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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章の裏側の挿話~6月7月8月
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ゲームではないリアージュのバッドエンド④

 海岸で悲嘆に暮れていた彼等に地元の者達は酒でも驕ってやるから、そう落ち込むなと慰めの言葉をかけ、大衆酒場に皆を引き連れ行ってくれ、安酒を驕ってくれながら、件の貴族の令嬢らしき人物の話を話してくれた。


「これはな、俺達の飲み友達で漁師をやっているヤツから聞いた話でな。そうだなぁ……確か、あれはもう直ぐ7月が終わろうとしていた頃……今年の夏は去年とは違って、何故か海上でばかり雨嵐が何度も起きて、それが何日も続いたりしていたから、しばらく漁に出られなくて困っているとヤツが泣いた次の日だったと思う。海岸に少女とおぼしき人間が倒れていたと言うんだ。なぁ、そうだったよな?」


「ああ、そうだったよ。あいつは始め、どこかの子どもの水死体かと思って焦ったって言ってたもんな。それで……」


 地元の者達の飲み友達の漁師は、その日、漁で使う網の点検に海岸に訪れた時に、うつぶせで倒れている人間を見つけて驚き、慌てて駆け寄ろうとしたが、倒れている人間の顔や手足に赤い斑点のような発疹が見えたので、何かの病気で死んでしまった人間かと思い、駆け寄るのを止め、海岸を守る警備の者や医師を呼びに走ることにした。漁師の呼びかけに数人の警備の者達と医師が応え、皆で海岸に戻った所、漁師が見つけた人間は、仰向けになって高いびきで眠っていた。皆は生きていたのかと安堵し、こんなびしょ濡れの状態でよく寝ていられるなと呆れたりしたらしい。


 水死体が打ち上げられたのかと思っていた者達は気持ちを新たにして、その寝ている人間の様子をよく観察することにした。仰向けになっていることで顔かたちや体型が明らかになり、漁師や警備の者達や医師の初見での観察で、皆はその寝ている人間が12才前後の少女のように思えた。髪はピンク色で、眠っているから瞳の色はわからなかったが、初めて見る顔だったので、町の人間ではないことがわかった。


 感染症を疑う皆の見守る中、医師の目視による視診が行われた所、詳しいことは全身を診てみなければわからないが、赤い斑点は服で覆われていない、顔や首や手足の至る所にあるのが確認でき、赤い斑点の周囲に無数の掻き傷も確認できたので、どうやら赤い斑点は痒みを伴うものであり、それを掻き潰した体液が、他の体の部位についたことで移り広がったのではないだろうかと医師は考えた。


 医師は自分の考えを警備の者達に伝えると、自分よりも詳しく診断が出来るだろうバッファー国出身の医師に来てもらう必要があると告げた。10年前にへディック国を襲った流行病のような恐ろしい病の可能性を考慮し、専門家に診てもらうまで、この人間の隔離が必要だと警備の者に進言した。さらに医師は倒れている人間の体に掻きむしったような古傷もいくつか見つけていたので、ハッキリとした日数はわからないが少なくとも、この症状が、この人間に起こったのは一、二ヶ月前だったのではないかと推察できるので、眠っている本人からも詳しく事情を聞いた方が良いだろうと意見を述べた。


 警備の者達も医師の言葉に同感し、確かに本人から詳しい事情を聞くべきだと話し合った後、それぞれ手拭いや手袋を嵌めて、出来るだけの防御を試みてから、眠っている少女に起きるように声を掛けようと、おそるおそる近づいたところ、少女が寝ながらブツブツと寝言を言っていることに気がついた。


「やったー!目の前にカロン王がいるー!これってもしやゲームをショートカットして、いきなり最終場面に来れたってことかな?ラッキー!やっぱり私はついているわ!さすが僕イベのヒロインとして生まれた私のためだけにある世界よね!ご都合主義バンザイ!早速カロン王に養って貰おうっと!さぁ、カロン王!私はあんたと縁戚関係があるのよ!つまりあんたは縁戚の私を一生幸せにする義務があるの!だから私を公爵令嬢にして、王子様と結婚させてちょうだい!私は貴族がいいの!お姫様みたいな贅沢な生活を一生送らせてよ!……そうね、今度はヒロインらしく、ピュアと名乗ろうかしら?うん、それがいいわ!私はピュア!誰よりも美しい公爵令嬢よ!さぁさぁ、早く私の言う通りにしてよ、カロン王!


 ……チッ!それにしてもマジ醜い中年男なのね、あんた。4月の社交で噂は聞いていたから驚きはしないけど、ホンットに化け物みたいで、可哀想を通り越して笑えてきちゃうわね、あんたの顔って!僕イベのスチルのカロン王と現実のカロン王の容姿が、こうまで似ていないなんてね!マジ最悪!これだから現実感たっぷりのゲームって嫌なのよ!……え?自分はカロン王ではなくて神だって?復讐物語を終わらせるためにカロン王の姿に扮しているだけだって?この世界はゲームではない。ここは現実の世界で人生は一度きりだから、これからは心を入れ替えて平民として真面目に生きろって?


