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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章~7月8月
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”名前なき者達の復讐”最終章~最終幕④

 講堂の舞台前で自分達の正体を暴露され、愛する息子や孫達に自分達は偽物の貴族で悪者だったと知られてしまったカロン王の取り巻き貴族達は、自分達の正体を知った息子や孫達が、どのような目で今後の自分達を見るのだろうかと恐怖を抱き、怖々と己の息子や孫の顔色を伺い……そこで初めて、これこそが大勢の人々を苦しめ続け、祖国を滅亡の危機に陥らせた者への神の罰し方だったのだと彼等は思い知り、心から自分達の罪を悔いることとなった。


 これまで自分勝手な悪しき欲望のために多くの人を騙し、陥れ、奪い、蔑み、傷つけ、苦しめ、殺めてきた悪者達は、この5月に”貴族病”が死病へと病変したことより、その後の生活は、いっそ今直ぐに死んでしまった方が楽なのではないかと考えてしまうほどの激痛が体中を襲い続け、その痛みが一向に治まることがなかったので、ひょっとしたら、この痛みは自分達が今まで苦しめてきた者達の身体の痛みが、自分達に返ってきているのではないかと思っていたのだが、その考えは間違ってはいなかったのだと、自分の愛する者達の冷たい視線を感じながら彼等は身体以上に痛む心で思った。


 彼等は彼等の愛する者達の冷たい視線により、彼等は子に……孫に愛されていなかったし、好かれてもいなかったし、尊敬されてもいないし、感謝すらされていなかったのだと知り、とてもガックリと落ち込んだ。それどころか彼等は愛する我が子我が孫に心底軽蔑され、鬱陶しがられ、嫌われていたことに、ものすごく傷つき悲しみ、苦しみ、打ちひしがれ……まるで心に幾十、幾百、幾千、幾万もの短剣が一度に突き刺さったかのような絶望的な痛みが襲いかかってきた。


 この心に感じる痛みは、これまで自分達が苦しめてきた者達の心の痛みが全て自分達に返ってきているのだろうと思い至り、そして人々を苦しめてきた自分達への神の罰とは、自分達が愛する者から自分達は愛されないことだったのだと悟り、失意と後悔の気持ちを抱えたまま、彼等はその場で頽れて立つことも出来ず、心身に感じる激しい痛みにより、のたうち回りはじめ……やがてあまりの痛みに動くことも出来なくなって、虫の息となった彼等は最期にせめて愛する者へと手を伸ばしたが、彼等の愛する者達は彼等に駆け寄ることも手を取ることもせず、苦しむ彼等に憎々しげにこう言った。


「「「フン!死に損ないの強欲な親達め!今までお前等は権力や金しか目に入らなかったのに、今更身内の情が欲しいだなんて、そんなことがよく思えるな!何が政略結婚だ!何が権力だ!金や権力なんて初恋に……愛に勝てるものか!愛という美しく暖かい気持ちを知らなかったから、外国の者達を大勢苦しめることも、身内の俺達が悲しむことも厭わなかったくせに、死ぬ間際でそれを求めるなんて、どうかしている!お前等は優しい労りの言葉を俺達にかけてくれたことなんて、一度もなかったじゃないか!俺達の気持ちに寄り添おうとしないお前等は、俺達を本当に愛してくれていなかったんだろ!お前等は自分達が有利になるためだけに、子どもである俺達を言いなりにさせようとしていただけなんだろ!フン!誰がお前等の手なんか取るか!」」」


 心身共に死の間際ギリギリだった彼等は、最期の望みを叶えられないどころか、自身の愛情を信じてもらえないという仕打ちに合い、固い講堂の床で倒れ伏したまま、心の底の底から自身の罪深さに嘆き悲しんで涙を流し続け、そのまま意識が朦朧としたところに王子の容赦のない言葉が彼等をさらに地獄に突き落としにかかってきた。


「即刻、そこにいる貴族の偽物の犯罪者達を捕縛しろ!」


 王子に命じられた警備の者達は、死病に苦しむカロン王の取り巻き貴族達は抵抗しないだろうと踏んだのか、先に元気が有り余っている彼等の息子や孫である宮廷医師子息や騎士団長子息や騎士団長子息の捕縛から取りかかり、彼等は彼等の愛する者達が目の前で縄で何重にも縛られ、口にも猿轡をされる様を見せつけられることになってしまった。


 ……これほどの罰があるだろうか?彼等は彼等が苦しめた者達の痛みを心身で受け続けるだけではなく、そして彼等が愛する者から愛されないだけではなく、彼等が死の間際に純粋に願った愛する者達の幸せは未来永劫、ずっと来ないのだと、まざまざと見せつけられるとは、あまりにも酷すぎる罰だと思い、嘆いた彼等だが……でも、次の瞬間、これが彼等が今まで罪のない人達にしてきた仕打ちだったんだと気づき……ようやく彼等は”因果応報”……誰かに悪いことをしたら自らに悪いことが返ってくる……という言葉が骨身に沁み入り、これ以上の責め苦はないだろうと思っていた自分達を恥じ入ると共に神の怒りの恐ろしさに魂の底から震え上がり、彼等の愛する者達を捕縛し終えた警備の者達が自分達の身体に縄をかけに来るのを涙を流しながら、呆然と眺めていた。





