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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章の裏側の挿話~6月7月8月
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復讐物語の裏側で~神々とリアージュ①

 一人の老婆は気がつくと真っ暗な闇の世界にいた。いつここに来たのか、その老婆の前に一人の美しい者が現れた。老婆は目の前に急に現れた者に最初は驚いたが、その美しい者と遠い昔に会ったことがあるような気がして、しばし逡巡し、アッと大きく口を開け、しゃがれた声で言った。


「ルナーベル?どうしてここに?……それになんだってあんたは若いままなのよ!?」


「私はルナーベルではありませんよ」


「じゃ、あんたは誰なのよ!」


「私は弟子の不始末をお詫びするために、あなたに会いにきた者です。実はですね……」


 腰が曲がり、体中シミやしわだらけの自分に比べ、紅い髪のルナーベルそっくりな美しい者を見て、若かった当時を思い出し、老婆は歯がなくなった歯茎をゴリゴリと擦り合わせるように歯軋りして、憎々しげに睨み付けたが、目の前の美しい者は、それに構わずに老婆の知らなかったある事情を説明しだした。説明が終わると今度は右手を前に突き出して、真っ暗だった世界に大きな鏡を出現させて、ある者達の一生を老婆に見せた。


 老婆は初めは説明を聞いても老いた頭では、それを理解することが容易ではなかったことから反応が薄かったが、鏡に映る者達の一生を見ることで、先ほどの説明……自分がどう言う経緯でここに来たのかをようやく把握することが出来、それに対して猛烈に怒りだした。


「ひどい!あの筋肉モリモリの金髪の男の娘のアイコン野郎のせいなのね!あいつのせいで、私は前世の世界から、ここの世界に異世界転生させられて、貴族籍を剥奪されて、犯罪者扱いされて一生を牢獄で過ごし、ずっと死ぬ瞬間まで強制労働させられる羽目になったのね!冗談じゃないわ!責任者を出しなさいよ!訴えてやる!」


「……確かにあなたは金の神のせいで異世界転生することになったことは認めますが、後のことは全部自分の招いたことなので訴えることは出来ないですよ。でも……」


 そう言って老婆にある選択を示してくれた美しい者は、ルナーベルではなかったが、老婆にとってはルナーベル……()()()()()()()()()に等しい存在であり、老婆は救いの神だと言って大喜びで、その紅い髪の美しい者の提案に飛びついた。










 あるところに紅い髪の神がいました。彼は神々の中でも高位に当たる格の高い神でしたので、他の神達から”紅の先生”と呼ばれ、尊敬されていました。……が、そんな皆に尊敬されている紅の先生は今、大きな悩みを抱えていました。その悩みとは、ある神から泣き疲れ、仕方なく彼の3人の息子達の師になったものの、彼等を上手く導く方法が中々見つけられないことでした。


 その神の3人の息子達は根は善良なのですが単純で、物事を深く考えるのが苦手だからか、神の仕事である《世界の創造》が上手ではなく、世界を創造する端から滅亡させていたので、彼等の父親は育児に行き詰まって紅の先生に丸投げしてきたのですが、高位の神といえど、弟子を持った経験がなかったことから、たちまち紅の先生自身も行き詰まってしまい、ノイローゼ状態になったことから、つい彼等の父親にこう丸投げ返してしまったのです。


「お宅の息子さん達は世界を創造するための想像力や、世界に対する愛着心がないので、ご家庭で()()を頑張って下さい」


 紅の先生は、紅の先生に丸投げ返されてしまった父神が悩んだ末に、まさか自分が作った世界で、息子達に()()させることにしただなんて知りませんでした。




 その神の考えた自習の方法は、三人の息子達が大好きな”物語”を一人に一つずつ選ばせて、その世界に再現させることでした。


(三人の息子達は”物語”が大好きで、取り分け”英雄”が活躍し、幸せな結末で終わる”物語”を好んでいる。だから自習として、大好きな”物語”を現実の世界として創造させたら、息子達も世界に愛着が湧くだろう。大好きな”物語”の世界を滅亡させないようにと、やる気が出て頑張るだろう。その”物語”に出来るだけ酷似させて再現しようと創造を頑張ることは、きっと息子達の良い自習方法となるはずだ)


 そう考えた父神は三人の息子達に、自分が再現させたい”物語”を探してくるようにと異世界へと送り出しましたし、3人の息子達が見つけた”物語”を再現させる前に、彼等に三つの約束をさせました。


