6月の女の子の日のイヴとミグシス……その後
6月の女の子の日が終わったイヴは、次の日の早朝から、体調の良い日はお弁当作りをするようになった。
「イヴ。洗面所と浴室とトイレの掃除は終わったよ」
ミグシスは台所に立つイヴを後ろから、キュッと抱きしめた。イヴは卵焼きを弁当箱に詰めた後に、後ろにいるミグシスを振り返りつつ、挨拶を返した。
「ありがとうございます、ミグシス!こちらの朝食とお弁当の用意も今、終わ……んっ!……ミグ…ぁ!……待っ……ん……」
ミグシスはイヴのエプロン姿に萌える気持ちが抑えられず、つい朝の恋人のキスを情熱的にしてしまい、イヴの足腰をまた立てなくしてしまった。
「も、もう!ミグシスったら!もうちょっとで、お弁当をひっくり返してしまうところでしたよ!」
「ごめんね、イヴ。そんな奥様風エプロン付けて、可愛くお礼を言ってくれるんだもん、我慢できなくなっちゃって……本当にごめんね。イヴの愛妻弁当は毎日美味しいし、俺のために作ってくれていると思うと、すっごく俺、幸せだし、もう今から新婚生活が色々楽しみすぎて……」
ミグシスは赤面しながらも、頬を膨らませているイヴに、もう一つキスをした後、イヴをソファに座らせて、目の前に立ち、クルリと回って自分の姿を見せた。
「どう、イヴ?似合うかい?」
「はい、とても。今日も格好良すぎです!」
ミグシスはサリーが用意してくれた、黒色の騎士服に似た鍛錬着を着ていた。……二人は知らなかったが、それは僕イベのミグシリアスが仮面の先生をしているときの衣装と同じ物だった。イヴが頬を染めて、ミグシスの服装を褒めたので、ミグシスは照れくさそうに鼻の頭を掻き、彼もまたイヴの姿を褒めた。
「イヴの水色のワンピースと白いエプロン姿も最高に似合っている。そのレースとフリルのついた奥様風エプロン姿を俺以外の誰かには見せたくない!お願いだから、他の誰にも見せないでね、イヴ?俺の前だけにしてね、イヴ、お願い」
「はい!大丈夫です、これはお家でしかつけません。学院では飾りのない白いエプロンをつけますから、心配しないで下さいね!」
学院の夏の制服は白いワンピースだったはずだが、今のイヴが来ているのは、ミグシスと同じようにサリーが用意してくれた、水色のワンピースと白いレースとフリルが可愛い奥様風エプロンだった。……これもまた二人は知らなかったが、それは僕イベのヒロインが休日に家事に勤しんでいるときの衣装と同じ物だった。
イヴが奥様風エプロンを外して脱ぐと、それに合わせて、イヴの豊かな胸元が揺れる。その揺れに目が引き寄せられて、ミグシスはイヴの胸の感触も甘い匂いもよく知っているだけに、何度も生唾を飲み込むのが止まらなくなった。イヴの下着は、6月の女の子の日が終わってから、体型を隠す下着から体の負担にならなくて、その素敵な体型を維持する下着に変更されて、本当のイヴは、子ども体型ではなかったのだと皆に知られてしまうことになった。
なのでミグシスは気が気じゃなくなり、イヴのおかげでイヴの愛情を疑うことはなくなったが、それ以上の警戒心を持ち、イヴの見た目に引かれる男達をより牽制するようになった。愛しいイヴからの愛情を強く実感できたミグシスは以前よりも心が強くなり、愛しい女性を男達から守るために、さらに強い男、……強い狼へと進化を遂げていた。
イヴを守ることに邁進するミグシスは、以前よりも格段に強い威圧を放てるようになり、その威圧の威力はあまりに凄まじく、その殺気を含んだミグシスの威圧に当てられると、泡を吹いて気絶する者まで出てくるほどで、エイルノン達男子学院生達が主に、その被害者となっていたが、これにはイヴは気づかなかった。ミグシスは自分の心配をそのまま言葉に出していく。
「ああ!やっぱり、すごく心配だ!普通のエプロンでもイヴがつけると、最高に可愛い、天使な”保健室の先生”にしか見えない!こんなに可愛いイヴが保健室の先生なんかになったら、保健室に沢山の男が押し寄せてくるに違いない!俺、すっごく不安だよ、イヴ!
イヴ、変な男とかに体を触られそうになったら、大声を出すんだよ!気を失ったふりをして、寄りかかってくる男は、蹴飛ばしていいからね!ああ、ホントに心配!俺の婚約者は可愛すぎて、魅力的すぎるから、ホントに心配なんだ!」
イヴは不安を口にするミグシスに、安心させるために微笑みかけた。
「大丈夫ですよ!ルナーベル先生のいない間、”保健室の先生”をすることになった私の助手に、リーナちゃんとピュアさんとジェレミーさんが常時、傍についていてくれるそうですし、男性と二人っきりになることはありませんよ!
