シーノン公爵夫人に起きた奇跡①
この回はシーノン公爵夫人視点で書かれていますが、ある事情により、その発言に女性軽視的な印象のものが沢山出てきます。そして彼女の独特な目線での女性の月のモノ(月経)や性交などの表現が語られるので、アダルトな文面が出てきます。不快に思う方はご注意下さい。
(相変わらずモチモチでプルンプルンで揉みがいがある胸だよなぁ……。フッフッフ、きっと今日結婚して、俺の旦那になるシーノン公爵は初夜でさぞかし大喜びするだろうよ。いいぜ、いくらでも揉んでくれて。男の全ての願望が集まって現実となったような理想の体型だからな、俺は。思う存分味わって、俺の魅力にひれ伏すがいい!ワハハハハハ!!)
真っ白いウエディングドレスを着付けられようとした新婦は、鏡に映る自分の下着姿を見ながら、自身の胸を鷲掴みして、揉み揉みしながらニヤニヤ笑っていた。
「あの……アンジュリーナ様?どうされました?」
自分のモチモチとした胸の感触を楽しんでいた社交界の紅薔薇と称えられるアンジュリーナは侍女の声に他の者がいたことを思い出し、慌てて取り繕った。
「あ!違うの!おっぱ……あ、いや、ゴホゴホ!……いえ、ちょっと緊張で胸が痛いかなと思って……つい。オ、オホホホホホ……!」
「ご自分の結婚式ですもの、緊張されて当然ですわ。元気を出して下さいませ、アンジュリーナ様!」
結婚に緊張する新婦であるアンジュリーナの不安をさも当然と侍女達は励まし、慰めの言葉をかけながら着付けを続けていく。鏡に映るアンジュリーナは16才の初々しい花嫁だったが、その思考は……、
(あ~、マジ俺、超エロくね?清楚なウエディングドレス着てるっていうのに、すっげぇエロい!何だ、この清楚エロな女!自分で自画自賛って、イタいヤツにしか見えないけど、事実だから仕方ないじゃん!しかも顔も美少女って、マジ反則級にすごくね?見ろよ、このボン・キュッ・ボンな魅力的過ぎるボディを!ウヘヘ、堪らないな、こりゃ!)
……と、その外見とは裏腹な残念思考だったが、それには訳があった。何故ならばアンジュリーナの前世は、こことは違う異世界の日本というところで生きていた……男だったからだ。
俺は前世では所謂、リア充爆ぜろ!!とイケてない野郎どもに疎まれるイケメンだった。俺のモテモテ人生は順調で、遊んだ女の数は両手両足の指の数より多かったと俺は記憶している。前世の家も今ほどじゃなかったがそこそこ裕福な家だったように覚えている。でも俺の家は冷え切った家庭環境だった。両親はお互い愛人がいて、二人ともその家にそれぞれが入り浸りだったから、俺は小さい頃から一人っきりだった。冷めた夫婦を物心ついた時から見てたから、愛なんて幻想だって思ってた。小さい頃からイケメンだった俺は小学校でもモテたけど、誰かに好きだと言われても心は動かなかった。
でも第二次性徴が始まって、男の性欲というものを自覚してからは据え膳食わねば男の恥とばかりに彼女に会う前までの俺は、言い寄ってくる女達に恋愛抜きの身体だけのお付き合いならと何様な発言を打っ放し、それを了承できる相手だけと付き合っていた。きっと回りの人間にとって、俺は最低な男だったと思う。
そして今現在の俺は、何故か前世の記憶をそのまま持って、女として生まれてきた。何の因果で俺は異世界で女に生まれ変わっているんだよ!?これはアレですか!モテナイぼっちの神様か何かの逆恨みですか!?今世の俺は炎のように輝く紅い髪に、蠱惑的なオレンジ色の瞳が猫のような印象を与える小悪魔的な魅力を持つ貴婦人……と社交界でも評判のすっごい美人さんだった。
赤ん坊の頃から前世の記憶があった俺の今度の家は侯爵家のお金持ちで、父親が年老いてから再婚して出来た末娘として生まれてきた。前妻が最初に産んだ兄とは20才も年が離れていることもあってか孫を可愛がるみたいに、皆に溺愛されて育てられてきた。
まぁ、そんな感じで金持ちのお嬢様に育った俺は調子に乗って、今世は女で逆ハーレムか!と浮かれていた。人生勝ち組じゃね!?と余裕ぶっこいていた俺は中身そのままで、外見は完璧な貴族令嬢に成長し、体が子どもから女性の体になり、女の子の日というものを初めて経験した。
あの時は、発狂寸前になった!すみませんでした!マジ、女の子の日、舐めてました!あんなに腹が痛くって、血がドバドバ出て、貧血になるわ、腹は下すわ、便秘するわ、苛々するわ、眠くなるわ、腹は減るわ、頭痛はするわ、だるくてたまらないわ、腰が重だるいわ、吐き気はするわ、肌はかさつくわ、なんか泣きたくなるわ……と、もうわけわかんなくなるぐらいの不快症状を、毎月耐えねばならなかったなんて知りませんでした!
