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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章の裏側の挿話~6月7月8月
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復讐物語の裏側で~神々とリアージュ⑥

 ……そう、現実に生きている人間ならば、古井戸に入ろうなどとは普通思わない。井戸は何十メートルも垂直に穴を掘って作られるもので、勿論そこには梯子などは設置されていない。なので、そこに降りることなど常人ではとても不可能であると現実に生きている人間ならば常識として知ってるはずである。また常識として知らなくても、生き物としての生存本能が危機を察知し、飛び込むことを躊躇するように父神は人間を創造したはずだった。


 それなのにリアージュは『やったー!学院へのショートカットだー!』と言って、古井戸の中の様子を一度も確かめることなく、無謀にも飛び込んだのだ。もしも神達が偶然それを見て、助けていなかったら古井戸で亡くなっていただろう。空腹で錯乱していたとしても、何故こうも考え無しに行動するのかと不思議に思った父神や紅の先生は、金の神と”お姫様”の最初の出会いを視ることにした。



『神の選んだ英雄”、ぜひ私のところで()()()()()()()して、私の見たい物語を見せてくれませんか?』


『私は”お姫様”よ!()()()()()()退()()()()()()()()()!どうしても私にゲームをして欲しいというなら、()()()()!』


 金の神が最初に見たいと思ったのは”僕のイベリスをもう一度”という乙女ゲームだが、ハンドルネームで”お姫様”と名乗った者は、その”英雄(主人公)”となることを辞退していた。でも”お姫様”は来世ではゲームをしても良いと言った。金の神は、お姫様を”英雄”にすることは諦めたが、お姫様はゲームでセーブや保存をしないゲーマー(強者)だから、きっと金の神が見たい物語を()()()してくれると思ったので、この世界の神様に断りを入れずに、その場でお姫様の人生を強制終了させて、父神の世界にお姫様の魂を召還した。




「……なるほど。金の神は”神の選んだ英雄”となって、()()()()()()()()()()()と頼み、”お姫様”は”英雄”になることは辞退したが、どうしても自分にゲームをして欲しいというなら、来世でと返事をしたんですね。……ああ、それで全ての謎が解けました。何故”僕のイベリスをもう一度”は”僕達のイベリスをもう一度”という3つの物語が織りなす一つの物語となって、全てが現実の世界に再現されてしまったのか?


 何故イヴちゃんがミグシス君と両想いになっても、ピュアちゃんと親友になっても、他の攻略対象者達がイヴちゃんを守る者達になっても、イヴちゃんの持病が治らなかったのか?何故10年間もの間、衰退していくへディック国から悪者達が逃げなかったか?……そして、ここにいる”お姫様”の生まれ変わりが何故、貴族子女としての勉強や務めを放棄し、怠惰を貪り尽くしていたか……。全ては、金の神と”お姫様”の最初の会話で、二人が()()()()()()()()()と口にしたことが始まりになっていたのですね」


 金の神と”お姫様”の当時のやり取りを視た紅の先生はフンフンと頷き、それを一緒に視た父神は、頭を抱えながら、金の神を諭すように言った。


「いいかい、よくお聞き。お前は”お姫様”のことを”お姫様”とは呼ばずに、”神の選んだ英雄”と呼び、ゲームをプレイして、私の見たい物語を見せてくれないかと頼んだだろう?そしてお前の言葉に”お姫様”は”英雄”になるのは辞退するが来世ならゲームをしても良いと答えてしまった。もしもお前が人間だったのなら、お前が呼びかけた”神が選んだ英雄”という言葉は単にお世辞で言っているもので済んだだろうし、”お姫様”の返答も、絶対にやる気のない断りの返事で済んだだろう。……でもお前は未熟ではあっても神という存在だから、お前達二人の契約は成立してしまったのだよ。


 ”お姫様”は10個目の逆ハーレムエンドもクリアしていないし、11個目のイベリスエンドの存在さえ知らない。そして”お姫様”は主人公である”英雄”になることも辞退してしまっている。その状態の”お姫様”が来世でプレイ出来るルートは”僕のイベリスをもう一度”の9つあるエンドの中で、唯一、ヒロインが主人公ではない、ミグシリアスの復讐ルート……僕イベになる前の復讐ゲームしかなかったんだ。それでお前の神の力は、復讐ゲームを現実の世界に再現させてしまっていたんだ」


