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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~7月
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真夏の日の夕べ~二日目の劇遊び③

 イヴはサリーにミグ先生役の衣装の採寸を服の上からされていたミグシスに声を掛け、自分は役者のカロンと少し、話をしてくると伝えた。ミグシスは昨日、初対面だった役者のカロンの様子を窺い見て、


(何だろう?……カロンさんとは初対面のはずなのに、よく知っている人のような印象を受ける。彼が若かったときのカロンによく似ているせいだろうか?どうして他人とは思えないような親近感を感じるのだろう?)


 と、不思議に思いながらも、カロンにはイヴに対する懸想の念が少しもないことを感じ取っていたので、イヴが彼の傍に行くことに心配もせずに、それを受け入れた。


「こんにちは、カロンさん。今日は体調はいかがですか?」


「ん、こんにちは。私の体調は良好だよ。今日は絶好の劇遊び日和で、すごく嬉しいよ!ねぇ、今日で最後だし、少しだけここで話せないかな?」


 イヴはカロンに挨拶すると、彼に隣の椅子に腰掛けて、少し話そうと誘われた。イヴはカロンに一緒に劇遊びが出来ない事を詫びる話をしようと思っていたので、それに了承し、その椅子に腰掛けようとしたが、カロンの横顔を見て、やはり、その顔色の悪さがどうしても気になった。なのでイヴは、椅子にきちんと座ってから、もう一度そのことをカロンに尋ねた。


「昨日、カロンさんは大丈夫だとおっしゃっていましたけれど、やはり私にはカロンさんの体の調子がすごく悪そうに見えるのですが、本当に体は大丈夫なんですか?」


 イヴの心配げな声にカロンは笑って言った。


「アハハ、やっぱり誤魔化せないみたいだね。ごめんね、心配をさせて。実はね、私は普通に生きる分には問題はないんだけど、もう役者の仕事はね……これ以上出来そうにないんだ。役者ってね、意外と頭脳や体力を使う仕事だし、四六時中、周囲の者の目があるから、役の印象を崩さないように振る舞わなければいけなくってね。ずっと頑張ってきたんだけど、もう続けられそうになくてね……」


「では、役者のお仕事を辞めるのですか?」


 イヴが尋ねると、今直ぐは無理だろうけど、その方向で動くつもりだとカロンは答えた。


「実はね、来年の3月までは仕事を辞められないと気を張って、今まで頑張ってきたんだけど、回りの状況が思ったよりも良い方向に進んでいてね、予定を早めて、()()()()()()()()()を最後に、ようやく私は今の仕事を辞められそうなんだ。だから私は、最後の大舞台の前の準備運動がてらに、ここに遊びにきたんだよ。だって”私のイベリスをもう一度”のカロン王は、私の()()()()だもの。私以上に”カロン王”を上手く演じられる者はいないって自負してるんだ」


 カロンの言葉に、イヴは力強く頷いた。


「ええ!私も昨日初めてカロンさんの出ている劇を見て、そう思いました。カロン王の台詞は少ないですが、カロンさんがカロン王として舞台に出てくると、まるで本物の王様ではないかと思えるほど貫禄があって、舞台が引き締まって見えて、とても演技が上手な方だと思いました。あの……どうしてカロンさんは役者になろうと思ったのですか?昔から劇が好きだったのですか?」


 イヴに役者になった動機を尋ねられたカロンは腕組みをして天井を見上げて、う~んと唸りながらイヴの質問に答えた。


「う~ん、そうだねぇ……。私の場合は役者になろうと思って、なったのではなくて、いつのまにか役者になってたって、感じかな?好きか嫌いかと考えたことも……なかったなぁ。私は子どもの頃から、それをしなければ生きていけない……ちょっぴり異質な環境で育ったからねぇ……。他に選択肢がなかったんだよ」


「?子どもの頃から役者を?もしかして役者を生業とするご家庭に生まれたのですか?」


「う~ん、大体、そんな感じかもしれないなぁ。ある役割を代々引き継いでやっていく家に生まれてきたからねぇ」


 そう言ったカロンは学院生達の姿を眺めながら、ポツリと言った。


「いいなぁ……、楽しそうだなぁ……」


「?」


「学院生時代って、ホントに楽しいよね……。私はね、学院に入学したての頃、一生、私は、このままでいたいって、よく思っていたんだよ。ずっとずっと、このまま……、時が止まればいいのにって、毎日神様に願ったものさ。ああ、急にこんなことを言ってごめんね。何だか君達を見ていたら、随分昔の自分の青春時代を思い出しちゃってさ。こんなふうに懐かしがってしまうなんて、私も年を取ったということなんだろうね」


