表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”名前なき者達の復讐”最終章~7月8月
258/385

”名前なき者達の復讐”最終章の幕開け(前編)

 この世界では大昔から人は神という存在を信じ、畏れ、敬ってきた。天候不良や地震等の自然災害や流行病等で多くの人々の命が危機に晒される度に、人々は神の存在を身近に感じ、神が人々に怒り、試練を与えているのだと考えるようになった。そうして人々は神の怒りを鎮めるためにはどうすればよいかと考えるようになり、やがて生み出されたのが信仰であり、教会であり……神楽舞だった。神に奉納する舞を考案したのは、この世界で一番最初に国というものを造ったへディック国の始祖王だったと伝えられているが、彼が何故、それを考案したのかの理由については、長年謎のままだった。




 シーノン公爵亡き後、エルゴールの……神子姫エレンの父であるシュリマンは自身の父、前大司教ケンタンの死の真相を追求する日々を送っていた。筆無精だったケンタンがシュリマンに残した手紙こそ、父の死の真相へ近づく唯一の手掛かりであったのだが、シュリマンには手紙の謎が解けなかった。


 そんな中、シーノン公爵の49日の法事のために彼の顧問弁護士だった仮面の弁護士のカロン……ナィールを尋ねたシュリマンは、仮面に隠した彼の素顔に、ふとしたことで気付いてしまい、ナィールの正体が、カロン王の双子の兄だということを知ってしまった。素性がばれてしまったナィールは自身の生い立ちも以前抱えていた復讐心も全てを明かし、自分の今考えている計画さえもシュリマンに打ち明けた。


「何故、見知って間もない私に全てを?私があなたを裏切って王家に密告するとは考えないのですか?それとも……全てを話してから、この私を消そうとでも考えているのですか?」


「あはは、そんな心配は、はなからしていませんよ。あなたはカロン王のせいで妻と離れて、生活を送らねばならなくなった人でしょう?私ほどではないかもしれませんが、王家を快く思っているわけではないと私は知っています。それにあなたは異国の神……銀色の妖精の信奉者であり、それ以上にイミルグラン・シーノン公爵の……熱心な信奉者だ。へディック国からシーノン公爵家の名前が抹消されるのを最後の最後まで大反対していたあなたを私が消すわけがないでしょう。そんなことしたら今度会うときに、私はあいつに絶交されてしまいますよ」


「?絶交?今度会うとき?」


 シュリマンは、そこでシーノン公爵が生きていることを知り、神に感謝した。ナィールと仲良くなったシュリマンは彼の計画に乗ることにし、そしてナィールはシュリマンの父の死の真相を探す協力を申し出た。その後、シュリマンはナィールに寄せられたシーノン公爵……グランの手紙の指示に従い、教会の大部分の人間を動かし、教会で”大衆劇”という、物語を見せる施しを始め、民衆の心を掴むと同時に流行病から生き残ったへディック国の民の人数を各教会で把握し、ナィールとナィールの仲間達と協力し合って計画的に少しずつ、民達を国外に脱出させはじめた。


 グランはナィールとの手紙のやり取りで、シュリマンの父の手紙の存在を知り、それの解読の協力を申し出た。ナィールを通じて送られたケンタンの手紙を検分したグランは、セデスと力を合わせ、手紙を無事に解読することに成功した。ケンタンの手紙によると、へディック国の大聖堂の大司教となった者には、ある秘密の役目があるのだと書かれていた。その秘密は城の大聖堂に隠されていることや、その秘密の役目をケンタンが果たそうとしたところ、クローニック侯爵に突然、謀反の疑いを掛けられて、謹慎処分を言い渡されたと書いてあることがわかった。


 ナィールはグランの手紙を受け取り、シーノン公爵領に残っていた、セデスが育てた忍者集団”銀色の妖精の守り手”達を使い、ケンタンの死の真相を探り、彼がカロン王の祖父である、今は亡きクローニック侯爵に殺されていたことを突き止めたが、城の内部に入ることが出来なかったため、何故ケンタンがクローニック侯爵に殺されなければならなかったのかについての理由は、依然わからないままだった。……しかし今年の5月に沢山の貴族が病死で亡くなり、城の内部への潜入が容易となったことで、ついにナィールとシュリマンは、その理由を知ったのだ。






 ケンタンの指示した場所にあったのは、一冊の古い日記だった。それは古語で書かれたへディック国の始祖王の日記で、へディック国の国の成り立ちと神楽舞の発案に至った経緯について、彼が日記に真実を書き残していたものだった。


『この世界は母神に別れを告げられて、一人で三人の幼い兄弟神を育てなければならなくなった父神が子ども達に、残された家族だけで力を合わせて困難を乗り越えていくのだということを教えるためだけに物語を再現させ、子達に見せるためだけに作った神の箱庭の世界である。


 ()()()も、父も母達も、兄弟達も、周囲の人々も全ての皆が、神の子どもを育てるための物語を見せるために誕生させられた人物だなんて、馬鹿げた真実を知った時、神がこれ以上、人間に無体を押しつけることのないよう、この世界の初めての”英雄”となった私は神の願いを叶え、父神の子達に見せたい物語を見せる代わりに、いくつかの取り決めを父神と交わすことに成功した。物語が終われば、この世界は人間のモノとなるように……再び、父神の手出しが出来ぬようにと、父神の”英雄”である私が”英雄のご褒美”を願ったことにより、この世界は人の世となったが、また神の機嫌を損ねないように神楽舞を見せて、神の心を慰めるように教会は努めてほしい。


