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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章~7月8月
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”名前なき者達の復讐”最終章~最終幕⑥

 ”僕のイベリスをもう一度”の最終イベントである”卒業パーティー”は別名”断罪イベント”とも呼ばれているが、これはある意味”一世一代の大博打イベント”であると言える。と言うのも、このゲームは悪役令嬢に虐められなければ、攻略対象者達との恋愛が発展しないようになっているが、その虐めは悪役令嬢の取り巻き貴族達が行っているために、どれだけ攻略対象者達の好感度をあげようが、男爵令嬢であるヒロインは、上級貴族である彼等との身分差のある結婚は普通ならば出来ないのが当然だったからである。


 身分差による弱い者虐めというのは、どこの世界にも存在し、身分が低い虐められる者が身分の高い虐める者に対し、それを阻止する……あるいは反撃し、報復することは中々に至難の業であり、それを可能にするためには虐められないようにする為の何某かの力……何某かの対抗手段を手に入れることが必要不可欠である。


 僕イベのヒロインである男爵令嬢の場合の何某かの力と言うのは、一年間の学院生活で得た勉強や礼儀作法、ダンス等の貴族令嬢としての教養であり、一年間の学院生活で培ったクラスメイト達や身分の高い攻略対象者達との絆であり、これらのレベルが上がると同じ下級貴族である取り巻き貴族達は、自分よりも貴族令嬢としての力があるヒロインを虐めることが出来なくなり、また無理をして虐めるとヒロインとの絆があるクラスメイト達や攻略対象者達に酷い仕返しを喰らうために僕イベの後半では取り巻き貴族達は殆ど登場しなくなり、攻略対象者達との個別いちゃラブイベント的なハプニングイベントが増えてくるのだ。


 自分の取り巻き貴族達を使えなくなり、王子や王子の取り巻きである攻略対象者達との交流を重ね、彼等とより親密になっていく男爵令嬢に危機感を感じ、思い詰めた虐めの首謀者である悪役令嬢が焦ってボロを出すことで、ヒロインはようやく、身分差のある攻略対象者達との結婚への()()()()を手に入れることが出来るのである。


 この片道切符というのは、僕イベの悪役であるイヴリン・シーノン公爵令嬢の誤解が半年以内に解けていない場合に発生する最終ハプニングイベントのことであり、”卒業パーティー”イベントの前日にヒロインは公爵令嬢自らの手によって階段から突き落とされ、左手首に怪我を負うというハプニングイベントのことを指す。


 王子とヒロインの仲を疑っているイヴリン・シーノン公爵令嬢の誤解が半年以内に解けていない場合、虐めの首謀者が彼女だったとは、最後のハプニングイベントが発生するまではわからない仕掛けになっているので、ここで初めてヒロインは虐めの首謀者の正体を知ることで身分差のある結婚を実現させるための最終イベントに進むことが出来るのだ。


 貴族であるクラスメイト達は、ヒロインが虐めに遭っていたことを知っている者達だが、ヒロインとの絆が浅く、好感度も低い場合、ヒロインを虐めていたのが公爵令嬢だと知っても、王の次に身分の高い公爵家の令嬢に刃向かおうとはしない。だがヒロインの貴族令嬢としてのレベルが極めて高く、友としての好意が強く、しかも自分達とは違う身分の高い攻略対象者達も味方になってくれると確信を得ている場合だと、彼等はヒロインを助けるために、ヒロインが虐めに遭っていたことの証人になってくれる。


 また同じように攻略対象者達も、いくらヒロインが自分の初恋の相手だろうとも、ヒロインとの絆が浅く、好感度も低い場合、王の次に身分の高い公爵家の令嬢を糾弾しようとはしない。だがヒロインが自分達の貴族家を上手く存続させることが出来るくらいに貴族令嬢としてのレベルが高く、初恋が一生の恋に変わるくらいに異性としての好意が強い場合、彼等はヒロインを助けるために、ヒロインを虐めていた取り巻き貴族達に働きかけ、虐めていた者達に首謀者の名前を証言させてくれるのだ。


 この二つのことに加え、階段での怪我が合わさることで、公爵令嬢は直に男爵令嬢を殺そうとしたというヒロインの証言が真実であると初めて認められて、悪役令嬢であるイヴリン・シーノン公爵令嬢は殺人未遂を起こしたことで王子の婚約者には相応しくないと判断され、婚約破棄となり、大勢の若い貴族を味方にしているヒロインは上級貴族の嫁に相応しい才覚があると、”真実の眼”を持つカロン王に評価され認められることで、やっと自分が望む相手と結ばれることが出来る。逆にクラスメイト達からも攻略対象者達からも見放された場合、ヒロインは自作自演の怪我をしてまで、王子の婚約者である公爵令嬢を無実の罪で陥れようとしたと見なされて、そのまま罪に問われ、貴族籍を剥奪され、施設送りとなるのである。


