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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~7月
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二人の初恋は永遠の愛で結ばれる(中編)

 ミグシスはシャワーを浴び、頭や体を洗いながら、イヴのことを考えていた。


(イヴ……疲れたんだろうなぁ……。長旅をして、やっとバーケックに着いたと思った途端、カロンのせいで役所で気を失う羽目になるし、その後にゆっくり休むこともなく、バーケックの学院で行われる行事にも三日間連続で参加したのだから疲れないわけがないよなぁ……。それなのに俺ときたら、イヴとそういうことをしても許されるとわかった途端、抑えが効かずに本当の夫婦になろうって言ってしまうなんて……。イヴのことを顧みない、ひどい発言だったよなぁ。がっつきすぎだったなぁ。後でイヴに謝ろう)


 そう思いながら体を洗っていたミグシスは浴室の外からイヴに、「着替えを置いておきますから、これを着て下さいね」と声を掛けられた。イヴに礼を言って、しばらくして浴室から出たミグシスは、用意されていた着替えの服を見て、イヴが疲れているのだと確信した。何故ならば脱衣所の着替えを置くカゴには、着替えの部屋着ではなく、薄手の夜着……絹の寝間着が置かれていたからだ。


 ミグシスは旅行するようになってからはイヴと一緒のベッドで寝ていたし、イヴが午睡をするときも着替えて、一緒に午睡をしていた(午睡するフリをして、イヴの可愛い寝顔を間近で愛でていた)ので、イヴがシャワーを浴びた後、二人でお茶を飲むこともせずに眠りたいと言うのだろうとミグシスは思った。


(あっ、夜着だ。そうか、イヴはこの後、午睡をしたいんだな。やっぱり疲れていたんだなぁ。よし!イヴが体を洗っている間に寝室を整えておこう)


 イヴに対して申し訳ないという気持ちになったミグシスは、イヴと入れ替わりで浴室から出ると寝室に向かい、窓を少しだけ開けた後に厚手のカーテンを閉めた。


(最近イヴは頻繁には片頭痛にならないみたいだけど予防はしておかなきゃ。これで夜みたいにとは言えないけれど、充分日差しは避けられて薄暗くはなったから、午睡もしやすいだろう。イヴが来たら朝の発言のことを謝って、一緒に午睡しよう。うん、イヴのことが一番大事だから焦らずに、ゆっくりと関係を深めていこう。もう俺達、夫婦なんだし、これからいくらだって時間はあるしな。しばらくは()()を続行しよう)


 部屋の中を薄暗い状態にしてから、枕元に水差しと念のために白いハチマキを用意して、イヴが来るまでに朝に整えておいたベッドを、もう一度整え直しておこうとしたとき、コンコン!と控えめなノックが聞こえてきた。ミグシスはベッドを整える姿勢のまま、「どうぞ」と返事をして、「今すぐ用意するから、ちょっと待っててね」と言いながら、その作業を続けた。


「さぁ、出来たよ、お待たせ、イヴ!あのさ、イヴ、今朝はごめんね。俺さ……?え?」


 ミグシスはイヴがミグシスの傍に来るまでイヴを見ることがなかったので、イヴがどんな姿をしているかを知らなかったので、振り向いてから見たイヴの姿に、目を大きく見開いて見入ってしまった。


「うわっ!イヴ?その格好……。って、え?え?俺……我慢しなくていいの?待てをしなくて……いいの?あの、あのさ、俺のことなら気にしなくていいんだよ。俺の朝の発言は忘れてよ。俺、君を本当に愛しているから、君の体が一番大事だし、俺、待て、出来るよ!」


 完全にそういうことはお預けだろうと思い込んで、無防備状態だったミグシスの目の前には……頬をいつも以上に染めた、美しいイヴがいた。イヴは新婚初夜の新妻がよく着るという、清楚でいて、それでいて扇情的な、裾丈が膝上までしかない短めの絹のレースの白いネグリジェを着て立っていた。思わずゴクン!と大きく喉を鳴らせてしまったミグシスに、そっとイヴは寄りかかり、言った。


