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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章~7月8月
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”名前なき者達の復讐”最終章~最終幕③

 ”卒業パーティー兼カロン王の誕生パーティー”が行われるはずだった、へディック国国立学院の講堂内は、未だかつてあり得ないほどの修羅場で賑わっていた。宮廷医師子息と騎士団長子息と大司教子息が喧々囂々と互いの親や祖父達の正体を暴露し、それぞれの悪事についても晒し合っているのだから、それは前代未聞の不祥事以外の何物でも無かった。


 普段から贅沢三昧な生活を送り、いくつもの”貴族病”を患っていた、カロン王の取り巻き貴族である彼等の親や祖父達は、ヒィー男爵令嬢の奸計に嵌まったことにより、自分達の”貴族病”が、いつの間にか、いつ神様のお庭に旅立ってもおかしくはない()()へと変化していたことを知り、あの7月の21日までは恐々とした面持ちで、これまでの自分の人生を振り返ってみたり、死後の神様のお庭に旅立つ自分を想像したり、残される家族の今後の身の振り方などについて、色々と思いを巡らせる日々を病床で過ごしていた。


 そんな状態であったというのに、あの7月の21日の神の御業が起きた次の日には、彼等は病床を出られない身を慮られることもなく、護衛集団の長であるアキュート……何が気に入らないのかはわからないが、突然自分の名前を厭い出して、ヒールと名乗り始めた老人に呼び出されて、城から逃げ出したカロン王を追いかけ、連れ戻す旅に出なければいけなくなってしまった彼等は、自分達の今までの悪行に対し、神がついに怒りを感じ、見咎めたのか、嫌だと断る口を封じられて、行きたくないと逃げる体も封じられて、老人の命じるままに病身の身を酷使させ続けて旅を続け、無事にカロン王の発見・捕獲に成功した喜びを噛みしめることも出来ないまま、また連日馬を飛ばし、やっとの思いで学院に着いたのは”卒業パーティー”の始まる前日の夜のことだった。


 ただでさえ死病で苦しんでいた彼等は休むことも許されなかった急ぎの旅で、すっかり疲労困憊で憔悴しきっていて、自分達はいつ何時倒れて亡くなってもおかしくはないと悟っていたので、それぞれの息子や孫達の卒業式の様子を保護者席から見守り、彼等のこれからの幸福を願い、出来ることなら、この後の”卒業パーティー兼カロン王の誕生パーティー”後に行われる、王子の即位式で、それぞれの息子や孫達が新しく王となった王子の側近に取り立てられる姿を目に焼き付けてから、神様のお庭に旅立ちたいと思っていたのだが……、それは悪者には過ぎた夢だったのだと、思い知らされることとなった。


 もしも自分達がまだ若くて体力があれば……、もしも自分達が”貴族病”になっていなければ……、もしも自分達がヒィー男爵令嬢の罠に嵌まり死病に冒されていなければ……、宮廷医師子息が告発しだしたのを体を張って止めていただろうに彼等はそれをすることが出来ず、その結果、その後に続いた騎士団長子息や大司教子息の告発も止めることが出来なかった彼等は、へディック国中の貴族達が集まる中で、自分達の正体を暴露されてしまったのだ。


 皆に知られたことも辛かったが何よりも辛いのは、自身が愛する我が子我が孫に自分が悪者だと知られることだった彼等は、それを否定しようと最後の力を振り絞ろうとしたが……それは出来なかった。それはまた今回も体の自由を神に奪われたからではなく、ある男の視線に気付いた彼等は、その顔の恐ろしさに身震いが止まらなくなりつつも、男から視線をそらせることが出来なくなったからだった。


(((髪は太陽の光を集めて作られたかのような艶のある黄金色をしているし、瞳は春の芽吹きを思わせるような暖かみのある碧の色だというのに、何だ、あの恐ろしい彼の表情は……。まるで昔に亡くなった”氷の公爵様”並に冷たい表情で睨まれると、蛇に睨まれたカエルのように動くに動けなくなる)))


 彼等が息子や孫の言葉を否定出来なかったのは、トゥセェック国から来たという、イミル将軍の存在があまりにも怖かったからだった。彼等は一瞬、十年前に事故死したシーノン公爵が生きていて、イミル将軍と偽って帰国したのではないかと思ったが、髪の色は変えられても瞳の色は変えられないので、イミル将軍はシーノン公爵ではないと思い直した。


(((それにしても”氷の悪魔将軍”の素顔が、あのように美しい男だとは思わなかったぞ。まるで十年前のカロン王に生き写しではないか……。カロン王の横にいる王子よりもイミル将軍の方が若き日のカロン王に似ているとは、何とも奇妙な偶然だな……)))