おまけに前世のような優れた医療なんてものは、この世界には存在さえしていなかったんだ。前世ではあった、レントゲンとか予防注射とかいう物も概念もなく、熱の出ない病気は病気じゃないとも思われていて、俺の姪の持病の腹痛や俺が今苦しんでいる生理痛すら、仮病か気のせいだと言うんだから、すっげぇ頭に来た。最悪だったのは生理痛は気のせいだから、前世の世界には存在した生理痛の薬というものが、ここには存在していないということだった。それを知った時、俺はマジ泣きして、同じ年の姪に慰められてしまった。
女性の皆様!マジ毎月お疲れ様です!野郎ども!もっと女性を労れよ!アレな、マジしんどくて大変だから!!女はアレの時、体育が休めたりして、楽できて良いよな!なんて言ったりして、本当にごめんなさい!!そして前世の俺!あの時の俺の発言に彼女が怒ったのは当然なんだから、文句言ってないで甘んじて受けとめろ!!その後の2時間のお説教は妥当な時間だぞ!女性の体は繊細なんだって、来世でお前は思い知るからな!!
俺は表面上は侯爵令嬢として完璧に振る舞いつつ、心の中では完全に男目線で、この世界を生きてきた。だって心の中の声のまま振る舞っていたら、即隔離されて修道院送りは目に見えていたからだ。侯爵令嬢の俺は政略結婚なるもので、16才になった今日、生まれたときからの婚約者で10才年上のシーノン公爵と結婚式をすることになっていた。
月一の手紙と季節の挨拶の手紙は、ずっとくれていたけど、会うのが結婚式当日っていうのは、あんまりじゃないか?と俺は思ったが、彼はずっと忙しいらしく、会いには来られないだろうと、父や兄達が彼の代わりに必死に彼を弁護していた。初めて見る俺の旦那様になるという、シーノン公爵は眉間の皺と不機嫌顔でさえなければ、べらぼうに超イケてる男だった。
何だ、こいつ!?え?どこのハリウッドスターなの?前世の俺なんて、こいつの前では単なるモブじゃね?え?何なの、あなた?エルフ?妖精?天使?神様なの?って疑っちゃうくらいの神がかった美貌を持つこいつの嫁に……俺がなるの?
……俺、社交界の紅薔薇って、あだ名の美貌を持つ美少女で本当に良かったなぁ……。何とかこれなら、この美貌の男の横でも釣り合うだろう。それにしても……きっと、こいつは相当遊んできたんだろうなぁ。この顔に、このスタイルの良さなら3桁は下らないだろうな。こんなに見目が良い男なんだもんな。愛人とか……何十人いるんだろう?俺、これから、その愛人女達とバトルするのか~。貴族の政略結婚なんか、愛情なんて期待できないもんなぁ。俺もこいつの子どもさえ産めれば一応、公爵夫人の役目を果たせるし、その後は遊びたい放題してやろうっと……。そんなことを考えながら、新婚初夜を迎えた俺は……。
「マジすみませんでした!!ホント処女喪失、舐めてました!痛い、超痛い!!まったく気持ちよくない!いや、入らないって、ストップストップ!タイムって言ってんだろ!ちょっと休憩、お互い冷静になろう!!……男のアレなんてもげてしまえ!!」
……と男だったら間違いなく震え上がるような恐ろしい言葉を言い放って、夫婦の営みを中断させてしまった。
ようやっと二人目の転生者を出すことが出来ました。アンジュリーナは前世の記憶が、バッチリある転生者でした。