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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~7月
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二人の初恋は永遠の愛で結ばれる(後編)

 白いワンピースを着たアイが……愛が、ライトに……雷斗にエスコートをされながら花嫁の控え室から会場である中庭へと向かって歩いている。そこにいる人は皆、ミグシスやセデス達のような黒髪と黒い瞳を持つ人ばかりで、イヴやアンジュやピュアのような髪色の者は誰一人いなかった。


 愛と雷斗が扉前に立つと係の者らしき人達が、中庭に続く扉を開いてくれ、それと同時に中庭で待っていた人達の祝福の歓声と拍手が聞こえてきた。中庭に設置された上座では、スーツを着たマコトが……真が立っていて、愛しげに愛を見つめて待っていた。愛は父親代理の雷斗と共にバージンロード代わりのレッドカーペットの上を歩きながら、中庭の隅をチラッと振り返った。そこには愛の予想通り植木に隠れてチヒロが……千尋が泣きながら愛を見つめていた。


「ホント、私の父さんって、ヘタレよね」


 愛は苦笑しながら、雷斗に囁く。雷斗は眉間に皺を寄せながら、呆れ声で答える。


「あいつはアレで、見つかっていないつもりなんだな。はぁ、どれだけヘタレなんだか。愛が人前結婚式をこのホテルのレストランで行うことに決めたのは、ここがホテルの中庭を使って、ガーデンウエディングパーティーを行うからだってことにも気付いていないんだろうなぁ」


 雷斗は愛がこの場所を選んだのは、愛の父親である千尋が中庭の木々に隠れながら、愛の結婚式が見られるようにと配慮したためだということを知っていたので、苦労をかけてきた娘の一生に一度の晴れ舞台なのに、その主役である娘に、こんな気を使わせるなんて本当に情けない父親だと嘆いた。


「母さんが生きていたら、今頃、父さんに怒ってるね」


 愛は中学生時代に亡くなった母親のことを思い出し、切なく悲しい気持ちになった。あの時、愛は生まれて初めて神様に、二つのことを願った。


『神様、どうか母さんを助けて下さい!』


『神様、どうか母さんが死んでしまう前に、どこかに行ってしまった父さんをここに連れてきて下さい!』


 それはあまりにも急すぎる別れだった。愛が中学3年生の12月初めに突然、母親が激痛を訴え出し、嘔吐し、頭を抱え込むようにして倒れた。沈痛な表情の医師から告げられた母親の余命は、後三ヶ月だった。


『半年前に……いや、せめて三ヶ月前位までに病院に来ていれば助かったのですが……残念です』


 愛の母親であるユイ……唯は、愛や雷斗と同じ頭痛持ちだったために、その病気の兆候であった頭痛を、いつもの持病だと思ってしまい、病院に行くまでもないと、いつものように市販の鎮痛剤を服用して、痛みを誤魔化し続けていたことで、病気が発見されたときには、もう手遅れとなって、手が付けられない状態となっていたのだ。


 その当時、真は真の父親がフランスで開かれるゲームショウに招かれていて、ゲームが好きな真は家族と共にフランスに行っていたので、愛の身に起きたことを知らなかった。愛もまた、母親の不治の病気のことを信じたくない気持ちや、フランスに行っている恋人を心配させたくないという気持ちがあったために、そのことを知らせなかったのだ。……でも。後3ヶ月の命だったはずの唯は、その月の25日に亡くなってしまった。


 千尋は唯の最期の瞬間には立ち会えたが、それまで頭を抱えて、のたうち回り苦しんでいる唯の傍にはいず、その間、愛は母の体を抱きしめ、ボロボロと泣きながら父が来るのをひたすら待つことしか出来なかったのだ。……しかも千尋は、やっと、どこかから戻って来たと思ったら、ニタニタと顔を歪めて笑う気味が悪い印象の女性を連れていて、その女性は苦しんでいる母を見て、指差しして笑い、「ざまぁみろ!私の男を奪った報いが来たんだ!」と言い放った。……さらには母が亡くなった後、父はまた姿を消したので、愛が探していると、病院の看護師が父は先ほどの女性と病院を出て行くのを見たと知らせてくれた。