 ……バッカじゃないの?そんなの信じるわけないじゃん!だってここは僕イベのミグシリアスの復讐ルートの世界なんでしょ?あんた自分で復讐を終わらせるためにカロン王になっているって今、言ってたじゃないの!わかったわ!さては、あんた……神じゃなくて悪魔なんでしょう?そうよ、そうに決まってる!だから色々と変だったのね!やることなすこと現実感ありありだし、学校の建物は煉瓦じゃなくなっているし、行事イベントもいちゃラブイベントもないし、ミグシリアスはいないし、ルナーベルは美人過ぎるし、4人の攻略対象者達は皆んなイケメンじゃないしさ!な~んだ、そうだったのね!可愛い私を騙してバッドエンドにさせようなんて、あんたの性格マジ悪いったらないわね!


ふふん、お生憎様!ゲームでは(ハート)は3つと相場が決まっているの!私は5月の茶会で一度バッドエンドになっているから、私の命は後2つ!もう逆ハーレムなんて狙わず、これからは王子ルート一択よ!王子は気に食わないし、私に酷い事を言ったから大嫌いだけど、やむを得ない状況だもの!仕方ないから我慢して結婚してやるわ!


 残念だったわね。私は国を終わらせて民主制になんてさせないんだから!私は貴族がいいの!何が悲しくて、平民として生きないといけないのよ!私はお姫様がいいの!汗水流して働くのなんて絶対に嫌よ!道具達と同じ身分なんて真っ平御免よ!……え、何だって?好きにすればいいって?元々お前が嘘をついたのが原因で、こういう状況になったのだし、井戸で命を助けたから借りは返したって?ハァ~?どう言う意味よ、それ!マジ意味不明なんですけど~?あんたに言われなくても、私は好きに生きてやるから、あんたは黙って私をピュアと言う名の公爵令嬢にしろって言ってるのよ!」


 眠り続けながら大声でベラベラと話す異様さに、警備の者達は近づくのを止め、不安そうに医師を見た。


「……もしや熱病に魘されているのでしょうか?これはまずいですね。よし、大布でグルグル巻きにして直に彼女の体や息に触れないようにしてから担架で……ひとまず保養所に運ぶことにしましょうか。あそこは今は無人ですからね。本来なら病院に運びたいところですが、どんな病なのかわからない以上、まずは隔離しておくべきでしょうし」


 医師は険しい顔つきとなり、漁師に小船の帆に使われるくらいの大布を用意するように頼み、警備の者達には担架を持ってくるようにと頼み、この後の手筈を彼等に伝えた。まずは先に話したように大布でグルグル巻きにして眠っている彼女を保養所の一室に運び入れて、外から鍵をかけ、彼女を包んだ大布と担架を焼却し、彼女に関わった漁師や警備の者達、そして医師である自分自身も手洗いうがいをしてから風呂に入り、全身を洗浄することと、自分達が来ていた衣類も念のために焼却した方がよいだろうと言った。


 そこにいた者達もそれに賛同し、それぞれの準備に取りかかる事に奔走し、それらの手配が全て終わって、さぁ、その通りに実行しようという時にはもう、その話が町全体に伝わっていた……と、地元の者達は、酒を飲みながら話し終わり、彼等の顔が強張っているのに気付くと、心配はいらないよと励ますようにこう言った。


「ああ、心配しなくてもバッファー国出身の医師がちゃんと来てくれて、彼女を診てくれてな。彼女の赤い斑点の正体は流行病ではなくて、()()()という皮膚の炎症だって教えてくれたから、それに関しては心配はいらなくなったんだよ」


そう言った男の横にいた地元の者達は、でもな……と顔を歪めて、思い出すのも嫌だという表情をして言葉を続けた。


「でもな……確かに死を心配するような流行病ではなかったのだけど、とびひは掻きむしると治らない皮膚の病気らしくて、他に移る病であるのには変わりなかったから、掻かないようにとバッファー国の医師が眠りから覚めた彼女に言ったらしいんだけど、その彼女は、ちっとも医師の話を聞かなくて、直ぐに掻きむしるわ、医者や看護師を道具扱いして自分の召使いのように振る舞って暴言を吐きまくるわ、看護師の目を盗んで医療用のアルコールを飲もうとするわ……で世話するのがすごく大変で苦痛だと周囲の者達が嘆いていたんだ……」


「ああ、そうだったな。12才で酒なんてと医師が説教しようとしたら、自分は成人した大人だって吠えてたらしいけど、大人であんな性格じゃ、周りの人間達はさぞかし苦労しただろうなぁ。だって彼女が発見されてから、まだそんなに日は経っていないのに、彼女に関わった者達は精神疲労でグッタリして疲労困憊で世話してるって話だからなぁ。もしも彼女があんた達の探している貴族の令嬢なら彼等は大喜びで彼女を引き渡してくれるだろうよ。


 だって、そうだろう?どこの誰か、わからない自称公爵令嬢の傲慢で我が儘な患者にいつまでも構っていられないし、彼女の治療費や食費やその他諸々の費用だって嵩む一方なんだから。それに……元々、あの保養所は公共施設で、毎年、この時期にトゥセェック国の国立学院の学院生達が林間学校で訪れるんだ。だから、いつまでも彼女にあそこに居座られても困るのさ」


 話を聞けば聞くほど、彼等は件の彼女がピュア・ホワイティ公爵令嬢だろうと思えたが、彼女を攫った後の煩わしさも確実に予想出来てしまったので、少しばかり彼女でなければ良いのに……と彼等は自分達のことを棚に上げて、そう思い、ここにいる人間の中で唯一、”奇病”になる前のピュアと茶会で話したことがあるという者一人を次の日に保養所に向かわせて、こっそり本人かどうかを確認してもらうことにした。

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