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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章の裏側の挿話~6月7月8月
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ゲームではないリアージュのバッドエンド⑥

 毎月の祭の日の特設舞台で行われるものは二部構成となっていて、昼の部は大道芸が行われたり、地元の有志の子ども達や婦人会による合唱や踊りが披露されたり、のど自慢大会やくじ引き大会が行われたりして、子どもがいる家族連れでも楽しめるような出し物が中心となっているが、夜になる前に子どもがいる家族連れは家に帰るので、夜の部は大人がお酒を飲んで楽しめるような歌や踊りといった出し物が中心となって祭の夜を大いに盛り上げていたが、今月はいつもとは違う熱気に包まれて、町の者達は今か今かと昼の部が終わるのを待ちわびていた。


 特設舞台に出る参加者のために設置された天幕の中では、皆のここだけの秘密を知り、男達に協力しようという善意の者達が幾人も名乗り出てきて男達を取り囲み、それぞれに彼等に似合う衣装を着付けたり、髪を整えたり、顔色がよく見えるように化粧をしたりして、男達が少しでも公爵令嬢に気に入られるようにと、ああでもないこうでもないと議論し合い、本人達以上に熱意を持って、彼等を物語に出てくるような王子様に見えるように仕上げることに夢中になっていた。


 特設舞台では、昼の部の最後の参加者達が舞台に上がっていた。昼の部の最後の参加者達は双子の男の子達と4人の青年達だった。彼等は王都にある国立学院の学院生達と学院教員の子達で、この町には学院の林間学校で来たとのことだった。彼等は今日の午後4時頃に町に着き、今夜は浜辺で学院の者達と野外料理を作って食べることになっていたので、その買い出しのために町に訪れたのだが、特設舞台で何かの演目をやればもらえるという参加賞の景品のことを耳にして、どうしてもそれが欲しくて、飛び入り参加してきたのだという話だった。


 彼等の目当ての景品とは、舞台に出た者だけに配られるという特製シーフードカレーの食券だった。その特製シーフードカレーとは、バッファー国の食聖と呼ばれる”英雄”が溺愛しているという薬草医の娘が考案したと言われている特別製のシーフードカレーで、バッファー国では、これを食べたら一年間は風邪を引かないと言われるほどに栄養価の高いリン村の夏野菜がふんだんに入れられているシーフードカレーだった。


「え~、次は仲良し6人組による剣を使った演舞だそうです!はい、では皆さん張り切って、どうぞ!」


 司会者役の実行委員が促した後、6人は何かブツブツと言いながら舞台に上がってきた。


「「僕らの姉様のシーフードカレーの味が正しく再現されているか、どうしても確かめなくちゃ!」」


「僕の永遠のケンカ友達が考案したシーフードカレーなら、絶対に食べなくちゃな!」


「お嬢様のシーフードカレー……、お嬢様の……。おお、神よ!感謝します!あの黒狼はお嬢様のお弁当をこれ見よがしに見せびらかすくせに絶対に分けてくれませんでしたからね!これはまたとない絶好の好機!何が何でも食券をもらいますよ!」


「ああ、そうだな!あの弁当、すっごく美味しそうだったもんな!それに俺の妹分の考案したシーフードカレーなんだから、兄貴分としちゃ食べないわけにはいかないだろう!」


「私の姉弟子のシーフードカレーは、素晴らしい薬膳カレーだと父は言っていましたからね!これは薬草医を目指す身としては、是非とも食さないといけません!」


 舞台袖から二人の子どもと4人の青年達が舞台の前に出てくると、それまでざわついていた観客達は、皆一堂に黙り込んだ。4人の青年の内、ゆるやかに波打つ黄緑色の髪の青年が一歩前に進み出てきて、剣の演舞を始める前に、この舞いはここにいる町の人達の健康と幸福を祈ると共に、今、隣国で行われている、最後の神の見たい物語を終わらせている者達の無事を祈るために捧げると口上を述べると、祝福の詔を口にし出した。


 青年が詔を謳うように口にし出すとそれを見ていた観客達は、そこにいる青年が学院生ではなく、どこかの偉い大司教であるかのように見えて、詔が終わるまで目を閉じて、自分や家族や友人達といった皆の健康と幸福を願い……隣国の神の見たい物語を終わらせるために頑張っている者達の無事を祈った。青年は詔を終えると横笛を取り出し、唇に当てると一音鋭く横笛を鳴らせた。するとそれが合図だったのか、2人の子ども達が前に進み出て、3人の青年達は子ども達を取り囲むようにして、剣による演舞が始まった。