『神様なんていない。信じられるのは自分と真君だけよ』


 ……何も知らなかった真が帰国して、真っ先に愛のところに戻ったときには、すっかり愛は無神論者となっていた。世界で一番幸せであるはずの結婚式を挙げているというのに、愛の心は言いようのない悲しみでいっぱいだった。


(母さんが生きていたら良かったのになぁ……。それがダメでも、せめて、あの時、父さんが病院から出て行かなきゃ……良かったのになぁ……)


 愛の心は大好きな家族を亡くしたことを悲しんでいた。愛の心は大好きな家族がいつまでたっても、自分の傍に来てくれないことを悲しんでいた。愛は心から愛する人と結ばれる自分の姿を両親に見せられないことをとても……とても悲しく思っていたのだ。




 イヴは夢の中で愛の……アイの身に起きた悲しい事実を知り、生まれて初めて心の底から神様に祈った。


『神様……どうか、お願いです。アイを助けて下さい。アイが悲しい気持ちで結婚式を挙げることがないように、アイを幸せにして下さい!』


 イヴがそう願った次の瞬間……イヴはさっきとは違う光景を見た。






 愛と真が教会で結婚式を挙げている。ウエディングドレスを着た愛は、緊張で両手両足が一緒に出てしまっている父親の千尋と共にバージンロードを歩いていて、千尋の足下をチラッと覗き見る。


「もう、父さんのヘタレ!緊張しすぎよ!」


 愛は苦笑しながら千尋にダメ出しをする。千尋は泣きべそ声で、愛に謝りの言葉を口にした。


「ううっ、ご、ごめ!でも俺の娘が、ついにお嫁さんになると思うと涙を堪えるのに必死で……ううっ!」


「ほら、もうちょっとだから頑張って歩こうよ!大事な式で躓いたら雷斗伯父さんが怒って、かかと落としだよ!母さんだって、その時はさすがにかばってくれないわよ」


 愛は教会の父兄席で見守る母親の唯と伯父の雷斗と、真の両親に向かって手を振ってから、白いタキシードを着て、愛が来るのを愛おしそうに待っている真の元に早く行くために、千尋を急かしながら嬉しそうに歩いて行った。


 愛と真が誓いのキスを交わすと、真側の招待客の座る後部席の辺りから、「「「うう~、ホントに良かった!」」」と沢山の人々の喜びの歓声が響いてきた。愛と真が歓声に驚いて後ろを振り向くと、そこには雷斗と年が近そうな男女が20人近くもいて、皆が皆、涙を流しながら愛と真が結婚したことを、心の底から喜んでいる様子だった。


「「「うわ~ん!やったー!二人の初恋は永遠の愛になったんだー!!」」」


 愛が目を丸くして驚いたままでいると、真は苦笑して、こう言った。


「ああ、あれは父さんの職場の先輩だった人達と、仕事で知り合った仲間達なんだってさ。よくわからないけど、何か僕達の……昔からのファンで、どうしても僕達の結婚を祝いたいからって、強引に押しかけて来ちゃったんだってさ」


「私達の昔からのファン?それって、どうい「これで結婚式をお開きにします。では招待客の皆様。今から新郎新婦が退場しますので、心からの祝福の拍手で、これから夫婦として人生を共に歩む二人を送り出して下さい!」」


 愛はどう言う意味かと真に問おうとしたが、結婚式の進行を進める係の者の言葉が聞こえたことで、それを問うことを止めた。係の者の言葉を合図に拍手が起き、愛は真と共に満面の笑みで、教会から退場していった。


 それを見てイヴは心から嬉しくなり、心の中で神様にお礼を言った。


(ああっ!すごい!神様は本当にいたんだわ!神様!!私の願いを聞いてくれて、本当にありがとうございます!おめでとう、アイ!良かったね!いつまでも幸せにね!)


