表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~7月
252/385

真夏の日の夕べ~三日目の食事会④

「あなたは5月の茶会の話を聞き、ルナーベル様がゲームの”ルナーベル”のように主人公を悪役から助ける力を持っていることに気づき、片頭痛という”気のせい(悪役)”によって苦しんでいるイヴや私の元に、ルナーベル様を向かわせたいと考え、貴族達の様子からルナーベル様の魅力に気付いた貴族達が彼女を無理矢理攫うだろうとナィールが危機感を抱くはずだと推察した。


 あなたはナィールがルナーベル様を助けるために、彼女を密かに守っていたセドリー達……”銀色の妖精の守り手”達を頼り、私の元に向かわせようと考えるだろうと予想をしていたのではありませんか?だからこそ、ナィールや”銀色の妖精の守り手”達が、どうやってルナーベル様を国外に逃がそうかと思案するまでもなく、あなたは大がかりな”合同法要”や2ヶ月もの喪中を行うよう貴族院に命じ、ルナーベル様が学院を出るための理由だけではなく、貴族達の足止めさえも用意した。カロン様、本当に何から何まで本当に……本当にありがとうございました。幾千の言葉を重ねても足りないくらいに、あなたに感謝しています!」


 イミルグランはそう言った後、深々と頭を垂れた。それを見たカロンは慌てて言った。


「っ!?顔を上げてよ、イミルグラン!私は君に頭を下げられるようなことは何もしていないよ。だってルナーベル嬢を助けたのはナィールで、私は何もしてないんだから!合同法要だって貴族が大勢亡くなっていたからで……たまたまだよ!」


 イミルグランに礼を言われているというのに、カロンは、まるで悪戯が見つかった子どものような、ばつが悪い表情になって、フイッと横に顔を背けた。


「あなたの、そのふてくされたような顔……。昔……学院に入学したてのころの少年だったあなたと同じ表情ですね。……ああ、思い出しました。一年生の夏休み前のあなたは、今みたいな感情豊かな表情を私に、よく見せてくれていましたね」


 イミルグランはそう言った後、青い瞳を涙で滲ませ、感極まった声で「……あなたが何もしていないはずがないでしょう?」と呟き、言葉を続けた。


「あなたは……あの夏休み後から、急に軽薄な立ち居振る舞いをするようになった。あの時は理由がわからなかったけれど、今ならわかります。あなたは、あの夏休みの時に自身の義弟であるミグシリアスの命を救い、私の命が狙われていると知り、私の命を守ろうと悪役の仮面を被って、私に仕事をさせることで私や国を……民を守っていた。


 私がいなくなってから、あなたはナィールに会い、この世界の真理……神の見たい物語に我々人間が巻き込まれているのだという真実を知り、尚且つ僕イベに含まれていた3つの物語の内、復讐の物語がへディック国に色濃く再現されていることに気づき、復讐ゲームで起きる戦争を回避させるために、この10年間、たった一人で国を守ってくれていた。


 そして僕イベの乙女ゲームの攻略対象者達に転生していた、僕イベを作った4人の存在を知ったあなたは、彼等をイヴの元に向かわせることで、へディック国で乙女ゲームが再現されないように仕向け、万が一にもイヴが悪役辞退が出来ていなかった場合に、イヴが悪人が集うへディック国に引き寄せられることがないように取りはからってくれた。それと共に僕イベの中に潜んでいた復讐ゲームの残滓からルナーベル様を守るために、我々が送り込んだ”銀色の妖精の守り手”達に、学院の建設を任せてくれて、ナィールがいざというときに動きやすいようにと、学院法まで改定してくれていた。……そして今回のルナーベル様のことも。


 あなたは本当に長い間、ずっと一人で私や皆のために……イヴのために、あなたの人生をかけて、ありとあらゆることをしてくれていた。金の神にとっての”英雄”はイヴなのかもしれませんが、イヴや私……いや、神の見たい物語に巻き込まれた、この世界に生きる全ての者にとっての”英雄”はあなたです、カロン様。あなたこそ、神の見たい物語から我々を守る”ルナーベル”だったんだ……。


 それなのに私は……ずっとあなたを誤解していた。あなたの真実に気付かず、魑魅魍魎が跋扈する城で孤立無援だったあなたを救うこともせず、私は我が身我が娘の身を守るために、あなたを騙して国を捨てた。なのに、あなたは……。私は何とあなたに詫び、礼を言えばいいのか……言葉が出てきません。私はなんて愚かで「そんなことないよ!」」


