バーケックの学院にて②
イヴが目を覚まし、二人の美女達の拳の話し合いを止めたスクイレル達は、イヴが眠っている間にミグシスにした説明をもう一度、今度はイヴに説明した。イヴはベッドに入ったまま、それを聞き、全てを聞き終えるとフゥ~と深く息を吐いた。
「……じゃ、母様や父様、ソニーやセデスさん、リングルさんやアダムさん、マーサさんとノーイエさんとサリーさんが学院に来たのは、私を過保護に守るために変装して学院に潜入したのではなく、ピュアさんを守るため……だったのですね。
三年前、4つの国の性犯罪者達を一掃したと聞いたときに、私は母様達が私への愛情の深さ故に暴走をして危険な目にあったのではないかと思って血の気が引いて、気を失ってしまったから、母様達は私がまた倒れてはいけないと思って、その時の凶悪な犯罪者集団の大捕物の話を私やロキ達にするのを止めたのですね。ええ、確かに12才以下の子どもにするような話ではないと私も思います。今、聞いているだけで、気分が悪くなるような話ですものね。
……でも三年前の母様達の暴走が、ピュアさん達の国や他の国々の多くの女性を救うことになっただなんて……。私は母様達が危ない目にあったのではないかと気に病んでいたのですが、母様達の暴走が皆を幸せにすることに繋がって、結果的にピュアさんが、悪い人のお嫁さんにならなくてすんだことは、本当に良かったと思います。ピュアさんが私と同じように長年、謎の”奇病”で苦しめられていたから、昔から父様や私の片頭痛を治すために、薬を集めようと商会まで興していたセデスさん達は、国を離れて学院に来ることになったピュアさんを気の毒に思っていて、ずっと気に掛けていたんですね。
ああ、それで治験を受ける私に、ピュアさんの話し相手になってほしいと願って、隣国の学院に入るように勧めたのですね……。確かに病気と認められていない”気のせい”や”奇病”に苦しむ気持ちは、当人にしかわからないものです。私とピュアさんの症状は違うものですが、謎の病であり、治す方法が分からないところは一緒ですものね。ピュアさんと年が近く、同性の私ならピュアさんの気持ちに一番近く寄り添えることが出来るのではないかと、父様やセロトーニ先生が考えるのは当然のことだと思います。
ピュアさんに事前に私のことを言わなかったのは、人間不信になっていたピュアさんが前もって言われることで身構えてしまい、返って症状を悪化させて、私に打ち解けることが出来なくなるのを懸念に思ったからで、父様達は私とピュアさんが自然に仲良くなってほしいと願ったから、私が気負ってしまわないようにと思って、あえて私にも、私を学院に行かせたい本当の理由を言わなかったのですね。
私とピュアさんは学年が違うから、住む部屋が隣ならば、親しい近所付き合いが出来て、自然に仲良くなって、ピュアさんの気持ちに寄り添える関係になってほしいと願って、学院長先生に頼み、私を特Aクラスの居住フロアに自然に住まわせる方法を考えて欲しいと依頼し、その方法が入学試験後の口頭試験だったんですね。そして学院は普通の学院ではなくて、ピュアさんみたいな要人を守る場所で、先生だけではなく、学院生達も将来の国をよくしようと勉強をしている人達だから、ピュアさんを守ってくれていたんですね」
イヴがそう言うとピュアとジェレミーが、その通りと頷いて、ネイル国の事情を詳しく話したので、イヴはその説明に無理がなかったので、それを信じた。
「そうなのですか……。ピュアさんも最近までそれを知らずに学院生活をずっと送っていたのですね。ご家族がピュアさんが蕁麻疹を起こさないようにと、気を使って知らせなかった気持ち、私にもわかります。ああ、だから、私にも説明がなかったのですね!もし学院に入る前に、それを聞かされていれば、それが万が一にでも私から伝われば、またピュアさんが蕁麻疹になってしまいますものね。
でもネルフの一部の人達が、1月に謀反さえ起こさなければ、ピュアさんはそのまま何事もなく心穏やかにトゥセェックで学院生活を過ごせたのに、私の入学試験後にそれがあったから、父様やセデスさん達はピュアさんを攫わせないために学院長や他の学院の先生達と相談して、学院の先生や職員のふりをして、何も知らないピュアさんを守っていたんですね!