リーナちゃんのお母様である、おば様も家事が終わったら、保健室に来てくれると言っていましたし、平民クラスの彼女もいます。校医には代理でゴレー先生が来てくれるそうで、ゴレー先生は『不埒な考えで保健室に来る者には注射をする!』と宣言されていましたし!それに、もうすぐ期末テストですから皆、余程の事が無い限り、怪我はしないと思いますよ。
それに何よりも仮面の先生がお休みの間、ミグシスが”剣術指南の先生”をするんでしょう?私も同じように保健室の先生をするので、ミグシスと同じ先生になれるのが私はすごく嬉しいです!お昼は一緒にお弁当を食べましょうね!私、保健室で待っていますから!ね、ミグ先生!」
イヴはそう言って、自分の隣に座るようにとミグシスを誘う。ミグシスは頬を染め、イヴの横に座る。
「うん!俺もイヴと一緒は嬉しいよ。今日のお弁当も楽しみだ。休み時間の度に様子を見に行くし、怪しげな気配も感じたら、すぐにそっちに向かうから、安心してね、イヴ!」
ミグシスは頼もしい婚約者として、胸を叩く。イヴは微笑み、右手の人差し指を自身の唇に軽く当て、上目遣いでミグシスにお強請りをした。
「はい、頼りにしてますね、ミグシス。……あのね、ここなら何もひっくり返さないし、私も床に座り込む心配もいらないでしょう?……だからね、まだ、時間もありますし、その私……ミグシスにもう一度ギュッとしてもらいたいです。それとね、もう一度……キスして?」
イヴの顔に熱が集まるが、イヴはミグシスを安心させるためにも、自分はミグシスだけを必要としていると、はっきりと言葉と態度で示した。
「う、うん!ゴクッ!か、可愛い!喜んで!!」
二人はもう一度、甘い恋人のキスをした。毎日、予習復習を積み重ねている二人は、お互いキスが上達し、キスしていても苦しくないと喜んで、長い恋人のキスを沢山沢山……練習以上の時間、毎日するようになっていた。
「おはよ~、イヴお姉ちゃん、ミグシスお兄ちゃん!」
イヴとミグシスが一階に下り、廊下を歩いていると、リーナが後ろから声を掛けてきた。二人は振り向いて、リーナに挨拶の言葉を返した。
「「おはよう、リーナちゃん!」」
リーナは両手に郵便物を抱えていた。
「リーナもこれを皆に渡してきたら、すぐに用意するから、外で待っていてくれる?」
「ああ、いいよ。それじゃ、中庭で待っていようか、イヴ?」
「ええ、そうね。じゃ、中庭で待っているわね」
「うん!じゃ、急いで届けてくるね!」
イヴとミグシスは、そう言ってリーナと別れ、寮の出口を目指し歩いた。イヴはリーナに保健室でのことを伝え忘れていたので、後ろを振り向き、もう一度、声を掛けようとして……、リーナが入っていく場所を見て、首を傾げた。
(?あら?あそこは……、閉鎖中の共同浴場?)
イヴは入寮するときに、『女子寮の共同浴場は閉鎖中で使用されていない』と説明を受けていたので、リーナがそこに入るのを不思議に思った。
「?ん?イヴ、どうしたの?」
「いえ、リーナちゃんが共同浴場に入っていったので……。閉鎖中と聞いていたのですが、工事でもしているのでしょうか?」
「ああ、あそこはずっと閉鎖中だったから改装出来ないかと、学院長が外部から業者を呼んで、毎日話し合っているんだって。だからしばらく騒がしくなるけど、気にしないでくれと言ってたよ」
「そうだったんですね。なら、その人達のお邪魔をしないように、しないといけないですね」
「うん、俺は気配に聡いから、業者達の邪魔にならないように(外部の男なんかにイヴを会わせて、余計な敵を増やさないように)気配を読んで、顔を合わせないようにしてあげる!」
「ありがとう、ミグシス!頼りにしていますね!」
二人は何が出来るのだろうと話しつつ、中庭に出て行った。中庭では紫陽花が昨夜の雨に濡れて、朝日を浴びて、キラリと光っていた。
「あ!ミグシス、あっちを見て下さい!虹が出ていますよ!綺麗ですね!」
イヴは空に虹を見つけて、喜んだ。ミグシスは喜ぶイヴを見つめて、微笑む。
「ああ、本当だね……すごく綺麗だ……、綺麗な……俺の奥さんになる人だ……」
「え?……あっ!」
ミグシスはイヴの右手を取り、その手の平にキスをした。
「大好きだよ、イヴ。二人で一生、生きていこうね!」
ミグシスの言葉に頬を染め、嬉しそうにイヴは頷いた。
「はい、私も大好きです。一生、よろしくお願いします」
イヴとミグシスが、そう言って手を恋人つなぎにした瞬間、うげぇ~という声がした。
「うげぇ~、お姉ちゃん達、甘すぎ~!もう、さっさと結婚したらいいのに!」
リーナがそう言って、イヴ達の元に駆け寄ってきた。
「ハハハ、俺もすぐに結婚したいけど、まずは戸籍謄本を取りに行ってからでないとね」
「戸籍謄本?」
「ああ、そうだよ。戸籍謄本というのは、婚姻届を提出するときに必要な書類なんだけどね、俺とイヴの本籍はバーケックだから、7月になったら、それをもらいに二人で、バーケックに行くんだ」
「本当は7月に実家に帰ろうと思っていたのですが先日、実家から7月は仕事で皆、家を
離れていると手紙が来ましたの。だから先に戸籍謄本を取りに行くことにしたのよ」
「へぇ~、そうなんだ!気をつけて行ってきてね!」
「ええ、ありがとう、リーナちゃん」
「そろそろ、二人とも学院に行こうか」
「「はい!」」
三人は中庭をゆっくりと横切って学院に向かう。リーナはミグシスと手を繋いでいる反対側のイヴの手を繋いで、ご機嫌に歩き出した。