 ①一人の神が持ち込んで良いのは、()()の”物語”だけ。

 ②神が”物語”の途中で干渉して良いのは()()だけ。

 ③神は自分が見たい”物語”のハッピーエンドを見終わったら、”英雄”の望む”ご褒美”を()()与え、その後は、世界には干渉せずに見守る者となる。


 この約束は、神様が作った世界を息子達に滅亡させないためでした。①は世界を滅亡させてばかりの息子達には、一つ以上の”物語”の再現は荷が重いからでした。②は神が直接、下界に干渉することは、世界にとって負荷をかけてしまうからでした。③は息子達の都合で魂の召還転生させてしまった”英雄”に対しての礼をきちんとすることは、神として当然の礼儀だったからで、そして全てが終わってから見守ることは、世界を愛することを息子達の身に付かせるためでした。


 そこまでは良かったのですが、父神は息子達にそう言ったきり、その後の息子達を見守ることをしていなかったので、三人の息子達が、一人に一つずつの”物語”を再現させることを自習だとは思っていないことや、三人が三人とも、三つの約束を破ってしまっていたことに気付かなかったせいで、父神の考えた自習は後に彼自身が作った世界を大いに混乱させ、人々を苦しめる結果へとなってしまったのです。


 ……ということを6月の”三者面談”で人間達によって知らされた父神が、《神の領域》に一足先に戻った後、紅の先生との”二者面談”で洗いざらい、事の次第を伝えたことで、ようやく全ての事態を把握した紅の先生は、父神と人間達のやり取りの話を聞いたことで自身の過ち……丸投げした後に弟子達を見守らなかったこと……に気付き、”先生”としての自覚がなかった自分自身を悔いました。


 自分で引き受けたのに出来ないから丸投げするなんて大人げないことをしてしまったと、紅の先生は猛烈に反省し、悔い改めるために”先生”らしくなる決意をしました。そこで同じように父親としての自覚が足りなかったと猛反省している父神と二人で、3人の子達を修行し直す指導計画を立てると共に、紅の先生は金の神がまだ果たせていない、三つ目の約束……金の神の”英雄”に”英雄のご褒美”を与えること……を金の神に果たさせるために、父神と3人の子達に直接、”英雄”達に聞いてくるようにと命じました。


 所が、先に金の神に”英雄のご褒美”を尋ねてくるようにと既に頼まれていたスクイレル達が、慎ましいイヴはスクイレル達には本心を言わないだろうからと自分達の代わりに尋ねることをマクサルトに頼んだことにより、事態はややこしくなり、スクイレル達に頼まれたマクサルトが、その質問の真意は、二人の結婚祝いの品をそれとなく探ることだと誤解したことにより、それを悟ったイヴが、神様に叶えてもらいたい願い事ではなく、自分達やスクイレル達の両方が喜べるような望み……『私が神様に叶えてもらいたい願いは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に会って、結婚の挨拶をしたい』……だと7月の2日に口にしたのを真に受けた金の神達親子は、それを親子で全力で叶えようと各々動いたことで、()()()()()()()()()に、それを叶えてしまったのです。


 この時に初めてイヴを直接視た紅の先生は、その間違いに気付いていたのと同時に、イヴの片頭痛が”隠された物語”の主人公のように完全に完治していないことに気づき、役所にいたカロン王が、それを治すために完全にゲームを終わらせるのを待ってからイヴの魂に”神様に叶えてもらいたい願い事”を聞こうと思い、7月の23日まで待つことにしました。


 ルナティーヌの働きにより、16才になったイヴはミグシスと入籍を済ませ、”僕のイベリスをもう一度”の”卒業パーティー”イベントも無事にクリアし……心身共に愛する人と結ばれたことで”隠された物語”をようやく完結させた幸せいっぱいのイヴの魂が願ったことは……夢で見た前世のアイの幸せでした。そこで紅の先生はそれを叶えるために、ある駒を使うことにしました。


 その駒は愚かで悪しき者ではありましたが、ある意味不憫で哀れな者でもありました。ある嘘をついてしまったがために、恐ろしい力を持つ神に目をつけられて、その世界での罪を償う前に人生を強制終了させられて、この世界に召還されたのです。”英雄”に相応しくない悪しき者だった彼女は、当然”英雄”にはなれず、ただのモブ……主人公達を意図せず助けてしまう小悪党モブとなってしまい、茶会での自分自身の行いにより家も爵位も失い、平民になり……僕イベのヒロインのバッドエンドを見事に辿っていました。


 5月の中旬にバッドエンドとなった彼女は、”名前なき者達の復讐”から離脱することが出来て、僕イベの呪縛からも解き放たれたのですが、6月の中旬に性懲りも無く、僕イベにリトライしようと決めたものの、本来の怠惰で傲慢で愚かな性格が災いし、7月の21日に二度目のバッドエンド……この世界での人生の終わりを自ら迎えようとしていました。

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