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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~7月
202/385

※悪役志願~真実の眼のカロン⑧

「何だって!?イミルグランが離縁しただって?」


 カロンは取り巻き達との賭け事中にそれを聞き、自分の耳を疑った。あんなに魂が強く結ばれている二人がまさかと思い、賭け事を放り出して、事務次官室に駆け込んだ。事務次官室ではイミルグランが死相が出ているのではないかと思うほどに憔悴しきった様子で、カロンが押しつけた国政の仕事をしていた。


(クッ!イミルグランがやつれきっている!私がずっと執政を丸投げしていたからな……。夫婦の時間が取れずに、二人の絆に溝を入れてしまったのか?)


 カロンは4年前のイミルグランの結婚式以来、イミルグランを視るのを止めていた。相変わらずカロンの回りの悪い連中はイミルグランを狙っていたので、カロンは毎日長時間、城で本来の事務次官の仕事だけではなく、王の仕事をほぼ丸投げして、それらの仕事に追われるはめになったイミルグランに対して、申し訳なさがあったから、()()に合わせる顔がないと視られずにいたのだ。


 イミルグランにはアンジュリーナとの間に、”神様の子ども”が一人いると聞いていた。性別は女の子で、イミルグランの話によると、妻そっくりの顔立ちだが、髪色と瞳の色は自分に似ていると笑顔で話してくれたので、カロンはイミルグランの神様の子どもに早く会いたいと思っていた。


(すっごく可愛いんだろうなぁ。イミルグランの眉間の皺を消してくれる愛娘だもんね!性格もイミルグランそっくりみたいだし、私……会ったら、自分の子どもよりも溺愛する自信がある!)


 カロンは自分の側妃が何人いて、自分の子が何人いるのか、正確には把握はしていなかったが、イミルグランに子どもが生まれた時に、ある希望を持った。


(もしもイミルグランの子が無事に育ったら、私の子と婚姻させたい。イミルグランと縁戚になれたら、どれだけいいだろう!)


 しかしイミルグランの神様の子どもには父親であるイミルグランと同じ体の不調がありそうだと、イミルグランが心配げに言っていたのを聞いて、カロンは昔を思い出した。


(そういやイミルグランは学院にいる頃から、よく()()を訴えていた……。体が弱いイミルグランに私は長い時間、無理を強いていたんだ。ああ、私は、やっぱり両親の子どもなんだな……。やり方は違えども、初恋を貫き通した父と母の子なんだな……。初恋が叶わなくても、自分の傍に母を置いた父。母亡き後、側妃も愛妾も全て母と同じ髪色と瞳の女性ばかりを侍らせて、母の面影を死の瞬間まで追い求めた父のように、初恋が叶わなくとも彼を……彼女を守るためと言いながらも、結局は自分の傍にイミルグランを置きたかっただけだったのかもしれないな、私は……。


 イミルグランの娘を自分の子どもと結婚させたいと思うのも、そうすれば、私はその娘の義理の父になるからで……、結局私は、イミルグランとの絆を諦めきれないんだ。今なら、父の気持ちがわかる。悪魔の薬で心が通わぬ父ではなく、昔の父に会えていたら、父の気持ちがわかると言って、父と一緒に泣くことが出来たのに……)


 イミルグランから離縁の報告を聞き、もうしばらく後に娘の不調を聞き、どんどん眉間の皺を深くさせてやつれゆくイミルグランに罪悪感と危機感を持ったカロンは、7日間の休暇を与えようと決め、その間、カロンは敵からイミルグランを守るため、間抜けな執政を次々と行い、彼等の目をカロンに集中させた。


 ……7日後、城に上がったイミルグランにカロンは思わず、身も毛もよだつ悪寒を感じざるをえなかった。いつもは、きっちりと長い髪を一つに結わえていたイミルグランが、結わえずに長い髪を下ろしたまま、フラフラと登城してきた。イミルグランの銀色の長い髪から垣間見える、あの、いつもの”氷の公爵様”だった顔が、まるで敵陣に乗り込んだ”氷の悪魔将軍”のような憎悪ともとれる表情で周囲を睨めつけ、カロンを見つけると、さも長年の恨みがこめられたような眼差しをして、厳しい表情でカロンを睨み付けてくる。まるで宿敵に対峙しているような憎悪の視線に、カロンは怯んだ。


(イミルグランのこんな目つきは初めてだ!)


