情報を掴んでいたはずであっただろうし、彼等がそれを知ったのなら、それを放置したままにするはずもなく、必ず確認をし、何らかの対処をするために動いているはずであった。


 それなのに林間学校の後半課程に同行している彼等はロキとソニーの傍から離れずに、今も旅の準備をたわいもない会話をしながら行っているだけで、何も動いてはいないのだ。きっとスクイレル達は”銀色の妖精の守り手”達に遭難者の事を調べさせて、「問題なし」と結論づけたに違いない。そう考えに至った学院長達は、ホゥ~と長く安堵の溜息をつき、胸を撫で下ろした。


「エルゴール君の言った通りだな。スクイレルの彼等が何も動いていないと言うことは、遭難者はただの異国人の遭難者だと言うことだろうから、心配しなくてもいいだろう」


「そうですね!我々の思い過ごしでしょう!最後の神の見たい物語は、イヴちゃんがミグシス君と結ばれる事で終わったんだから!」


「ああ、良かった!では、遭難者が女悪魔の特徴を持つ者だったのも、単なる偶然だっただけですね!……でも、何だか悪魔に似た人間が我々の国にいるというのは、嫌な感じがしますね」


「そうですな、何だか落ち着かない感じがする。出来たら国の外に出てもらいたいですな」


「先ほどの者の報告では遭難者は自分の名前はピュアで外国の公爵令嬢だと言っているそうですから、それが本当なら外国の方から問い合わせか、迎えの使者が来るはずです。それが来たら、即刻退去してもらいましょう!」


 学院長達がそう話し合っているのを聞いていたエルゴールは、ふと遭難者が名前や身分を偽っている可能性もあるかもしれないと思ったが、そうであったとしても、スクイレルの忠実な”銀色の妖精の守り手”が、それを調べていないわけがないとも思ったので、学院長や教授達と共に、それ以上遭難者について悩む必要もないだろうと話し終え、皆は遭難者のことで頭を悩ませるのを止めることにした。


 それでも学院長達やエルゴールは、その後のスクイレル達の行動を気にかけてはいたが、彼等はロキとソニーが昼午睡から目覚めた後も、双子達から離れることもなく、またスクイレル商会の商人達がスクイレルの彼等を訪ねてくることもなかったので、どうやら本当に安心しても良さそうだと判断し、明日の林間学校のことに集中することにした。






 エイルノン達学院生達が、その南部の町についたのは夕方4時を少し回ったところだった。8月の最初の土曜である今日は町で食の祭が行われていたが、今日は祭に参加をする予定ではなかったので、旅の一行は町を素通りし、宿泊先である町外れの保養所に向かった。赤煉瓦の建物に緑の蔦が絡む建物から出迎えた保養所の者達は、皆彼等を歓迎してくれたが、彼等は保養所の者達が窶れ疲れ果てている様子を見て、たいそう驚き、心配する声を次々と上げ、保養所の者達の身に何が起きたのだと尋ねた。


「実は二、三日前に浜辺で発見された女性の遭難者を一時こちらで預かり看病をしていたのですが、彼女は、とにかく傲慢で我が儘で治療に全く協力的でないどころか、医師や看護師を道具扱いして、暴言を吐きまくるわ、医療用のアルコールを盗んで飲もうとするわ、少しでも自分よりも綺麗だと思った者を悪し様に罵って蹴ったり抓ったりするわで、皆とても困っていたのです。幸い、彼女の国から彼女を迎えに来られた方々が現れたと町の者が知らせに来ましたので、やっと保養所から彼女を追い出すことが出来たのですが、彼女が散らかしたままにしていた部屋の掃除につい先ほどまで掛かってしまったので、疲れているだけなんです」


 グッタリとした様子の保養所の者達の説明を聞いた学院生達は、皆一様に顔をしかめ、エルゴールとトリプソンとベルベッサーが眉間に深い皺を寄せたので、エイルノンは彼等にどうしたのかと尋ねた。すると眉間に皺を寄せ、普段の怖い顔がさらに鬼のように怖くなったトリプソンは躊躇いがちにこう言った。