 金の神と一緒に、父神の説明を聞いていた他の兄神達は、ああ、それで……と小声で呟いた。黒と銀の神達は、きちんと物語を選び、”英雄”を黄泉の国から選んできているから、そんな事態にはならなかったが、末の弟である金の神は物語ではなくゲームを選び、まだ生きている人間……しかも大嘘つきで”英雄”に相応しくない魂を持つ人間と交渉をしてしまったことで、金の神の力は暴走し、ハッピーエンドとはほど遠い復讐ゲームを再現させてしまった。


 だから復讐ゲームで登場する悪人達はゲームが終わるまで自分達の意志で国外に出ることは出来なかったし、そのゲームしかプレイ出来ない”お姫様”は、来世ならゲームをしても良いと神に対して言ってしまったことで、自分の来世である、リアージュとしての人生をゲーム……現実ではないものだと魂の奥で信じていたから自分の人生に真実味を感じることなく、怠惰を尽くし、人生を蔑ろに過ごすこととなった。


「僕イベの復讐ルートを下地にした世界が再現された後、金の神は”隠された物語”を知り、それを本当に見たい物語として選んだ。”隠された物語”は復讐ゲームと同様に”僕のイベリスにもう一度”に隠されていたから、その変更は可能だったし、”隠された物語”のモデルとなった本物の恋人達も、既にこの世界に転生していたから、金の神は”英雄”を定めることが出来た。……でも、どうしてへディック国に再現されたものが復讐ルートだと紅の先生や父上はわかったんですか?」


「それはですね、黒の神。シーノン公爵家に”影の一族”……セデス達が既にいたからです。僕イベの中で”影の一族”はミグシリアスの復讐ルートの時にのみ、王家から離れてシーノン公爵家に仕え、その他のルートでは王家に仕えているからです」


 ”僕のイベリスをもう一度に”に登場する”影の一族”はゲーム内では完全なモブとして登場する。ミグシリアスの復讐ルート以外では、スチルすら登場しないし、ミグシリアスの復讐ルートでも黒一色の後ろ姿しか登場しないので、”影の一族”は誰なのか、何人いるのかさえプレイヤーは知ることが出来ないのだ。そんなモブでしかない”影の一族”は、ゲーム内でも現実の世界でも、自分達が”王”と認めた者に揺るぎない忠誠を誓い、誠心誠意、主に尽くす一族であった。


 ゲーム内では王子ルートだと自分の恋心に苦しむ王子を励ますために古井戸の道を整備して王子が気分転換に市井に出られるようにしてあげた……という描写が文章で綴られ、他の攻略者ルートでは王子に命じられたという形で”影の一族”が、悪役令嬢がヒロインを虐めていたという証人や証拠を用意したという描写が文章で綴られている。そしてミグシリアスの復讐ルートにいたっては、実は仮面の弁護士に操られているミグシリアスを主と認めてしまった”影の一族”が、王家に復讐しようとしているミグシリアスのためにとシーノン公爵を毒殺し、その私財を投じて隣国と戦争を起こす準備を整え、イヴリンを毒殺した後に戦争を始め、国を滅ぼしてしまう後ろ姿がミグシリアスの復讐ルートの最後のスチルムービーに登場するのだ。


 ただ……この世界ではミグシリアスの復讐ルートが現実に再現されたものの、シーノン公爵が銀の神の”英雄のご褒美”……異世界からの転生者であるユイだったことで、”影の一族”達はミグシリアスと出会うより先にユイを……イミルグランを”自分達の王”と定めてしまい、イミルグランと同じ異世界の転生者で、イミルグランと同じ”英雄のご褒美”であったイミルグランの一人娘のイヴリン……ユイの娘のアイに至っては”姫”……”自分達の愛しき我が子我が孫”であるかのように愛し慈しんでしまったことで、彼等は復讐者ではなく守護者となることを選び、”影の一族”から”銀色の妖精の守り手”という忍者集団に変わった。


