復讐物語の裏側で~神々とリアージュ③
7月初めにトゥセェック麺を食べながら談笑していた、金の神の”英雄”であるイヴは、その世界の創造神である父神と、父神の3人の息子の前で、『神に願う願い事は何かないか?』と問うマクサルトに『ミグシスと結婚する時に、ミグシスを守ってくれたカロンに会って、結婚の挨拶をしたい』と答えた。
このイヴの答えに該当するカロンは当然のことながら、仮面の弁護士のカロン……ナィールのことなのだが、実はミグシス……ミグシリアスを守ったカロンはもう1人いた。それはナィールの双子の弟であるカロン王で、彼はナロン王に無理矢理、陵辱され、そのまま愛妾にされていたナィールの恋人が、ナロン王の嫌う、黒髪黒目の男の子……ミグシリアス……を宿した現場に居合わせて、その残酷な真実を”真実の眼”で視て知り、彼女と彼女の子を気の毒に思って逃げるように助言したことで、ミグシリアスの命を救っていたのだ。
6月の”三者面談”でカロン王の真実を視た金の神は、自分のせいで”悪役”となったカロン王に申し訳ない気持ちとなり、何とかカロン王に”悪役”を降りてもらいたいと考えたのだが、金の神は父神に命じられて、”僕達のイベリスをもう一度”の3つの物語を”三者面談”後に強制終了させてしまっていたので、金の神は世界に干渉できず、カロン王を救うことが出来ないと嘆いていた所、このイヴの言葉を聞いて、狂喜乱舞した。
「さっすが、私の”英雄”!!イヴちゃん、大好き、愛してる!これでカロン王を助けることが出来るわ!」
神は”英雄のご褒美”のためなら、神の力が使え、自由に動くことが出来たので、金の神は早速、普段身に付けている、フリフリレースのドレスを脱ぎ捨て、男装して、下界へと飛び出して行ってしまった。後に残った父神と二人の兄神達は、あまりの素早い行動に、あっけにとられたが、慌てて一番下の子のフォローをするためにそれぞれ動くことにした。金の神がカロン王の衣服を剥いで、カロン王を城の地下に流れる川に投げ入れる現場に居合わせた父神は慌てて、その一瞬後に気を失っているカロン王を救い出し、息子である金の神を窘めた。
「この慌て者!いいか、よく聞きなさい!神と人間が違うように、物語に……ゲームに出てくる架空の人間と現実に生きる人間は違うんだ!現実に生きる人間は脆く、弱い。現実に生きる人間は歳を取るし、お腹は空くし、汗もかくし、おならもする!熱湯がかかったら火傷もするし、寒いところにいたら風邪も引くのだから気をつけないといけないんだ!それに神やゲームの人間とは違い、現実に生きている人間は、直ぐに死んでしまうんだ。高いところから落ちたら死ぬし、水中では息が出来なくて死んでしまう。
お前達の尊敬するゲームの主人公達と、ここに生きる人間を一緒だと思ってはいけない!ここは現実の人間が生きている世界なんだぞ!一度も泳いだことがない者を川に放り投げるなんて考え無しにも程がある!お前が助けようと思っている人間をお前が殺しかけてどうする!」
「ごめんなさい!もうしません!」
父神に叱られた金の神はシュンとし、父神に謝りながら、父神が抱き上げているカロン王の体を一度摩って、こう言った。
「何度もごめんね。カロン王。お詫びに君を蝕んでいたガン病巣は全部取っておくから許してね。……ハァ、片頭痛や蕁麻疹もハッキリと病巣があれば、こうして取り除けるのにね」
「そうだな。片頭痛や腹痛、蕁麻疹等の一部の病気は神が人間を創造する際に生じたバグのせいだからな。超能力か魔法のある世界で生まれた者で無い限り、神でも未だ直接は治すことが出来ないのだから、厄介な代物だ。……もう時間がない。銀の神がもう1人のカロンを馬に乗せている。私はお前と銀の神が指定した、ヒィー男爵邸の傍近くの川辺にカロン王を置いてくるから、この後は誰の命も奪わないように気をつけて、手筈通りにしなさい」
「はい、今度は気をつけます!もう人間を川に投げ入れませんし、どこまでなら死なないのだろうか?とか実験なんて全然しようとも思っていませんから、こちらのことは視ずに安心して下さい!」
「……わかった。では、直ぐに黒の神にサポートを頼むから、お前は兄が来るまで他の人間と一切関わることなく、そこで大人しく武器を全て酸化させておきなさい。私もカロン王のことを紅の先生に頼んだ後は、直ぐにお前達のことを視ているから安心してカロン王の代役を頑張るように」
「え?」