「いやな……。ちょっと、子ども時代に会った嫌な男爵令嬢によく似ているなと思ってしまったものでな……。俺は昔、祖父と武者修行の旅で色々な地を旅していたんだが、その旅の途中で出会った男爵令嬢に、”熊のプーソン”とからかわれてな……。俺は昔から怖い顔をしているから、熊や鬼と恐れられていたんだが、そう言われてからかわれたのが一番辛かったんだ……」


 トリプソンが辛そうな声音で言うと、ベルベッサーも自分もトリプソンと同じだと言った。


「私もだよ。……昔の私も4月までの私と同じように太っていてね。その外見のことで、ある男爵令嬢に酷い言葉をぶつけられたんだ。今は大人だから太っていることをからかわれても平気で受け流すことが出来るけど、当時の私は子どもだったからね。それがとても……とても辛かったんだ。大人になった今でもその時の夢をたまに見ちゃうんだけどね。凄く怖くて、辛くて、嫌で、夜中に飛び起きたら、汗ビッショリになってたってこともよくあるんだよ」


 エルゴールも自分もたまにそういう夢を見ると言って、地面に視線を移して話し始めた。


「私は7才の頃、神子姫エレンとして、父と一緒に貴族家に訪れて神楽舞を舞っていたのですが、ある男爵家に出向いた所、私の容姿が気に入らないと、そこの男爵令嬢に生ゴミをぶつけられたのです。彼女は傲慢で我が儘で、自分よりも美しい者……特に美しい女を嫌っていたようなんです。神子姫の衣装は性別がわからないような仕立てのものですし、私は母親にとてもよく似た女顔をしていましたから、女性に間違えられても仕方なかったのですが、当時の私は女性に見える自分自身のことを、あまり好ましく思っていなかったものですから、そう間違われて、生ゴミをぶつけられて虐められたことが、とても嫌で悲しかったんです」


 3人の話を続けて聞いた他の学院生達は、3人が3人とも男爵令嬢に酷い目に合ったと話したことに、とても驚いた。学院生達は気の毒そうにエルゴール達を見て、こう言った。


「「「ええ~!3人とも男爵令嬢に虐められたってこと?へディック国の貴族令嬢って皆、そんなに性格が悪い女の子ばかりなの?君達、あの国を出られてホントに良かったね」」」


「僕は7才までバッファー国の保養所にいたし、12才までへディック国の城の後宮で育てられていて、そのままへディック国から出ることになったから知らなかったけれど、へディック国には意地悪な貴族令嬢達が沢山いるんだね……。僕もあの国から出られて本当に良かったよ……」


 エイルノンが顔を青ざめさせてそう言うと、3人は互いに視線を絡ませ合った後、エルゴールが代表して、こう言った。


「実は私達を虐めた男爵令嬢は同一人物なんですよ。他の貴族令嬢達は皆、そうではありませんでした。そりゃ、多少は傲慢な令嬢や我が儘な令嬢や意地悪を言う令嬢もいたことはいましたが、それは性別や年齢や身分を問わず、どこの世界にだって、そういう人は少なからずいるということを、私は12才でこの国に来て、平民として暮らすようになって知りました。それでも彼女ほど酷い性格をしている人に今まで出会ったことがありませんでしたから、私は彼女は特殊な人間……特別に酷い性格をしている人間なのだろうと思っていたのです。でも異国にも彼女のような酷い性格をしている人がいるんですねぇ……。まぁ何はともあれ、その彼女が出て行ってくれて、本当に良かったですね」


 エルゴールがそう言うと皆はそうだなと頷き合い、良かった良かったと言い合って、気を取り直して夕食の支度をすることにした。夕食の買い出しにはエイルノン達4人とロキとソニーが出ることに決まり、買い出しの荷物を運ぶための荷馬車の馭者はセドリーが務めると名乗り出たので、一堂は馬車の荷台に乗り込んで町まで繰り出した。

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