 ……そうしてアイの幸福を夢で見て、幸せな気持ちとなったイヴだったが、深い眠りから覚めた、その時にはもうイヴは、夢の内容をすっかりと忘れてしまっていた。




 イヴとミグシスが心身共に深く結ばれた、次の日の昼近く。やっと目を覚ましたイヴは、イヴを腕枕して、ずっとイヴの銀髪を優しく梳いていたミグシスから、おはようのキスをもらった。


「おはよう、ミグシス。私ね、何の夢を見ていたか忘れたけれど、とてもいい夢を見たの」


 イヴがそう言うと、ミグシスは自分は不思議な夢を見たと言った。


「俺はね、アンジュ様……いや義母様(かあさま)に似た神と名乗る人に、イヴの本当の願いを叶えたいのだけど、時間と次元に干渉するには俺の分の本当の願いを叶える力も必要だから使っても良いかと尋ねられる夢を見たよ。勿論、俺はイヴの幸せが俺の幸せだから、イヴの本当の願いを絶対に叶えてやってくれって、念押ししておいたよ!」


 イヴは、まぁ!と驚きの声を上げた。


「本当に不思議な夢ね。ありがとう、ミグシス。夢でも私の幸せを真っ先に考えてくれて、とても嬉しいです。でもね、私もね、私の幸せはミグシスの幸せなの。だから何か叶えたい夢とか、やりたいことがあったら教えてね」


 イヴがそう言うとミグシスはイヴにキスした後、こう言った。


「うん、ありがとう。……俺は長く叶えたかったことを昨夜ついに叶えられて、すごく幸せなんだけどさ、実はまだまだ足りないんだよね。だからさ、イヴ。結婚したら覚悟をしてって、俺は言ったよね?だから覚悟して、これから先もずっと、ずっと俺だけに愛されていてね。俺の12年分の重い愛を受け取って」


 ミグシスの言葉に真っ赤になったイヴはコクンと小さく頷いて、シーツで顔を隠した。シーツの中でイヴは小声で囁いた。


「……ミグシスこそ私の12年ごしの初恋と、これから先の未来の愛もずっと受け取ってね」


「っ!?ああっ、もうイヴ、すっごく愛してる!!」


 愛しい妻の告白に頭が真っ白になって理性の箍がぶっとんだ夫は、新婚夫婦らしい甘い休暇を過ごすために、妻の隠れるシーツに自分も潜っていった。イヴとミグシスの二人には片頭痛が起きないうちに何事も先に済ませてしまおう……という合理的な考え方が、長年の片頭痛との闘いで染みついてしまっていたために、この後の夏休みの期間を二人は本当に蜜月休暇として過ごしたことにより、スクイレル達が1月に神に願った『イヴとミグシスには、僕イベのことを気付かせない』という願いごとは、こんな形で無事に成就されることとなった。






 二組の新婚夫婦が全てのことが終わり、安全になったのでバーケックから出るように、との手紙を受け取り、バーケックで世話になった者達に別れを告げ、また6頭立ての馬車に乗り、半月と少しかけて、学院に着いたのは9月半ばを過ぎた頃だった。


 ピュアは学院にいる理由が無くなったので、夏休みの間にジェレミーと相談し、学院を退学することにした。二人には料理の店を持つという夢があったので、その店の資金が貯まるまで、ジェレミーは学院の厨房で、ピュアは授業助手とダンスと刺繍の先生として、学院で働くことになった。そしてイヴも、あれ以来、片頭痛にならなくなったので治験を外れたために、学院にいる理由が無くなってしまったが、3月までは平民クラスの友人達と一緒にいようと決めていたので、一旦、学院を退学し、3月までの臨時の保健室の先生として、同じく臨時の剣術指南の先生として働くことになったミグシスと一緒に、3月までは学院に残ることになった。女子寮の特Aクラスの居住フロアは、既婚者職員の居住フロア……職員寮と名を変えて二組の夫婦は、そのまま、そこに住み続けることとなった。

次回からへディック国の話となります。時間は、また少し巻き戻る予定です。先に進んだと思ったら、また戻ってしまう、お話に付き合ってくれて、いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


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