 そして私の死後、私以上に神により、その人生を狂わされた姉のヒールとヒールの子孫が、もしへディック国を尋ねることがあれば、教会は私の日記と壁画の裏の絵を世間に公表し、ヒールは無実であったと国中に知らしめて、ヒールの名誉回復に全力を注いで欲しい。ヒールの無実についての事の子細を下記に示す……』


 そう書かれた日記を読んだナィールとシュリマンだが、二人は最初、その日記に書かれていることを信じることが出来なかった。何故なら二人は神に見せる物語だとか、”英雄”とか”英雄のご褒美”の話が、あまりにも現実離れした話だと思ったからだった。……ただ日記の下記に示すと書かれた後の部分については、へディック国の建国で言い伝えられていた異母兄弟の悪行うんねんが、全て嘘だったことが分かり、さらには城の大聖堂にある壁画の裏の壁画が、仲の良さそうな5人の子ども達の遊んでいる姿の絵だったことから、ケンタンはへディック国の始祖王の遺した願いを叶えるため、ヒールの子孫に真実を伝え、この秘密を公表しようとして殺されてしまったのだろうと推察することが出来た。


 この事実を知ったナィールは直ぐに早馬を出し、グランに大聖堂にあった日記を送り、自分が所属しているトゥセェック国や友好国のバッファー国やバーケック国にも手紙を出した。ナィールの手紙により、不安になったトゥセェック国やバッファー国やバーケック国の当代の王達は、知恵を借りるために、学院にいるバッファーの”英雄”であるライトと、”銀色の妖精王”と称えられる賢者がいる学院に使いを出し、学院の女子寮の大浴場に集まった使者達は、6月初めに神の夢告を受けたというライトの口から、最後の神の見たい物語を聞き……騒然とした。


 それというのも最初の父神の見たい物語が実は終わっておらず、それを終わらせることこそが、最後の神の望む物語だったからだ。この世界で父神が最初に見た物語の最終章こそが、最後の神の見たい物語であり、”ヒールは悪者ではない”と言うことを証明したいと心から思っている者……つまりヒールの子孫こそが、最後の神の見たい物語の主人公……”英雄”だということが判明したからである。


 最終章のあらすじは、こうだった。祖先のことを尊敬していた男が、祖先が生まれた国を尋ねた。そこでは男の祖先は悪者であったと言い伝えられていて、男は激しく動揺し、その真偽を確かめようとした。へディック国の始祖王の敵は、彼等5人兄弟の父であるへディックだったが、この最終章の敵は、男を自分の野望のために、復讐者へと仕立て上げた侯爵だった。その侯爵の奸計により、祖先を悪者にしたのは王族だと思い込んだ男は王家に恨みを抱き、国を滅ぼすことを望み、国を破滅ギリギリにまで追い込んでいたが、最後の最後で真実に気付き、その侯爵の野望を打ち砕き、祖先の濡れ衣を晴らし、本当に悪かったのはヘディックだったのだと皆に知らしめ、民は破滅から救われ、平和が戻った。


 ……と言葉で言い表すと、このようにとても短い物語なのだが、この短い最終章の物語を現実の世界で見たいがためだけに、神はとんでもない不幸をへディック国にまき散らしていたことは、ここ何十年かのへディック国を見れば、一目瞭然のことだったので、それを知った学院の女子寮の大浴場に集められた使い達は、皆一様に震え上がり、急いで各国の王達の元に戻り、詳細を伝えた。


 最後の神の見たい物語の内容を知った王や教会の者達は使い達以上に震え、慌ててヒールの子孫が見てくれることを祈って、次の月の”観劇”……”大衆劇”に”偽りのウルフスベインにレクイエムを”という劇を上演することを決めた。彼等はこれを上演することで、神の見たい物語の”英雄”に選ばれただろう、へディック国にいるヒールの子孫が、神の見たい物語通りに真実に気付いて、へディック国を滅ぼすことを踏みとどまってくれるようにと願ったのだ。






 そのヒールの子孫の生き残りの男は、彼等の願いがこめられた”偽りのウルフスベインにレクイエムを”を見ることはなかったが、その代わりに……7月を少し過ぎた頃に、ピンク色の髪の侍従から手紙と日記帳と……白いリボンを受け取ったことにより事の真相を知った。


 彼は自分や自分の一族達がクロニック侯爵に騙されていたことを知り、やり場のない激しい怒りと後悔に苛まれ、地獄のような苦しみを味わっていたが、同じ月の21日に神の……ご先祖様と始祖王からの叱咤激励の声を聴き、ついに自分の過ちを正すために……全てを終わらせるために病身の身を引きずり、立ち上がる決心をした。


 男には、心強い導き手がいた。


 遠い昔、ヒールを守るために、ヒールを悪と偽ることで、へディックからヒールを守ってくれた兄弟の血を引く、聡明な一人の少女。男は手紙により、少女の祖先同様に、気高き心を持っていた彼女が、この5月に自ら悪役となって、国を救っていたと知り、慌てて暗殺することを止め、少女を助けるために行方を捜していた。その彼女が探索者の目の前で井戸に飛び込んだのは、カロン王が城の地下を流れる川に飛び込んだ日と同日で、それは……神の御業が現れた時間よりも数刻も早い、日中での出来事だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