 カロンは大声を出して、グランの言葉を制した。


「そんなこと言わないでよ、イミルグラン!君は愚かなんかじゃない!詫びも礼もいらないよ!君が気付かなかったのは、私が君を……皆を騙していたからだよ!……そうだよ、最初に騙していたのは私だったのだから、君は悪くない。そもそも君が私を騙して国を出ようと考えたのも私のせいだったんだから、君は何も悪くないんだ!本来なら国を正道に導くのは私の仕事なのに、祖父が怖くて国政を放り出して傀儡となっていた私に代わってへディックを守っていたのは、不治の病を抱えていた君じゃないか!だから君を悪く言うヤツなんて誰もいないし、誰にも……例え君自身にも、君を悪く言わせないし、言われたくない!!」


「ですが私は「それ以上言うな、イミルグラン!」」


 カロンの剣幕にたじろぎつつ、イミルグランはなおも言い募ろうとしたが、カロンはそれ以上の彼の謝意を聞こうとはしなかった。


「それ以上、自分を悪く言うのは止めてくれ。10年前……君がへディック国を脱出せずに、あの生活を続けていれば、君は間違いなく過労による心臓発作で亡くなっていたんだ!だから君は何も悪くない。君が生きているだけで私は……、それだけで充分なんだ。君が生きて幸せでいてくれることが、私の幸せなんだ!私が幸せでいてほしいと願う、私の好きだった人が、私のことで困ったり悔いたりするのを、私は望んでいない!……だから謝らないでくれ、イミルグラン」


 カロンの血の気のない青白い顔が、興奮からか赤みが差し、いつのまにか目には涙が浮かんでいた。


「謝らなければいけなかったのは私の方だよ。ごめんね、イミルグラン。ずっと私は君に謝りたかったんだ。……好きになって、ごめんね、イミルグラン。君の前世の姿に一目惚れしたなんて言われても訳がわからないよね。もう知っているとは思うけど、私には人の隠している本音や……たまにね、その人の過去の記憶や、その人の魂の姿……前世の姿って言った方がいいかな?……を視ることが出来たんだ。


 私はその力のことを”真実の眼”と呼んでいたんだけど、それでね、君の前世の姿を学院の入学式の前に偶然、”真実の眼”で視てしまったんだ。人が隠している心が見えるなんて、気持ち悪いよね。それに見られるのも嫌だよね。ごめんね、あの時は、わざとではなかったんだけど視ちゃったんだ。君の前世の姿は……とても美しい女性だったんだ。その当時、私は、その姿が君の前世の姿だとは気付かずにいてね、君の隠している心の姿だと思い込んでいたから、何故女性が男しかいない学院にいるのだろうと不思議に思ってね……。実はさ、あの当時、他の子達も私と同じ誤解をしてたって、君は知ってたかな?


 学院に入学したての頃の君はさ、線の細い少年で、外見は君の魂の姿と全く似てはいないけど、すごく美しくて、同年代の少女達よりも綺麗だったことには変わりなかったから、君の前世の姿が見えない皆も、君は本当は女の子なのではないかと疑っていたから、皆も私も、君から目が離せなかったんだよ。まぁ……、皆で風呂に入ったときに、その誤解は解けたんだけどね。クラスメイトの何人かは君が男だったことに本気で泣いていたよ。


 私も……あの当時は相当気落ちしたよ。だってさ、初めはもう1人の君の姿だけに惹かれていたんだけど、君を見ていてね、君が生真面目で優しくて努力家な性格をしているってことを知ってね、その頃には、もう私はね、すっかり君の中身も大好きになってしまっていたのだもの……。でも仕方ないよね。君も私も恋愛対象は女性だし、私は男の体を持つ君に恋することはなかったもの。だけどさ、私は君と……仲良しになりたかったんだ。出来れば友人に……親友になりたいって思ってた。


 けれど、あの夏休みの時に、祖父が君の命を何度か狙っていたことを知ってさ……。もしも私が君と懇意になれば、傀儡でしかない私が、祖父ではなくシーノン公爵家の言いなりになるんじゃないかと危惧する祖父に、また君の命が狙われてしまうのではないかと私は考えて、それがすごく怖かったから君に親友になってほしいとは言えなかったんだ。


 あんな形でしか君を守ることが出来なくて……、あんな形でも……君が傍にいることが私は嬉しくて……すごく嬉しく思ってしまって、何よりも大事な君を……私は殺しかけたんだ。だからさ、本当に悪かったのは私なんだよ、イミルグラン。本当に、ごめんね」


 二人の出会いから25年以上の時を経て、ようやくカロンは学院生時代に言いたかったことや、10年前の悔いていた気持ちを全て打ち明け謝罪することが出来た。


(これでもう……、本当に思い残すことがなくなった)


 そう思ったカロンは、心の中がとても軽くなったように感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