※その復讐ゲームの悪役も片頭痛でした
最後に残ったのは復讐ゲームでしたが、6月に金の神が視た時点では、すでにこの物語は終了していました。
その復讐ゲームは、王の隠し子が王家に復讐していくというお話で、完成間近だったけれど、急遽、乙女ゲームへと変更されたために、復讐ゲームの登場人物達は皆、名前をつけられることもないまま、僕イベへと組み込まれてしまったものでした。
なので復讐ゲームのプレイヤーは、名前をつけられなかった彼等名前なき者達の味方として、彼等の復讐を手助けする、名前なきあなたとなって、彼等の復讐を成功させなければなりませんでした。でも……そのプレイヤーとなったリアージュは、5月のお茶会で失敗し、爵位を失い、施設に送られたので、王の隠し子の復讐計画を手助けすることが出来なくなりました。貴族ではなくなり、彼等の手助けを出来なくなったリアージュが施設に送られたことを、金の神は僕イベのヒロインのバッドエンドと同等だと認め、その時点で復讐ゲームは終了だと金の神は認定しました。
これで”僕達のイベリスをもう一度”の3つの物語は全て終了したことになり、金の神の見たい物語である”隠された物語”は無事にハッピーエンドで終わりましたが、ここは現実の世界です。物語は終わっても、現実は続いていくのです。
6月の三者面談の次の日の午前中に、イヴの見舞いに行き、ミグシスから彼の母親の身の上話を聞いたセデスとマーサは、以前ナィールから聞いていた、ミグシスの母親の身の上話と内容が違うことに疑問を抱き、グラン達に報告した後、皆で金の神に真実を尋ねました。
スクイレル達に尋ねられた金の神は、ミグシスの出生の秘密を視るために、すでに終わっていた復讐ゲームをもう一度、よく視てみて……とても驚いてしまいました。……何故なら復讐ゲームまでもが、他の僕イベと同じように内容が大きく変わっていたのです。
名前をつけられることもなかった復讐ゲームは、王家に復讐したいと思っている者達が国を巻き込んで、王家に復讐を企てるというお話でしたが、本来の復讐ゲームに出てくる名前なき者達は、この現実の世界では、全ての者が10年前から名前なき復讐者ではありませんでした。
イミルグランの親友のナィールは、復讐のために弁護士のカロンと名乗っていましたが、片頭痛のイミルグランが守っていた国を守ろうと思い直し、10年前から復讐を止めたナィールは、復讐者ではありませんでした。
神子姫エレン……エルゴールの父親のシュリマンも、自分の父の死の真相を突き止めるために妻子と離れて暮らし、大司教も辞めましたが、復讐よりも片頭痛のイミルグランが守っていた国を彼の代わりに守ろうと決意したナィールに感銘し、そしてシュリマン自身も片頭痛のイミルグラン親子に厚意を受け、好感を持っていたこともあり、ナィールの手伝いをすることに決め、復讐を止めたので彼もまた、復讐者ではありませんでした。
セデス達11人の影の一族達も、自分達の秘密を他に話したアロン王や親や仲間を見殺しにしたナロン王を恨んでいましたが、復讐よりも自分達が仕えたいと思った、自分達だけの王である片頭痛のイミルグランと、彼の娘で彼と同じように片頭痛で苦しむイヴリンを守ることに決め、復讐をしないで銀色の妖精の守り手となったので彼等もまた、復讐者ではありませんでした。
金の神の力の暴走で復讐ゲームが始まるための下地作りは終わっていたのに、復讐ゲームの本編が始まる前に、全ての復讐者達が片頭痛で苦しんでいるイミルグランと係わったことで復讐辞退していたのです。……つまり僕イベの”名前なき者達の復讐”は、ゲームが始まる前に片頭痛により復讐が阻止された、始まる前から終わっていたゲームだったのです。
そして始まる前から終わっていた、僕イベの”名前なき者達の復讐”の悪役であるはずのカロン王もまた、片頭痛のイミルグラン……イミルグランの前世のユイに初恋し、片頭痛のユイの魂を宿すイミルグランを守ろうとしたときから、彼は悪役ではありませんでした。
