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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~6月
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6月の女の子の日のイヴとミグシス①

 ミグシスはイヴの兄様隊に正体を明かした時のイヴの行動や、全校男子学院生と試合をすることになった後に、エイルノン達と会った時のイヴの様子が気に掛かっていた。


(イヴ?いつもよりも、俺の傍にいてくれている?)


 ここ数日、イヴは妙にヤキモチやきというか、甘えん坊というか自分に対し、とても独占欲を出してくれているようだと、ミグシスはそれを嬉しく思っていたのだが、イヴは兄様達に会う日、イヴはいつも以上に皆の前でミグシスのことが大好きだと言い、エイルノンと再会したとわかると、ミグシスに抱きついて自分は離れたくないと皆の前で、キッパリと言っていた。後でエイルノン達と会っている間も、ピッタリとミグシスに寄り添い、4人に自分はミグシスだけを愛していると、はっきりと言葉と態度に出していた。ミグシスはすごく嬉しいけれど、一体イヴはどうしたのだろうかと内心、首をかしげていた。


 イヴは普段から自分の気持ちを素直に伝えてくれる女の子だが、体調を崩したとき以外での、人前での過剰な触れあいは恥ずかしがる。なのにエイルノン達に会うときは、ピッタリと寄り添うことを嫌がらなかった。


(あっ!もしかして……!?)


 ミグシスは思い当たることがあったので、大急ぎで保存食や携帯食料の用意や、綿花の補充、着替えや薬草の在庫確認や温石等の準備を進めた。ミグシスの予想は当たり、次の日にイヴは6月の女の子の日を迎えた。


 その日は朝からどんよりとした曇り空で、いつ雨が降り出してもおかしくないような空模様だった。イヴは雨が降る前の片頭痛を起こしてしまい、それと女の子の日が重なったことで、また自室のベッドから出られなくなった。ミグシスは、ここ数日のイヴの甘えん坊は、イヴの女の子の日にまつわる諸症状の内の一つなのだろうと思ったことが当たったので、原因が分かって一人で納得していた。


(よし!先々月と先月のイヴの女の子の日を体験してきたことで、大体は要領を掴めてきたみたいだ!これなら今後、俺は頼れる婚約者として慌てふためくことなく、イヴの世話をしてあげられそうだぞ!)


 ミグシスは先月のイヴの女の子の日の後半、イヴは泣き虫で寂しがり屋だったが、今回は甘えん坊でヤキモチやきだろうと思い、イヴを安心させるためにも気合いを入れて、恋人を思う存分に甘えさせようと考え、朝の郵便を届けに来たリーナを即座に帰した。ヤキモチを妬いたり、甘えん坊になるイヴの姿を見るのは自分だけでいいと張り切ったのだが、今回のイヴのそれは、甘えん坊であると同時に()()()()()()()でもあった。





「ね、ミグシス。ここに来て……」


ひぁい(はい)!!」


 6月に入り、夏物の薄衣の寝間着を着たイヴが、ベッドの横をトントンと手で叩いて、自分の隣に来てと合図を送っている。ミグシスはギクシャクしながら、両手両足が一緒に出て、上手く歩けないながらにイヴのベッドに近づき、イヴを見た。


 イヴは先月みたいに寝ぼけ眼ではない。しっかりと起きていて、ミグシスに自分の寝床に入って横になれと優しく誘っている。ミグシスは生唾を飲み込みつつも、イヴの体調が心配になった。何故ならイヴは額にハチマキを巻いていて、いつものように片頭痛を起こしているからだ。


「イヴ、いけないよ。こんなこと……。う、嬉しいけど、イヴは今は片頭痛で頭が痛いんだろう?それに女の子の日だから、腹痛も腰痛もするんだろう?すっごく嬉しいけど俺……、ま、待てには……慣れているから!!すっごく、すっごくそそられるけど俺……、君がとても大事だから、ものすごく大好きだから待てるよ!だからこういうことは君の体調がいいときに、あの……君の体調が良くなってからでいいから!ホントに俺……、すっごく、すっごく、すっごく、ものすっごく嬉しいけど俺……ホントに、ま……待てるから」


「何も言わないで、私に抱きしめられていて」


「!ゴクッ!……はい」


 ミグシスは、おずおずとイヴのベッドに入り、ベッドに横になっているイヴに抱きしめられた。イヴはベッドで横になったまま、自分の胸にミグシスの頭をかき抱き、ギュッと抱きしめるとこう言った。


「私、今日だけはミグシスの()()だから、いっぱい甘えて下さいね、ミグシス」


「……………………はい?」


 二人の出会いから10年以上経ち、この4月に念願が叶って、ようやく恋人兼婚約者になったミグシスは、髪や頬や手などへのキスや抱っこや、頭ナデナデや、顎クイや、壁ドンや、お姫様抱っこや恋人つなぎや、お膝抱っこは毎日していたし、最近では練習として、恋人のキスも毎日いっぱいするようにはなっていたが、恋人のキス以上の大人の階段を上るような触れあいは……不可抗力的な触れあいも()()()、この4月から頻繁にあったが……それを除けば、未だ一切していなかった。