 彼等も講堂で修羅場を見守っていた人々もイミル将軍を見てから、チラリと王子に視線を移し、今のカロン王よりかは、遥かに整っている顔をしている王子だが、10年前のカロン王と比較すると王子は十人並みの容姿しかしていないなと、漠然と思って彼等の容姿を見比べていた。王子はまさか人々に十人並みの容姿だと評されているとは露知らず、目の前の修羅場が一旦落ち着くのを待つ姿勢を取っていたので、人々もまたイミル将軍の視線に恐怖しながらも、修羅場が落ち着くのを見守ることにした。






 王子は舞台に上がり、カロン王の横に立ち、”卒業パーティー兼カロン王の誕生パーティー”の挨拶をする……という、王子としての最後の晴れ舞台を台無しにされたというのに、少しも機嫌を損ねること無く、舞台の上から自分の取り巻き貴族だった男達の見苦しい言い合いの様子をまるでパーティー前の余興でも見ているような面白げな表情を浮かべて見入っていた。


(フフフ……、ああっ、最高に面白くて愉快だ!僕が王位を即位した直後にしようと思っていたことを、勝手に彼等がしてくれているなんて、何て楽ちんなのだろうか!ああやって互いを罵り合って蔑み合う姿は、何て醜くて滑稽なのだろう!ここが自室だったのなら、腹を抱えて転がり回って笑っていたところだ……。それにしても彼等に自分達の正体を知られたと知った、あの親達の顔と来たら……傑作だ!最高に笑えるぞ!他国や、この国で散々悪いことをしておきながら、自分の息子や孫には自分達が悪者であることを黙っていたとはな!フッ、この国を腐らせておきながら、息子や孫には立派な人物だと思われていたかったなんて、虫の良過ぎることを本気で考えていたなんて、とんだお笑いぐさだ!)


 そう思いながら、高みの見物を決め込んでいた王子はチラリと自分の父親であるカロン王を見た。初めて近くで見た自分の父は、とても人間とは思えない醜悪な容貌をしていて、王子は自分の親であるにも関わらず恐怖や嫌悪感を感じずにはいられなかったし、実の我が子を初めて目の前にしながら、何の感情も顔に浮かべず、何の声もかけてこない父に……我が子の名さえ覚えていない父に、王子は絶望した。母からも祖父からも、そして父からも家族の愛情というものを得られないのだと思い知った王子は直ぐに顔を背け、自身の父から視線を反らし、舞台前で修羅場を繰り広げている連中の傍にいる仮面の弁護士を見た。


(あいつらと違って、僕は自分の父が()()()()だと知っている。そして僕は僕の家族から愛されていないことも知っている。だけど僕は大丈夫だ!……僕には僕を愛してくれる仮面の先生がいる。血のつながりや性別や身分差なんて関係ない。仮面の先生だけが僕に本当の愛をくれる人なんだ!本当に僕を心から愛して、愛する僕のために無償の愛で身を犠牲にするのを厭わないほどの献身をしてくれる人は仮面の先生ただ一人だ!……仮面の先生、()()()()()無理をして諸外国を駆けずり回って、要人達を集めてくれて、本当にありがとうございます!あなたの数々の好意を僕はけして忘れてはいません。僕が王になった暁にはあなたに公爵位を授け、城の大臣兼僕の正妃に迎え、僕は腐った国をあなたと共に建て直して見せますから!)


 しゃがれた声のしょぼくれた猫背の中年男性である仮面の弁護士を王子は愛しげに見つめる。見た目は冴えない彼だが、彼は見た目の胡散臭さに反して、とても誠実で優しい性格をしていたし、剣術や体術の腕も超一流で、しかも教え方が上手で臨時教師でありながらも学院生達の面倒見が良く、彼等の相談事を親身に聞いてくれるので学院生達は彼をとても信頼し、平民の身である彼を唯一素直に信用してよい大人として、王子だけではなく、他の学院生達からも彼は心から尊敬されていた。王子は仮面の先生の仮面の下の顔を思い出し、熱の籠もった表情で、うっとりと仮面の先生を見つめ続けた。


(あの仮面の下に隠されている傷こそが、仮面の先生が僕を愛してくれている、何よりの証拠だ!仮面の先生、見ていて下さい!あなたの愛を得ている僕は無敵だし、愛するあなたの手助けだって、僕はキチンと出来るんですよ!)


 王子には仮面の先生の意図がわかっている自信があったから、彼がこの後に何をするのかもわかっていたので、舞台袖にいる警備員達にそっと目配せをし、仮面の先生の手助けをしてくるようにと指示を出した。

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