ピュアと学院生達のドッキリ大作戦(後編)
そのことをピュアとジェレミーが知ったのは、6月に実家から届いた手紙に同封されていた資料を読んだからだった。
「そうですわね、私も驚きましたわ。何でもバーケックの前女王ルナティーヌ様が、この世界の大昔の人間達と、現代に生きている人間達では、人間の体と心の成熟具合が、大昔の人達に比べて格段に進化していて、発達がとても早いのに、いつまでも大昔のままの法律を使っているのは、現状にそぐわないことに気付かれたとか。
昔の時代は18才まで社会に出られない位に発達が未熟だったのに対し、今の時代は殆どの人が12才から社会に出て、働いているでしょう?なのに婚姻出来る年齢が大昔の未成熟な人間の尺度で定められた法律のままなのは、現代の人間には合っていないとルナティーヌ様は提言され、それを立証するために王位を降りて、自ら沢山の医者や教師、研究者や学者等のありとあらゆる専門の有識者を集めて、6、7年もの長期の時間をかけて、3つの国の国民全体に調査を行って現代の人間を調べることになさったのですわよね。
それによると大昔の人間は人間の精神年齢と体の成熟過程が緩やかなのに比べ、現代の人間は体の弱い”神様の子ども”時代を乗り越えると体が強くなって、心身が一気に加速して発育していくそうです。5才から12才になる7年間の間に心身の成熟が急成長を遂げ、12才でほぼ大人に近い心身になると判明したんですわよね?」
「ええ、ネルフのご実家から手紙と一緒に同封された資料には、そう書かれていましたね。確か研究者達の見解では、10代前半の内に急成長を遂げる原因として考えられるのはバーケックで見つかった栄養剤が世界中に広まったことと、バッファーの医療技術向上と食料自給率が上がったことで、身体の成熟が昔とは随分違ったものとなり、また文明がここ数十年で飛躍的に進んだことが、皆の精神年齢にも影響を及ぼしているらしいと分かり、その報告を受けた今の王が、この6月に法律を改正したんですよね。
確か子どもが生まれたら、今までは生まれた日からの一年間は0才と数えるけれど、6月からは生まれた瞬間から1才と数えて、婚姻できる年齢を男女共に16才にすることが決まったのですから、きっと明日、役所に行かれたイヴ様達はとても驚くことになると思いますよ」
「そうね、楽しみですわ!ふぁ……」
ピュアはそう言った後、あくびを一つした。
「疲れたかい、ピュア?」
「ええ、私、何もしないで待っているだけなのが、あんなに疲れるものだとは知りませんでした。ごめんね、ジェレミー。いっぱい待ってもらっているのに、今日の私は、まだ初夜が出来ない体で……」
ピュアは眠そうな目で、ジェレミーにそう言って詫びた。ジェレミーは苦笑しながら、ピュアにキスを落とした。
「ああ、旅の疲れで女の子の日が、また来てしまったことを気に病んでいるんですか?そんな心配はいりませんよ。ピュアの体が一番大事ですし、僕らはもう、夫婦なんです。ピュアとの初夜はピュアの体が元気になるまで、待つのは夫として当然のことですから、心配しなくてもいいですよ。それにあなたとの大事な初夜はドッキリ大作戦が終わってからの方が、ゆっくりと落ち着いて出来そうですからね」
ジェレミーはピュアを横抱きし、ベッドに寝かせ、その横に自分も入った。
「明日の早朝、起きることが出来そうなら、一緒に朝食を食べに出かけませんか?役所前の食堂が美味しい朝食を出すと、役所の守衛をしている人が教えてくれたので、役所に向かう前に寄りたいのですが。確か皆との待ち合わせは9時に役所前でしたよね?」
「わぁ、是非行ってみたいですわ!ねぇ、ジェレミー?この旅行中、一緒にいっぱい美味しい物を食べて、一緒にお料理の研究をして、いつかお店を開いたら、一番にイヴさんと平民クラスの皆を招待してもいい?」
「勿論!……フフフ、イヴ様も皆も、明日私達を見たら、とても驚かれるでしょうね!」
ジェレミーは目を細めて、ピュアの頭に視線をやった。ピュアは役所に寄った後、学院生達も驚かせたいと思い、ジェレミーとそれをするために、ある場所に寄っていた。ピュアも頷きながら、また一つあくびをした。