 カロンは彼に嫌われているのだと自覚し、衝撃を受けた。仕方ないこととは言え、説明無しに彼に仕事を押しつけていたし、それで夫婦仲が悪くなったのだから、嫌われて当然かと思い直した。イミルグランの悪鬼のような表情に、カロン王の周囲にいた監視達も逃げ出している。


(今なら言える!今、全てを伝えて、謝罪を!)


 そう決心して、久しぶりにカロンはイミルグランを”真実の眼”で視て……。


「おまっ!お前、これ!?何を……ヒッ!!」


 結われていない長髪から覗く、その表情がカロンにそれ以上の声を出させなかった。そこには()()()()()()()男の顔はあったのだが、イミルグランのもう一つの顔が、そこには()()()()……。


()()()()?どう言うことだ?彼女はどこに行った?何故もう一つの顔がない?)


 その後のことは……カロンはあまり覚えていない。


 必死にイミルグランを引き留めようと動いたらしい。貴族院法を改正させようともしてたらしい。イミルグランの屋敷がなくなっていたらしい。捜索隊を編成するように言っていたらしい。イミルグランが崖で事故死した……らしい。イミルグランが亡くなった……らしい。彼女の姿が視られなくなったのは、イミルグランが死ぬ運命にあったから?わからない、わからない、わからない!!カロンの初恋の人を……、唯一守りたい人をカロンは失ってしまった。


 もう何もかもが、どうでもよくなった。何もかもがどうでも良く、イミルグランが亡くなった確かな証拠が出たら、後を追おう……。そう思っていたカロンは……、ついに出会った。カロンのもう一つの顔……カロンの()で、イミルグランの親友の()()()()に……。







 カロンはイミルグラン親子の生存を諦めず、捜索を続けさせよとの狂気じみた命令を取り消さなかった。家臣達は取り合わなかったが後日、シーノン公爵家の顧問弁護士だったという仮面の男が、カロンに面会を求めてきた。


 カロンは、その顧問弁護士に会ったことは一度も無かったが、貴族籍は持たないが優秀な弁護士で、何よりもイミルグランの信頼厚い男だったと記憶していたので、面会を許した。念のため仮面の下を確認したところ、茶髪碧眼のその男は目や鼻の周りに、醜い火傷痕があり、それで仮面をつけているということだった。しゃがれた声も子どもの時の火事のせいだと男は言った。


 顧問弁護士はカロンに弔辞を述べてきた。『シーノン公爵は、あなたを誰よりも慕って、()()()()()()思っておられました』とカロン王に言って、親友を亡くされた王を少しでもお慰めしたくて来ましたと面会理由を話した。カロンが捜索隊を解散させない気持ちが理解できると言ってカロンに共感の意を述べたので、カロンはたちまち機嫌が良くなった。


「学院生時代から、一緒にいたのだ!当然だろう!」


 そう言うとカロンは笑顔になった。いつもカロンの回りにいた監視達は、城の国庫から金が無くなったと朝から大騒ぎして、その捜索のためにいなかった。取り巻き貴族も護衛集団も、イミルグランがいなくなったら国庫を奪い、国を簒奪するつもりだったのに、これでは国が奪えないと地団駄踏んで悔しがっていたので、カロンは密かにざまぁみろ!と思っていた。久しぶりの爽快感を感じながら、カロンはしばし、イミルグランを偲んで、彼の顧問弁護士だった男と話すことにした。


 普段、苦手な国政から逃げ回っているように見せているカロンに、口うるさい忠告をしつつも、見捨てることなく仕事を手伝ってくれるし、国政が出来ないと偽装しているカロンにも懇切丁寧に何度も教えようとしてくれていたイミルグランは、もう一人の少女を抜きにしても、カロンにとっては誰にでも自慢できる唯一の人だった。


 自分を遊びに誘う悪友と呼べる貴族達だって、彼には一目おき、嫌みや悪口を言いながらも、彼に話しかけられると赤面して、動揺するほど、美しく穏やかだった。遊んでばかりの自分に眉をしかめる心ある貴族達が、こっそり憧れているものの、不機嫌顔に躊躇して、中々話しかけることが出来ない彼に気安く声を掛けることができる自分に、カロンはゾクゾクとした興奮と何よりの優越感を憶えていた。


 昔話は止まらない。自分の本心を誰かに話すのは、生まれて初めてかも知れない。気を良くしたカロン王は警戒心を解いて、顧問弁護士を視て……()()()()()()

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