エイルノン達の林間学校と懐かしい再会①
エイルノン達視点での話となります。
7月の22日の午後、貴族クラスと平民クラスの二年生、三年生達……”3つの国から選ばれた、将来を担う若者育成クラス”の学院生達はバーケック国の学院を出て、林間学校の続きを行うことになった。彼等はピュアの祖国の悪人どもに狙われていると予想されるイヴやピュアのことを心配したが、バッファー国、トゥセェック国、バーケック国の三カ国は、彼等の国民を幸せにした”スクイレル”に言葉に出来ぬほどの感謝の気持ちを持っていたため、この三カ国の民達は既に”銀色の妖精の守り手”と化していたので、その心配は軽度のものだった。
三カ国の国民自体が”銀色の妖精の守り手”としてスクイレルの手となり、足となり、目となっていることに加え、バーケックのスクイレル村の村人達である学院にいる平民クラスの一年生達……”銀色の妖精の守り手上忍育成クラス”の者達が、自分達の親友でもある”銀色の妖精姫”を守るため、バーケックの学院を包囲し、さらにはルナティーヌの私兵や現バーケック国の国王が寄越した精鋭騎士部隊がそれに加わっていて、蟻も入る隙間もないくらいの鉄壁の守護が施されていたからだ。
彼等はイヴを守るためにバーケックに残ったマーサとノーイエとタイノーとエチータンの指示の元、学院の中で蜜月休暇を過ごしているイヴとミグシス、ピュアとジェレミーに勘付かれることのないように、静かに……とても静かに守備についていた。……なので貴族クラスの学院生達は安心して、林間学校の続きを行うために旅立つことが出来た。
この林間学校の後半課程では、イヴの双子の弟達も”夏の特別体験学習”だと言って、一緒に同行していた。彼等はイヴよりも5才年下であったが、大人顔負けの体力と胆力があり、一緒に旅する内に学院生達とイヴの双子の弟達は、すっかり仲良しになっていた。特に双子が懐いたのはイヴの永遠のケンカ友達であるエイルノンで、明日は海辺の町にある保養所に向かうという日の前日も、双子は虫網と虫かごを持って、エイルノンの部屋に突撃した。
「「エーイールーくーん、あっそびましょー!」」
双子の突撃してきた時間は早朝4時で、とても早い時間だったが、エイルノンは自らも虫網と虫かごを既に用意した状態で、直ぐに扉を開け、遊びに誘いに来た双子に気安く返事をした。
「いーいーよー。……って、あのな、ロキとソニー。せめてエイルお兄さんと呼んでくれないかな?」
エイルノンがそう言うと双子は、お互い顔を見合わせた後に、口を尖らせてこう言った。
「え~?エイル君はエイル君だよ~。お兄さんと言ってもらいたいなら、今日こそは僕らよりも先にカブトムシを捕まえなよ~」
「そうだよ。エイル君ったら鬼ごっこも木登りもかけっこも僕らに負けてるんだもん。僕らに勝ったら、お兄さんって言ってあげるよ。さぁ、それよりも早く行こうよ。セドリーさんとイレールさんが先に行ってカブトムシを探してくれているからさ!」
「わ、わかった!よし、今日こそは二人よりも先にカブトムシを捕まえて、お兄さんと呼ばせてやるぞ!」
「「あはははは!よし、それなら今日は競争しようか!一番多く取った人が優勝だー!先に行くね、エイル君-!」」
エイルノンの傍にいたロキとソニーは、そう言って走り出すと、あっという間に随分先まで走って行ってしまった。エイルノンが慌てて追いかけた先ではセドリーとイレールの他にトリプソンもいて、トリプソンはソニーを肩車してセミを捕まえている真っ最中だった。エイルノンはセミが逃げないように足音を立てずに近づくとトリプソンに小声で言った。
「あれ?トリプソンも誘われてたの?」
「いや、俺は早朝鍛錬をしてたんだよ。……ほら、ソニー、そこだ!」
トリプソンの声に合わせ、ソニーが虫網を振り下ろし、そっと中を確認したソニーは満面の笑みで言った。
「やったー!ミンミンゼミを捕まえたよ-!」
トリプソンの肩に乗ったまま、両手を振って喜ぶソニーにセドリーが笑顔で近づき、ソニーから虫網を受け取ると両手を差し出して言った。
「やりましたね、ソニー様!ほら、セドリーが支えますから、こちらにどうぞ……。おおっ、ソニー様も随分大きくなられましたね!ずっしりと重くなられて、セドリーは嬉しく思いますよ!」
「エヘヘ……、そうかな?僕、大きくなったのかな?だと嬉しいな!……あれ?ロキは?」
「ロキ様でしたら、あちらでイレールとカブトムシを追われています」