 カロンは学院生達を眩しいものを見るかのように目を細めて見た後、イヴの学院生活について尋ねた。カロンに学院生活のことを尋ねられたイヴは、多くの優しい友人が出来たことや、良い先生達に恵まれたこと、そしてずっと想っていた大好きな男性と結婚したことをカロンに話した。


「……へぇ、明日、皆が結婚祝いの食事会を開いてくれるのかい?それは良かったね、イヴさん。食事会が楽しみだね。それに、この後の仲の良い者達との”劇遊び”も、きっと楽しいと思うよ」


 役者のカロンにそう言われて、劇遊びを辞退しようと考えていたイヴは、思わずピクリと体を震わせてしまった。


「どうしたの?」


「カロンさん、私……。実は今日の劇遊びが不安なんです。私は片頭痛持ちですから、いつ何時、頭痛が起きるか分からないんです。だから今日の劇遊びを辞退させてもらおうかと考えているんです」


「どうして片頭痛だと、劇遊びで遊べないの?」


「それは……」


 イヴは役者のカロンに片頭痛の症状と、片頭痛を発症しやすい条件を教えた。


「……ですから私には役とはいえ、貴族をすることは難しいと思うんです。私は劇の主人公の女の子のようにピンクの髪に染めることは出来ませんし、鬘だって頭が痛くて被れません。それに貴族の女の子が身に付けるきつい補正下着も、かかとが高いハイヒールも履くことも出来ません。それに……いざという時、片頭痛で動けなくなったら、劇を台無しにして、皆に迷惑を掛けてしまいます」


 イヴがそう言うと、カロンは目を丸めた後、大笑いした。


「アッハッハッハ!何を言い出すかと思ったら!」


 カロンが大笑いをしたのでイヴは、自分は真剣に悩んでいるのだと伝えようと、さらに言葉を重ねようと声を上げた。


「わ、笑い事ではなくて、ですね!」


 カロンは笑顔でイヴに謝った。


「アハハ、笑ってごめんよ。あのね、イヴさん。君が今日やるのは、劇じゃなくて()()()なんだよ。あのね、劇遊びは老若男女、身分の高低、病気の有無関係なく、全ての人が、いつもの自分とは違う人物になって物語を楽しめるようにと、考案された遊びなんだよ。劇ではないから、君は観客に()()()()()()()()()()。君は皆と、()()()()()()()()()()()()()()だけなんだよ。


 ほら、その証拠に普通の劇なら何日も何週間もかけて練習するけれど、そんなに時間をかけての練習はしていないだろう?だから片頭痛で辛い君が無理して、物語通りに髪をピンクにする必要もないし、頭が痛くなるきつい補正下着や、かかとの高いハイヒールを身に付ける必要もない。だって劇遊びは()()なんだから、片頭痛の君でも演じることが出来るように物語の設定を変えてしまえばいいだけなんだよ」


「物語の設定を変える?そんなことをしても良いのでしょうか?」


「うん、心配しなくても大丈夫だよ。だって劇遊びは皆が自分とは違う人物になることを楽しむ遊びだもの。皆が楽しめるように工夫するのは普通のことだよ。遊びとは違う劇だって、その物語の起承転結のあらすじを変えることにならなければ、役者が劇で演じやすいように脚色するのは、当然のことなんだから。君は小さなころからの片頭痛のために色々我慢をしてきて、皆に迷惑を掛ける前に、それをしないで止めておくという、諦める選択を選ぶ癖がついてしまっているのかもしれないけれど、本当にやりたいことがあるのなら、やる前から諦めてしまうことを止めて、まずは君の夫や家族や友人や仲間達に相談してみてごらん。君は一人じゃないんだろう?君には皆がいる。ほら、あっちを見てごらん?君のことが大好きなミグシス君が、ずっと君を心配して、こちらを凝視しているし、君の友人達も君を気にしていて、こっちをチラチラ見ているだろう?」


 イヴは皆の表情を見て、カロンの言う通りだと思った。頬に赤みが差してきたイヴにカロンは微笑み、さらに言葉を重ねた。


「その顔つきだと私の言いたいことが分かったみたいだね。じゃ、イヴさんに質問するよ」


 そう言ってカロンはイヴに手渡した白いリボンをつまみ上げて取り上げると、もう一度、その白いリボンをイヴの目の前に差し出した。


「イヴさん。君は皆と劇遊びをして、遊んでみたいかい?それとも挑戦する前から、自分はどうせ片頭痛だから出来ないと劇遊びをしないでおくかい?私の手から白いリボンを取れば、その時点から君の”劇遊び”は()()()。さぁ、イヴさん。どちらかを選んで?」


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