でも6月にネルフから悪い人達の乗った船がバッファーの海上に現れたことで、父様達と学院の皆がピュアさんのご実家から頼まれて、ピュアさんに内緒で、ピュアさんの護衛の計画を立てるために、わざと私とミグシスを学院の先生の代理にして、それを心配したピュアさんが、私の傍にいるだろうことを予想して、見事にピュアさんに真実を知らせることなく、バーケックまで護衛して、ピュアさんがジェレミーさんと入籍し、悪い人達に取って、利用価値のない一般人となった昨日、事の真相を全て、ピュアさんに伝えた……。
で、ピュアさんがネルフ国とは関係の無い国の民になって、悪い人達に襲われる危険が減少したから、ようやく私とミグシスにも事の真相を話せるようになって、今、全てを話してくれたのですね。さすがは賢者と称えられている父様です。完璧な作戦で、ピュアさんを守ってくれたのですね。
ピュアさん、真相を知って、とても怖かったのではないですか?……私、親友のあなたが悪い人達に狙われているなんて、とても怖いですし、許せません!私の大事な親友が攫われるなんて、私は絶対に嫌です!悪い人達が捕まるまで、私にもピュアさんを守るお手伝いをさせて下さい!私に力はないけれど、ピュアさんの傍にいることは出来ますもの!一人よりも誰かが傍にいた方が少しは心が安まるでしょう?」
イヴがそう言うと、ピュアはイヴをヒシッと抱きしめた。
「ありがとう!……ありがとう、イヴさん!さすが……さすが私の親友ですわ!ここにいれば安全ですけれども、一応悪い人達が捕まるまでは、ずっと私の傍にいて下さいね!で、悪い人達が捕まって、安全だと分かるまで、ずっと一緒に学院にいましょうね!」
「はい、ピュアさん!」
イヴはピュアと友情の抱擁を終えると、弟のロキに目を向けた。
「ロキ、久しぶりですね?元気にしていたの?ソニーとは毎日顔を合わせていたけれど、ロキの姿がなかったから、手紙は毎月もらっていたけれど心配だったのよ。久しぶりに抱っこをしてもいい?」
イヴがそう言うとロキは頬を赤くさせて、イヴの胸に飛び込むようにして抱きついた。
「うん、姉様!僕も会いたかったー!!ああっ、姉様、すっごく良い香りがして、柔らかくって、大好き-!」
「あー!ずるーい!ロキだけ-!僕も抱っこー!本当に良い匂いだし、母様よりも体が柔らかくて、抱っこが気持ちいい!僕も姉様、大好き-!!」
ソニーも慌ててイヴに抱きついてきたので、その反動でイヴが後ろにひっくり返りそうになったのを、後ろからミグシスが体でイヴを支えた。姉弟達が抱擁をし、イヴは双子の弟達をギュッと抱きしめた後にロキに言った。
「ロキは私が結婚をするから、その後の食事会に従姉妹のルナーベル姉様を招待するために迎えに行っていたんですって?向こうで良い子にしてた?」
「うん!僕、すっごく良い子にしてたよ!僕達はルナーベル姉様とカロンおじ様を迎えに行くために、3ヶ月半かけて往復しただけだから、僕もセドリーさんもアイビーさんもタイノーさんもイレールさんもエチータンさんも全然、暴走なんてしてないよ!ルナーベル姉様は、とても優しくしてくれて、クッキーを焼いてくれたり、隠れんぼをして毎日いっぱい遊んでくれたんだよ!だから姉様が心配するような、無茶なことなんて全くしてないから、安心していいんだよ!」
「ああ、皆は私が何を望むか、お見通しだったのね。だから私に内緒で計画を立てて、ルナーベル姉様やカロンおじ様の予定の空くのを待ってから、二人をここにお連れしたのね」
イヴは久しぶりに見るスクイレルの大人達が、皆柔やかに笑って頷くのを見て、皆が無茶をして暴走したわけではなかったのだと安堵した。
「そうですよ、イヴ様!イヴ様は常日頃から憧れている結婚の様子をマーサに話してくれたでしょう?結婚した後に家族だけではなく、今まで世話になった人や友人達と楽しく食事会がしたいって!だから私達は、きっとイヴ様はミグシス様のご家族同然のカロンさんやアンジュ様の姪御様も、きっとイヴ様は招待したいだろうと考えて内緒で驚かせようとしたんです!その証拠にイヴ様、すごくびっくりしたでしょう?」
マーサがそう言うとイヴは頷いて、それを認めたが、その後、プクッと頬を膨らませた。
「その通りですけど、でも少し驚かせすぎです。もうすでに結婚出来ることも黙っていたなんて……。マクサルトさんが事前に私が16才になっていると教えてくれなかったら、もっと驚いて今頃私は、心臓が止まって死んでしまっていたかもしれません」
イヴは冗談めかして、そう言ったのだが、それを聞いたスクイレルの大人達は大慌てで謝りだした。
「ごめんね、イヴちゃん!もう、驚かせないからね!」
「「姉様、ごめんなさい!僕達も、もうしないから、心臓を止めたら嫌だよ!死なないで!!」」
「「「申し訳ありませんでした!!ですから、お心を健やかにして下さい、イヴ様」」」
イヴは皆がオロオロと謝りだしたので、「もう、そんなに動揺されて謝られたら、怒れませんわ」と言ってミグシスと笑いあい……スクイレル達は、イヴとミグシスへの説明を終え、ホッと一安心した。




