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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
プロローグ~長いオープニングムービーの始まり
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シーノン公爵夫人に起きた奇跡③

『ただでさえ、この国の王は政が()()不得意で、その仕事の不備を補うために、連日遅くまで城で働いているのに、数少ない貴重な休日を茶会やパーティーなどで潰したくはない。妻はそんな私の事情を汲み、私の代わりに社交全般を引き受けてくれているのだ。だから君達の彼女を責める発言を私は決して許しはしない。帰ってくれ』


 公爵邸での茶会やパーティーを請う親戚縁者等を黙らせ帰らせたシーノン公爵は、遊び回っているようにしか見えない俺を叱責や非難する親戚縁者達から、いつもこんな風に庇ってくれた。イヴリンを出産後から、シーノン公爵の顔を見ると落ち着かない気持ちになる俺は公爵夫人としての社交を理由にあちこち出かけ、あまり家に寄りつかなくなったのに、彼は結婚前と同じように毎月の手紙と季節の手紙や贈り物をくれて、いつも社交に出た後は、俺に花束とカードを届けてくれて、社交の労を労ってくれた。


『わぁ~、母様だ!会うの2ヶ月ぶりで、私とっても嬉しいです!今日は一緒にいられますか?あのね、お庭のお花を一緒に見……あっ、そうなんですね……。今日もお仕事で出かけるのですね?……いつもお仕事してくれてありがとうございます、母様!あの、あまり無理しないで頑張ってきて下さいね!』


 社交で家に寄りつかない最低な母親なのに、会えばこうして俺を無邪気に慕ってくれるイヴリンは、病弱だがすごく明るくて優しい女の子として成長していた。貴族の子女とは思えないくらいの謙虚さと4才児とは思えない聡明さを持っていて、顔は俺に似ていたが、髪の色と瞳の色と性格がシーノン公爵そっくりの子どもだったので俺は内心、すごく嬉しくて仕方が無かった。


 社交界で()()()()()()()と呼ばれるほどの美人だった俺は、結婚後も他の貴族男性達から交際を求める誘いが途絶えることはなかったが、浮気や男遊びをしようなんて、まったく思わなかった。妻として、母として、俺が最低であるということは自分でも自覚していたから、せめてもの罪滅ぼしって言うわけではなかったが、少しでもシーノン公爵家のためになることを……彼のためになることをしよう、……いつか5才になって神様の子どもから俺と彼の娘となるイヴリンのためになることをしようと心に誓い、俺は社交の仕事を毎日頑張っていた。





 その日、俺は久しぶりにシーノン公爵邸に帰ってきていた。明日の分の社交の予定を確認した後、夜に気が向いてイヴリンのいる子ども部屋を覗いた。イヴリンは、よく熱を出す子で、その日も執事に熱で寝込んでいると聞かされてた俺は、娘が心配でイヴリンのベッドに近づいた。すると俺の気配に気づいたイヴリンがうなされながら、こう言ったんだ。


()()()()()ね、頭痛いよ~、頭痛の薬が欲しい』


『父さん、痛いよ~、アイも母さんみたいにおでこに()()()()()貼って!』


『父さん、()()()がないなら、母さんみたいにアイの頭もハチマキにしてよぅ』


 俺は戦慄した。


……こんなことあっていいのか?| ()()?イヴリン、アイって言った?どうして?その名前は、()()()()()()()()()()()()だぞ……!?……俺が。……俺が唯一、本気で惚れ込んだ彼女は()()()を患っていて、彼女と俺の娘も母親と同じ片頭痛を患っていた。彼女はいつも不機嫌顔で、よく()()()()()()()()いて、俺がどうしたの?って聞くと、


『ごめんなさい、頭痛で薬を飲むタイミングがずれてしまって、まだ頭痛が治まらないの。気を悪くさせてごめんね』


 って、眉間の皺を指で伸ばしながら、下手くそに笑顔を作って俺に謝って……。え?眉間の皺・・・?そうだよ、片頭痛で頭痛がするからって、二人して、よく天気が悪くなる前は頭にハチマキを巻いたり、冷却シートを額に貼ったまま、仕事から帰った俺を出迎えてくれた。


 俺と彼女とアイ。異世界で、また家族になっている?どうして?……おい、俺!ポンコツで、どうしようもない、前世の俺!!お前、何か知っているんじゃないか、思い出せ!思い出せったら!


