真夏の日の夕べ~三日目の食事会②
「「「結婚おめでとう!」」」
「「「「ありがとう!」」」」
学院の中庭に食事会をするための大きな天幕が張られ、その天幕を通した日差しが、天幕の下にいる者達を柔らかく照らし、バーケック国特有の爽やかな風がそよいでいる。本来の真夏の日の夕べの最後の食事会は夕方に行われるものだったが、学院生達は二組の夫婦となった友人達を祝うのなら、午前の日の光の下で行う方が良いと考え、その食事会を、朝食と昼食を兼ねた時間にすることを学院に提案し、それを了承してもらったのだ。
「「サリー先生が作った、イヴとピュアちゃんの新婦の白いワンピース、すっごく似合ってるね!」」
「「二人とも、女神様の姉妹みたいに綺麗だ!」」
学院生達がイヴとピュアを囲んで、結婚の祝いを口にし、二人のおめかしした姿を褒め称えている。イヴとピュアは、それぞれの夫の傍で、友人達の祝いの言葉や賞賛の言葉に恥じらいながらも嬉しそうに礼を言っている。
「皆んな……、今日は結婚の祝いの食事会を開いてくれて、ありがとうございます!私、すごく嬉しいです!」
「私もイヴさんと同じ気持ちですわ!本当にありがとうございます、皆さん!……そしてサリー先生とイヴさんのお母様のアンジュ様とイヴさんの従姉妹のルナーベル様、私にもワンピースを仕立ててくれて、本当にありがとうございました!」
イヴとピュアが着ている新婦の白いワンピースは、アンジュが昔、16才のルナーベルの誕生日の時にお揃いで仕立てた、マーメイド型のドレスをリメイクして作ったワンピースだった。この結婚祝いの時に新婦が着る白いワンピースは、平民の間ではウエディングワンピースと呼ばれている。ウエディングワンピースの多くは結婚後に、自分達で好みの色に染め直して、ちょっとした席で着る正装として使用されたり、子どもが出来た時は子どもの祝い用の洋服に仕立て直しされることが一般的だった。
二着のマーメイドドレスをリメイクしたサリーは、アンジュと身長も体型もよく似ているピュアのウエディングワンピースは、ルナーベルのものを使用し、マーメイドラインのスカート部分は残して、上半身の部分だけを作り替えることにした。ピュアの国の出身者が、マクサルトの身近にいたため、彼女の意見を取り入れて、サリーは胸元を大胆に……かといって下品になることのないように細心の注意をして、計算尽くされたVカット状にして、長袖の部分もネルフの民が夏の結婚式でよく好むという形状の……肩の所で、バッサリと切り落とした袖無しのデザインのワンピースに仕上げ……もちろん、美しい新婦の胸元を他の男の目にさらしたくない新郎の心情をよく理解していたサリーは、それとは別にレースのストールを用意して、それを肩から羽織って胸元でリボンのように結び、見えそうで見えない仕様のワンピースに仕上げ、ジェレミーに礼を言われていた。
一方、背はアンジュより低いものの、体型が天使な小悪魔とアンジュに称される、アンジュそっくりな体型をしているイヴのウエディングワンピースは、スカート部分を一旦解き、イヴの身長では似合わないマーメイドラインのスカートではなく、ミモレ丈のフレアスカートにサリーは作り直した。上半身の部分は、昔、アンジュがグランとの結婚式で着ていたウエディングドレスのデザインを用いることに決めて、イヴの胸元はV状ではなく緩やかなU状にして、そのままオフショルダーとなるように仕立て直し……10才年上のミグシスに釣り合う、大人の女性に見られたいイヴと、他の男の目にイヴの素敵な体型を晒したくないミグシスの双方の意を汲んだ、ギリギリの境界線を狙って、イヴの胸元に可愛くなりすぎない程度のレースを施し、大人可愛いウエディングワンピースを完成させ、二人に礼を言われたサリーは誰憚ることなく拳を天に突き上げて、達成感の余韻に浸っていた。
「ピュアさんのワンピース、すっごく大人っぽくて、それでいて上品で、ピュアさんによく似合っていて、すっごく素敵です!」
イヴが柔やかにピュアを見上げて、そう言うとピュアは涙を浮かべて喜んだ。
「ありがとう、イヴさん!イヴさんも大人っぽくて、それでいて、とても可愛くて、よく似合っていますわ!私、ものすっごく幸せです!親友と一緒に結婚の祝いを出来るなんて、夢みたいですわ!」