「ごめんね、ミグシス。私が……待ては、もう嫌なの。ホントなら夜を待つべきなんだろうけれど、私はいつ片頭痛になるか、わからないから頭痛がないときに……頭痛に邪魔されない間に、きちんとあなたと愛し合いたいの……。慎みがないことを言って、ごめんなさい。でもね、役者のカロンさんがね、本当に私のやりたいことがあれば、我慢せずにやってみたらいいと言ってくれたし、片頭痛が不安なら、出来るように相談すれば良いとも教えてくれたの。それでね、私。私もミグシスがずっと好きだったから……。ミグシスと同じように私も私が大人になるまでずっと……待てをしてたから。だからね私、恥ずかしいけれどあなたと……キャ!!」


 イヴの言葉はイヴを抱き寄せたミグシスによって遮られた。


「君が慎みがないなんて思うわけないよ!ああ、俺は今日の、この瞬間をどれ程待ちわびたか!!愛している、イヴ!君を永遠に離さない!」


「ミグシス、私も永遠にあなたを愛しているわ!」


 二人は見つめ合いキスを交わし、その後……身も心も結ばれた。







 その姿を見かけるだけで嬉しい。目と目が合うだけで胸がときめく。言葉が交わせるだけで心が弾む。……そんな初めての恋心は心身が成熟するに従って、大きく変化をしていく。相手を想うだけだった幼い心は、やがて相手にも自分と同じように想ってほしいという欲求を感じるようになる。相手にも自分を見かけるだけで嬉しいと感じてもらいたい。相手にも自分と目があったら、胸をときめかせてほしい。相手にも自分と言葉を交わすだけで心を弾ませてもらいたい。


 そして幸いにも相手も自分のことを想っていると知ると、人は心身が大人に成長していくに従って、また大きく、その恋心を変化させていく。恋し恋されたいという気持ちから、愛し愛されたいという気持ちに変化する。心が通じ合うだけで満たされていた気持ちが、それだけでは足りなくなり、相手の体も求めるようになるのは、人が弱い生き物だからだろうか?


 目と目を合わせ、視線を交じらせて、お互いを見つけ、言葉を交わして、心を交じらせて、お互いを知り、手と手を繋ぎ、同じ生き物だとお互いに知らせ、唇と唇を合わせ、求め合う気持ちに、お互いが気づき、お互いの全てでもって、お互いの愛を深く知るために……お互いに深く知らしめるために、全身全霊を用いて人はお互いを愛し合うのだろうか?


 長い片想いをしていた二人はついに、心身共に結ばれた。ミグシスは初めてではあったが、少年時代を過ごした歓楽街で得た知識や、その後にセデスや騎士団の皆から教わった教養を総動員させて、出来るだけイヴに痛みが無いようにと全力を尽くし、イヴは愛する夫であるミグシスを信頼し、恥じらいつつも彼の与える甘い愛の快感を素直に受け入れた。


 その結果イヴは初めてだというのに、殆ど痛みを感じることなく、最初から最後まで優しく甘く啼かされ続け、ミグシスはイヴの初々しく恥じらいつつも、彼の愛情を素直に受け入れる姿に煽られ続け、ついに結ばれたときには二人共が結ばれた喜びと、あまりにも愛を感じる甘くて強すぎる快感に涙を流して、全身で甘美な愛を二人揃って同時に感じることとなり、二人は幸せに酔いしれ、愛の交歓に夢中になってしまい……いつもは早寝早起きの二人が眠ったのは次の日の朝方近くとなってしまった。


 今まで片頭痛にならないようにと常に考え、夜更かしをしたことが一度もなかったイヴは、生まれて初めての夜更かしと、夫となったミグシスとの初めての愛の行為により、今まで生きてきた中で一番と言っても良いくらいに疲れきってしまい、愛する夫であるミグシスの腕の中で深い眠りについた。通常なら深く眠ったのならば夢を見ることはあまりないだろうが、あまりにも深い……とても深すぎる眠りだったからだろうか?イヴはイヴ自身も意識したことがないほどの深層心理の中で不思議な夢を見た。それは大人の女性の姿のアイがミグシスと……マコトと、教会らしき場所で結婚式を挙げている夢だった。

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