こうして金の神はイヴに”英雄のご褒美”を7月の21日の午前9時に与えるためにカロン王になりすますことになった。その間は黒の神は城の執務官に扮して弟のサポート兼弟の見張りを行うことになり、銀の神は王都にいる取り巻き貴族達の見張りを行い、彼等の父神は3人の息子達のサポートをすることにした。彼等は仮にも神であったので、ただ代役やサポートだけをしてるのも暇だと思い、これまで散々、この世界の人間達に迷惑をかけた詫びに、リアージュがバッドエンドを迎えても、名前なき悪人達の復讐が依然残っているへディック国を”名前なき者達の復讐”のハッピーエンド通りに、滅亡させてやろうと思いついた。
幸い、金の神が1月にスクイレルの大人達と交わした約束……イヴとミグシスに僕イベのことを気付かせない……により、金の神の力は僕イベとは違う物語を用意しようと、へディック国の開国の史実に目をつけ、へディック国の始祖王の長兄が横暴な者だったから他の兄弟達に追い出されたという真実を、ハッピーエンドと乙女ゲームを好む男の娘な金の神が好みそうな、病弱な長兄を他の兄弟達が協力して他国に逃がしたという偽りの物語に捏造しようと、へディック国の城の大聖堂の壁画の裏に古く見える日記と、コスプレを楽しむ5兄弟の様子を描いた絵まで用意していた。
さらには金の神の兄神である未熟な銀の神までもが、自分が召還した”英雄のご褒美”でもあるイヴを助けようと思ったことで、銀の神の力までもが、スクイレル達がイヴの死の運命を変えるために用意した”僕のイベリスにもう一度”のヒロインの名前を持つピュア・ホワイティ公爵令嬢を苦しめていた悪人であるナーヴをイヴリン・シーノン公爵令嬢の代役に……僕イベの悪役に仕立てようと動きだし、ネイルの囚人収容所からナーヴを脱獄させ、船でへディック国へ向かわせてもいた。
そこで父神と3人の息子達は7月の21日の9時までにナィール達の作戦通りにへディック国の民達を逃がす手伝いをし、8月のカロン王の誕生日まで僕イベのミグシリアスの復讐ルートの元である”名前なき者達の復讐”の名前なき悪者達となったカロン王の取り巻き貴族達や学院にいた攻略対象者の代役代わりとなっていた若者達を留め置き、銀の神の力で引き寄せられたナーヴを王の血を引く者に断罪される”悪いカロン王”に仕立て上げた。
一方……、彼等親子にイヴの叶えて欲しい”英雄のご褒美”の話を7月初めに聞き、二人のカロンをイヴのいるバーケック国近くの教会に送り届けることを頼まれた紅の先生は、彼等が金の神の”英雄”の望みを正しく把握出来ていないことに気付いていたが、彼等の勘違いが未熟な金の神の力により現実に再現されてしまった”名前なき者達の復讐”を早く終わらせることに繋がっていたので、間違いを正すことなく、彼等の頼みを引き受け、二人のカロンを送り届けた。
そして帰りに護衛集団の長をしているアキュートの侍医をしていた医者が道ばたで蹲っているのに出くわし、彼を視た所、彼は医者の使命に燃えており、自分の患者であるアキュートが死病で苦しんでいるのに、それを見捨てることは出来ないと国外脱出の誘いを断って、アキュートのせいでぎっくり腰となった自分の代わりにアキュートを診てくれる医師を探していることがわかったので、彼等親子の計画を手助けするために、侍医代理としてアキュートの家に潜り込むことにした。
紅の先生はそこで親子の神が見落としていたこと……アキュートが老眼で白いリボンや日記の文字を読めない事実に気付き、それを補うためにスクイレルがシュリマン率いる教会に広めた”観劇”をアキュートの夢で見せた。紅の先生は高位の神だったが、人間世界に降り立つのは、これが初めてだったこともあり、7月の21日まで興味深く、この世界に留まることにした。高位の神である紅の先生は、ただ侍医をしているのも暇だったから、”先生”らしくなるために、今後の3人の兄弟神達の指導に役立つ知識を得ようと、彼等が好んでいた日本という国がある世界の事を視て勉強し、ついでに物語やテレビゲームというものも勉強して、日々を過ごすことにした。
そして7月の21日の午前9時に無事にイヴ達の元に”英雄のご褒美”……二人のカロンが辿り着いたのを見届けた神々は《神の領域》に戻る途中で、リアージュが井戸に飛び込んだ場面に出くわした。
※金の神の力により、病弱な長兄と彼を助ける兄弟達の話が捏造され、日記や壁画というものが作り出されましたが、ナィール達の世界には男の娘の概念がまだないので、病弱な長兄は長姉と誤解され、”偽りのウルフスベインにレクイエムを”という観劇になりました。