「はい!私も夢のように嬉しいです!」
イヴとピュアが涙を滲ませた微笑みを交わし合うと、それぞれの夫であるミグシスとジェレミーは自分達の妻の涙を手布で優しく拭き取り、彼女達の額にキスを贈った。
「いつも綺麗で可愛いけれど、今日のイヴは最高に綺麗だ……。俺の妻になってくれてありがとう!」
「私こそ、私の夫になってくれてありがとう、ミグシス!父様のお下がりの白のフロックコート、よく似合ってます!」
イヴとミグシスはお互い頬を染め合って、微笑みあい、その傍でピュアとジェレミーもお互いを嬉しそうに見つめている。
「ピュア、素敵ですよ。ネルフの民が着るワンピースを着ているあなたと結婚出来るなんて、夢のように思います」
「ふふ……夢じゃないわ、ジェレミー!私、あなたと本当に結婚したのだもの!ジェレミーもネルフ式の白いタキシードがよく似合ってますわ!後でミレーナさんに、お礼を言いに行きましょうね!」
「ええ、そうですね。まさかバーケックでネルフ出身の方に会えるとは思いませんでしたが、彼女がイヴ様のお父様のタキシードをネルフ式に仕立て直してくれたおかげで、こうして僕達はネルフの民と同じ盛装で結婚の祝いに参加できたのですから……」
ピュアとジェレミーが見つめる先には、マクサルトと彼の息子のレルパックス、その妻のジェレミーナ、そしてジェレミーナの母親のミレーナが、スクイレル商会の会長達と談笑していた。ピュアとジェレミーはイヴ達を驚かせるために役所で待ち伏せしたときに、マクサルトと初めて会い、マクサルトがセデス達に招待されて、真夏の日の夕べに、自分の新しい家族達を連れて来たときに、改めて自己紹介し合っていた。
その時にレルパックスが自分の妻のジェレミーナとジェレミーが、どことなく似ていると口にし、ジェレミーナは自分よりも自分の母が若いときの姿の方が、もっとジェレミーに似ていると言い、それで話が弾んで、実はミレーナがネルフ出身者だったことをピュア達は知ったのだった。
「髪色や瞳の色は違いますが、ジェレミーとミレーナさんの顔の造形は、本当によく似ていますわね。こういうのを他人のそら似というのでしょうか?こんな偶然が本当にあるんですね。ミレーナさんも同郷の者とはいえ、ここまで自分に似ている人に会ったことはないと驚かれていましたね。
驚きながらもミレーナさんは同郷の者に会うのが久しぶりで、すごく嬉しいし、ここまでそっくりなジェレミーを、何だか他人には思えないからと色々親身に、あれこれと世話をしてくださって、とてもありがたかったですわね。……本当に私達、素敵な偶然を沢山くれた神に感謝しないといけませんわよね!ね、ジェレミー?」
「……ええ。そうですね、ピュア。僕も僕とは……他人とは言え、僕とよく似ている、あの人が、バーケックで幸せに暮らしていたのを知ることが出来て本当に……本当に良かったと思っています。これで僕は……何の憂いも無く、前を向いてピュアと幸せに生きていけます」
ジェレミーの言葉に、それはどう意味かと尋ねようとしたピュアの声は、お腹を空かせたロキの声でかき消えた。
「?どう言う意「ねぇ!お腹空いたし、そろそろ食べようよ!僕、早くご飯が食べたいよ!」」
ロキがそう言うと、ソニーもお腹に手を当てて頷きながら言った。
「そうだね!早く食べようよ!今日は皆で食事会が楽しめるようにって、リングルおじさんとアダムおじさんが立食形式で料理が用意してくれたんだよ!」
「ふふふ、そうですわね!さぁさぁ、皆様、果実水を手にとって下さいな!」
早く早くと急かす子どもの声を聞き、バーケックの学院長であるルナティーヌが柔やかに笑い、食事会の前の乾杯を、底に集まった皆に促した。
「それでは皆様、真夏の日の夕べの食事会とイヴちゃ……イヴさんとピュアさんの結婚を祝って、乾杯!」
「「「「「かんぱーーーーーい!!!」」」」」
学院生達にとっては、真夏の日の夕べの行事と友人達の結婚祝いを兼ねた食事会……、スクイレルの大人達にとっては、イヴの結婚祝いとゲームが完全終了した祝いの食事会は、7月22日午前10時から始まり、カロン王は、その乾杯を見届けてから静かに、その場を離れていった。