 5人は黙ったまま、一礼すると皆の見守る中、黄緑色の髪の青年が奏でる横笛の曲に合わせて、剣を持って舞を舞い始めた。中央で踊っている子ども達は燃えるような紅い髪が肩の辺りまである、とてもよく似た双子だった。まるで鏡合わせに踊っているかのように息がピッタリとあった双子は、真っ赤な忍者装束に身を包み、手首足首につけられた大きな鈴は2人の舞に合わせ、キレのある力強さで鳴っていた。剣を使った演舞では黒装束姿の3人の青年達は双子達を襲う悪者を演じ、入れ替わり立ち替わり、時には同時に襲いかかるようにして舞い、双子達は舞いながら、それを優雅に交わし、2人で協力しあって、最後は3人に勝利するという形で彼等の演舞は終わりとなった。





 舞台袖にいた4人の男達は、不安な気持ちでいっぱいだったので、舞台の上にいる者達に関心を払ってはいなかったのだが、突然の観客席の方から聞こえる割れんばかりの拍手と歓声に驚き、そっと天幕から舞台の方を窺い見た。


「お疲れ様でした!皆さん、とても素敵な演舞でしたね!では、これが特製シーフードカレーの食券です。これの引き替え期限は明日の夕方4時までとなっていますので、忘れずにお使い下さいね!」


「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」


「「嬉しいな、明日の自由時間に、皆で食べに行こうね!」」


「おう!皆で食べて、学院に戻ったらイヴを驚かせてやろうぜ!」


「ふふっ、お嬢様、どんな顔をされるでしょうね?楽しみですね」


「おいおい、あんまり俺の妹分を驚かせると、あいつが魔王化するから程々にな」


「そうですよ!彼、ホントに怖いんですから!私はまた泡を吹いて倒れてしまうのは嫌ですよ!」


 男達は6人組が嬉しそうに食券を貰って、何やら楽しげにお喋りしながら舞台から去って行く姿よりも、その6人組の演舞に感動している観客達の人の多さに度肝を抜かれてしまった。


「「「「あ……あんなに人が集まっている。これはもう逃げられないぞ……」」」」


 引くに引けなくなった男達は舞台中央に出てきた司会者に視線を移した。


「これで昼の部は終了となります。皆様、長い時間のご観覧ありがとうございました。お帰りになる方々は忘れ物のないように気をつけてお帰り下さい。小さなお子さんのいるお家の人はお子さんの手をしっかり繋ぎ、迷子にならないように気をつけて上げて下さい。え~、突然ですが、役場からのお知らせです。6才の男の子を迷子として本部で預かっております。ご家族の方は至急、本部まで来て下さい。繰り返します。6才の男の子を迷子として本部で預かっております。ご家族の方は至急本部まで来て下さい。


 ……え~、本来ならば、この後30分程休憩を挟んでから、夜の部を始めさせていただくのですが、今日は、今日だけは特別に少々、ここにいる皆様に秘密のご相談があるのです。実はですね……」


 そう言って司会者が語るのは、男達がついた嘘の上に地元の者が嘘を重ねがけして、それをさらに町の者達が他の者達に、ここだけの秘密の話としてさらに話を誇張して語り伝え広まった、()()()()()()()()()()()()()だった。司会者はそれを語り終えると、自分達は男達に同情したので、それに少しだけ、皆も協力して欲しいというお願いの話をした。


 ちなみに、そこで話された、ここだけの皆の秘密の話の内容は……3年前、遠い異国に沢山の貴族の子息達に思いを寄せられ、求婚された一人の公爵令嬢がいたのだが、彼女は彼女自身の幼い外見と同じ位に幼い心を持っていたので、結婚に対し真剣に考えられず、誰も選べないと悩み、国外へ飛び出してしまった。貴族の子息達は二手に分かれて3年間も彼女を探し回り、ついに、この国に彼女がいることを突き止めたのだが、海路を選んだ貴族達は不運にも海上で嵐に遭い、気の毒なことに皆、その命を失ってしまったのだ。その事を知り、落ち込んでいた彼女の元に、陸路で彼女を追っていた残りの子息達が姿を見せたのだが、不幸なことに彼女は黒づくめの旅装束姿だった彼等を人攫いだと誤解して恐れおののき、うっかり足を滑らせて川に落ちて、ここまで流されてしまい、しかも長く水に浸かっていたことで彼女は熱病を患い、その影響で記憶の混濁が見られる……というものであった。


 司会者が皆に協力を請うたのは、この不幸な男達は今、親切な町の者達によって、人攫いだと彼女に思われないように綺麗な姿となっているので、ついでに男達の求婚もまるで恋愛物語の最終局面みたいな演出にしてあげたいから、夜の部が始まる前の少しの時間だけ、特設舞台を男達に使わせてあげることを許して欲しいというものであった。観客席にいる者達は、既に男達の不幸な秘密の話を()()()()()()()聞いて知っていたので、快諾の意味を込めて拍手し……天幕に控えていた4人の男達は、いよいよ追い詰められていった。

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