 婚約して2ヶ月になり、自分達も次の段階に、いよいよ進むのかと生唾を飲み込みつつ……、いやいや、今、イヴは女の子の日なんだから、すごく嬉しいお誘いではあっても、そんなことをしてイヴの体に何かの負担がかかったらいけないから、ここは年長者である自分がそれを諭さねば……とか、でも、せっかくの……、せっかくの嬉しいお誘いだし、少しだけ、ほんの少しだけ……恋人との触れあいを、イヴの頭や体に負担をかけないように出来るだけ優しく……少しだけ触れ合ってみたいな……とか色々考えていたミグシスの思考は一時停止した。


「ここ数日……ううん、学院に来て以来、ミグシスは怯えていました。何かを怖がっていました。だから私は、ずっと心配していたんです」


「イヴ……」


 イヴはギュッとミグシスを抱きしめて、彼の頭にキスをし、優しく彼の黒髪を撫でた。


「ミグシスは何を怖がっているの?ミグシスは学院の男子学院生達や教官達、護衛の男の人達や老齢の教授達……町中の男性達にも怯えていました。他の男性達に私を取られると思っているの?それとも私がミグシス以外の男性を好きになると思っているの?ミグシスが言葉にしてくれないと、私にはわかりません。わからないけどミグシスは、兄様達やエイル達の手紙が来たときから、より不安そうでした。だから私はミグシスだけが大好きだと、出来るだけ伝わるように言葉や態度に出してきたつもりです」


「イヴ……、俺のために甘えてくれてたの?俺が怯えてたから……、俺が怖がっていたから……。だから公園でも俺に膝枕をしてくれたの?」


 イヴは少しだけ抱擁を緩め、目を丸くして驚いているミグシスの顔を見ながら言った。


「いいえ、あれは私がミグシスに甘えたいから、甘えていただけです。膝枕も恋人に……、ミグシスにしてあげたいって、いつも思ってたからです。そうじゃなくて、不安なら言葉にして、私に言ってほしいの。一人で悩まないでほしいの。私もミグシスに甘えられたい。だって私、ミグシスの恋人だもの。あなたの恋人だもの。私もミグシスに頼られたい。それに私、ミグシスの婚約者だもの」


 イヴはミグシスの額にキスをして、彼の頭を撫で、その頬に優しく触れる。


「あのね、昔、私はミグシスと離れているとき、無理をしていたらしく、それを心配した母様が、私を海に連れて行ってくれたことがあったの。ミグシスの母様は、ミグシスが子どもの頃に神様のお庭に旅立たれてしまわれたと聞きましたし、私と一緒に暮らすようになっても、ミグシスが誰かに甘えているのを、私は一度も見たことがありません。


 だからね、今日は私がミグシスの母様になって、ミグシスをウンと甘えさせてあげようと、エイル達のことを怯えていたミグシスを見て決めてたんです。そしてね、怯えている理由を言っても、私はミグシスを嫌いになんてならないし、怖がっている理由を教えてくれたら、一緒に怖くないようにする方法を考えようと言いたかったの」


 そう言った後、イヴは自分の額のハチマキを触り、落ち込んだ声を出した。


「ミグシスを今日は甘えさせたいと思ってました。私だってミグシスの頼れる婚約者になりたかったし、ミグシスの妻に……ミグシスの家族になるのだもの。夫になるミグシスの心配の原因を何とかしてあげたいと思ってた……。なのに私はまた、いつもの片頭痛になって、女の子の日まで重なって、ベッドから動けなくなってしまって、……また肝心なときに、私は何も出来なくなってしまった。


 私は少しもミグシスの頼れる婚約者にはなれませんでした……。寝たきりになってしまった今の私には、母様としてミグシスに添い寝をしてあげることしか、してあげられません。あのときの母様みたいに海に連れて行ってあげることは出来なくても、せめて今日はミグシスの大好きなご飯をいっぱい手作りして食べさせてあげたり、いっぱいミグシスをヨシヨシと撫でてあげたり、高い高いにも挑戦してみたかったのに……」


 イヴのしょげる姿を黙って見ていたミグシスはイヴの胸に顔を埋め、しっかとイヴを抱きしめた。


「ううん、違うよ、イヴ。イヴは俺の頼れる婚約者だよ。俺、すごく嬉しいよ。……本当に嬉しい。俺のこと、すっごく想ってくれているんだね。俺と同じなんだね、イヴも。……それじゃ、少しだけ俺の母様でいて。……でも、ずっとは嫌だよ。だってイヴは俺の大好きな愛する奥さんになるんだもの……」


「ええ、私も、ずっとは困ります。だってミグシスは私の大好きな大好きな、世界一愛する旦那様になるんだもの……」


 そう言った後にイヴは、ミグシスを強く抱きしめた。イヴは片頭痛と、女の子の日の痛みで動けないでいる今の自分に出来る精一杯のことを……ミグシスに添い寝し、抱きしめ、ずっと彼の頭や背中を撫で続けることを……心を込めて、し続けた。胸元がミグシスの涙で少し湿ってきても、構わずしっかと彼を抱き寄せ、静かに泣く彼の頭に沢山のキスを贈った。どんよりとした曇り空も、静かな雨を降らし始めた。

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