 ”片頭痛”という未知の病から二人を守るため……僕イベの死の運命からイヴリンを守るため……”銀色の妖精の守り手”となった彼等は誠心誠意、あらゆることに全力で尽くした結果……彼等はシーノン公爵領の領民達を自分達と同じ”銀色の妖精の守り手”という忍者に変え、”銀色の妖精”商会……後にスクイレル商会と改名……という商会を立ち上げ、そこで売る薬に救われた国内外の民達を自分達の味方につけることに成功し、また王になるために必要なあらゆる教養をシーノン公爵父娘に授けたことにより、シーノン公爵は一滴の血を流すことなく、バッファー国、トゥセェック国、バーケック国の王達から”王位なき王”と呼ばれ尊敬され、事実上、この三カ国の……”影の王”的な存在になっていた。


 そんな”銀色の妖精の守り手”達……イヴリンを守るために3つの国を事実上、征服してしまったほどにイヴリンを大事にしているスクイレル達は、運動神経が鈍……運動神経がおっとりしているイヴリンを危険にさらすようなものを学院に設置するはずがなく、彼等が用意した学院はへディック国にあったシーノン公爵家の白亜の建物をそっくりそのまま模倣した建物だったので当然、古井戸などという危険な物を彼等が作るわけはなく……それはトゥセェック国、バッファー国、バーケック国だけではなくへディック国の学院でさえ同じだったので、リアージュの屋敷の裏の古井戸はゲーム内の古井戸とは違い、本当にただの古井戸でしかなかったのだ。





「私は今からバーケック国に戻って、イヴちゃんがキチンと劇遊びに参加するように念押しして欲しいと……イヴちゃんがキチンと()()()()()()()()()遊ぶようにとカロン王にイヴちゃんのサポートをしてほしいと頼んでから、無事にイヴちゃんが僕イベのゲームを終わらせるのを見届けてきますから、あなた達は”名前なき者達の復讐”の最終章の最終幕を上げて、8月のカロン王の誕生日に、それがきちんと終わるまで、この国を見守っていて下さい」



「ええ~!?この後、《神の領域》に戻ってからイヴちゃんの劇遊びとイヴちゃんとミグシス君の初夜を視よ「こらっ!スクイレルの人間達と、人間達のプライベートを今後一生、覗き見しないと約束しただろうが!お前が私との口約束を守らなかったのと訳が違うんだ!向こうは私と違って契約内容を全て石版に刻ませるほど用意周到だったんだぞ!石版に刻まれた契約は未来永劫有効なんだ。違反すると我々を創造した全知全能の神王がお前を消滅させることになるのだから、絶対に約束は守れ!」……ああ、そうだった。イミルグランとセデスの二人が私達に石版を刻ませたんだった。あのときの二人の笑顔は恐ろしかった。


 約束は守らなきゃ。自分がされて嫌なことは人間にしない。だから人間達のプライベートは覗き見しない。最後に残った復讐物語は8月のカロン王の誕生日に終わらせる。その後は私達3兄弟と父神は《神の領域》に旅立ち、今後、この世界に二度と干渉してはならないんだった。……わかりました、紅の先生。私は父と兄達と、この地でイヴちゃんの劇遊びを視ることにしますので、私の大好きなイヴちゃんのことをどうか頼みます。必ずイヴちゃんの”片頭痛”を治してあげて下さい」


 こうして紅の先生はバーケック国に戻り、金の神達親子は、”名前なき者達の復讐”の最終章の最終幕を上げるために、7月の20日午前9時に井戸に飛び込んだところを助けたリアージュを次の日に井戸に投げ入れ、飛び込んだとアキュートの間者に見せかけることにした。ついでにカロン王に扮していた金の神も、7月の2日に自分がしたことを自分自身で再現してみせ、カロン王は城の地下に流れる川に飛び込み、海に逃げ、リアージュはそれを追いかけるために井戸に飛び込んだのだと思わせて、アキュート達を海に旅立たせることに成功した。


 金の神達親子は ”名前なき者達の復讐”でバッドエンドを迎え、神達の捏造の物語に利用し、用済みとなったリアージュを……もしも7月の21日に古井戸に飛び込んでも死んでいなかったら……何日も川を流れ流れても死んでいなかったら……と仮定した場合に辿り着いていただろう場所にリアージュを置くことに決め、リアージュは気を失った状態で、そこに捨て置かれることになった。気を失っていたリアージュが次に目を覚ましたとき、もう7月は終わっていて、リアージュが目を覚ました場所は、”お姫様”がよく知っている場所……僕イベに出てくる保健室そっくりの部屋だった。

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