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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~6月
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※6月の三者面談と、その後のエイルノン達②

 父神が金の神に僕イベを早急に終わらせるよう告げると、金の神は口を尖らせて文句を言った。


「え~!?嫌だよぅ!だって私、まだイヴちゃんとミグシス君の結婚式を見ていないんだもん!」


 ぷっくりと膨れっ面で駄々をこねる金の神に父神は半眼を向け、多少の怒気を含んだ声で言い返した。


「お前は私の決まり事を破ったではないか!私は()()()()()と言っただろう!お前の長兄は、ネット小説を選んだ。お前の次兄は、ゲームを小説化した物語を選んだ。だがお前は……ゲーム()()()()を選んだんだ!ゲームは物語を()()ものではなく、()()ものだ!」


「でもでも!私は”隠された物語”が現実で見たかったんだもん!”隠された物語”は僕イベの中に入っていた()()()()()()()()だから、ゲームじゃないよ!」


 金の神がそう言うと父神は、フン!と鼻を鳴らせた後に、さらに怒りを含んだ声で言った。


「……違うだろう?お前は初めは”僕にイベリスをもう一度”の()()()()()エンドが見たくて、僕イベを私の世界に再現させたのだろう?”隠された物語”が見たくなったのは、その後だ。


 まともに世界の創造をすることが出来ず、一つ以上の物語を再現させることは出来ないのに、いくつもの終わり方が内蔵されたテレビゲームを再現させたことで、へディック国は滅亡寸前になってしまっているじゃないか!」


「え?そんな……嘘?だって……、私が選んだ”英雄(主人公)”のイヴちゃんは私に”隠された物語”を順調に見せてくれているよ?それに……()()()()()()()()()()()()()()で、どうして……」


「お前は僕イベを再現させたにも係わらず、見たい物語が変わったために、そちらのことはすっかり忘れてしまって、全く視ていなかったのだろう。今すぐ自分の眼で()てみなさい!」


 金の神は父神にそう言われ、へディック国を()()……顔面蒼白となった。


「っ!?な、何、これ!?こんなの……僕イベじゃない!?こんなのは私の好きな乙女ゲームじゃない!これは……()()ルート!?何で?どうして?ミグシス君はイヴちゃんと一緒にへディック国を出たのだから、復讐ルートなんて再現されるわけがないのに!」


「……お前の力不足のせいだろう。お前が再現させたのは、いくつもの未来が用意されていたゲームだから、全ての結末が再現されるようにと随分昔に時間が遡った、お前の未熟な力がへディック国を復讐ゲームの舞台にもなるようにと、各方面に影響させて行き、現在あの国は危機に瀕している。お前は……私の作った世界を壊そうとしているのだ!」


 父神に叱られ、項垂れる金の神をかばおうと、銀の神が口を挟んだ。


「そんなに怒らないで上げて下さい、父神様……」


 銀の神の言葉は、火に油を注ぐように父神の怒りをさらに誘うこととなった。


「お前もお前だ!自分の選んだ”英雄”に”英雄”の望む褒美を渡せないとは、何たる不甲斐なさ!どうして褒美を満足に与えられない者を英雄にしてしまったんだ!


 この世界では()()()()()()()()と、私は最初に定めていた。()()()()()()()でなら、片頭痛だろうと、腹痛だろうと、蕁麻疹だろうと()()()()()だろうが、魔法が無い世界では、片頭痛も腹痛も蕁麻疹も、お前の英雄のいた世界と同じように原因も治療法もわからないままだということに、英雄を決めるときに何故思い出さなかったんだ!


 それに自分の物語は終わっているのに、金の神に強請られたからと下界に降臨して、金の神の”英雄”に会いに行くとは何事だ!しかも!……二人して今朝、物語とは全く関係のない、あの青年達に会うためだけに降臨してくるとは!!」


 父神にピシャリと言われてしまった銀の神は、金の神の横で揃って身を小さくさせた。父神の怒りの声が、さらに大きくなっていった。


「金の神が見たい物語は、たった5分で終わる”隠された物語”だったはずだ!片頭痛で苦しむイヴとイヴを労るミグシスとの初恋が結ばれるまでの物語だろうが!ならば物語は4月で終わっているはずだ!お前達は黙って見てるだけで、3月にはイヴとミグシスの結婚式を見られたはずだ!なのに何故、エイルノン達4人の前世の記憶を蘇らせる必要があるんだ!」


 金と銀の神は項垂れたまま、謝罪した。


「「ごめんなさい、つい……。どうしても憧れていた僕らの()である4人にゲームの制作秘話とか、ゲーム作りのあれこれを聞きたくて……」」


 父神は彼の息子達の言い分を聞いて、ガックリと項垂れてしまった。するとそれまで黙っていた”仮面の先生兼若先生”として学院に()()していたグランが、静かに語り出した。


「人間が歌や踊りや絵や物語を生み出すのは、人間に心があるからです。喜怒哀楽の感情は、日常で起きた様々なことで沸き起こり、心からあふれ出る気持ちが想像力となり、歌や踊りや絵や物語が生まれるのです。そして人間は、各々の人生において、その時々の心情にあった歌や踊りや絵や物語を求めて、己の心に潤いや安らぎ、癒やしにし、生きていく糧としていくのです。


