ピュアと学院の真実(後編)
銀色の妖精の守り手上忍育成クラスの入学試験は三次試験まで行われる。一次は面接と口頭試験が行われ、二次では過酷な実技試験が三年間かけて行われる。彼等、受験生達は忍者として、名を変え、姿を変え、心を変え、三年ほどスクイレル村を出て各地に移り、そこの住民として別人となって暮らし、その別人になりきったまま、三年後に隣国のトゥセェック国の学院で、正式な上忍となるための筆記試験を受ける。
銀色の妖精の守り手上忍試験を受験し、合格した後は、……本来ならばバッファー国の学院に単騎で向かい、そこで一年間、先に銀色の妖精の守り手の上忍となったスクイレル村の大人達から、直接指導を受けて、卒業試験を受け、合格すればようやく上忍として、リン村に入る許可を得、スクイレル商会の商人として働き、スクイレル商会の会長を務める銀色の妖精の守り手の長に認めてもらって、初めてスクイレルのグランやイヴ達家族の顔をを見ることを許される。
「三年間も他人になるなんて!そう言えばミグシスさんもイヴさんの伴侶となる試練を9年間受けていたと言っていましたが……忍者とは、何て過酷なんでしょう!」
厳しい忍者の掟をジェレミーから聞かされたピュアは、あまりの過酷な掟にたじろいだ。
「確かに過酷ではありますが、僕やミグシスさんが何年も女性になっていたように、忍者を目指す彼等もまた、自分達が守りたいと思える相手のためならば、それを恐れることなく、試練を乗り越えるために尽力を尽くすそうですよ。……で、三年間の試験を見事やり遂げた者が試験をするために、この学院では受験する教室を毎年用意しているんです。
3つの国の将来を担う若者の育成コースと銀色の妖精の守り手上忍試験コースの二つのうち、イヴ様に銀色の妖精の守り手上忍試験コースを受けさせた理由は、3つの国の将来を担う若者の育成コースでは、試験の内容がイヴ様にとっては、あまりに簡単すぎて、イヴ様を3年の特Aクラスに飛び級させる口実をイヴ様自身に疑われてしまう怖れがあったから……だったそうです。
そして今年の1月に何も知らないイヴ様と、名と姿と心を隠しているスクイレル村の受験生達が、お互いの正体を知らないまま出会って、一緒に入学試験を受けようとして、ある出来事が起き、その出来事を見事に収めたイヴ様に、受験生達は好印象を持ったのです。だから学院側が予め予定していた、イヴ様の特別試験が行われると知った受験生達は、イヴ様の正体を知らないまま、彼女を心配する気持ちのあまりに、それに付き添ったそうです。
当然イヴ様は文句なしの満点を出したのですが、学院とイヴ様の家族の思惑を知らないイヴ様は、自分の治験のために他者の人生の邪魔をしてしまうことはよくないことだと入学辞退を決意してしまい、学院側は必死になって引き留めようとしたのですが、自分を心配して特別試験に付き添ってくれた優しい受験生達の邪魔をしたくないと頑なに拒むイヴ様に、一緒に一年間、学院生活をクラスメイトとしてイヴ様と過ごしたいと説得したのが、イヴ様を自分達と同じスクイレル村の忍者だと思い込んでいた受験生達だったんです。
受験生達の言葉に絆され掛けているイヴ様を見て、学院側はイヴ様を平民クラスに一応在籍させるけれど、学院に行く必要がない学力を持っているイヴ様は受験生達のクラスの授業助手としての意味合いで学院に入れるので、受験生の彼等の邪魔にはならないという妥協案を提示し、それで、やっとイヴ様の説得に成功したのです。その後に彼等はイヴ様の本名を知り、イヴ様の正体が彼等の主君の娘……”銀色の妖精姫”と呼ばれるイヴ・スクイレルだとわかって、大いに驚いたそうですが、まだ二次試験は続行中だったので、彼等は自分達の正体をイヴ様には打ち明けなかったそうです。
ただ、その時に受験生達にイヴ様が、この試験に合格したら、一緒に学院生活を楽しみましょうね、と声を掛けられていて、それを見ていた学院の者達が、イヴ様に彼等が4月の入学式にいないことで、不審に思われて真実に気付かせてはならないと話し合い、急遽今年度の3つの国の将来を担う若者の育成コースの新入生と銀色の妖精の守り手上忍試験コースの新入生を丸ごと交換留学させることにしたのです」
「丸ごとならば、イヴさんは気付くことはないわね。でも新入生達には、どう説明したのかしら?」