 あっ、何か思い出してきた!やれば出来るじゃないか、俺!そうだよ、真っ白な部屋、点滴されている俺。そして泣いているアイを思い出したぞ……。え?何だ、これ?何でアイが泣いてる?彼女はどこにいる?おい、俺!もっと、その調子で、全部思い出してくれよ!


 ……そうか、そうだったんだ。思い出した。彼女はアイが中学生のころに……亡くなったんだ。




 俺は彼女と出会う前、俺の見た目に惹かれて近寄ってきた女達と適当に遊んでいた最低なチャらい男だったが、ある女だけは手を出さなかった。そいつは俺の幼なじみの女だった。と言っても彼女に感じたような愛情とか親愛とかいうものを、その幼なじみの女に感じていたわけではない。ただ単にそいつがヤバい女……理解不能な人間だったからだ。


 俺の不仲な両親は俺が幼稚園児くらいのときにはもう、それぞれに恋人がいたらしい。だから俺の世話をするのを嫌がり、お互いに押しつけあっていた。……それなりゃ、俺を養護施設に入れるなり、里子に出すなり、すれば良かったのにとも思えるが、どうやら俺の両親はお互いが名家と呼ばれる家に生まれた人間らしく、その結婚が名家である実家のために必要だったから、離婚することも俺を施設に入れることも出来ず、実家に預けることも、各々の実家によって、互いの恋人と別れさせられる怖れがあったから出来ないという内情があったので、不仲であることも隠していたらしい。


 で、いつまで経っても話し合いが平行線だったので、両親はお互いが金を出し合い、子守兼用の家政婦を内緒で雇うことにした。家政婦は表向きは俺の母親の親友を演じ、親友の頼みで俺を預かっている態を装うように命じられていた。……そう、その家政婦があの女の母親だった関係で俺はあの女と幼なじみとなったのだ。


 あの女は出会った頃から変わっていた。俺の見目を褒める割には、自分の母親の見ていないところで俺を抓ったり、自分の横に俺を座らせ、自分はゲームをするが俺には一切触らせず、俺が文句を言うと蹴飛ばしてくるので、俺はあの女が大嫌いだった。自分勝手で我が儘で暴力的で執着心が強く、見目が良い俺を自分の傍に置くことで自尊心を満たしているような人間だったので、小学校に入り交友関係が広がると、俺の見目の良さに惹かれた者達に対し、陰湿な嫌がらせをするようになり、それがずっと続いたのだ。


 俺は高校生の時に彼女に出会い、彼女を好きになり、念願が叶って、やっと付き合えるようになったのだけど、あの女は、それが気に入らず、それから俺の彼女に嫌がらせをし始めるようになった。いくら俺がお前なんか好きではないし、俺には彼女しかいないから付きまとうのは止めてくれと断っても聞かず、あの女は俺が知らない所で、彼女にずっと嫌がらせを続けていたのだ。


 彼女は俺に黙って、それに耐えていた。そういや、結婚前にそれを教えてくれたのは、彼女を溺愛していた彼女の兄貴だったっけ……。あの時の拳は、ものすっごく痛かった。そうやって散々彼女を泣かせて苦しめていたから、彼女の死後に、娘に……アイに、その女のことで怒られて、アイと疎遠になってしまったんだ。まだその時、アイは高校生になったばかりだったというのに……。


 アイは自分で奨学金を得て、働きながら大学も出て、地方公務員になって、結婚して……。再会したのは俺が余命僅かで入院していた時だった。相変わらず頭に冷却シートを額に貼って、彼女そっくりに育ったアイは泣きながら、俺の手を取ってくれた。


『私まだ父さんの事、許してないんだから!早く良くなって、私の息子にこんな男になっちゃあダメだって、反面教師になってやってよ!』


『悪かった。じゃ俺は来世は女に生まれ変わって、男に生まれ変わった母さんと結婚して、母さんが体験した女の痛みを全部引き受けるから許してくれよ』

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