「え!?ロキ、ずるい!カブトムシはエイル君が来てからって、約束してたのに!ほら、エイル君!行くよ!トーリ兄様も一緒に行こう!ねぇ、セドリーさん、他にカブトムシがいるところを知ってる?」
「ええ、もちろんですよ。さぁ、こちらです、ソニー様。カブトムシを沢山捕まえましょうね!」
セドリーの案内でソニーとエイルノンとトリプソンは森へと入っていき……二時間後、ヘトヘトに疲れた様子のエイルノンとトリプソンと、ご機嫌な様子の双子達とセドリーとイレールが虫かごいっぱいのカブトムシやらセミやら、その他もろもろの虫を捕まえて宿屋に帰ってきたのを見かけたエルゴールとベルベッサーが出迎え、本日の狩りの獲物を自慢げに双子が説明した後、皆で食堂に向かった。
林間学校の前半は要人保護を想定した模擬演習が行われたが、後半は学院生達の夏の保養が主な目的だったため、学院に戻る旅に出るまで、彼等はそれぞれ思い思いに夏を楽しむこととなり、ロキとソニーは自分達の家族であるセドリーとイレールとアイビーとアダムやエイルノン達と、旅先で虫取りやビー玉遊び、湖での水遊びや鬼ごっこや隠れん坊をして、めいいっぱい夏遊びを堪能していた。
「「ねぇねぇ、エイル君。明日、到着する町で、お祭りがあるってホント?」」
朝食を食べながら双子に尋ねられたエイルノンは、ああ、そうだよと答えた。
「あの町は月初めの土日は町を挙げて祭を開くんだ。美味しい食べ物のお店がいっぱい出て、輪投げや射的なんかの遊戯が出来る所もあって、役場前の舞台では色んな人が出てきて、歌ったり、踊ったりするんだ」
「「へぇ~!面白そう!ねぇねぇ、明日は僕らもお祭りに行くの?アイビーさん?」」
ロキとソニーは双子のためにお代わりのスープを入れてきたアイビーに尋ねた。
「いいえ、ロキ様、ソニー様。行くのは明後日となっているそうですよ。そうですよね、エルゴールさん?」
アイビーは林間学校の実行委員長をしているエルゴールに問いかけた。エルゴールは、ええ、仰る通りですと言って、林間学校に同行しているイヴの家族達に、その訳を説明し始めた。
「林間学校の前半は実践的な模擬演習でしたから、国も民も協力してくれていましたが、林間学校の後半は我々の保養が目的ですからね。町の中を速い速度で馬を走らせることは出来ないでしょう?ですから明日、あの町に着くのは早くて4時過ぎではないかと僕ら実行員は予想しています。そうなると保養所に荷物を預けて町に繰り出すのは、祭の夜になってしまいます。いくら学院生達の多くが成人しているとは言っても、私達はまだ学院生ですからね。夜にフラフラと出歩くような行動は控えるべきでしょう。私達は”3つの国から選ばれた、将来を担う若者育成クラス”の者としての本分をわきまえなければなりません。
それに、あの町の人達は気さくで親切な人が多いのですが、その反面、とても祭好きで噂好きで酒好きなのです。祭の日の二、三日前から祭を楽しみにし過ぎて町全体が浮かれ興奮状態となり、祭に向けて景気づけだと言って、連日酒盛りしていることが多く、気持ちが盛り上がりすぎて酩酊状態となっている一部の者が祭の初日の夜に悪乗りして騒動を起こすことが多いらしいので、私達は祭の夜には顔を出さない方が良いと判断しました。だから明日、町に出るのは夕食の買い出しをするくらいです。そうですよね、副実行委員長?」
エルゴールに話を振られた副実行委員長のベルベッサーは、お代わりのパンを慌てて飲み込んだ後、言った。
「ああ、そうだよ、エルゴール!えっとね、明日は朝から夕方まで移動で、町に着くのは夕方頃の予定なんだけど、その日の天候によっては夜になるかも知れないだろう?だから毎年、保養所では夕食の食材の用意はしてもらわないことにして、調理機材だけ用意してもらっているんだ。で、向こうに着いたら町で夕食の食材だけを買いそろえて、保養所の傍の海岸で野外料理……えっと、バーベキューって名前でしたっけ、カインさ……アダムさん?」
ベルベッサーは、セドリーとイレールと座って食事をしているアダムに尋ねた。
「ええ、バーベキューですよ。ライト様が教えて下さった料理ですね。ロキ様もソニー様もお好きな料理ですから、明日はうんとお召し上がり下さいね!」
「「わ~い!バーベキューだ!明日が楽しみ!お肉をいっぱい食べようね~!」」
ロキとソニーが嬉しそうに笑っているのを見て、エイルノン達やセドリー達は微笑みながら自分達の食事を続けた。