「元々、ここの学院は3つの国が経営している学院で、3つの国には同じ建物の学院が存在し、交流も盛んだったから問題はなかったようですよ。毎年林間学校が行われる際は、3つの学院の者が違う国で3、4ヶ月過ごしているそうです。それに、この4月の入学式後の学院説明会でスクイレル村の受験生達は、学院の教師に扮装している銀色の妖精の守り手の長から、彼等のクラスを平民クラスと呼ぶことになった説明……つまり、今回の丸ごと交換留学することになった経緯を説明し、イヴ様の片頭痛の詳しい説明と、ネルフ国の悪者のことと、ピュアのことについても説明を受けたのだそうです。
そこで彼等は上忍の勉強をしながらも、友人となったイヴ様に余計な心配をさせて、片頭痛を起こさないようにと自分達のことを伏せ、ただのクラスメイトをしながら、”この一年間、イヴ様を守る”ことを後のホームルームで学級目標として決めたそうです。実は彼等は、このホームルームで、ピュアを他の4人の男子学院生達と同じように、イヴ様から遠ざけようと話し合っていたそうですが、……でもピュアが次の日に、すぐにイヴ様を心配するイヴ様の友人である彼等に一人で謝りに行ったでしょう?あれで彼等はピュアの誠実さを感じ、イヴ様不在の間、イヴ様の代わりに彼等に尽くしたあなたに、イヴ様と同じような好感を感じて、今ではあなたのことも友人として守るつもりでいると思ってくれているのですよ」
ジェレミーがそう言い終えるとピュアは、平民クラスの皆の気持ちに心が震えるほどの喜びを感じた。ピュアはソファから立ち上がり、握り拳を作って、天に向かって突き出した。
「私だって、皆をお友達だと思っているわ!それにそれに私だって、イヴさんを守るわよ!だってイヴさんは、私の初めての親友なのよ!一生の親友よ!悪い奴らになんて絶対に攫わせたりなんかしないんだから!……それにそれに、あんな最低の女の敵なんかに絶対、イヴさんを渡したりなんかしないんだからー!!」
手紙をもらって動揺していたピュアが、すっかり元気になったのを見て、ジェレミーは喜び、では早速ですが行動に移すことにしましょうと言った。
「王弟殿下逃亡の報を受け、イヴ様のご両親とイヴ様の伯父であるスクイレル商会の会長が、6月の最後の二週間、出張で学院を留守にするそうです。なので、その間イヴ様に”保健室の先生”代理を、ミグシスさんには”仮面の先生”代理をするようにと頼んだそうです。……と、いうのは建前で本当は出張ではなく、イヴ様を7月中にバーケックに入国させるための根回しを今のトゥセェック国王やバーケックの国王に行いに行くそうなんです。そしてイヴ様達に先生代理を頼んだ、本当の理由は……」
ジェレミーから、その理由を聞かされたピュアは目を丸くさせた後、顔に喜色を浮かべて、自分もその作戦に加わりたい!と言った。
「ピュアは、そう言うと思っていました。ちょうど僕らにはホワイティ家からのバーケックの最新の情報が書かれた資料がありますから、これを使ってイヴ様を守るための作戦を学院生達と考えることが出来るはずです。それに……ここに書かれていることが6月から施行されているのであれば、イヴ様の貞操だけは格段に守られることになるはずです!
ではまず、その作戦におけるピュアの最初の任務は、”イヴ様の傍にいつもいること”です。平民クラス……いや、全てのクラスの者達が6月後半の二週間で、イヴ様を守る作戦を考える会議をすることをイヴ様達に気付かせないように、ピュアと僕でイヴ様達に貼り付かないとなりません。それを成功させるためには、僕はミグシスさんの信頼を勝ち取らないといけないので、今日の夕方に彼と二人っきりで話をしたいと思っているのですが、何か良い策はないでしょうか?」
ジェレミーにそう相談されたピュアは少し考えてから、ニコッと笑顔で言った。
「ウフフ!良い策はあるわ!ちょうど私、イヴさんに相談したいことがあるの!え?それは何かって?……ジェレミーには内緒よ!女の子だけの秘密の話なんだから、ジェレミーは聞いちゃダメですのよ!」
「?聞いちゃダメ……なんですか?」
首を傾げるジェレミーにピュアはウフフと笑うばかりだったが、ジェレミーがその秘密を知ったのは、この日の夜のことで……ジェレミーは作戦のこともあるが、自分のためにもミグシスと親友となることが出来て本当に良かったと、可愛い恋人の恥じらいに萌えながら、しみじみと思った。