「フフ、そうでしょうね!楽しみです!お休みなさい、私のジェレミー、私の愛する旦那様」
「お休みなさい、僕のピュア。僕の愛する奥様」
ジェレミーは愛する妻にお休みのキスをして、二人仲良く眠りについた。
翌日の9時。早めに就寝したおかげで、前日の疲れを癒やすことが出来たピュアは、機嫌良くジェレミーと手を繋ぎながらジェレミーの行きたがっていた店に行った帰りに、そのまま役所に向かった。役所前の広場では、すでに平民クラスのクラスメイト達とエイルノン達4人が先に来ていて、彼等はピュア達に気付いて、挨拶の言葉を掛けようとして、驚きで目を丸くした。
「「「ピュアちゃん、その頭は!?」」」
「「「ギャー!ピュアちゃんの髪が銀色になってるー!!!えぇ~!?あれ?じ、ジェレミーさんも黒髪になってるし!!どうして、そんなことに!?」」」」
激しく動揺している表情を浮かべ、何が起きたんだと朝の挨拶もせずにピュアの髪型を見て、詰め寄ってきた皆を見て、ピュアは皆を驚かせることが出来て嬉しいわと、ジェレミーとニンマリと笑い合った後、嬉しそうに自分の銀色の髪をかき上げて見せた。
「ウフフ、どうですか?似合いますか?ずっとね、ジェレミーとお互いが憧れている大衆劇の役者さんと同じ髪色にしたいねって、話してたの!!……で、昨日私達、入籍した記念にと思って、二人で髪を染めてきたのよ!!」
皆はピュアの銀髪を見て、真顔になった。
「「「も、もしかして、ピュアちゃん……、いざというときにイヴの身代わりになるつもり?そんなことをしなくても大丈夫だよ!だって平民クラスの皆が、すでに銀髪なんだよ!身代わりなら俺達が!!」」」
「……だからですわよ。ピンクの髪の私が一人、銀髪ばかりの人がいるところにいては、悪目立ちをしてしまいますでしょ?それに”木を隠すなら森に”って言いますもの。スクイレルの娘は銀髪で、傍に黒髪の狼と呼ばれる守護者がいるという噂が広まってしまっている以上、私は銀髪にすべきだし、もう1人くらい黒髪の男性が必要だと私達は思ったからですわ。私達は神様の使いに願いを叶えてもらった者なんですの。だから今度は私達が、神様のために働く番なんですのよ」
「「「ピュアちゃん……」」」
丁度その時に、役所の建物の中から誰かのの叫び声が聞こえた。
「「「!?叫び声だ!!」」」
「「「何かあったのかな……?もしかしてイヴが!?」」」
ピュアは首をかしげながら、こう呟いた。
「もしかしてイヴさん、私達が予想したよりも大きく驚かれて、入学式の日の時と同じように、片頭痛になってしまったんじゃ……」
ピュアの言葉に役所前に集まっていた皆は、顔色を青くさせた。
「確かに……思った以上にイヴは衝撃を受けたかも」
「大変だ!また入学式前の時みたいに倒れたかも!」
「「「急いで行こう!」」」
「「「大変だ!俺達のせいだ!!」」」
「このことを知ったら、黒魔王にヤラレルぞ、俺達!」
「「「うぎゃ~~~~~!!」」
「「「取りあえず、すぐ、イヴのとこに行こう!」」」
ピュア達がそう決めたときに、役所の建物から女子寮のコックをしていたリーとカイン……リングルとアダムが出てきたのをジェレミーが見つけ、彼等の予想通り、イヴが気を失ったことを知ったピュア達は、慌てふためきながら役所の建物に入っていった。その後、ピュアと学院生達はイヴが倒れた理由が、ピュア達があえて事前に言わなかった年齢のことではなく、思いも寄らなかった人物と再会したことに驚きすぎて倒れたのだと知り、自分達のせいではなかったことに少しだけ安堵した。
結局ピュア達が最初に計画を立てていた……役所で戸籍謄本を申請するときに法改正のことを聞かされるだろうから、きっと、そこでイヴ達は驚くから、その後、役所から出たら、自分達が待ち構えていて、さらに驚かせるというドッキリの二段構えを計画した……ドッキリ大作戦は、イヴ達の馭者をしていたマクサルトによって、不発に終わったことを知ったが、イヴの家族達……スクイレルの大人達は、そのことを知らなかったようで、それにとても驚いて、イヴの母親がルナティーヌに、どういうことだと詰め寄っているのを見て、ピュア達と皆で、ドッキリ大作戦は少しだけ成功したねと苦笑しあった。