 ……つまり、人が作った歌や踊りや絵や物語は、自分達が楽しむためだけに創造されたものであり、自分達が想像し、創造した物語が、実際に現実として再現されようなどとわかって作られた物ではありません。


 だからどれだけお二方が神と崇めていようとも、どれだけ彼等のゲームを愛していようとも、それを決して彼等には知らせないでほしいのです。……もしも彼等が前世の記憶を取り戻し、自分達の作ったゲームが現実となってしまっていると知ってしまったのなら、……彼等は発狂し、そのまま死してしまうでしょうから」


「「え?どうして?」」


「お前達、そんなこともわからないのか!お前達が物語を見たい()()ならば、彼等の前世の世界のように、劇や映画みたいな()()をこの世界に誕生させればよかったんだ!お前達が現実の人間の営みに、お前達の好む物語を再現させたことでどれだけの人間が苦しんだり、亡くなったりしているか、わかっているのか!?


 黒の神が見たい物語のハッピーエンドを見せるために、北方の国は貧困に苦しんでいた。王が密かに暗殺され、暴利を貪り傍若無人な腹黒大臣達が多くの国民を苦しめていた。ルナティーヌが前世の記憶を使い国を救うのは、黒の神が望むハッピーエンドの話だったのかもしれない。……でも、そのハッピーエンドを黒の神に見せるために、北方の国の人々は何十年間も不幸だったんだ!


 銀の神が見たい物語のハッピーエンドを見せるときも同じ!二つの国が組んで、一つの小国を我が物にしようと、その小国の大臣を唆せて、国王達を襲い、国を危機に瀕させた。ライトがトゥセェック国に来ていた姫と出会い、彼女と彼女の国を救う物語は、銀の神が望むハッピーエンドの話だったのかもしれない。……でも、そのハッピーエンドを銀の神に見せるために、3つの国が物語に巻き込まれた!


 金の神は見たい物語として、乙女ゲームを再現させてしまった。しかも、その中には3つの物語が入っていたために、未熟な金の神の力が暴走し、3つの物語全てが、この世界に再現されてしまった僕イベは”僕達のイヴリスをもう一度”という3つの物語で構成された物語となってしまい、へディック国は3つのウチの一つである”復讐ゲーム”によって、滅亡の危機にさらされている。


 ……で、お前達は、その事実を自分達が尊敬する4人に教えて、バッファー国とへディック国で起きた、多くの人の不幸の原因はあなた達なのだと宣告しようとしていたと、何故わからない!彼等がゲームを作ったのは、自分達がゲームで感じた楽しさを他の人々にも感じて欲しいと思ったからだ!


 お前達は”英雄”が活躍し、ハッピーエンドの物語が好きだと言いながら、やっていることは多くの人間を不幸にしているだけで人間にとって、お前達は()()()()……()()なのだ!」


 父神に邪神だと言われた息子達は、雷に射貫かれたような衝撃を受け、その場で固まってしまった。







 父神は二人の息子に頭を下げさせ、自分もまた人間達に頭を下げた。


「この度は息子達が迷惑を掛けて、申し訳なかった」


「いえ、こちらこそ、3月まで続くゲームを今日終了してもらえることになって、とても感謝しています。本当にありがとうございました。これで私達の娘のイヴは死なずにすむ……」


 グランの微笑みを見て、父神も微笑んだ。


「それにしても人間の君達が、神の物語に対抗する作戦は実に見事だった。金の神が再現させた僕イベから、我が子を守るために、娘に乙女ゲームから悪役辞退させ、僕イベの舞台であるへディックから引き離し、神の物語から娘を隠すために、物語を見せる()()をこの世界に誕生させて、”魔性の者”と蔑まれる()()()()の者への差別を撤廃させ、モブである全ての女性の髪を、娘と同じ銀色に変えてしまうとはな。


 金の神が呼び寄せた”お姫様”にヒロインの心がなかったために、その心を持っていた娘に引き寄せられた攻略対象者が、娘との僕イベの初恋を経験してしまったことで、乙女ゲームから逃れられないと思った君達は、バッファー国、トゥセェック国、バーケック国からの全面協力を得て、全ての国との連絡が取りやすいトゥセェック国に、へディック国にある学院と瓜二つの学院を作り、乙女ゲームのヒロインと悪役令嬢を兼務できる、娘と同じ立ち位置に立てそうな、”ピュア”・ホワイティ公爵令嬢を留学させ、僕イベに必要な”保健室の先生の修道女ルナーベル”と、”仮面の先生”を自分達で演じることで、こちらの国の物語を()()にさせた。


 しかも、その娘は金の神の見たい物語のモデルとなった女性の生まれ変わりで、同じモデルとなった男性の生まれ変わりのミグシスを9年間も隠し通すことで、金の神を引っ張り出すことにも成功したとは、……本当に人間にしておくには惜しいほど、見事な手腕だった」


 父神はそう言って、スクイレル達に握手を求めた。

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