 つまり……”僕のイベリスをもう一度”の最終イベントである”卒業パーティー”イベントで勝利を収めたいならば、その者は貴族としても人間としても優れた人物でなければならず、また大勢の味方を得ていなければならず、……そして何よりも大事だったのは、その者が何も悪いことをしていない完全な被害者……清廉潔白な人物でなければならなかった。








 王子は各国の使いの者達の前に歩み寄り、意気揚々と自分の要求を述べ始めたのだが、10分もしないうちに、すっかり自信を喪失させることになってしまった。


「……ほう?あなたはあなたの国を滅亡寸前に追いやったのは、今ここで死に絶えた者達のせいなのだから、彼等の祖国……つまり我々の国の責任であると言いたいのですか?この十年で我々の国がそれぞれ強大国と呼ばれるようになるほど富み栄えたのは、それぞれの国の”悪人”達をへディック国に押しつけたせいなのだから、その借りを今から返せと……。それでまずは手始めの賠償として、この国がこの十年で失った平民の人数の補填と、この国が立ち直るまでの資金の供給を無償で支払うようにとあなたは主張するのですね」


「はい、その通りです。何故な「……0点」……え?」


 王子が自分の要求を通すための理由を言うのを遮ったのは、青い瞳を持つバーケックの使いの者の身を守るようにして立っていた一人の男だった。男は王子の前に進み出ると、言葉を続けた。


「0点だと言ったのですよ。お見受けした限りでは、あなたは今日の”卒業パーティー兼カロン王の誕生パーティー”を仕切る役割を担っていた者であり……この国の”王になるために覚えなければならない教養”を学んできた者……王子なのですよね?で、あるならば交渉を始める前に、あなたは真っ先にしなければならぬことがあるはずです。あなたは18才の大人だというのに、一体今まで何を学んできたのですか!」


 強い口調でそう咎められた王子は、ビクッと体を震わせた。


「え?それはどういう意味でしょうか?」


「そのままの意味です。ここに縛られている男達が飛びだしてきた時点で、あなたはこの者達を諫め、別室に誘導すべきでした。今から行われるのは卒院生達の門出を祝う宴であると同時に国王の誕生を祝う、大事な宴だったはずです。皆の祝いの席を邪魔するような無粋な者をそのまま野放しにするのは場を仕切る者としての才がないということを皆に見せびらかしているのと同じことです。


 こんなことを我々が言うのは可笑しな話ですが、鎖国をしているはずの国の王都にある学院にこんなにも多くの異国の者がいるというのに、何故平然としておられるのですか?このような不測の事態が起きた場合、この場を仕切る者ならば、真っ先に王や招待客の安全を確保すべく避難誘導の指示を出すと同時に我々の身柄確保に務め、確保後に別室で状況説明をさせるものなのに……あなたが正しく状況判断が出来ない者であるというのが、これでよくわかります。


 ……それらを百歩譲ったとしても、死者が出ているという異常事態なのに、その骸をそのまま放置したままで平気でいられるなんて、あなたには他者に対する気遣いの心がまるでないのですね。……さらには王や招待客、縛られた者達について何の対処もしないまま、そのまま放置し、我々の身元も正しく知らないまま、交渉を始め出すとは、どれだけあなたは無神経で無能なんですか?」


 それは苛烈な批判だった。へディック国中の貴族達の前で、王位を継ぐに相応しい教養も資質もないと通告されたようなものだったので、王子は激怒し、警備の者に捕縛の命令を出そうとして……あることに気付いた。それは、この騒動を取り囲む貴族達も、縛られている自分の取り巻き貴族達も、後宮から出てきた自分の母も、顔色の悪い祖父も、そして……舞台にいる自分の父も自分を庇って否定の言葉をあげてくれないということだった。誰も彼もが王子は優れていて、王に相応しい者だと証言してくれないのだと知った王子は、唯一の自分の味方に助けてもらおうと、仮面の先生の姿を探し、首を傾げた。


「仮面の……先生?何故その者達の傍に立つんですか?先生は僕の……味方でしょう?言い返して下さいよ。僕は次代の王に相応しい賢い者だって……」


 王子の味方である仮面の先生は、何故かイミル将軍と並び立ち、青い瞳の使いの者を守るように立っていて、王子の言葉を聞いた仮面の先生は肩をすくめて、こう返事した。


「その件に関しては、こちらにいる先生の言葉通りなので、いくら私が弁護士でも弁護しようもございません。……学院の先生方は、あなたの無能さを知り、将来の王となるあなたに不安を抱いていたようで、度々あなたの家庭教師を職員室に呼び出しては、あなたの祖父を通じて、あなたにもっと勉強に身を入れるよう言ってくれと頼んでおられたのですから。あなたも身に覚えがあるでしょう?お祖父様は僕の顔を見れば、勉強、勉強としか言わないと、愚痴っておられたではないですか。あなたには王を継ぐための教養も資質も無く……それに他にもないものがある。そうでしょう、()()()さん!」


 突然、自分の本当の名前を呼ばれた老人は、弾かれるようにして身を震わせ、各国の使いの者達をマジマジと見つめて……息を飲んだ。

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