僕イベのミグシリアスの復讐ルートのカロン王はゲームでは悪役でしたが、この現実の世界では彼は……彼が子どもの頃から悪役のふりをして、本当の敵達と孤独な闘いを長年続けている王様でした。
敵しかいない環境で育ったカロン王は、誰の助けも得られない孤立無援の中、義弟のミグシリアスの命を助け、不器用な方法でしたが、彼なりに必死にイミルグランを守ろうと奔走し、国を……民を守ろうと、孤独な闘いをしていました。
……そして10年前に全てを視たカロン王は、僕イベの登場人物であるエイルノン達を、また不器用な方法で国から脱出させ、自分の初恋の人であるユイや、その娘のアイを片頭痛から救うため、僕イベの”隠された物語”を必ず現実にしなければと思い、その最後の鍵となる、本物の保健室の先生をしている修道女のルナーベルを復讐ゲームに浸食された国から脱出させたカロン王は、悪役の仮面を被った、復讐ゲームから僕イベの中の2つの物語を守った隠れサポートキャラクターでした。
金の神が再現させてしまった復讐ゲームは、主人公の名前なき復讐者も彼の仲間の名前なき復讐者達も、彼等の復讐する敵も片頭痛のイミルグランにより、復讐する者も復讐される者もいなくなってしまったのです。
……さらには”隠された物語を見ていた金の神は、片頭痛のイヴリンが出会ったナィール……仮面の弁護士のカロンや教会の大司教だったシュリマン、影の一族のセデス達を視て、その顔と名前を見知ってしまったために、彼等は10年前から名前なき者ではなくなってしまったのです。
こうして”名前なき者達の復讐”は、復讐者も敵も名前なき者も……全ての者が、片頭痛を持つ父娘に係わったことで消失してしまい、存在しない復讐の物語として、4月に始まり、5月に終わっていたのです。
6月の三者面談の次の日の午後、スクイレルの大人達は金の神から、ミグシスの出生の秘密やカロン王の真実、存在しない復讐の物語の話を聞いて、呆然としました。
「そんな……。では、このままだとカロン王は……」
金の神はへディック国の現在の姿を視た後、言いました。
「うん、彼は3月に弁護士のカロン……ナィールにトゥセェック国のイミル将軍として、卒業パーティーに乗り込んできてもらって、悪人のカロン王として、王の取り巻き貴族や護衛集団達と共に、諸悪の根源として捕縛してもらい、根こそぎ断罪してもらおうと考えているの。彼はそのために、この10年をかけて城に国を蝕む原因となっている貴族達を集めていたみたい。彼の望みはナィールに自分が集めた悪人達と彼自身をまとめて、処罰させることよ。
カロン王は10年前、ナィールを通じて、イミルグランの娘であるイヴちゃんが死亡する未来を視たの。だから彼女の16才の誕生日の日にある”卒業パーティーイベント”……断罪イベントを彼女の身代わりとなって引き受けようと決めて、最期の時を待っているのね。何て可哀想で健気な王なんでしょう……。ずっと一人で私の力の暴走の犠牲となりながらも、悪人のふりを続け、初恋の人の大事な娘を守ろうと耐え続けていたなんて……」
この次の日、金銀の神達はあることをスクイレル達に頼んだ後、神の領域へと帰って行きました。
10年にもわたるスクイレル達の大願は、ついに叶えられましたが、彼等はイヴの代わりに”悪役”となっているカロン王を救うためにスクイレル作戦を練り直すことに残りの6月の日々を費やしました。僕イベの終了を持って、イヴやミグシス、エイルノン、エルゴール、ベルベッサー、トリプソンは物語から無事に解放されましたが、彼等は自分達が物語の登場人物だったことを最初から最後まで知ることなく、6月の残りの日々も楽しく賑やかに過ごし、7月からの夏休みを迎えました
※”僕のイベリスをもう一度”のゲームの悪役はイヴリンとカロンでしたが、その世界の”僕達のイベリスをもう一度”の3つの物語の悪役は全て片頭痛でした。ああ、やっと言えました。その乙女ゲームの悪役は片頭痛だって……。