「お止めなさい。彼等は死に行く身。縄をかける必要はありません」


 落ち着いた男性の声が、いままさに縄をかけようとしていた警備の者達の手を止めさせた。意識が朦朧としている彼等の回りには、それぞれの国の使いの者達が近づいていて、地に倒れ伏した彼等の傍に膝をつき、彼等の死を看取る体勢を取っていた。大司教は自分の傍にいる使いの者の顔を暫くボンヤリと見ていたが、その正体に気付き、ハッとなって目を見開き、こう呟いた。


(ル……ルナティーヌか?何故こんな所に……それに、そこにいるのはもしや……あの不思議な()()か?……人間に変化出来たのか?何と美しい男なのだろう……それに何と綺麗な目をしているのだろう……。まるで透き通った空のように青い……)


 使いの者は口元に人差し指を当て、軽く首を左右に振った。


(シッ……。その名前を出してはいけません。私達の物語は既に終わっているのです。ここは”名前なき者達の復讐”の最終幕……、ここでは私達の名前は出してはならないのです。それと……バーケック国民にとっての災禍の元凶であった黒猫……黒の神と、この方を見間違えないでいただきたい。この方は……例えるなら森に恵みをもたらす小動物のような方。我が子の未来を思って行動したことが、いくつもの国に幸福をもたらすこととなった奇跡の賢者……でも、このことはあなただけの秘密にして下さいね。とにかく、あの忌々しい黒猫は、もうこの世界には二度と降りてこないので安心して下さい)


 元はバーケック国の大臣だった大司教は、名前のない使いの者に扮しているルナティーヌに手を握られ、戸惑いの表情を浮かべた。


(君が何を言っているのか、私にはわからない……。君は何故私の手を握る?)


(あなたの手を握るのは、あなたが神の庭に旅立つのを見送るためです。あなたはあなた自身の選択で悪人になったと思い込んでいますが、あなただけの責任でそうなったのではないと……私は知っているからです。物語を始めるためにバーケック国を滅亡に追いやる者が必要だと判断した黒の神の力が、()()()()王に憤慨していたあなたを見つけて選んだだけだと、あの元凶から物語が終わった後に聞かされたからなんです。


 あなたが王に憤慨していたのは、物語を始める為に神の力で異常気象が起き、何年にも渡って天候不良で国が貧困に陥っていたのに、王が何の手立ても講じようとしなかったからだったなんて……私も他の者達も知らなかったのです。未熟な神の力が、あなたの国を思うが故の怒りの気持ちをねじ曲げ、あなたの心に邪しまな野心の芽を芽吹かせ、あなたを”悪役”に仕立て上げたなんて他の者達も私も気付けなかったのです。


 神の力さえ暴走しなければ、……神が”英雄”は前世の記憶がある15才の貧乏な男爵令嬢だと定めなければ……バーケックの本当の”英雄”はあなただっただろうに……。全てを知った私は気の毒な被害者であったあなたを何とか救いたくて、あなたの行方をずっと探させていたのです。なのに……間に合いませんでしたね。ごめんなさい。あなたを救うことが私には出来なかった……。本当にごめんなさい)


 ルナティーヌの涙がこぼれ落ち、バーケックの元大臣の男の顔に涙が何滴も降ってきた。元大臣はルナティーヌの泣き顔を見ながら、ゆっくりと目を瞑り、口元に微かな笑みを形作った。


(優しい嘘を言うのだな、ルナティーヌは……。私は私の意志で王を殺し、民を苦しめ、国を滅亡させかけた……バーケック国の()()()だ。こうなったのは当然の報い。だが……礼を言うよ。私は……私は一人で死に行くのが怖かったんだ。死んだ方がマシだと思える激痛に苦しみながらも自らの命を自分で止めることをしなかったのは、本当に死ぬのが怖くて堪らなかったからなんだ。だから最期の最後で、こうして私を思って涙する者に手を握られて死ねる幸せを神に……いや、優しい君に感謝するよ。君と君の国の民達の……私の祖国の者達の幸福を私はいつまでも心から願ってる……。ありがとう」


 最後に祖国の幸福を願い、感謝の言葉を口にした、バーケック国の”悪役”だった元大臣は、バーケックの”英雄”に手を握られたまま深い眠りにつき、神様の庭へと旅立った。ルナティーヌは……バーケックの名前なき使いの者は涙を拭い、横にいる名前なき賢者から布を受け取ると、笑顔のまま息絶えた、”名前なき者達の復讐”の名前なき大司教の顔に布をかけた後、立ち上がり、トゥセェック国の副官に話しかけた。


「トリプタン副官、そちらにいる宮廷医師は……。ああ、もう亡くなられたのですね……」


 白髪がかった赤茶色の短髪に吊り目の金茶色の瞳が野性的に光る、筋骨隆々の大きな身体の老人が宮廷医師の顔に布をかけているのを見て、沈痛な表情でそう言うと、老人は横にいる自分の息子や自分の孫の同級生の親で医師をしている者に声をかけ、立ち上がりながら言った。


「ああ……儂が手を握った途端、事切れてしまってな。最後の言葉くらい聴いてやりたかったがな……」


 老人がそう言うと、サラサラとした髪質の白髪がかった青緑色の短髪に、ルビー色の瞳をしているトゥセェック国の医師をしている男が老人を慰めるように言った。


「仕方ありません。ここで倒れている人達はいつ亡くなってもおかしくないくらいに皆、身体が弱り切っていました。このような状態で生きているのが不思議なくらいです。本当に神は惨いことをなさる……」


「父上、ゴ……いえ、医師殿。あそこにいるバッファーの者は、まだ息があるようですよ」


 バッファー国の使いの者達とトゥセェック国の使いの者達は、バッファー国の”悪役”であった騎士団長子息の祖父の下へと近づいていった。

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